こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

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より強くなるために

方向性

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「……つきましてはこの町の警備等の魔王軍対策の現状を教えて頂きたく伺った次第でございます」

 そう言って正座したまま手をつき、深く頭を下げてここカザネの城の城主である『ガンリュウノ シンゲン』の元へと足を運んだ理由をリンは言う。

 大広間に威厳ある居佇まいで腰掛けるシンゲンは、今回の一件の事について難しそうに答えた。

「フム……その事に関しては此方としても重く見ておるよ 斥候が来ている以上ここが戦場になる可能性が高まったのだからのう」

「町の様子を見る限りどうにも……カザネだけに言える事ではありませんが少々緊張感が欠けているのではないのでしょうか?」

 それはアクアガーデンでもそうだったのだが、本当に戦争の事をしているのかと思うほど、良くも悪くも平和に見えた。

「きっ貴様!?  幾ら聖剣使いの二代目だからといって殿に対して……」

「事実を言ったまでです ですが気を悪くしたのであれば謝罪いたしましょう 申し訳ございません」

 そう言ってリンは謝罪し頭を下げる。

「口を慎め 客人に対して無礼であろうが」

「しかし……」

「こちらこそ申し訳ございません この内容に不満が出るのも重々承知しておりましたから もう少し言葉を選ぶべきでした」

「うっ……うむ わかっていただけたのなら 此方も何も言えませぬ」

 そのへりくだった言い方をされてしまっては、流石にそれ以上はシンゲンの家来も責めることはできなかった。

「確かに魔王軍とのいくさをしているというのに あまり騒いではおらん それはリン殿の言う通りじゃ」

「あまり申し上げたくはないのですが ここカザネは太陽都市《サンサイド》と比べて軍事面に勝っているのでしょうか?」

 更に付け加えるとすればここカザネは島国であったアクアガーデンよりも小さい。

 人口が少なければ人手も減り、そして軍に回す資金などもどうしても抑えられてしまう。それは必然であった。

「精鋭揃いじゃよ間違いなく……だがそれでも劣っているじゃろうな」

「何故焦りが見られないのでしょう? どうにも腑に落ちません」

「対岸の火事……というやつじゃのう」

 それは狙われた最初に狙われた『光国家ライトゲート』と『秩序機関ギアズエンペラー』、そして『太陽都市サンサイド』の三つの国が良くも悪くも攻め滅ぼされることがなかったせいであろう。

 もしも何処か一つでも国として機能しなくなる程の被害を受けていたのなら、また違ったかもしれないが今のままではどうしても、魔王軍に対しての『危機感』が薄いのだ。

「勿論我々は魔王軍を甘く見てはおらん じゃがいかんせん情報が少ない」

 そして脅威を伝えようにも対策方が無いのであれば「気をつけよう」ぐらいしか言いようがない、これでは対策の方向性が決まらない。

「まずは町の見回りを可能な限りで構いませんので増やして頂きたい 見慣れない顔や不審な人物がいれば直ぐに対処できるように」

「ふむ……他には?」

「できる事といえばそれぐらいしか思いつきません……ですが強いて言うのであれば他の国との連携も必要かと 情報共有ができるだけでも今後動きやすくなると思いますので」

「ではその通りに準備出来次第そうするとしよう お主にも迷惑をかけたのぅ」

「恐縮でございます むしろ出過ぎた真似だったかと」

「何を言う 聖剣使い殿の御心遣いを感謝こそすれど無下になどせぬよ」

 ホッホッホと立派に蓄えた髭を撫でながら、機嫌良くシンゲンは笑う。

 用件を伝え終え、後は帰るだけと思っていたら廊下をドスドス歩くと音が近づいてきたかと思うと勢いよく襖が開けられた。

「話しは終わったでござるかリン殿!」

「げっアヤカ 急に入って……」

 嫌そうな顔で対応するリンに対して周りの反応は驚くほど違った。

「アヤカちゃん!?」

「ウオオオ! アヤカちゃんだ!!」

「久しぶりだねアヤカちゃん!」

「おじさん会いたかったよぉ!」

 突然やってきたアヤカにたいして、シンゲンの家来達から歓声が上がった。

「ん? おおこれは皆の衆ごきげんようでござる 元気でござったか」

「勿論だよ~」

「それよりまたこりゃあまた美人になって……」

「あんなに小さかった娘がなぁ……」

 リンはこの周りの溺愛ぶりを見て唖然とする。

 そしてこの光景を見て理解した。

 アヤカのこの性格は間違いなく、この溺愛が影響を与えたと。

「うん 話しが長くなりそうでござるからこれで失礼するでござる さあ! 修行でござるよリン殿! 拙者もう我慢できないでござるよ!」

「わかったから腕を引っ張るな 痛い折れる捥げる」

 当然ながらアヤカの腕力に勝てる筈もなく、ズルズルと引っ張られリンは大広間を後にする。

「ほう……? あのアヤカがあそこまで他人に関心を持つとはなあ?」

「そうでございますな殿 あの強さがありながら弟子を持ちたがらなかったというのにこうもアッサリ……」

「まさか『恋』ではござらんか!?」

「なんと!? これはめでたい様な寂しい様な……」

「ホッホッホッ! なあにであれば良いことではないか! 」

 リン達がいないのを良い事に勝手に盛り上がるシンゲン達であった。

 早々に買い物を済ませ、道場へと帰る。

 修行を始めるのが遅くなってしまった為、今日はなるべく色々アヤカは決めたかったのだ。

「さてさて 本格的な修行を始める前にまず何を教えるべきか」

「決まってなかったのか」

 だが、う~んと唸って考えだすアヤカを見て少し呆れる。

「いやいやいや 決まっていない訳ではござらんよ ただリン殿の『方向性』をどうするかと思ったのでざるよ」

「方向性?」

 疑問に思うも束の間、アヤカから木刀を投げ渡される。

「まあ先ずは身体を温めるてから決めるとするでござるよ」

 相変わらず何か考えているのかそうでないのか、リンは理解できないまま勝手に始められる。

 そしてここから、リンの戦い方が決まる大切な修行となった。
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