こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

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秩序機関『ギアズエンパイア』

聖剣使いと聖剣使い

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「来たね 二代目くん」

 早朝、約束のバトルルームへと足を運ぶリン。

 約束通りやってきた二代目聖剣使いに、初代聖剣使いは笑顔で迎えるが、雑談も挟まずに本題を直ぐに入った。

「返事を聞こうか……もっとも君の返答は僕の期待するものじゃなさそうだけど?」

「そういうことだ」

 炎がリンを包み込む。

 握られた火の聖剣。それが答えだった。

「これが答えだ 俺は戦う……これが俺の選択だ・・・・・

「……もう少しお利口さんかと思ったけど」

「期待するなよ? 『同じ顔』なんだから」

 二代目聖剣使い『優月ユウヅキ リン』。

 初代聖剣使い『リン・ド・ヴルム』。

 同じ名前と顔。だが性格も生きた時間も、生まれた世界も違う二人。

「へえ……顔つきが変わったね」

 この短時間で何があったのか、それはわからなかったが、以前とは『何か』が違う事を察した初代聖剣使い。

「ならば応えよう 君がいかに無力なのかをその身に刻め」

「知っているさ……それでも『戦う』って決めたんだ」

 火の聖剣『フレアディスペア』を構え、初代聖剣使いと対峙する。

 強さは知っている。無闇に斬り込むのは失策であろう。

(それでも!)

 リンが先に斬りかかる。

 向き合うだけではこの状況は変わらない。隙を晒す事が無いのであれば、自分から勝負を挑んで隙を作らせるしか無い。

「何か変わったのかなって思ったけど……気のせいだったのかな?」

 聖剣を出す事も無く・・・・・・・・・、初代聖剣使いはリンの聖剣を避ける。

「この程度で勝とうと思ったの? 随分甘いじゃないか」

 拳を振りかざす。一撃で仕留める為に。

「……アンタこそ 俺を甘く見すぎじゃなかい?」

「!?」

 攻撃は読まれていた。

 どこから、どうのような角度を狙ってくるのか、知っていた・・・・・

「ハッ!」

 聖剣で振り払う。当たりはしなかったが、引き離す事は出来た。

「やったぜアニキ!」

 モニタールームから二人の戦いを観戦するレイ。

「にしても皆なにやってんだ? 誰も観戦に来ないし……」

 ここにいるのはレイのみで、他の仲間がいない。

 不思議に思いつつも、兄貴分のリンの勇姿に胸を高鳴らせる。

「流石はアニキだぜ……初代の攻撃を躱すなんて」

「それは……そうでないと困るでござる」

「なんだよやっと……って? なんで皆疲れ果ててんだよ」

 漸くやって来た仲間に、遅れた理由を早速聞こうとしたのだが、皆揃って目の下に『隈』を作ってやって来たのだ。

「いや……だってねぇ?」

「オレらさっきまでずっと『特訓』に付き合わされてたしな……」

「特訓!?」

 レイと別れた後、リンは仲間達へと頼み込んでいた。

 水の魔法のシオンに、風を扱うムロウと雷を操るの雷迅。

 そして剣術に優れたアヤカを同時に相手をし・・・・・・・、少しでも初代の強さに、対抗できる為の『特訓』を、陽が登るギリギリまで付き合ってもらっていたのだ。

「でもなんでチビルまで?」

「オレ様はなんかあった時の治癒要員だと……だからオレ様も寝不足で……」

「おりゃあ少しだけリンさん・・・・の戦い方を知ってたからそれ教えたりな」

「あの野郎……一朝一夕で身に付けられるはずないってのに」

 雷迅の言う通り、たった一晩で強くなれる筈など無い。

「さっきまでって……じゃあアニキ徹夜!?」

「二代目曰く「その前に一週間寝てから大丈夫」だとさ」

「いやそういう問題じゃ……」

「それでもリンは……やれることはやりたかったのよ」

 力の差を見せつけられた。

 だが『戦う』と決めた。だから全力で抗うのだ。

「でもまあ……頑張って貰わないと困るでござるよ 拙者の弟子でござるからな」

 モニター越しに皆が戦いを見届ける。誰もが皆リンの勝利を祈って。

 特訓のおかげかそれとも迷いを振り払った為か、リンの攻撃は躱されはするが諦めてはいない。

「そこだ!」

 隙を探り、そして捉える。

 防戦一方だった戦いの筈が、火の聖剣が初めて初代の服へと掠めた。

「おっと」

 初代は風の聖剣を呼び出し、リンから即座に離れて態勢を立て直す。

「……出したな? 聖剣を? つまり少しは認めてくれたってだよなぁ?」

「君のことは認めているよ……君の『弱さ』もね」

 聖剣を出したという事は、初代も攻めに入るという事。

 握られているのは風の聖剣『ゲイルグリーフ』である。持ち主の『速度』を極限まで高める風の力。

「来い……『アイスゾルダート』」

 今は距離が離れているが、この程度の距離など一瞬で詰められてしまう。

 リンは二本目の聖剣『アイスゾルダート』を呼び出し、地面へと突き立てると、氷の壁がリンの周りに展開される。これならば相手からの急接近を防ぐ事が出来だろう。

 そして、この壁にある唯一の『死角』を狙うであろう場所もリンは分かっていた。

(上だ!)

 攻めて来る場所をある程度予測出来るのであれば、対処する方法も導き出す事が可能である。

 氷の壁は、相手が乗り越えてくるであろう事を前提の高さにしてある。狙い打つ場所は決まった。

「幼稚だよ この程度の壁なら……突き破れば良い・・・・・・・

 目の前に立ち塞がる氷の壁を、初代は『正面』から突き破る。

「何だと……ッ!?」

「搦め手はね 純粋な力の前には無力・・・・・・・・・・なんだよ」

 力の差を埋める為も搦め手だったが、それは裏目に出てしまった。

 完全に油断した『死角を超える』抜け道。リンは接近を許してしまう。

「くっ!?」

 だが一瞬だけ防御の為の猶予があった。

 氷の壁を突き破った時の僅かな時間。その時間でなんとか防ぐ。

「火の聖剣『フレアディスペア』……会いたかったよ」

 リンが最初に手にした聖剣。

 ここまで生き残れたのも、この聖剣のおかげである。

「久しぶりだね 君と見た絶望・・・・・・を忘れるわけないさ……『タリウス』」

(『タリウス』……?)

 火の聖剣で初代からの攻撃を防いだリン。

 攻撃は防いだ。今も防いでいる。

「……おかえり」

 奪われた。

「聖剣が!?」

 元の『賢者に石』へと戻され、石は初代の手元へと渡る。

「何を驚いてるの? 君よりもずっと長く・・・・・聖剣を扱っているんだよ?」

 今まで相手にした事が無かったからこそ、失念していた。

 聖剣を『奪われる』という事を。

「これで僕の聖剣は『五つ』だね 君と逆転した」

 この場にある聖剣は九つ。全て揃っている。

 リンが土、氷、木、闇を所持し、初代が水、風、雷、光に加え火を奪った・・・

 本来ありえないこの戦い。これは云わば『聖剣の争奪戦』でもあったのだ。

「どんどん出しなよ 全部返してもらうから」

「なら逆に……俺も奪えばいいんだな?」

「やれるものなら……ね?」

 火と風の聖剣を構え、二刀流となった初代に対して、リンは氷の聖剣に加え土の聖剣『ガイアペイン』を呼び出して対抗する。

「聖剣に担い手としての覚悟……君にあるのかい?」

 灼熱の炎を纏い、嵐の如く荒々しい風の如く、聖剣を振るう。

彼らの遺志を継ぐ・・・・・・・・ かつて僕が選んだ道」

 聖剣使いとしてのきっかけとなった戦争。九賢者の遺した・・・力を受け継ぎ、戦争を終わらせる為、その力を振るい続けた。

「この力を授かったときから僕は『英雄』になる必要があった そうでなければ世界を救えない……英雄となったその日から『戦い続ける』事から逃げられない」

 戦争において、英雄とまで呼ばれる活躍をした。

 それは、沢山の『命』を奪った事でもある。

「間違っていたとは思わない でもその『正しさ』に押し潰されそうにもなる」

 激しさを増す攻撃に、押されていくリン。

「戦うというのは『正しさ』の否定だ 自らを肯定して他者を否定するからこそ争いは生まれる……それは『魔王』も同じ事」

 魔王には魔王の考えがあってこそ、魔族と共に世界征服を決めた。

「君は『勝たなくてはならない』んだよ 負ける事は許されない それは強さだけじゃない……|『心』の強さもだ」

 確固たる信念を持つ相手。己の信じたからこそ戦う覚悟を決めた。

 負けてはならないのは力だけの話しでは無く、相手の『正しさ』に押し負けない、自らの『心』の強さの事である。

「君は全て『劣っている』……力も心も『弱い』のさ!」

 リンは押し負け、後ろへと吹き飛ばされる。

(しまった!?)

「戻って来たね『レグルス』 僕は君の痛み・・・・を忘れていないよ」

 手から離れてしまった聖剣を、初代は拾い上げた。

 そう呼ばれた土の聖剣『ガイアペイン』は石となり、初代の手に渡ってしまう。

「これで『六つ』……まだやるかい?」

 次々に奪われる聖剣。

 リンの残りの聖剣は、残り『三つ』だけである。

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