こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

文字の大きさ
165 / 201
暗雲の『ライトゲート』

締め付ける思い

しおりを挟む
「ハーイ町に到着よー 『ギアズエンパイア』まではまだ時間がかかるから今日はこの町で休憩にしましょう」

 対魔王軍に備え、各地から兵力が集まるギアズエンパイアに向けて、リン達聖剣使い一行は馬車を走らせる。

 ライトゲートからは少々距離がある場所。流石に出発して直ぐに着くのは無理があった為、休憩できそうな手ごろな町を転々としていく。

「やっぱ馬車は居心地悪いな~オレはやっぱ船が良いよ」

「なんだぁ? そろそろ姉ちゃんが恋しくなったのか?」

「このオレに喧嘩売るとは良い度胸だなチビルゥ?」

「まあまあそう怒りなさんな……で? レイちゃんのお姉さんは美人なのかい?」

「殺すぞオッサン」

 和気藹々かと言われると少々疑問だが、まあいつもどおりだろうとリンも特には気にせず、町の様子を窺う。

「ここはギルド街じゃあないか……だったらシオン 一緒に宿探しでもするか」

「えっ!? いや! 勿論良いけど……」

「ハイハイ! オレも一緒に探します!」

「命令だ お前はどこかで別のところで時間を潰せ」

「ラジャー!」

 この変わり身の速さ、レイ以外にはとても真似できないであろう。

「だったらオレも久しぶりに羽目を外すかねえ」

「外し過ぎて町出禁になるなよ」

「はいはいわかってますよ」

 雷迅が離れると同時に、皆自由時間となる。

「それじゃあシオン殿……デートを満喫するでござるよ?」

「ちょっとアヤカ!?」

「ではリン殿! 宿探しは任せた!」

「……何の話しだったんだ?」

「え~と……なるべく広いとこが良いって」

 ただでさえ意識していたというのに、アヤカの一言で余計に意識させらてしまうシオン。

「悪いな いつも任せて」

 二人っきりのこの状況。なった事何度かあるが、リンから誘うのはあまり無い。

(どうしよう……意識した途端話しづらくなっちゃった)

 いつもの調子で話そうとすると、途端に普段何を話してるかわからなくなる。

「……ありがとう」

「え?」

 宿を探す為、町を散策する二人。

 何か言わなくてはと考えて沈黙が続くなか、意外にも先にリンから、それもお礼の言葉を言われるシオン。

「アンタにはいつも頼ってばかりいるからな ちゃんと礼を言っておきたかった……ほんの少し頼りないとこもあるけどな」

「何よそれ?」

「さあ? 何のことだろうな?」

「もう!」

 緊張がやわらぎ、いつもどおりの雰囲気に戻される。

 いつもなら積極的に話しはしないであろうリンが解してくれた事、なによりもリンがそう思っていた事に嬉しく思うと同時に、それが『別れ』の時が近づいているからであろう事を察した。

「ギアズエンパイアについたらゆっくりもしていられないものね……魔王軍との全面戦争になるだろうから」

「そういうことだ ゆっくりできるのは戦いが終わってからになる」

「勝った時限定で……ね?」

「難易度は高いな」

 やっとの思いでここまで来たが、勝たなくては意味が無い。

「リンは強くなったよ 私全然教えられなかったし」

「でも魔法のことは教えてくれたろ?」

「ほんの少しだけね 鍛えるのはアヤカに取られちゃったし」

 最初にアクアガーデンで出会って、王妃の命令で一緒に旅をする事になったシオンは、面目上は護衛と戦闘経験の浅いリンを鍛えるという役目があった。

 ただその役目はカザネ以降はアヤカが担っていた。魔法を教えるといっても、特別得意という訳でも無い魔法は初歩的な事で、役に立てたかはわからない。

「だとしてもだ シオンは俺に『誓い』をしてくれた……そのおかげで聖剣が使えなくなった時も 二手に別れる時も助かった」

 アクアガーデンに伝わる『誓いの儀』により、魔力を繋いで魔力を分け与えたり、互いの位置をしらせる事ができるのも、シオンだけである。

「一度きりしか使えないのに俺なんかにしてくれたんだ 本当に感謝してる」

(惚れた弱み……なんて口が裂けても言えないわ)

 最初は馴れない男性にどぎまぎしてというのもあった。

 が、口が悪いながらも他人を思いやる優しさを知り、いつもどこか儚げな様子でほっとけないリンを知っていく内に、どんどん惹かれている気持ち。

「俺は助けられてばかりいる なんでも一人でいた方が楽だってのに……仲間がいなければここに来るまでに何度も死んでいた」

「……随分素直ね?」

「俺はいつも素直だ」

 その言葉に若干不信感を持つがあえて口に出さなかったシオン。

「何だその……何か言いたげな顔は?」

「別に~? リンがそう思ってるならそれでいいかって」

「それはほぼ答えだ」

 二人で楽しく町を歩く。目的の宿を探しながら、ささいな会話に花を咲かせ、愛おしい時間はあっという間に過ぎていく。

「どこが一番良かった?」

「個人的には三番目の宿か……安かったからな」

 日は沈み始め、人も少なくなってきたのでそろそろ決めなくてはならない。

「私は五番目かな~少し高いけどその分広くて綺麗だったし」

「なら五番目だな」

「あれ? 何か意見とかは無いの?」

「別に拘りはない 一緒に探したのもシオンと話す口実が欲しかっただけだしな」

「……ん?」

 何かとんでもない事をさらりと言われた気がすると、シオンはもう一度リンに尋ねてみる。

「ごめん もう一度言ってくれる?」

「シオンと話す口実が欲しかったからの部分か?」

「そこよ!」

 聞き間違いなどでは無い。リンはシオンと話したかったという理由で、二人っきりの状況を故意に作り出し、まるで『デート』の形にセッティングしていたのだ。

(これはあれよ! 所謂『脈あり』のサインよ! 前に本で読んだもの)

 ちなみに参考書は少女漫画である。

「……嫌だったか?」

「いいえ全然まったくもって」

 こんな展開予想していなかったと、胸の鼓動が早くなる。

「シオン……聞いていいか?」

「な……なんでしょうか?」

 リンの口から「俺のことどう思っている?」など言われてしまえば、もう正直に答えるしか出来ないであろう。

(あーでも心の準備がまだ……)

「アンタのとこの『ピヴワ王妃』のことなんだが……」

「他の女の話しをしないでよ!」

「アンタの国の王妃だろう!?」

 期待は裏切られる。縮められた寿命は無駄だった。

「貴方のそういう思わせぶりな態度良くないと思うの!」

(……何で怒られてるんだろう?)

 強いて言えば言い方が不味かった。

 図らずともシオンの心を弄んでしまい、女心がいまいち理解できていないリンは気づいていない。

「ハァ~……それで? 王妃が何?」

「いえ 連絡の方はまだつかないのでしょうか?」

 シオンの怒りがヒシヒシと伝わり、思わず敬語となってしまう。

 まあ期待してしまったのは自分だからと諦めて、今だ通信不能なピヴワ王妃についての事を話すシオン。

「今のところはね アクアガーデンが襲われた情報も無いから心配してないけど」

「通信が出来なくなったのは『ド・ワーフ』の時からだな」

「そうね」

「最後の内容は『アレキサンドラ』が襲われている……心当たりは無いか?」

「……残念ながらね」

「そうか……悪かったな 呼び出すみたいになって」

 納得し、すぐに引き下がるリン。

「まあ私お姉さんですから それぐらい当然よ」

 シオンはリンの疑問に答え、少々投げやりに言う。

「なんだ謎理論は……そういえば誓いの儀のことは王妃に話したのか?」

「やめて……言わないで……」

「言ってないのかよ」

「だって! 王妃に捧げる誓いを勝手に使ったなんて知られたら!?」

 怖くて報告出来ないでいたシオン。もしもバレたら戻った時どんな処罰が下るのか想像もつかず、おびえてしまっていた。

「だったら次に連絡が出来た時に一緒に謝るか」

「本当!?」

「ただし……『本当の事』を話してくれたらな」

「え……?」

 リンの本当に聞きたい事。それは『真実』である。

「王妃は以前賢者の石は『盗まれた』と言った……だがその賢者の石は『初代聖剣使い』が持っていると聞いた」

「誰からその事を?」

「魔王だ」

 まるで魔王サタンは『初代聖剣使い』に会ったかのような口ぶりであった。

 残りの聖剣を『すぐに揃う』と言い、魔王が姿を見せたと聞いたアレキサンドラの事を考えると、初代聖剣使いはアレキサンドラで出会い、交戦した。

「だとすればアレキサンドラの被害が軽微だったのも頷ける 王妃は俺への要請が不可能だとわかったから代わりに初代の方へ要請した」

「……それで?」

盗まれた事にした・・・・・・・・ 俺では無く初代に渡してしまっていたから仕方なく……な あの時の推理を修正するなら『二代目の聖剣使い』が来ると知っていたからすんなり通したが真実か?」

「……ごめんなさい」

 シオンは深く頭を下げ、謝罪する。

「貴方には悪いことをしたと思ってる 賢者の石が無い場所も知っていたけど……言えなかった」

 秘密裏に動いていた初代聖剣使いの事を、たとえリンであったとしても口外する事は許されなかった。

「俺の役目は『カモフラージュ』だ 行方不明の初代に代わって俺が動いてたほうが都合が良いだろうしな」

「ずっと言えなかった……言ってしまえば作戦が台無しになってしまうから」

 人類の切り札である初代聖剣使いの存在を知られる事を恐れ、知らされた人物は最小限に抑えられていた。

 失望されてしまったと、嫌われてしまったと、シオンは胸が締め付けられる。

「……俺が宿を探す前に言った事を覚えてるか?」

「え……?」

 その言葉は『ありがとう』である。

「敵を騙すにはまず味方から……だろ? 仮説を立てた時からそんなことだろうって予想してたさ」

「怒って……ないの?」

「感謝はするが怒ることなんてあると思うか?」

 シオンの視界がぼやける。

 いっぱいの涙を浮かべて、シオンは安堵する。

「よかった……本当に」

 改めて、リンの優しさに触れたからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

処理中です...