こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

文字の大きさ
138 / 201
秘めたる想い

大切なものも守るために

しおりを挟む
「娘は……ユキは大丈夫なんですか!?」

「何とか一命を取り留めました……ですが」

「ですが……?」

「いつ目覚めるかまでは……残念ながらわかりません 今日明日目覚めるかもしれませんし一年後か……あるいは十年以上掛かるかもしれません」

「そんな……!?」

 泣き崩れるユキの母親と、それを支えるユキの父親を、幼いリンはただただ見ていることしかできなった。

「お願いします先生! ユキを! ユキを助けてください!」

 さまざまな医者や病院を紹介され、その度に絶望する。

 娘が目を覚ますまで、ずっと繰り返される。

「ごめんなさい……ボクがユキちゃんを祭りに誘わなければ……」

「……リンくんは悪くないのよ」

 ユキの母親はそういってリンの頭を優しくなでる。

「ユキね……家ではリンくんのことばかり話すのよ? リンくんが~リンくんが~って とっても楽しそうに」

 リンを抱き寄せ、涙ながらにお願いをする。

「だからね……これから先もずっと友達でいてあげて? 目を覚ましたらまた一緒に遊んであげて?」

「私からもお願いするよ……ユキの為にも」

 ユキの父も、そういってお願いをする。

 悔しそうな表情。受け入れたくない現実をグッとこらえ、娘が目覚めるのを今でも願っている。

「どうしてなの……? なんでユキちゃんが!」

 考えた。幼い頭で、足りない頭で考えた。

「守るって……決めたのに」

 約束も、ユキも、絶対に守るんだと。

「ワガママをいったから……ボクが手をはなさなかったら」

 己の無力さを知った。

 誰が悪い? どうすれば良かった? 後悔が今でも押し寄せる。

「全部……俺が悪いんだ」

 もう二度と、手を伸ばした人の手を、離さないと決めた。

「俺に……構わないでくれ」

 自分のせいで奪われた。取り返しのつかないことをした。

 だから周りから距離を置くことにした。自分と関われば、また同じようなことが起こるかもしれないから。

「俺がいなければ……良かったんだ」

 もう二度と、リンはあんな思いをしたくなかったから、一人を好んだ。

「守りたい人が増えるほど……幸せな時間があるほど怖くなる」

 また同じことが起きてしまう。そう考えるほど、失ってしまう怖さが強くなる。

「だから俺は……どんなことがあってもユキを元の世界に帰す どうしてこの世界に来たのかは知らないが……ユキだけは絶対に」

「……そんな事があったのね」

 シオンは何も言えなかった。

 何故ならそれは、どんな言葉をかけたとしても、気休めにしかならなかったからだ。

「でもどうするの? ユキちゃんが寝たままだっていうならつれてく訳にもう行かないし……」

「……頼みがある」

「頼み?」

「ああ……それは」

 リンが何かを言いかけたその時だった。

「大変です使い聖剣様! 魔王軍が! 魔王軍がここ『ド・ワーフ』に!」

「何だと!?」

「数はどれぐらいいるの!?」

「わかりません! ただ確認できるだけで二千を越えてるかと……!」

 よりにもよってここド・ワーフで、ユキがいる場所に押し寄せる魔王軍。

「ここには結界があるんだろ!? それがある限りここは安全なんじゃあないのか!?」

「それが……姫様の力が以前よりも落ちているのです」

「どういうこと?」

「結界は姫様が座られる『守護の玉座』が張っているものなのです 選ばれた者が座っている間に限り 結界でこの国をお護りする事ができるのです」

 原因はわかっている。それはユキ・・だ。

 おそらくリンと一緒で、本物ではないユキの力では玉座本来の力が発揮できないでいるのだ。

「今は結界のおかげで持ちこたえておりますが このままでは破られてしまいましょう!」

「ユキ……ッ!」

 ユキが眠る玉座の間に、リンは走った。シオンもそれを追いかける。

 たどり着くと、既にド・ワーフの兵士たちが召集されており、戦う準備を始めていた。

「おお二代目! ド・ワーフの兵士たちも集まってるぜ?」

「ついて早々 嫌な予感というのは当たるものでござるな」

「結界のおかげでまだ準備ができる オレ様は救護にまわるぜ!」

 各々落ち着いた様子で準備を整えている。兵士達も皆冷静であった。

「姫様のご加護があるのだ 我々が負ける筈が無い!」

「そうだ! 加護を与えてくださる姫様の為にも! 命を賭してでもこの国に勝利を!」

 結界がある限り、奇襲される事は無い。おかげで余裕を持って対応する事ができる。

「……賢者の石は?」

「おお聖権使い様! 賢者の石でしたら厳重に保管しております どうぞこちらへ!」

「おっ? やる気十分だな……って連絡か?」

 雷迅に付けられた首輪式の通信機が反応する。

 首輪から放たれた光を、壁に当てると『アクアガーデン』の王妃である『ピヴワ』の顔が映し出された。

《緊急連絡だ聖剣使い! 魔王軍が動き始めた!》

「おいおい情報が遅いぜ王姫さん? ド・ワーフの結界外の魔王軍の連中は今からオレ達とアニキが……」

《なんだと!? そっちも・・・か!?」

「そっちもだと……? まさか別の名場所も!?」

《噂は本当だったということだ……『アレキサンドラ』にも魔王軍が現れおった》

 二ヶ所同時に現れた魔王軍。

 魔界の戦士、機械の兵士という恵まれた兵力を持って、本格的な進軍が始まったのだ。

《どちらにせよ……今からアレキサンドラに向うには遠すぎるか……すまなかったな だが伝えておくべきだと判断しただけだ お主達は目の前の敵のことに集中してくれ》

「……そうさせて貰う 今の内にここの賢者の石を手に入れておくさ」

《ド・ワーフの……木の賢者の石『ローズロード』か》

「何か他に大事な用件があるならシオン達に伝えてくれ 今から俺はその賢者の石の場所に行く」

「まかせてリン」

「それじゃあな」

「……リン!」

 賢者の石のある場所へと向かうリンを、シオンは引き止めた。

「何だ?」

「ええとね……ユキちゃんはきっとリンのことを憎んだりしないと思うの きっと優しい子だから」

「……そうか」

 シオンなりの精一杯の励ましの言葉。

 きっとその言葉は正しいのだろう。リンはそう言われて否定する事ができなかった。

「知ってるさ……言われなくても」

 リンはそう呟き、この国とユキを守るため、戦いの準備を始めた。

 一方、戦いの準備が整った魔王軍。

 そこには『魔王』自らも出向いていた。

「魔王様 攻め込む準備が整いました」

「ご苦労であった 早速機械兵たちの性能を試すとするか」

 多くの軍勢を引きつれ、指示を出すのは魔王三銃士ではなく、『魔王』自らが出向き、指示を出していた。

「ハッハッハ! それにしても態々魔王様が出向く必要などなかったのでありませんかな?」

「魔王として 自身が率いる軍の事ぐらいは自分で確かめておかなくてはな」

「上に立つものとしての責務……という奴ですかな? 素晴らしい考えですな」

[ご報告申し上げます]

 そういって魔王と、今回この場を任された殲滅部隊の隊長が会話をしていると、機械兵の一機が現状報告をしにやってきた。

「なんだ? もしやヤツら降伏でもしてきたか?」

[ただいま機械兵全三千機が戦闘を開始しました 我軍……劣勢・・]

「なん……だと!?」

 想定外の報告を受け、驚きを隠せなかった。

「馬鹿な! 機械兵を人間が相手をするなら最低でも三人がかりで無ければ勝てない筈だ! ヤツら一体どれでけの兵力を投入してきというのだ!?」

[敵兵数……『一』]

「……は?」

[敵兵存在『一』 現兵力の三分の一……状況更新 半分までの減少を確認]

「ありえん! ここには聖剣使いはいない・・・・・・・・んだぞ!?」

 ここはリン達のいる『ド・ワーフ』ではなく、砂漠大国『アレキサンドラ』。

 アレキサンドラの戦力に、それほどまで卓越した戦士の情報は無かった。だから戦力をド・ワーフへとまわし、こちらには機械兵のみを送ったのだった。

(それほどの猛者……いったいどこから?)

[敵兵の接近確認……到着まで後四秒]

「魔王様! ご安心ください! この私がいれば必ずや勝利を……」

 その直後、機械兵の体は砕け散り、アレキサンドラ殲滅部隊長の首は撥ねられた。

「『聖剣使い』……か?」

「やあ……初めまして・・・・・ 魔王様?」

 白いコートに身を、纏ったその男の名は……リン・・

 それは『初代聖剣使い』である『リン・ド・ヴルム』であった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン
ファンタジー
領地には魔物が溢れ、没落を待つばかり。 【伯爵家に逆らった罪で、共に滅びろ】 そんな未来を回避するために、悪役だった男が奮闘する物語。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

処理中です...