「追放されたので、980円で異世界の神々を自作!でも安くてやばい奴が来た」

ソコニ

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第24話「バグマスターの来訪」

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風の谷での冒険から戻り、レインたちはメカニカの神具ギルドに報告書を提出していた。シルフは風神制御笛を首からぶら下げ、自信に満ちた表情で皆に新しい能力を見せていた。

「ほら、見てください!」

彼女は一瞬で体を風化させ、そして再び実体化した。もはや制御不能のバグではなく、自在に操れる力になっていた。

「すごいわ!」

エルミナは目を輝かせて言った。彼女は神具ギルドでの研究にすっかり打ち込み、安物神の可能性を真剣に探求するようになっていた。

「それぞれの神が自分のバグをコントロールできるようになってきたな」

ギルドマスター・ギムリが満足げに髭をさすった。

「ルナの過剰回復は感情とともに安定し、マルスの戦意高揚は恐怖心との調和で制御可能になり、ガイアは地脈の心臓と同調して地面同化を自在にし、今度はシルフが風化を操れるようになった」

「まるで…それぞれが成長しているようですね」

レインは安物神たちを誇らしげに見た。彼らはもはや「バグがある欠陥品」ではなく、独自の力を持つ特別な存在だった。

「それでは次の研究計画について…」

レインが話し始めたところで、ギルドの扉が開き、一人の老人が入ってきた。腰が曲がり、長い白髪と髭を持ち、褪せた旅人の衣装を身につけている。彼は杖を突きながらゆっくりと歩いてきた。

「どなたでしょうか?」

ギルドマスターが尋ねると、老人はくぐもった声で答えた。

「わしは…旅の行商人じゃ」

その声を聞いて、レインは急に立ち上がった。

「あなたは…!」

老人はにやりと笑った。

「おや、覚えておったか。あの日、王国の境界の露店で神創キットを売ったのはわし」

「あなただったんですね…」

レインは驚きを隠せなかった。彼の旅のすべての始まりとなった人物が目の前に現れたのだ。

「バグマスターとでも呼んでくれ」

老人は言った。

「バグマスター?」

「ああ。わしはな、世界中の『バグ』を研究している。特に神のバグには目がない」

彼は安物神たちに視線を向けた。

「見事じゃ。ここまで成長するとは…わしの目に狂いはなかった」

「あなたは…僕たちの旅を見ていたんですか?」

「遠くからな。時々は様子を見に来ていた」

バグマスターはゆっくりと椅子に座り、杖を膝に置いた。

「さて、今日は特別な講義をしに来た。『バグの真髄』についてじゃ」

安物神たちは興味津々で彼の周りに集まった。

「バグとは何か…それは単なる欠陥ではない。『枠を超える可能性』じゃ」

彼は語り始めた。

「世界には二種類の人間がおる。枠の中で完璧を目指す者と、枠を破って新しいものを生み出す者じゃ。安物神たちは後者に属する」

レインは熱心にメモを取り始めた。

「型にはまった完璧なものには、進化の余地がない。しかし不完全なもの、予測不能なもの、そういったものにこそ、新たな創造の種が宿る」

バグマスターは続けた。

「980という数字に秘密があるのは知っておるな?」

「はい、『創造の種』を意味すると…」

「それだけではない。古代神語では、『無限の可能性』という意味もある。980(ナインエイティ)は、『9』は破壊、『8』は再生、『0』は無限を表す。つまり、『創造と破壊のサイクル』を象徴する数なのじゃ」

バグマスターの説明に、全員が聞き入った。

「安物神たちは『最も原初に近い不完全な完全体』。高級神は完成されているが、それ以上の変化はない。だが安物神は…無限に進化する可能性を秘めている」

彼はにっこりと微笑み、四柱の安物神を見回した。

「それぞれが自分のバグを理解し、制御できるようになってきた。これは『昇級』への第一歩じゃ」

「昇級…」

レインは風の谷で見つけた古文書に記されていた言葉を思い出した。

「さて、実践だ」

バグマスターはレインに手招きした。

「安物神たちのバグを組み合わせる方法を教えよう。これが『バグの共鳴』じゃ」

彼が説明を始めようとしたその時、突然、遠くから轟音が聞こえてきた。地面が揺れ、窓ガラスが震える。

「何だ?」

ギルドマスターが窓の外を見ると、メカニカの街の上空に巨大な黒い影が現れていた。それは人型の巨神で、全身が黒い鎧のような外殻に覆われている。

「あれは…」

バグマスターの表情が一気に険しくなった。

「破壊神デストロイヤー…アンジェリア王国が最近開発した『無バグ神』じゃ」

「無バグ神?」

「すべてのバグを排除して作られた完全な神。その目的は…」

言い終わる前に、デストロイヤーが高らかに宣言した。

「バグを持つ全ての存在を抹消する。レイン・ヴァルト、お前と安物神どもは排除対象だ」

「なんだって!?」

レインが驚く間もなく、デストロイヤーは巨大な手を振り下ろし、近くの建物を破壊した。

「全員、避難を!」

ギルドマスターの命令で、ギルドの人々が急いで外に出る。レインたちも外に出ると、すでにメカニカの神具職人たちが次々と神具を使って反撃していた。

「デストロイヤー、去れ!」

「我らの街を荒らすな!」

魔法の弓矢、炎の剣、防御盾など、様々な神具が使用されるが、デストロイヤーの黒い外殻にはまったく効果がないようだった。

「無駄だ。バグを持つ者どもよ」

デストロイヤーは手をかざすと、「バグ消去」という能力を発動。神具から光が消え、その力が失われていく。

「な、何だ!?」

神具職人たちが混乱する中、レインは安物神たちに向き直った。

「みんな、力を貸して!」

四柱の安物神たちは頷き、デストロイヤーに立ち向かう準備を始めた。

「過剰回復!」

ルナが青白い光を放ち、破壊された建物や負傷した人々を癒やそうとする。しかし、デストロイヤーは彼女の方を向くと、黒い光線を放った。

「バグ消去」

ルナの光が弱まり、彼女は膝をつく。

「ルナ!」

レインが駆け寄ると、彼女は弱々しく笑った。

「大丈夫…でも、力が弱くなって…」

マルスが前に出て、「戦意高揚」を発動。町の人々が勇気を得て、再び立ち上がる。

「戦え! 町を守るんだ!」

しかし、デストロイヤーは再びバグ消去を使用。マルスの力も弱まっていく。

ガイアが地面に手をつけ、「地面同化」で町の地盤を強化しようとするが、同様にバグ消去で封じられる。

シルフは風を操り、デストロイヤーの周りに竜巻を作り出すが、それも消去されてしまう。

「どうすれば…」

レインは焦りを感じていた。安物神たちの力が一つずつ消されていく。そのとき、バグマスターが彼の肩に手を置いた。

「最後の秘密を教えよう」

彼は小声で言った。

「安物神の最大のバグは、実は『進化』すること。高級神には決してできない、枠を超える変化だ」

「進化…?」

「そう。そして、その進化の鍵は『組み合わせの妙』にある」

レインの頭に閃きが走った。これまでの冒険で、安物神たちのバグが偶然重なった時、予想外の効果が生まれていたことを思い出したのだ。

「みんな、聞いて!」

レインは安物神たちを集めた。

「一つ一つのバグは弱くても、組み合わせれば新しい力が生まれる。ルナの過剰回復を、マルスの戦意高揚のエネルギーに注ぎ込んで! ガイアは地面から力を吸い上げて! シルフはそれを風で運んで!」

安物神たちは互いに顔を見合わせた後、頷いた。彼らは輪になり、手を取り合う。

ルナが青白い光を放ち、マルスの赤い戦意と混ざり合う。ガイアの大地の力が加わり、シルフの風がそれを包み込む。四色の光が渦を巻き、一つの巨大なエネルギーの柱となって空へと伸びていく。

「なに…!?」

デストロイヤーが驚いた声を上げる。彼のバグ消去を使っても、このエネルギーは消えない。

「バグを消そうとしても無駄だ」

レインが叫んだ。

「彼らのバグは弱点ではない。個性であり、力なんだ!」

四色の光がデストロイヤーを包み込む。黒い外殻が少しずつひび割れ始める。

「バグの力は予測不能だ。だからこそ、バグ消去では対処できない!」

デストロイヤーは光の中で苦しみながら抵抗しようとするが、すでに手遅れだった。光は強さを増し、ついにデストロイヤーの外殻は完全に砕け散った。

「ぐああああっ!」

轟音と共に、デストロイヤーは消滅した。光は穏やかに薄れ、安物神たちは疲れた様子で倒れ込んだ。

「みんな!」

レインが駆け寄ると、四柱はぐったりしながらも微笑んでいた。

「やりました…」

ルナが弱々しく言った。

「力を…合わせることができた…」

町の人々が歓声を上げ、勝利を祝った。エルミナはレインのもとに駆け寄り、思わず彼を抱きしめた。

「やったわ! 安物神の真の力…見事だった!」

彼女は顔を赤らめて離れると、少しはにかんだ。

「これからも一緒に研究させて…」

「もちろん」

レインは微笑んだ。

バグマスターは満足そうに見ていた。

「見事じゃ、レイン・ヴァルト。安物神の可能性を引き出した」

彼は町の中心に向かって歩き始めた。

「君たちはもうすぐ『昇級』の段階に入る。そして真の力を目覚めさせるだろう」

「バグマスター、あなたは一体…」

レインの問いかけに、老人はただ微笑むだけだった。

「また会おう、バグの創造者たちよ」

そう言って、バグマスターは人混みの中に消えていった。風が吹き抜け、彼がいた場所には何も残っていなかった。

***

翌日、神具ギルドでは緊急会議が開かれていた。

「デストロイヤーの襲撃は、アンジェリア王国が本格的に動き始めた証拠だ」

ギルドマスターが厳しい表情で言った。

「安物神の力が脅威と見なされているということだ」

「でも、僕たちは戦争のために力を使いたいわけじゃない」

レインは反論した。

「本当に大事なのは、安物神たちが自分のバグと調和し、真の力を引き出すこと」

「その通りだ」

ギルドマスターは立ち上がり、宣言した。

「今日から、神具ギルドに正式に『バグクラフト講座』を開設する。レイン・ヴァルト、君を主任講師に任命する」

「え?」

「バグを恐れるのではなく、理解し、活用する。それがバグクラフトの真髄だ。多くの人々にその価値を教えるべきだ」

レインは感謝の気持ちを込めて頭を下げた。

「ありがとうございます。精一杯努めます」

安物神たちも嬉しそうに頷いた。彼らのバグが、もはや欠陥ではなく、特別な才能として認められつつあるのだ。

エルミナはレインの隣に立ち、静かに手を握った。

「私も…一緒に教えるわ。高級神と安物神の違いを超えて、本当の価値を伝えていきたい」

彼女の表情には決意が満ちていた。かつてレインを「無能」と見下していた貴族の娘が、今では彼の最も強力な味方になっていた。

「それから…」

ギルドマスターが続けた。

「アンジェリア王国の『神術の大図書館』について調査を始めよう。安物神の『昇級』についての秘密がそこにあるなら、いずれは行かねばならない」

レインは遠い目をした。追放された祖国に戻ること。それはいずれ避けては通れない道だった。

「その時が来たら…」

彼は安物神たちを見回した。

「みんなで行こう」

四柱の神々は固く頷いた。彼らの絆は、もはや単なる主と使い魔の関係を超えていた。共に困難を乗り越え、共に成長してきた仲間だった。

窓の外では、メカニカの町が日常を取り戻しつつあった。修復作業が進み、人々は活気を取り戻している。「バグクラフト」という言葉が、もはや珍しいものではなく、町の文化として根付き始めていた。

そして、遠くアンジェリア王国では、ヴィクター卿がデストロイヤーの敗北を知り、怒りに震えていた。しかし、それは別の物語…。

レインと安物神たちの冒険は、まだ始まったばかりだった。
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