こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

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秩序機関『ギアズエンパイア』

覚悟の違い

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「降参するなら今のうちだよ? 手荒なマネはしたくないんだ」

「どの口が……今更だろう?」

 聖剣を奪われ、残りの聖剣は三つ。

 氷と木、そして闇。

「来い……『ローズロード』」

 既に持っている氷の聖剣『アイスゾルダート』と、新たに木の聖剣『ローズロード』を加え、二振りの聖剣を構えるリン。

まだ三本残っている・・・・・・・・・ 力尽くで奪うんだろう? やれるもんならやってみろ」

「本当……分からず屋だな?」

 奪った聖剣二振りで相手をする初代聖剣使い。

 呆れた物言いで、リンと相対する。

「聖剣二刀流……」

 初代が仕掛ける。リンは身構え、防ぐ態勢へと入った。

「『ブレイクボルケーノ』」

 リンが扱うよりも遥かに威力の高い攻撃。真正面から受けるのはあまりにも無謀であろう。

 氷の壁で防ごうにも、相性が悪すぎる。奪われたのが火の聖剣であったのは、リンにとって最悪であった。

(だが……っ!)

 逃げる時間は稼げる。何もしないよりもずっと良い。

 なにより相性が悪いのであれば、それを逆手に取れば良い・・・・・・・・

「『樹木監獄じゅきかんごく』」

 炎の攻撃をしてくる事は読んでいた。

 だからこそ初代の攻撃に合わせ、仕掛けてくると同時に初代を木でできた檻で囲い、初代自ら発火させるように誘導したのだ。

「へぇ……カウンターを狙ってきたのか」

 効いた様子は無い。燃える牢獄の中でも、何事も無いかのように無事だった。

「火の聖剣を持っているのに火に耐性が無いわけないだろ? それは君も良く知っている筈だ」

 檻は破壊され、容易く抜け出されてしまう。

「有言実行……力尽くで奪うとも」

 火の聖剣を戻し、雷の聖剣『ボルトラージュ』へと持ち変える。

「聖剣二刀流……」

 再び仕掛ける初代の攻撃。

 発動させる訳にいかないと、自ら走り寄るが間に合わない。

「『マグネットブラスト』」

 突如引き寄せられたかと思うと、聖剣の一撃を受け、今度は弾き飛ばされる。

「ガハッ!?」

 壁へと叩きつけられる。

 そして初代が近づくと、壁へと更に押し込まれていく。

「磁力の力を君に付与した 僕が近づけば君は離れなくてはならない……僕は影響を受けないんだけどね?」

 ジリジリと近づいてくる初代、リンの体が悲鳴を上げている。

(動けない……っ!)

「さて……返してもらおうか?」

 リンの手に握られていた聖剣が、遂に初代が手に入れる。

「お帰り『ピスケス』それに『アリエス』」

 氷の聖剣『アイスゾルダート』と木の聖剣『ローズロード』をそう呼ぶ。

「これで『八つ』 最後は闇の聖剣だけど……君は使いこなせていない」

 磁力が解除され、壁から解放されると地面へと倒れ伏す。

 持っていたほんとんどの聖剣を失った。唯一残っているのは初代の言うように、使いこなせていない闇の聖剣『ダークイクリプス』のみである。

「これが君と僕との差だ 勝ち目は無い 大人しく渡すんだ」

 最終警告。これ以上続けても無意味だと、初代は言う。

「……アンタ言ったよな 俺に聖剣使いとしての『覚悟』があるのかって」

 倒れ付したリンはそう言いながら、残された力を必死に振り絞って立ち上がる。

「俺には意思だとか……英雄としての覚悟は無いさ……だってそうだろう? 元々この世界の住人じゃあないんだ 俺には関係なかったさ」

 ただ頼まれたから、それ以外にやる事も無かったから。

 そんな『覚悟』とは呼べない軽い代物を、口が裂けても呼べはしない。

「けど……けどな この世界で旅をして……毎回毎回戦いに巻き込まれて……いつも死にそうになって 何度も諦めかけて……その度に俺は誰か助けられて来たんだ」

 聖剣使いなどと持てはやされ、馴れない事ばかりさせられた。

「旅だって辛いことの方が多かった 辛いものも沢山見てきた……改めて救う事が出来ない自分の無力さを味わった ずっとずっと嫌いだったんだ」

 昔から臆病で、誰かと関わる事を恐れて、嫌われるよう・・・・・・に努力してきた・・・・・・・。そうすれば誰も近寄ってこない。だから誰も傷つけない。

 そんな自分を支えてくれた仲間達がいた。ずっと一緒にいる仲間、最初は嫌っていた仲間、誓いを立ててくれた仲間、気にかけてくれた仲間、鍛えてくれた仲間、敵から味方になってくれた仲間。

「阿呆どもだよ本当……一緒にいてくれる物好きがいたんだからな……『この世界』に!」

 嫌な事もあった。喧嘩もした。くだらない時間ばかりであった。

「だけど『無駄』だなんて思わない! たとえ最初は巻き込まれただけでも……ここまで来れたのは魔王を倒すと決めたからだ! この世界の為に戦いたいこの気持ちは誰にも負けない! 『覚悟』は無くても『願い』はある!」

 ここまで来て、途中で投げ出すなど出来ない。そもそも投げ出すつもりなどありはしない。

「俺がここにいる限りはここが『俺の世界』なんだよ! 守りたい仲間いるこの世界を! 守りたいこの気持ちから逃げる訳にはいかない! 逃げたくない! 俺はせめて……俺に背負えるだけの・・・・・・・・・人達だけでも・・・・・・守りたいだけだ!」

 自分に出来るだけの事をしたい。

 何もしないなんて出来ない。指を咥えているだけなんてしたくない。

「アンタの覚悟に比べたらちっぽけな覚悟かもしれない! でもこれが俺に出来る最大限の『覚悟』だ! 誰にも文句なんて言わせない……俺の『我儘』に付き合ってもらうぞ!」

 腰に携えた刀、妖刀『紅月』を抜く。

 伝説の刀鍛冶『ムラマサ』が認めた証。そして初代聖剣使いとの最大の違い。

「どんな業物でも……僕の聖剣には勝てない」

「ハッ! 伝説には伝説だ! かかってこいよ!」

 刀を構え、迎えうつリン。

「随分な啖呵を切っているけれど……もうフラフラじゃあないか」

「安心しろよ 最後まで手は抜かねえからよ」

 どれだけ傷つこうと、幾度と無く立ち上がってきたリン。

 たとえ初代が相手でも、変わる事は無い。

「ならその覚悟に! 此方も全力で応えよう!」

 先程奪ったばかりの二振りの聖剣で、初代はリンへと斬りかかる。

 斬りかかった瞬間。リンは動きを捉えていた。

「オラァ!」

 刀で軌道を受け流し、切っ先を初代へ向けて斬りつける。

 相手からの攻撃を反撃の構え。アヤカから教わった『霞の構え』である。

(この刀……!?)

 そして初代は気づいた。

 刀の特異性。聖剣が纏うの魔力を『受けつけなかった』のだ。

(何をしようとしていたかはわかっていた……だけどまさか流されるなんてね!)

 構えでリンの動きは予想は出来ていた。

 真っ向から攻めたのも、たとえ相手の狙い通りに動いたとしても、刀ごと砕いて斬りつけようとした初代にとって、完全に予想外であった。

「対魔の刀か……ッ!」

 まさかここまで強力な『魔法殺し』の刀だとは思っていなかった。

 だが、仕掛けがわかってしまえばどうとでもなる。

「驚きはしたがこの程度! 僕には通用しない!」

 ギリギリのところで刀は躱されてしまう。

 だが関係ない。今のリンに『迷い』は無い。

(動きが……鋭くなった!?)

 動きに無駄が無くなる。一撃一撃が正確に、そして重い。

 流れるような太刀筋。次第に初代を押し始めていた。

「だと……しても! 僕は『負けられない』!」

 氷と木の聖剣で再び斬りつける。

 油断などしない。ここまで来た事をただ『運が良かった』で片付けられる筈がない。

 紛れも無く、それは『リンの実力』があってこそなのだから。

「さっきのお返しだぁ!」

 刀が『炎』を纏う。

 たとえ聖剣がなくとも、リンの身に付いた『魔力』が、今も身体に残っていた。

(付与魔法!? マズい!)

 先程の属性相性を、今度は初代が味わう事となる。

 今の聖剣は氷と木、対するリンの刀に付与されたのは『火』であり、更に付与したのは魔法を斬る妖刀。

 斬りかかった時にはもう遅い。リンは魔力ごと『聖剣』叩き斬る。

「聖剣を……切断した!?」

 今までこんな事は無かった。

 まさか、伝説の聖剣を切断されるなど、思ってもみなかった。

「どうだ……?『弱い』なりに頑張ってみたぞ?」

「よくも……ッ!」

 聖剣を元の石へと戻し、新たに風と雷の聖剣へと持ち変え、リンへと攻撃する。

 一矢報いると同時に、限界が近づいてきたリンに、躱す事は出来なかった。

(ここまでか……)

 今出せる力は出した。後は『最後の切り札』のみ。

「いくぞダークイクリプス……俺に力を貸せ!」

 リンの持つ最後の聖剣。

 闇の聖剣『ダークイクリプス』に、リンは呼びかけた。


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