こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

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大海の海賊たち

新たなる

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『グウ!? グアアアオオオォォォ!』

 本体をやられないためにエドは反撃してみせるも、それが通し通して見せた。

 炎の矢はその巨体を瞬く間に貫通し、炎上した。

「やっやりやがった!」

「今ので流石にやったよな!?」

「わかんねえよそんなこと! 」

 今のでエドを倒したはず。

 周りもそう思いたいが、なんせ相手はバカでかい化け物イカである。全員確信は持てない。

「お前ら騒いでんじゃねえよ! アタタタタ……」

「お前は喋るな」

 周りは騒ぎ始めるが、油断できないのが本音である。何せあれだけ再生されたのだ。

 実際もう何発か追い討ちをかけといたほうが良いのではないかと思う。

『お~いリン! 聞こえてるか!?』

「チビルか 状況は?」

『エドのやつ徐々に沈み始めてる! 作戦は成功だ!』

 チビルからの報告を受けてようやく、全員が喜びの歓声をあげた。これで終わったのだと、ようやく倒せたのだと。

「やったなリン!」

「それよりお前は怪我の具合はどうなんだ」

「まあ何とかなってるさ それより……預けてたけど結局使わなかったか~」

「何の話だ?」

「待って! あれ何だよ!」

 クレアの言った意味を聞こうとしたが、レイが突然指差した方向を見てみる。そこには何かが物凄い勢いで近づいてきていた。

 さっきまでエドがいた場所だ。

 その何かは船の前まで来ると、海の中から飛び出してきた。

『セイケンつかいイイイぃぃぃぃ!』

「何だ? 随分ちっこくなったな」

『ダマレレレレレエエエ』

 予想はついていたがその正体はエドだった。

 人型サイズになったエドは、勢いよく触手をリンに向けて伸ばす。その触手は予想以上に早く、さらに先が口のように開き牙も生えていた。

「なっ!?」

『これでクタバリヤガレェ!』

 完全に捕らえられた。まだ奥の手が残っていたのだ。

 何とか反応して体をずらすことができたが、右腕が食われた。

「リン!」

「あの野郎! 絶対許さねぇ!」

『ザマアミロ! これでオワ……リ?』

「おっおい! なんかエドの様子へんじゃあねえか?」

 エドは何かを感じたようだった。その触手の先の腕を噛まれているのに、微動だにしていなかった。

「痛えな……」

『ハ?』

「痛えじゃねえかこのイカ野郎!」

 左腕で触手を握り、エドを思いっきり引っ張り上げて叩きつけ、そのまま遠心力をつけて振り回す。

「吹っ飛びやがれぇ!」

 強引に海へ叩きつけられ、流石のエドも力尽いてしまい、海からはプカプカと浮き上がってきた。

「あの……リンさん? 腕の調子は如何でしょう?」

 海賊の一人がリンに妙に畏まって聞いて来るが、もう反応するための気力も体力も無くなった。

「おっおいリン!?」

「大丈夫っすか!?」

 周りから心配する声はするが、我慢できず眠りについていた。

 その情報は、当然魔王の下へと届けられる。

「以上が聖剣使いの報告でス」

 ここまでの情報を魔王へと報告するアイン。

「わかった 下がるがよい」

「全く役に立たぬやつだ それだけの事をしても抹殺できぬとはな」

 不機嫌そうに嫌味を言うドライ。

 だから早々に潰しておくべきだったのだと、今でもアインの判断には疑問を持っていたのだ。

「良いじゃんこれで今の実力がどれくらいかわかったわけだし これでドライも計画立てやすいでしょ」

 今でもその結果に納得のいかないドライだったが、ツヴァイになだめられる。

「まあ……その通りですね もうお前の出番はないですからアイン 聖剣使い抹殺は私の仕事だ」

「横取りは良くないナ~ドライ」

「……なに?」

「アレは私の物なノ 勝手はだめでス」

「嫌だと言ったら?」

「……」

 二人は沈黙する。いつ戦闘になってもおかしくない雰囲気だったが魔王がその沈黙を破った。

「やめろドライ」

「魔王様!」

「勝手にするがいいアイン 元々そのつもりだったのだろ?」

「流石魔王サマ! お目が高イ!」

「お前には前から言っていたな あくまでもお前とは契約……同盟関係だ お前がそれを破るなら我々も容赦しない」

「ではそのようニ」

 アインは闇に溶けるように消える。アインにとっては魔王の事などどうでも良いのだ。ただ役に立ちそうだから協力しているだけでしかない。

 アインは次の目的地に向かう。聖剣使いを強くするために。

「来るがいい優月輪ユウヅキリンお前はもっと強くならなくてはふさわしくない」

 新たな作戦を立てる準備を始めていた。

「気がついたか? リン」

 邪悪な存在に目をつけられたとは露知らず、眠りから目覚めるリンに戻った。

「ここは……?」

 そこはこの船で最初に見た部屋の天井、船長室ことクレアの部屋だ。

 どうやらまた倒れてしまったらしい。

「ホント……よく寝るな俺は どれくらい寝てた?」

「丸々一日だね」

右手で額に当て頭を抱える。戦うたびに寝ていたらこの先どうなることやら。

「まあ今回は私のせいもあるし? 多分」

「なんだそれ」

「エドの触手に噛まれたの覚えてる?」

「噛まれ……」

 そう言われた瞬間顔が青ざめ、腕を見る。もちろんそこにはちゃんと腕があった。

 それはそうだ、さっき頭を抱えるのに使ったのだからあって当然だ。

「でもなんでだ? あの時てっきり食いちぎられたと思ったんだが」

 よくよく思い出そうとすると思い出せなかった。いや、なんとなくは覚えてはいるがまるで自分ではないような感覚がした。

 まるでその感覚は『賢者の石』の時のように。

「最初に聖剣を使った時以来だ」

「ご名答 内ポケット見て見て」

 そこには風呂でクレアが見せてくれたペンダントが入っていた。

「いつ入れたんだ?」

「あの……リンが抱えてくれた時に何かあった時のためにと……」

 そういえば顔を埋めてうずめてきていた、その時か。

「まさかこのペンダントって……」

「その中にはアレクサンドラの王……お父さんに預けられた賢者の石 『ガイアペイン』が入ってるの」

 写真の入っているペンダントの裏側をよく見て見ると、開けられるようになっていた。

 その中には土色に輝く新たな『賢者の石』が埋め込まれていた。

「これが二つ目の……」

 その石に触れた瞬間、石はリンの中に取り込まれる。火の賢者の石『フレアディスペア』と同じ現象だった。

「多分それを持っていたから身体が硬くなってくれたんだと思う 賢者の石は力を与えるんでしょ?」

「なるほどな……」

 これで納得がいった。火の聖剣『フレアディスペア』が姿を変えた時、力が漲ってきた。

 それはてっきり姿が変わったことによる現象かと思ったが多分それだけではなく、こっちの賢者の石の影響もあったのだろう。

 だから尽きたはずの魔力も、僅かながら補強さてれていた。

「だとしたら感謝しなくちゃな ありがとう」

「そんな! お礼を言わなくちゃいけないのはこっちだし! それじゃ足りないっていうか……」

 なんて謙虚なんだろか、こんなにも誠実な人にはあったことはおそらくない。まあ海賊だが。

「ならお互い結果オーライってことさ エドのやつも倒せたんだろ?」

「うん とりあえず海上警察に突き出してやった なんてったて賞金首だったしな」

「それは初耳だな というより海賊が警察とつるんで良いのか」

「海賊の掟 『使えるものはなんでも使え』だ」

「左様ですか」

 なんだかんだでお金にガメツイのはやはり海賊らしいなと思う。

 そんなことを話していたら外から船の汽笛が聞こえてきた。

「なんの音だ?」

「ああ これは島に着いたっていう合図だな」

「……島?」

「おいおい忘れたの? 今までこの船にいた訳」

 そう、元々海賊になりたくてこの船にいたわけではない。

 この船に助けられたことで、互いの利害が一致したことによる共同関係だったのだ。

「海賊は約束を破らない お望みの『アクアガーデン』に到着さ」

 目的の新たなる場所へ辿り着いたのだ。
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