転生投資家、異世界で億万長者になる ~魔導株と経済知識で成り上がる俺の戦略~

ソコニ

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第8話:「少年魔法研究者」

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窓ガラスの嫌がらせから一週間が過ぎた。フェニックス・インベストメントは通常営業を続け、噂は一時的に広まったものの、顧客離れは起きなかった。むしろ、誠たちの毅然とした対応に信頼を深める顧客も多かった。

「危機を乗り越えたわね」

午前中の営業を終え、昼食の準備をしながらミラが言った。窓ガラスは新しいものに交換され、店内も元の落ち着いた雰囲気を取り戻していた。

「まだ始まったばかりだと思うよ」誠は冷静に答えた。「でも、怯むわけにはいかない」

トビアスは大学へ行っており、店には誠とミラの二人だけだった。彼らは簡素な昼食を取りながら、ヴァンダーウッド家の動向について情報共有していた。

「市場では彼らの投資部門が『水源浄化魔法』関連の魔導株を大量に買い集めているという噂があるわ」ミラが報告した。「南部地方の干ばつ対策に関連しているらしいけど…」

誠が何か答えようとした瞬間、店のドアが開いた。

昼休みの開始直後にして、早くも顧客だろうか。しかし、入ってきたのは彼らの知らない少年だった。

16歳ほどの少年は、整った顔立ちながらも少し疲れた表情を浮かべていた。濃い茶色の髪は少し長めで、背筋は自然と伸びている。特に目を引いたのは、彼が着用していた服装だった。端正な青いローブは、王立魔法学院の制服そのものだった。

「フェニックス・インベストメントでしょうか」

少年は落ち着いた声で尋ねた。

「はい、そうですが」誠は立ち上がって応対した。「どのようなご用件でしょう?」

少年は一瞬躊躇ったが、決意を固めたように前に進み出た。

「エリオット・ライトシールドと申します。投資について相談があります」

誠とミラは顔を見合わせた。王立魔法学院の学生が投資相談に来るのは珍しいことだった。特に彼のような若さでは。

「どうぞお座りください」

誠は応対スペースに少年を案内した。

「お茶をどうぞ」ミラが温かい飲み物を差し出した。

「ありがとうございます」

エリオットは丁寧に礼を言ってから、おもむろに話し始めた。

「私は現在、王立魔法学院の特待生として『反魔法障壁』の研究をしています」

「反魔法障壁?」誠は興味をそそられた。

「はい。敵対国から放たれる攻撃魔法を無効化するための防御技術です」

エリオットは落ち着いた口調で説明し始めた。彼の話によれば、北方のイムペリアル帝国が新型の貫通魔法を開発しているという情報があり、その対策が急務だという。彼は三年前から独自に研究を進め、理論上は有効な防御障壁の作成に成功していたが、実装には特殊な魔導素材が必要だった。

「しかし、学院の長老会議は私の研究に資金を出してくれないのです」

彼の声には抑えきれない苛立ちが混じっていた。

「なぜですか?研究内容に問題があるのですか?」誠が尋ねた。

「いいえ、問題は私の年齢です」エリオットは苦々しく答えた。「『若すぎる』『経験不足だ』『古典的手法を学ぶべきだ』と言うのです」

誠は思わず共感の念を覚えた。前世でも、若手の斬新なアイデアが組織の保守性のために却下されることは多かった。

「それで、魔導株を発行して資金調達をしたいと考えています」エリオットは真剣な表情で続けた。「必要額はゴールド100枚です」

「かなりの金額ですね」ミラが驚いた様子で言った。

「はい。特殊な魔導クリスタルが必要なのです。それさえあれば、理論を実証できる実験が可能になります」

誠は少年の話を注意深く聞きながら、彼の周りの「気流」を観察していた。エリオットからは鮮やかな金色の気流が立ち上っていた。それは強い確信と純粋な情熱を示している。嘘や偽りは感じられない。

「あなたの研究について、もう少し詳しく教えていただけますか?」

エリオットは目を輝かせながら説明を始めた。彼の語る防御魔法理論は、誠やミラには専門的すぎて完全には理解できないものの、論理的で一貫性があった。特に印象的だったのは、彼が用いる数式の美しさだった。

「これは…」ミラが小声で誠に囁いた。「数学的には完璧よ。彼の導出過程に誤りはないわ」

ミラの数字の才能は、魔法理論の計算式さえも理解できるのだ。彼女の評価は、エリオットの研究の信頼性を裏付けるものだった。

「ライトシールドさん」誠は真剣な表情で尋ねた。「この研究が成功した場合、どのような影響がありますか?」

「王国の安全が確保されます」エリオットは迷いなく答えた。「敵の新型魔法に対抗できるだけでなく、この技術は他の防御システムにも応用できます。民間でも、危険な場所の保護などに使えるでしょう」

「投資としてのリターンは?」

「成功すれば、王国からの報奨金が期待できます。また、技術の応用権利からのロイヤリティも。投資額の3倍以上のリターンは確実です」

誠は少し考え込んだ。魔法技術には詳しくないが、少年の説明は筋が通っていた。さらに市場予知能力で見る限り、彼の真意は純粋だった。

「少し時間をいただけますか?パートナーと相談したいのです」

「もちろんです」

エリオットが待機している間、誠とミラは奥の部屋で話し合った。

「どう思う?」誠が尋ねた。

「彼の計算は正確よ」ミラは即答した。「数式に誤りはない。理論上は可能な技術だと思うわ」

「市場予知能力で見る限り、彼は本気だし、才能もある」誠も同意した。「ただ、金額が大きい。私たちの運用資産のほとんどを投じることになる」

「でも、もし成功すれば大きなリターンが期待できるわ」ミラの目が輝いた。「それに…彼のような若い才能が埋もれるのは惜しいと思わない?」

誠は微笑んだ。ミラも自分と同じことを考えていたようだ。

「そうだね。私たちの事業理念にも合っている」

フェニックス・インベストメントの理念—それは単なる利益追求ではなく、真の価値創造に投資することだった。エリオットの研究はまさにそれに当てはまる。

二人は再びエリオットのもとへ戻った。

「ライトシールドさん、あなたの研究に興味を持ちました」誠は穏やかに言った。「ただ、いくつか確認させてください」

誠とミラは詳細な質問を投げかけた。研究の具体的なスケジュール、必要な素材の調達方法、実験の安全性、成功の基準など。エリオットはそれらに対して的確に答え、時には自ら図を描いて説明した。その姿には、若さを超えた専門家としての風格さえ感じられた。

「最後に一つ」誠は真剣な表情で尋ねた。「なぜ私たちに相談したのですか?他の投資家や貴族のパトロンもいたはずです」

エリオットは少し考えてから、正直に答えた。

「市場で噂を聞いたからです。あなた方は革新的なアイデアに理解があり、若い才能を評価してくれると」

誠はその答えに満足した。

「わかりました。私たちはあなたの魔導株発行を支援します」

エリオットの表情が明るくなった。

「本当ですか!?」

「はい。ただし、いくつか条件があります」

誠は三つの条件を提示した。一つ目は、発行株式100株のうち50株をフェニックス・インベストメントが取得すること。二つ目は、研究の進捗を定期的に報告すること。そして三つ目は、成功した場合の実用化権利の一部を得ること。

「全て承諾します」エリオットは迷いなく答えた。「これで私の研究を続けられる…本当にありがとうございます!」

彼の顔には安堵と興奮が入り混じっていた。長い間、理解者を求めてきた若き研究者が、ようやく光を見出した瞬間だった。

「株式発行の手続きは私たちが手伝います」ミラが微笑みながら言った。「書類作成はお任せください」

「明日から準備を始めましょう」誠も頷いた。「一週間以内に手続きを完了させ、資金を調達します」

打ち合わせが終わり、エリオットが帰った後、誠とミラは二人きりになった。

「大きな賭けをしたわね」ミラが少し緊張した表情で言った。

「うん、でも価値のある賭けだと思う」誠は自信を持って答えた。「彼は本物だよ。そして、この投資が成功すれば、フェニックス・インベストメントの評判も一気に高まるはずだ」

「それに…」ミラは思慮深げに付け加えた。「アルフレッドさんから聞いたヴァンダーウッド家への対抗策にもなるかもしれないわね。若い才能を支援することで、市場に新しい風を吹き込める」

「そうだね」誠は頷いた。「これは単なる投資ではなく、私たちの理念を示す重要な一歩だ」

その夜、店を閉めた後も、誠とミラはエリオットの魔導株発行に向けた準備を始めた。必要な書類の作成、市場での宣伝方法、投資家への説明資料など、やるべきことは山積みだった。

「明日はトビアスにも手伝ってもらおう」誠は疲れながらも満足げに言った。「彼も魔法を学んでいるから、エリオットの研究について理解できるはずだ」

「あの二人、気が合うかもね」ミラは微笑んだ。「二人とも若くて才能がある。トビアスにとっても良い刺激になるわ」

誠はポケットの魔導石を取り出し、見つめた。「誠運を司る者」という刻印は、かすかに青い光を放っていた。

「今日の出会いも、何かの導きかもしれないね」

石は彼の手の中で温かく脈打ち、同意しているかのようだった。

窓の外では、王都の夜景が広がっていた。明かりの灯った王城、そして星空の下で静かに眠る市場区域。この街の何処かで、エリオットも彼の研究への新たな希望に胸を膨らませているだろう。

誠は深く息を吐いた。フェニックス・インベストメントは新たな挑戦に踏み出そうとしていた。成功すれば、彼らの名は一気に市場に轟くことになる。しかし同時に、ヴァンダーウッド家のような大きな力との対立も避けられなくなる。

「明日から忙しくなりそうだ」

窓の外を見つめながら、誠は静かに呟いた。夜風が優しく彼の頬を撫でる中、未来への期待と不安が入り混じる感情が彼の心を満たしていた。
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