こどくなシード 異世界転移者の帰還道

より強くなるために

倒した事で

「……ってなわけで！ このレイちゃんが木鬼のヤロウをギッタンバッタンと余裕で倒しちゃったわけですよー！」

「……倒しちゃったか」

　レイは木鬼を倒した次の日、その事をリンに報告する為にアヤカの道場に訪れていた。

「まあ聞いたところによるとあの神社は別に元々賢者の石は無かったみたいでしたけどね 全くチビルの迷推理には困っちゃいますよね～」

「ハズレたらオレ様のせいにするのヤメロォ！」

　その会話でリンは大体見当がつく。

　大方チビルの一言で早とちりで勝手に突っ走ったのだろうと、その姿が目に浮かびリンはチビルに憐れみの目線を落とす。

「それに何が余裕だよ お腹貫かれただろうが」

「バッカ！ 余計なこと言うなっての！」

「流石はリン殿の妹分だけあるでござるな いやはやあっぱれあっぱれ」

「だろう～？ なんだよ話しがわかるじゃんか」

　その言葉を馬鹿正直に受け止め、デレデレと褒められた事を喜ぶレイ。

　そんなレイとは裏腹に、リンは険しい表情で考え込んでいる。

「ん？ どうしましたアニキ？ オレに惚れ直しちゃいました？」

「……レイ」

「ハイ！」

　まるで尻尾を振って喜ぶ犬のようにレイは期待していた。

　リンは手を伸ばす。それに対して頭を撫でられると思ったレイは少し頭を下げて撫でられやすくした。

「阿呆」

「アイタッ！？」

　当然そんな事されず、頭を軽くではあるが叩かれる。

「なっ何するんですか！？」

「勝手な事をするな 負けてたらどうするつもりだ」

「でもオレはこうして……」

「それは結果論だ 魔王軍と戦う以上は最悪な状況も想定しなきゃダメだ」

「だってアニキに余計な手間かけさせたく……」

「それにもしもお前に何があったら俺は……」

　そう言うと少し言い淀むと少し照れくさそうに。

「心配させるな……」

　結局のところ一番気にしてたのはそこだった。

　信じていないわけでは無い。が、ただリンの目の届かないところで戦わせる事が怖かったのだ。

「……えへへ」

「怒られて笑うな」

「すみません嬉しくて……気をつけます」

「……ならいい」

　リンは照れくさそうにして、顔を合わせずにそっぽを向く。

「なんだよリン？ 照れてんのか～？」

「以外に可愛いでござるな～？」

「黙れ」

　すこぶる不機嫌そうにそう言い放つ。

「まあ今回のことに関しては無事で良かったがもう二度とするなよ？」

「了解です！ できる限り善処します！」

（本当にわかってるんだろうか……？）

「まあレイ殿の武勇伝も聞けたことでござるし早速修行を……」

「その事なんだが昼からでいいか？ 先に出かけたい」

「ん？ リン殿用の布団のことでござるか？」

「まあそれもあるが……」

「待ってくださいアニキ 布団って何のことですか？」

　こういう時に変なところで察しの良いレイが『布団』というワードに反応する。

「アニキ用の布団？ つまり今ここにある布団はアヤカコイツの布団だけってことですか？ じゃあアニキは今日までどこで寝てたんですか？」

　その眼に光は無く、今すぐにでも銃を取り出して撃たれてしまいそうな悪寒がリンを襲う。

「いや……その……なんだ？」

　リンは顔を合わせる事ができない。主に恐怖で。

　そんな空気を読まず、或いは敢えて無視してアヤカは正直に答える。

「勿論拙者と同じ布団でござるよ イヤー素晴らしい抱き心地で拙者夢見が良くて重宝してるでござるよ！」

　親指を立てて、無駄に良い笑顔でそうアヤカは告げる。

　その言葉を聞いてすぐに、銃口がリンを捉える。

「アニキ……理由はもうおわかりですね？ 覚悟の準備を！」

「待て待て待て！ 誰が好き好んでこのズボラ怪力女と……！」

　全て言い終わる前に指をさした相手の鉄拳がリンの横腹に綺麗に決まり、リンは悶絶する。

「聞き間違いであったらすまないでござるが はて？ 何か言ったでござるかな？」

「寝食を共にできて光栄です」

　心にもない言葉であったがアヤカは満足している。

「で？ 理由があるんだろう？ レイもそれを聞いてから決めようぜ」

　ここにきて、チビルの助け舟は本当に助けられる。リンは心の底からチビルが仲間で良かったと思った。

「最初は騙されたんだよ……アヤカの父親の布団があったのを黙っていやがったからな」

「じゃあ必要ないんじゃ……」

　父親の部屋の押入れに布団があったのを発見して、それを使う予定だった。

　だが、それをしなかったのには理由があったのだ。

「……きのこ・・・……生えてたんだ」

「「え？」」

　とても重い溜息を吐いた後に出たその言葉を聞いて、レイとチビルは耳を疑う。

「カビじゃあないんだ きのこなんだよきのこ！ どうなんてってんだよどうしてそんなモンが生えてくんだよおかしいだろ！？」

「いや～！ 部屋は綺麗にしてたでござるが押入れの中身までは綺麗にしてなかってござるから～失敬失敬！」

「「えぇ……」」

　レイの怒りも、流石にドン引きには負けてしまった。

　ちなみにきのこは寝具一式全て生えていた。

「……アニキも大変だったんですね」

「同情するぜ」

「うるせえ お前らちょっと外で薪拾いしてこい」

「唐突に！？」

「勝手なことした罰だ」

「オレ様はとばっちりだろ！？」

「チビルはレイがサボらないか見張ってくれればそれで良い」

「あれ？ オレの信用問題……？」

　渋々と薪拾いの為にレイ達ら外に出る。

　実際のところは、薪拾いというのは外に出てもらう為のリンの口実であったのだが。

「……で？ 実際は何の理由でござるか？」

「今回木鬼が倒された事で魔王軍がどう動くかわからん その事を相談にな」

「シンゲン殿にでござるか？」

「そうだ 遅かれ早かれ魔王軍の耳には入ってる筈だ 今のうちに警戒しておくに越したことはない」

　流石に明日明後日に大軍が押し寄せてくるとは思えはなかったが、恐らく動きはあるはずだ。

　ならばその為の策を、なるべく早くリンは用意しておきたかった。

「まあそんな事であろうと思ったでござるがな」

「だから今日は昼からにしてもらいたい 事が事だし別に良いだろ？ サボるわけじゃあないしな」

「買い物もするのでござろう？ だったら拙者も案内も兼ねて一緒に行くでござるよ」

「そうしてもらうと助かる 町の事も詳しくないしな 迷いたくない」

「後カップル割りもあるでござるから買い物をするなら一緒の方が都合が良いでござろう？」

「できればそれは丁重にお断りしたい」

　一番の目的である布団は今度こそ忘れないと、強く心に誓った。