こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

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より強くなるために

シオン対アヤカ

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「ふ~ん……? それで? このアヤカさんに弟子入りさせられたと」

「まあそういうことだ……」

「そういうことでござる」

 広いところで話しをしたいと言われ、連れてこられたのは大きな大木が印象深い広場だった。

 そこで尋問され、シオンから放たれる殺気に怖気付きながらも包み隠さず全てをリンは話す。

 こちらに落ち度はないのだから何も恐れることはない。そうリンは考え全てを話した。

 だが放たれる殺気のせいでとても息苦しくなる。

 アヤカを除くリン、レイ、チビルの三人はその殺気に負けてしまっていた。

「理解はしたわ……けど納得はできない」

「ほう? それはどのようにして?」

「約束は弟子になることでしょ? 弟子にはなったんだからもう用はないでしょ」

「弟子だからこそ鍛えなくてはならぬのでござる 今のままではこの先どうなることやら」

「その役目は私がやるわよ リンのサポートとしてこうして一緒に旅を始めたの」

「それが務まると?」

「……何? できないとでも言いたいの?」

 普段こうも攻撃的でないシオンが、アヤカに対して敵意剥き出しでぶつかっている。

 自分の役割を取られるだけでなく、リンの時間まで縛られるのだ、それも仕方のない事だった。

 しかし、そんな事も御構いなしにアヤカはシオンにこう言った。

「そういうことは強い者のほうが務まると思うでござるよ であれば拙者のほうが適役でござる」

「……私のほうが弱いと?」

「その通りでござる」

 その言葉を最後に長い沈黙が続いた。

は息の詰まる嫌な沈黙。それを最初に崩したのはさっきまでここにいなかった第三者だった。

「なら剣で決着でどうです? お二方」

「おおムロウ殿」

「げっ」

「そう嫌そうな顔するなよ二代目」

 突如現れたのはムロウだった。

 その手に持っていたのは二本の木刀、どうやらこれで二人に戦えという事らしい。

「拙者は異論はないでござるよ むしろそうしたい是非是非」

「私も賛成 こういうタイプは実力で黙らせたほうが一番いいもの」

「よし決まりだな! じゃあこちらの木刀どうぞ 近くの道場から借りたものだから壊すなよ」

「善処するでござる」

(あっ壊すやつだ)

「そうね 最初にこの木刀のお値段を聞いておこうかしら?」

「嬢ちゃんたち人の話聞いてる?」

「そそのかしたアンタも悪いと思うがな」

「いやでも遅かれ早かれあの二人見てたらこうなりそうだったけどな?」

「そうですよアニキ ここはもう二人に任せてオレたちは二人でデートでも……」

「シオンが勝って俺が解放されたらな」

 わざわざ広いところを指定した時点で、こうなることは何となくリンも予想していた。

「反則はとくに無し どちらかが音をあげるか意識がなくなったほうが負け それで良いでござるか」

 広場を舞台に、二人は相対する。

 剣の腕に自信のある者同士の真剣勝負が始められようとしていた。

「いいわよそれで 何を使っても文句なしってことで……強いて言うなら助っ人は無しってことぐらいかしら」

「当然でござる 勝負は一対一の真剣勝負なのでござるからな」

「なあリン オレ様気づいちゃったんだけど殺しちゃダメなんて二人とも言ってないような……?」

「気づかなかったことにしろチビル」

「シオン勝てよ! アニキのこれからがかかってんだからなー!」

「そんじゃあおりゃあアヤカ嬢の応援でもしますかねぇ」

 まるでスポーツ観戦をするかのように応援しているが、チビルの言ったような事にならないようにと、リンは願わずにはいられなかった。

 互いに構えると再び長い沈黙。

 その沈黙は先ほどまでとは違う、背筋が凍るよな寒気を感じるほどの緊張感が伝わってくる。

一陣の風が吹く。それにより舞い上がった一枚の葉が。

 地に落ちた瞬間、戦い開始の合図となって、真剣勝負が始まった。

 先手はアヤカ、リンはその動きを捉えることができなかった突きがシオンの首へと穿たれる。

(速い……!)

 その一撃を受ければひとたまりもないことはリンが身を以て証明している。

 その上今回は木刀で、おまけに手加減無しで放たれる。

 だが、こうなる事をすでにシオンは読んでいた。

(あらかじめどこに飛んでくるか予想できてたら早くに対応できる!)

 その一撃を躱すと、即座にアヤカは横に斬り払う動き。この動きは既に一度見ている。

「おっ? どちらも躱したでござるな」

「一度見せていただいてるのでこの程度ならね」

「ならここから先は初見でござるな?」

「すぐに慣れるわ」

「そうでござるか……な!」

 その速さはさらに速く、研ぎ澄まされた槍の如くシオンめがけて一撃を決めにいく。

「くっ!」

「そう何度も躱せると思ったら大間違いでござる!」

 ただでさえ一撃一撃が重いというのにそれに加えてこの速さである。
最初の速さでさえやっとだというのに、更にシオンへ負担をかけて追い詰めていく。

 加速していく一撃はさらに研ぎ澄まされより強く、そして重くシオンへ叩き込まれる。

(この娘のこの強さ……トリックでもあるのかと思ってたけど)

 そんなものなど無い。ただ一振りが重く、その脚は誰よりも速い……たったそれだけの事である。

 だが、たったそれだけの事の強さは、極めれば極めるほどに目に見えて強くなる。

 戦いにおいて基本的な事、それをただ磨き上げただけの強さ、それがアヤカの強さ・・・・・・・・・だった。

「この程度でござるか!?」

「くっ……!」

 太刀筋だけでなく体術による牽制によって攻撃が防がれる。どこをとっても隙などない。

 シオンが少しでも気を抜くと、一撃で仕留めんとするアヤカの猛攻を防ぐだけでも精一杯となる。

「もっともっともっと……たっぷりとこの戦いを楽しむでござるよ……シオン殿?」

アヤカは怪しく微笑む。

 アヤカの瞳から溢れるものは、この戦いを楽しみたいと純粋な闘志。

 シオンはアヤカを前にして、剣での戦いで勝てる気などしなかった。
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