こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

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秘めたる想い

受け入れられない現実

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 嘘だ。

「このお方が『ド・ワーフ』を守護して下さっている我らが姫! 『マリー様』です!」

「お~かわいいじゃん」

「綺麗な人ねぇ……」

「だけどよぉ ちょいとばかし肌も白いし細っこ過ぎる気がするし病気かなんかか?」

 そんなはずない。

「……眠っているみたいででござるが?」

「はい……実を言いますと ずっと眠ったまま・・・・・・・・なのです」

「ああ? どういうこったそりゃ?」

「姫様はある日を境に行方を晦ましたのです……捜索の末 森の中で横たわっている姫様を見つけたのですが」

 そんなことがあってたまるか。

「誘拐か何かかねぇ……で? それ以降目を覚さないと」

「左様でございます……一刻も早く原因を突き止めたいのですが……」

「どうしたよリン? 固っちまって?」

「……ありえない」

 他人の空似だ。そうに違いない。

 だっておかしいだろ? よりにもよって……何でなんだ。

「あっ!? 無礼ですよ聖剣使い様! 勝手に近寄られては!」

「そんな訳ない……お前はここにいたら……!?」

 間違いない。信じなくてはならない。この点滴の跡・・・・を見てしまえば。

「どうして……何だってお前が!?」

 信じたくない。こんな現実は。

「おいどうした二代目? 何かあったのか?」

 頭がどうにかなりそうだ。

「どこ行くんですかアニキ?」

「ほっといてくれ……何が何だかわからないんだ」

 考えたくない。どうして俺だけじゃあないんだ? 危険な目にあうのは俺だけで十分だったんだ。

「何だぁ? アイツ」

「私様子見てくる」

「じゃオレも……」

「二人もいらないでござるよレイ殿」

「止めるなアヤカ!」

「ここはシオンの嬢ちゃんにまかせましょうや」

 夢なら覚めてくれ。冗談にしては性質が悪すぎる。

「ちょっとまってよリン!」

「言ったろ……ほっといてくれ」

 今は駄目なんだ。頭がどうにかなりそうで、平静を保てない、上手くいかないんだよ。

 ここから離れよう。だってそうしなくちゃ俺は。

「だから待っててば!」

「はなせ!」

「きゃっ!」

 ああほら、上手くいかない。

 俺はまた傷つける。俺に親しくしてくれる人を、大切にしたいのに、接し方がわからないんだ。

「……俺に関わらないでくれ」

「そういう訳にもいかないわ」

「なんでだよ」

「だって……そんな苦しそうな顔してたらね?」

 ああ、そうなのか。

 もう何も隠せて無いんだな。

「……ごめん」

「素直でよろしい 落ち着いた?」

「ほんの少し……な」

「ねえ教えて 何があったの?」

「それは……」

「さっきのお姫様?」

「何でわかった?」

「いやさすがにわかるから」

「それもそうか……」

 あんなあからさまな態度をとれば、誰だってわかる。隠せてるはずが無い。

 そんなこともわからないぐらい、今はもう余裕が無いんだな。

「本当……ああ駄目だな俺 頭の中がいっぱいでさ あんなに動揺するなんてな」

「あの姫様……リンの知り合い?」

「『白羽シラハ ユキ』 アイツは……ユキは俺の世界の住人だ」

 信じたくなかった。自分と同じように、よく似た他人がいるだけなんだと思いたかった。

 だが間違えるはずが無い、あれは『ユキ』だ。

「ユキは……もうずっと寝たままなんだよ 十一年間・・・・もずっと」

「十一年間!?」

 だからあんなにやせ細って、日に当たることも無いから肌も白い。

 毎日毎日……欠かすことなく会いに行っても、ユキは目を覚ましてはくれなかった。

「生きてるんだ……体も少しずつだけど成長してて……目を覚ましてくれるかもしれないんだ」

「……いつ?」

「わからない……一年後か十年後か……それともずっとあのままなのか」

 それが医者の宣告であり、無力な自分にはどうすることもできなかった。

「どうして……そうなったの?」

 別に隠してる訳では無かった。ただ言う必要が無かったから、言わなかっただけで。

 でもこれは言い訳だ。

 現実から目を背けたくて、口に出さないようにしていただけだった。

 あの日の出会ってしまったのが、俺にとって一番の誤ちだったんだな。

「なにしてるの?」

 俺はいつも一人で遊んでいた。

 外で遊んでいる子を見て、仲間に入れて欲しいと思っていたけれど、内気で人見知りな自分には難しい話だ。

 いつものように一人で遊ぶ自分に、その女の子は話しかけてくれた。

「えっえっとね……お砂で遊んでるの」

「ひとりで?」

「うん……」

 突然の話しかけられた俺は、上手く話せていたかな? 暗い子だと思われたかな? とか考えていた気がする。

 そんな自分は今でも情けないと思う。

「……わたしもあそぶ!」

「いいの?」

「うん! わたしユキ! キミは?」

「ボクは……リンだよ」

「友達になって! リン!」

 ユキは初めてできた友達だった。嬉しかった。

 本当に、本当に嬉しかったんだ。

「きょうはおままごとしよ!」

 それから毎日公園で遊んだ。

 たくさん遊んだ。

 ユキだけじゃなくて、親同士も仲が良かったから、一緒に出かけることもあった。

「わたしがママ! リンは……なにやりたい?」

「えっとねえっとね……イヌさん」

「え!? パパじゃなくていいの? なんでイヌさんなの?」

「うん……だっておイヌさんはね 頭がよくてね おうちの人がいなくてもまもっててくれるんだよ」

 本当は、恥ずかしかったんだ。

「……わかった! でもイヌさんをやりたがるなんてリンはかわってるね!」

「そう……かな?」

「じゃあママがかえってくるところからね」

「うん!」

 たとえままごとだったとしても。

「だめだよ! へんじはワンッ! っていわなきゃ」

「はずかしいよぉ……」

「え~? リンがいったんだからね~?」

 たぶんそれが、初恋だったから。照れくさくてできなかったんだ。

「ユキちゃん!」

「なあに?」

「あのね! こんどのお祭り二人でいこうよ!」

 優しかったユキに甘えて、我儘を言った。

 今でも覚えている。最初についた我儘だったから。

「わたしたちだけだとパパとママが……」

「……ダメ?」

「……いいよ! いっしょにこいう!」

 ユキは俺の我儘に付き合ってくれた。指切りをして、ユキは当日家を抜け出してきてくれてた。

「ごめんね……怒られちゃうよね?」

「そうだよ~? おこられちゃったらリンのせいなんだからね」

「ごめん……」

「だからね……おこられるときはいっしょだよ?」

「……うん!」

 ユキは約束を守ってくれた。

 嬉しかった。約束を守ってくれて。

「手をつなごう! はぐれないように!」

「リンもはなしちゃだめだよ?」

「だいじょぶ! やくそくする!」

 ユキが約束を守ったのなら、今度は自分が守ると決めた。

 約束も、ユキも、その両方を。

「ひとがたくさんいるね……」

「リンはなしちゃだめなんだから……あっ!」

「ユキちゃん!?」

 短い腕、小さな手。

 約束を守るには、あまりにも無力で。

(どうしよう!? どうしょう!?)

「むむ? 見間違いでなければそこにいるのは我弟ではないかね?」

「おねえちゃん!?」

 丁度友達と祭りに来ていた十はなれた姉が、その場に居合わせた。

「だめじゃあないか! 一人で来たら迷子……いや我可愛い弟のことだ きっと誘拐されてしまうに違いない!」

「おねえちゃん! ユキちゃんみなかった!?」

「むむ? デートだったとはなかなかやるな弟……だが見ていないな」

 姉と一緒に祭りの場所を探して周っても、ユキはいなかった。

 見つけたのは、その祭りの場所から離れた川だった。

 変わり果てた姿で。
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