こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

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姿見せる三銃士

安堵

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「……ここは?」

 眼を覚ますとそこは畳が敷かれた和室。

 襖に掛け軸に庭の風景から、まるでここは元の世界に戻ってきたと錯覚させる。

(元の世界……じゃないよな? どこだここ?)

 元の世界にしては古すぎる。まるで時代劇のセットのようだ。

「気がついたの!?」

 襖が開くとシオンが現れる。その表情は心の底から嬉しそうにし、そばに近寄ってきた。

「よかった……本当によかった……」

 ああそうだった。負けたのだ、ツヴァイに。勝つことができなかったのだ。

 だがこうして見逃してもらうことで、今ここに自分は生きながらえることができてしまった。

 ただそんな自分のことより、一番気になったのはレイのことだ。

「レイは無事か?」

「ああ……ひどい怪我だからまだじっとしてなきゃならないけど命に別状はないよ」

「そうか……」

 心底から安堵した。あの戦いで生き残れたのは本当に運が良かった。

「それにしても何だその格好?」

「ん? 似合ってないかい? これカザネの衣装なんだけど」

 シオンが着ていたのは水色の袴だった。この部屋といい服装といい、まるで本当に元の世界に戻ってこれたようだ。

(まあそれにしても昔すぎか)

「それよりもう大丈夫? 五日間ずっと寝てたままだったけど」

「本当よく寝るよ……」

 戦うたびにこうも寝ていては戦力としてどうなのだろうと思わざるおえない。

 賢者の石の後遺症か、慣れない戦闘での疲れなのか、おそらくはどちらもなのだろうが早く解決したいところだ。

 まあ何はともあれ、まずはレイの様子だ。

「レイは今どこに?」

「歩ける? 歩けるなら連れていくけど」

「ああ大丈夫だ……」

 少しふらつくが何とか自力で立てた。

 命に別状はないと聞いたものの、直接見ないことには完全には安心できない。

「ほら肩貸すよ」

「なるべく自分で歩く そのリハビリになる」

「……もっと自分を大切にしてね」

 悲しそうな顔、それを見ると罪悪感で胸が締め付けられる。

 自分を大切にすることなど、もうしばらくしていなかったからだ。

 シオンに連れられて、レイの休む部屋へとたどり着く。

「アニキ! もう大丈夫なんですか!?」

「それはこっちの台詞だ」

 怪我人が怪我人を心配し合う、何とも不思議な光景だ。
 レイのそばにはチビルがいた。レイの看病はチビルがしていたのだろう、それなら安心だ。

「お前フラフラしてんだからまだ寝てろよ」

「久しぶりに立ったからだ すぐ治る」

「さすがはアニキです!」

「それよりもお前だ 腕の調子は?」

「アハハ……まだしばらく安静にしてろとのことでして」

「それで良い ゆっくり休んでろ」

「ううぅ……アニキがやさしいよぉ」

 エグエグと泣く姿を見て本当に命に別状はないようだ。あとは様子を見てれば良い。

「オレもそうですけどアニキの腕は!? アニキも腕折られてたはずじゃ!?」

「ああ……そういえば……」

 自分のことながらも忘れていた左腕の大怪我を今思い出す。

 普通なら忘れるなどありえないが、それもそのはずだ。痛みなどなかったからだ。

「治ってる……よな?」

「痛みはない?」

「ああ 見た目も問題ないな」

「寝てる間に色々薬飲まれてたしそれがよかったのかもな」

「……それは聞きたくなかったな」

 何だかとても不安になるが特に異常はなさそうだ。

「アニキが無事ならよかったです!」

「出来ることがあるなら言ってくれ 出来る限り手伝う」

「え」

「ん? どうした」

「オレ……アニキをメチャクチャにしていいんすか!?」

「そこまでは言ってねえよ」

 可哀想に、耳と頭をイかれたようだ。

 だが何かしてやりたい気持ちは本当だ、デートの約束もできてないしここで何かしてやりたい。

「それじゃあ~……そうだな~」

「何だよ早く決めろよな~」

「チビルわかるか? 今オレはここで何を選ぶかで兄貴の好感度が変わるんだぞ」

「そういうのは本人の目の前で言わないようにしてくれないか」

 呆れながらもレイの悩みに付き合う。今回ばかりはあまり文句も言えなかったからだ。

「えっと……そうですね~」

 モジモジと言いにくそうにしながらも何とか決めたようだ。
口を開いた答えはこれだった。

 
「あーん……」

「あーん?」

「食べさせてほしいな~って……今から薬飲むんで……スプーンで」

「お前左は怪我してないんだから手伝わなくても大丈夫だろ」

「え」

「……え?」

 答えを間違えたようだ。レイが怪我したのは右腕なのだからお箸を使うのならともかくとして、スプーンなら利き手じゃなくても問題ないと思ったのだが。

「レイはねアナタ・・・に食べさてもらうことに意味を見出してるのよ」

「オレ様でも流石にわかったぞ」

「ううぅ……勇気出したのにぃ……」

「わっ悪かったな鈍くて」

 どうやら選択は不正解だったらしい。その行為はむしろ食べにくそうなのだが、それが望みならやってみることにしよう。

「まあそれぐらいなら ほら口開けろ」

「アニキ ムードムード」

「そうよ! こういうのはもっと真面目にやらなくちゃいけないの!」

「何でシオンお前のテンションが一番高いんだよ」

 とりあえずあまり理解できないまま、粉状の薬をスプーンですくう。

「薬はどれくらいでいいんだ?」

「スプーン一杯分で大丈夫みたいだぜ」

「ならこんなもんか」

「ふぁにきふぁやくふぁやく」

「別に口を開けっぱなしにしなくてもいいんだぞ」

 レイは早く早くと左手でポンポンと布団を叩いてアピールしてくる。

 スプーンにすくったこの薬を放り込めばい満足するのだから本当にこんな事でよいのだろうかと疑問が消えない。

「アニキはオレが『あーん』って言ったら兄貴も続けて言いながら口に入れてください」

(俺が言う必要あるのだろうか?)

「それでは……あーん」

「アーン」

((凄く心がこもってない!))

 外野二人はその言い方が気になるが、レイは感動の方が上回り気にしてないようだ。

 レイの口の中にスプーンが入れられ、ようやく薬がレイの中に入っていた。

 満面の笑みで、レイは薬を味わっていた。

「こんなに薬を美味しく感じるなんて感激です…… あっ! おかわりいいっすか?」

「用量守れよ」

「じゃあ今度は水っすね」

「水はやりづらくないか?」

「大丈夫ですよ 今度は口移しですから」

「俺が出来るのはここまでのようだ すまない力になれなくて」

「アーッ!? 諦めないでくださいよ! まだやってもらいたいことたくさん……ってあれ? なんだか眠気が……」

「副作用に『眠気』って書いてるね」

「くっ! こんなところで眠れるかぁ!」

「寝ろ」

「ハゥ!?」

 レイの眉間を人差し指で軽く突き、無理矢理寝かしつけるとすぐに眠ってしまった。

「薬もあるだろうけど疲れもあったんだろうね」

「無理しちゃってさあ」

「この調子なら大丈夫だろう カザネのことシオンは案内できるか?」

「そうね リンも起きたことだしここのお城のお殿様にまずは会いましょうか」

「チビルはレイを見ててくれ」

「はいよ」

 スヤスヤと眠りについたレイをチビルに任せ、シオンにカザネの案内してもらう。

 先ほどまでのくだらない時間が、リンの心を安堵させた。
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