『白夜学園の呪い:鏡の向こうの守護者』

ソコニ

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第16話「赤い鏡の部屋」

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真琴は足早に校舎の廊下を走っていた。昨夜の儀式から一日が経ち、白夜学園は表面上は平静を取り戻したかに見えた。しかし、その平穏さは偽りだと真琴は感じていた。

朝、目を覚ますと、真琴は自分の部屋のドアが外から鍵をかけられていることに気づいた。窓を見ると、昨日まではなかった鉄格子が取り付けられていた。まるで誰かが夜のうちに彼女を閉じ込めたかのようだった。

真琴は非常用の脱出はしごを使って何とか部屋から脱出し、今、校舎内を逃げ回っていた。学園の様子がおかしい。生徒の姿はなく、昨日は警察や関係者で賑わっていたはずの校内が不自然なほど静まり返っていた。

「出口はどこ…」

真琴は正門へと急いだが、そこには頑丈な鎖と南京錠がかけられていた。他の出口を探そうと校舎の裏に回ると、そこも同様に封鎖されていた。学園全体が巨大な檻となり、真琴を閉じ込めていた。

「封印室から脱出しなければ」

昨日の儀式で、「影の王」は封印され、神崎校長と佐伯教頭は消えたはずだった。しかし、何かがまだ学園内に残っているようだった。そして、それは真琴を狙っていた。

職員室に向かう途中、真琴は廊下の窓から外を見た。学園を囲む森も昨日より深く、暗く見え、霧が濃くなっていた。まるで外の世界と完全に隔絶されたかのようだった。

職員室のドアを開けると、そこには驚くべき光景が広がっていた。教師たちが普段通り机に座り、書類を整理していた。しかし、彼らの動きはどこか機械的で、顔には表情がなかった。

「おはようございます、高遠先生」

神崎校長の声に、真琴は凍りついた。彼は消えたはずなのに、校長席に座り、穏やかに微笑んでいた。

「神崎校長…あなたは…」

「何か問題でも?」神崎は首を傾げた。「あなたの顔色が悪いですね」

真琴は一歩後ずさりした。これは現実ではない。昨日、神崎は「影の王」の力が切れ、砕け散ったはずだ。しかし、目の前には確かに彼がいた。

「先生、校長室でお話ししましょう」

神崎は立ち上がり、真琴に手招きした。追い詰められた真琴は、逃げ場がないことを悟り、彼に従った。

校長室に入ると、そこには佐伯教頭も立っており、二人して真琴を見つめていた。窓の外は異様に暗く、まるで夜のようだった。しかし、時計はまだ午前中を指している。

「何が起きているの?」真琴は震える声で尋ねた。「あなたたちは昨日、消えたはずでは…」

神崎と佐伯は意味ありげに視線を交わした。

「高遠先生、あなたは勘違いをしているようです」神崎は穏やかに言った。「昨日の儀式は成功しました。『影の王』は封印され、全ては終わったのです」

「でも、学園は封鎖されている。生徒たちはどこ?」

「休校にしました。調査が終わるまでの措置です」

佐伯の説明に、真琴は首を振った。何かがおかしい。

「では、なぜ私の部屋に鍵をかけたのですか?窓には鉄格子まで…」

神崎の表情が一瞬硬くなった。

「それはあなたの身を守るためです。今の学園は安全ではない」

「何から守るの?」

「あなた自身から」

その言葉に、真琴は混乱した。自分自身から?どういう意味だろう。

「儀式の後遺症です」佐伯が説明した。「選ばれし者として儀式に参加したあなたは、まだその影響下にある。幻覚や妄想を見ることもあるでしょう」

真琴は頭を抱えた。これが幻覚なのか、それとも現実なのか。判断できなかった。

「では、葉月は?百瀬先生は?」

「彼女たちならば自室で休んでいますよ」神崎は言った。「皆、疲れているのです」

真琴は二人を信じられなかった。何かが根本的に間違っている。

「失礼します」

真琴は立ち上がり、校長室を出た。神崎と佐伯はそれを止めなかったが、彼らの目は真琴を追いかけていた。廊下に出ると、真琴は葉月の部屋に向かって走った。

葉月の部屋のドアをノックしたが、返事はなかった。試しにドアを開けると、中には誰もいなかった。ベッドは綺麗に整えられ、机の上には交換日記が置かれていた。

真琴はその日記を手に取った。最新のページを開くと、葉月の筆跡でメッセージが書かれていた。

『先生、もし読んでいるなら、これは罠です。あなたは鏡の向こう側にいます。現実の世界ではありません。』

真琴は息を呑んだ。鏡の向こう側?どういうことだろう。

続けて読むと、『昨夜の儀式で、あなたは『影の王』を封印することに成功しました。しかし、その瞬間にあなたは鏡の向こう側に引きずり込まれてしまったのです。ここは影の世界。全てが逆転して見える場所です。』

真琴は窓の外を見た。確かに、景色は学園に似ているが、何かが違っていた。木々は逆さに生え、空は暗く、全てが鏡に映ったように左右が反転していた。

『M』からの返信も書かれていた。『葉月、彼女を早く見つけなさい。鏡の向こう側では時間の流れが違う。長く留まりすぎれば、戻れなくなる』

真琴は「M」という署名を見つめた。朝倉梨子のことだろうか。葉月の祖母であり、五十年前の最初の犠牲者。そして、鏡の向こう側に最も長く囚われていた存在。

真琴は日記を閉じ、部屋を出た。もし自分が鏡の向こう側にいるなら、出口は鏡そのものであるはずだ。封印室に行かなければならない。

最も可能性が高いのは、儀式が行われた「鏡の部屋」だろう。真琴は3年B組の教室に向かった。

教室に入ると、そこは昨夜の儀式のままの状態だった。七つの小さな鏡が円形に配置され、中央には大きな鏡が立っていた。しかし、大鏡の表面は通常の鏡とは違い、赤く光っていた。まるで血で染められたように。

真琴はその鏡に近づいた。表面に映る自分の姿は奇妙に歪み、目が赤く光っていた。

「これが出口…」

真琴が鏡に触れようとした瞬間、背後からの声が彼女を止めた。

「そこに触れてはいけません」

振り返ると、そこには神崎校長と佐伯教頭が立っていた。しかし、彼らの姿は徐々に変化し、人間の形から黒い影のようなものへと変わっていった。

「あなたたちは…」

「我々は影です」黒い影が神崎の声で言った。「この世界の住人です」

「なぜ私をここに?」

「あなたは『選ばれし者』」佐伯の声を持つ影が答えた。「あなたの魂は特別です。私たちの王となるべき存在」

真琴は恐怖に身を震わせた。彼らは自分を新たな「影の王」にしようとしているのか。

「私は帰りたい。元の世界に」

「もう遅い」神崎の影が言った。「あなたはもう十二時間以上ここにいる。あなたの体は既に影化し始めている」

真琴は自分の手を見た。確かに、指先が少し透け始めていた。

「でも、まだ間に合うわ」

真琴は決意し、鏡に向かって駆け出した。影たちが彼女を追いかけてきたが、真琴は素早く動いて回避した。

鏡の前に立ち、真琴は表面に触れた。冷たい感触と共に、鏡が水のように波打ち始めた。

「止めろ!」

影たちの叫びが聞こえたが、真琴は構わず鏡に飛び込んだ。一瞬の浮遊感と共に、真琴は暗闇に包まれた。

目を開けると、真琴は地下の封印室にいた。巨大な鏡の前に倒れていた。壁一面が鏡で覆われた部屋だ。本当の封印室にたどり着いたようだった。

立ち上がり、周囲を見回すと、部屋の出口は封鎖されていた。出る方法がない。

絶体絶命の状況で、真琴は考えた。「M」とは誰なのか。そして、どうすれば元の世界に戻れるのか。

そのとき、壁の鏡の一つが輝き始めた。近づいて見ると、それは普通の鏡ではなく、窓のように別の空間が見えた。そこには葉月と百瀬が真琴を探しているようだった。

「葉月!百瀬先生!」

真琴は叫んだが、彼女たちには聞こえないようだった。鏡は一方通行だった。

絶望的な気持ちになりかけたとき、真琴は何かに気づいた。部屋の隅に小さな赤い扉があった。これまで見えなかったその扉は、ルビーのように赤く輝いていた。

近づいて見ると、扉には「出口」と書かれていた。しかし、扉の下には警告文もあった。「開けるものは二度と戻れない」

真琴は迷った。この扉を開けば本当に元の世界に戻れるのか、それとも別の罠なのか。しかし、このまま封印室に閉じ込められていれば、いずれ完全に影になってしまうだろう。

決断の時だった。真琴は深呼吸し、赤い扉に手をかけた。

「私は帰る。元の世界に」

扉を開けようとした瞬間、部屋に別の光が差し込んだ。振り返ると、大きな鏡が波打ち、そこから一人の女性が現れた。長い黒髪と青白い顔を持つその女性は、朝倉梨子だった。

「待って、高遠先生」梨子の声は優しかった。「その扉は罠です」

「朝倉梨子さん…あなたが『M』?」

梨子は頷いた。

「私は五十年前から鏡の向こう側に囚われ、この世界の仕組みを学んできました。影たちはあなたを新たな王にしようとしています」

「どうすれば元の世界に戻れるの?」

梨子は大鏡を指さした。

「本当の出口はそこです。しかし、影たちが通さないでしょう」

「でも、さっきあの鏡から入ってきたのに…」

「それは別の鏡です。影の世界には無数の鏡があり、それぞれが異なる場所や時間に繋がっています」

梨子は真琴に近づいた。

「私があなたを助けます。私が影たちの注意を引きつけている間に、大鏡に向かってください」

「あなたは?」

「私は五十年間ここにいました。もう少し居ても構いません」梨子は微笑んだ。「それに、私の孫が待っています。葉月に伝えてください。もう彼女を操ることはないと」

真琴は感謝の気持ちで頷いた。

「行く準備はいいですか?影たちがすぐに気づきます」

真琴が頷くと、梨子は部屋の中央に立ち、古い言葉で詠唱を始めた。部屋全体が振動し、壁の鏡が一斉に輝き始めた。

「今よ!」

梨子の叫びと共に、真琴は大鏡に向かって走り出した。背後では、鏡から無数の黒い手が伸び、梨子を掴もうとしていた。

「梨子さん!」

「行って!」梨子は叫んだ。「葉月を守って!」

真琴は最後の力を振り絞り、大鏡に飛び込んだ。冷たい感触と共に、彼女の意識は闇に沈んでいった。

目を覚ますと、真琴は3年B組の教室の床に横たわっていた。窓からは朝の光が差し込み、教室には葉月と百瀬が真琴を囲んで座っていた。

「先生!」葉月が喜びの声を上げた。「戻ってきた!」

「葉月…何が?」

「あなたは昨夜から行方不明でした」百瀬が説明した。「儀式の後、突然姿を消したのです」

真琴はゆっくりと起き上がった。自分の手を見ると、もう透けてはいなかった。元の世界に戻ったようだ。

「あなたを見つけられたのは葉月のおかげです」百瀬は続けた。「彼女は祖母からのメッセージを受け取ったと言って」

真琴は葉月を見つめた。

「あなたのおばあちゃん、梨子さんからのメッセージがあるわ」

真琴は梨子の最後の言葉を伝えた。葉月の目に涙が浮かんだ。

「それで、神崎校長と佐伯教頭は?」

「本当に消えました」百瀬は断言した。「彼らの正体は影だったのです。儀式の成功により、この世界との繋がりを失ったのでしょう」

「でも、私は鏡の向こう側に行った…」

「あなたの魂の一部が引きずり込まれたのです」葉月が説明した。「おばあちゃんが助けてくれたんですね」

真琴は窓の外を見た。学園は明るい日差しに包まれ、霧はすっかり晴れていた。生徒たちも徐々に戻り始め、学園は活気を取り戻しつつあった。

しかし、真琴の心にはまだ不安があった。赤い鏡の部屋で見たものは全て現実だったのか。そして、朝倉梨子は本当に自分を助けるために残ったのか。何より、影たちは本当に封印されたのか。

「まだ終わっていない」真琴は呟いた。「全てが解決したわけではない」

葉月と百瀬は真琴を見つめた。

「そう、まだ終わりではありません」百瀬は同意した。「封印は強化されましたが、鏡はまだ存在しています」

「そして、『影の王』も」葉月が付け加えた。「彼は別の方法で戻ってくるかもしれない」

真琴は決意を固めた。これからも、白夜学園の秘密を守り、鏡の力から世界を守る必要がある。

「私たちにはやるべきことがある」

三人は窓の外の学園を見つめた。表面上は平和な学園だったが、その奥深くには依然として謎と危険が潜んでいた。そして、唯一の希望は、三人の力を合わせることだった。
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