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第14話:「障壁の実証実験」
しおりを挟む市場操作との戦いから三日が過ぎた。エリオットの魔導株価格は14ゴールド前後で安定していたが、誠たちは安心できなかった。
「このままでは、また同じことが繰り返されるわ」
フェニックス・インベストメントの店内で、ミラが懸念を口にした。
「確かに」誠も頷いた。「一時的な株価回復に満足していては駄目だ。ヴァンダーウッド家は次の手を用意しているはずだから」
「もっと決定的な証拠が必要ですね」トビアスが提案した。「エリオットさんの研究が本物であることを、誰の目にも明らかに示せれば…」
三人は黙考した後、誠が決断を下した。
「エリオットの研究室へ行こう。彼の最新の進捗を確認して、次の一手を考えよう」
彼らは店を一時閉め、王立魔法学院へと向かった。前回の訪問時の緊張感はなく、すでに慣れた様子で地下研究室への道を進んだ。
エリオットは研究に没頭していた。彼の周りには複数の魔法陣が浮かび、青い光を放っていた。
「エリオット、調子はどうだい?」
「あ、誠さん!」彼は嬉しそうに顔を上げた。「ちょうど良いところに。新しい成果を見てください!」
彼は研究台の上に小さな装置を指さした。それは掌サイズの魔導石を中心に、複雑な金属のフレームが組まれた精巧な造りだった。
「これが…?」
「はい、携帯型反魔法障壁の試作機です!」エリオットは誇らしげに言った。「小規模ですが、実用レベルの防御力を持っています」
彼は装置を起動し、デモンストレーションを始めた。装置から放たれた青い光が周囲に半球状の障壁を形成する。エリオットは小さな魔法弾を発射し、それが障壁に触れた瞬間に消滅することを示した。
「すごい進歩だね!」誠は感嘆した。「これなら実用性を示せるじゃないか」
「そうね」ミラも目を輝かせた。「これを公開すれば、研究の価値は明らかになるわ」
「それこそが、私の考えていたことです」エリオットは熱心に言った。「実証実験を行いたいんです。できれば王国の高官たちの前で」
「それは素晴らしいアイデアだ」誠は即座に賛同した。「アルフレッドさんを通じて手配できるかもしれない」
「本当ですか!?」エリオットの目が希望に輝いた。
「ただし」誠は冷静に付け加えた。「ヴァンダーウッド家が妨害してくる可能性は高い。準備は万全にする必要がある」
四人は詳細な計画を立て始めた。アルフレッドに連絡を取り、王国防衛関連の高官たちを集めた実証実験を手配してもらう。同時に、エリオットは装置の最終調整と安全対策を徹底する。
「二日後にできそうです」トビアスがアルフレッドとの調整結果を報告した。「王国防衛評議会の数名と、魔法省からの視察官が来るとのことです」
「それまでに準備を整えよう」誠は決意を示した。「この実験の成功が、エリオットの研究と私たちの投資の未来を決める」
---
実証実験の日がやってきた。会場には王立魔法学院の大講堂が選ばれた。朝早くから、誠、ミラ、トビアスはエリオットの手伝いで準備を進めていた。
「装置の最終チェックは問題ないわ」ミラが報告した。彼女は計算式を使って障壁の魔力バランスを確認していた。
「会場の警備も厳重です」トビアスも付け加えた。「アルフレッドさんの手配で、信頼できる騎士団が周囲を警備しています」
「でも油断はできないな」誠は慎重に言った。「ヴァンダーウッド家は何らかの妨害を試みるだろう」
彼らの予想通り、開始時間が近づくにつれ、不穏な兆候が見られ始めた。会場に入る予定だった二人の高官が「急用で」キャンセルし、また別の高官は「体調不良」を理由に欠席を告げてきた。
「ヴァンダーウッド家の圧力ですね」アルフレッドが静かな怒りを隠しながら言った。
それでも、重要な高官は何人か出席してくれた。王国防衛大臣のオーウェン・シールドハート、魔法省次官のクラウディア・スペル、そして商務省の貿易部長ヘンリー・コインメーカーなど、影響力のある人物たちだ。
「予定より少ないけれど、十分な顔ぶれね」ミラが小声で誠に言った。
「ああ。この人たちが認めてくれれば、研究の公式承認は近い」
午後三時、実証実験が始まった。
エリオットは高官たちの前に立ち、研究の背景と意義を簡潔に説明した。イムペリアル帝国の「貫通衝撃波」の脅威、既存の防御魔法の限界、そして彼の反魔法障壁の革新性。彼の説明は明快で論理的だった。
「それでは、実際に装置の性能をお見せします」
エリオットは中央に設置された実験台に進み、携帯型反魔法障壁を起動した。装置から美しい青い光が放たれ、周囲に半径5メートルほどの障壁が形成された。
「まずは通常の攻撃魔法に対する防御効果をご覧ください」
彼の助手を務める学院の生徒が、様々な攻撃魔法を障壁に向けて放った。火球、雷撃、氷の矢—いずれも障壁に触れた瞬間に消滅していく。
高官たちからは驚きの声が上がった。特に、王国防衛大臣は興味深そうに身を乗り出していた。
「次に、より強力な貫通属性の魔法に対する効果です」
エリオットは特別に用意した模擬「貫通衝撃波」を発生させる装置を指示した。これは本物よりはるかに弱いものだが、原理は同じだという。
助手が装置を起動させると、鋭い紫色の光線が障壁に向かって発射された。それは普通の障壁なら簡単に突き抜けるはずの威力を持っていた。
しかし、エリオットの障壁に接触すると、光線は障壁の表面で光の粒子へと分解され、徐々に吸収されていった。
「見事だ!」オーウェン大臣が思わず声を上げた。
「これは…本当に革命的な技術ね」クラウディア次官も感心した様子だった。
実験は順調に進み、エリオットは最後のデモンストレーションに移った。
「これが、本研究の最終目標となる大規模障壁の縮小モデルです」
彼は実験台の中央に、より複雑な装置を設置した。この装置は先ほどよりも大きく、中心には「虚空クリスタル」と呼ばれる特殊な魔導石が組み込まれていた。
「この装置が完成すれば、城壁規模の障壁を生成できるようになります」
エリオットが装置を起動すると、より強力な障壁が形成され始めた。青から紫がかった色に変わり、その範囲も徐々に拡大していく。
しかし、突然、装置から不規則な閃光が発せられ始めた。
「あれ?これは…」エリオットの表情が変わった。「何かおかしい…」
彼が制御パネルを確認すると、数値が急激に上昇していた。通常ありえない挙動だ。
「魔力の流れが乱れています!」エリオットは焦りの表情を見せた。「これは外部からの干渉…!」
誠は即座に状況を理解した。「ヴァンダーウッド家の工作だ!」
装置の異常は急速に悪化し、障壁が不安定に揺らめき始めた。一部が膨張し、別の部分が収縮するという不規則な動きを見せる。
「危険です!皆さん、避難してください!」
エリオットの警告に、高官たちは慌てて後退し始めた。しかし、彼自身は装置の前から動かず、必死に制御を試みていた。
「エリオット、危ない!離れろ!」誠が叫んだ。
「駄目です!このまま放置すれば大爆発を起こします!」エリオットは振り返らず答えた。「学院全体が危険に…!」
装置からは不吉なうなり声が上がり、障壁は次第に赤紫色へと変色していった。その内部では魔力の渦が形成され、周囲の空間を歪め始めている。
「俺も手伝う!」
誠はエリオットの元へ駆け寄った。彼は市場予知能力を使って、魔力の「流れ」を観察した。それは市場の気流と似ていたが、遥かに激しく、複雑だった。
「見える…魔力の流れが…」
誠は集中し、乱れた魔力の流れのパターンを読み取ろうとした。
「ミラ!計算を頼む!」
ミラもすぐに加わり、エリオットの機械から読み取れる数値を基に、魔力安定化のための調整値を計算し始めた。
「エリオット、周波数を33.7に下げて!」誠は魔力の流れを見ながら指示した。「そして東側の出力を20%減らす!」
エリオットは驚いたものの、即座に従った。装置の振動が少し落ち着いたが、まだ完全には安定していない。
「次に、中央の結晶を45度回転させて!」
「ミラ、北と西の出力比は?」
「2対3にするべきよ!」ミラは瞬時に回答した。「そして全体の出力を72%に抑えて!」
三人は完全に息の合った連携を見せた。誠が魔力の流れを読み、エリオットが装置を操作し、ミラが最適値を計算する—この組み合わせが効果を発揮し始めた。
徐々に装置の振動は収まり、障壁の色も落ち着いていった。しかし、最後の不安定要素が残っていた。
「中心に小さな魔力の結び目がある!」誠が叫んだ。「これを解かないと…!」
「でも、どうやって?」エリオットが困惑した表情で尋ねた。
「…魔力の逆転です」トビアスが突然声を上げた。彼も危険を顧みず、三人の傍に駆け寄っていた。「魔法学校で学びました。結び目は逆向きの魔力で解けます!」
「その通りだ!」エリオットの目が輝いた。「でも、逆向きの魔力を正確に生成するには…」
「私が計算する!」ミラが即座に答えた。彼女は紙に数式を書き始めた。
「結び目の座標は…x軸27.3、y軸18.9、z軸42.1…」誠が市場予知能力で読み取った位置を伝える。
ミラは信じられないスピードで計算を進め、「逆転魔力の周波数は528.7Hz、強度は元の魔力の73%!」と結論を出した。
エリオットはその値を装置に入力し、最後の調整を行った。
「今だ!」
彼が発動ボタンを押すと、装置から鮮やかな緑色の光が放たれた。それは障壁内の結び目に向かって収束し、一瞬の閃光と共に消滅した。
障壁全体が安定し、美しい青色に戻った。装置の振動も完全に止まり、室内は静寂に包まれた。
「成功した…」エリオットがつぶやいた。
四人は疲労と緊張から解放され、互いを見つめて安堵の笑みを交わした。
講堂は一瞬静まり返った後、突然の拍手が鳴り響いた。振り返ると、避難していたはずの高官たちが戻ってきており、驚きと敬意に満ちた表情で彼らを見つめていた。
「素晴らしい…」オーウェン大臣が前に進み出た。「これこそ真の魔法研究者の姿だ!危機に直面しても冷静に対処し、技術を守る」
「エリオット・ライトシールド」大臣は厳かな口調で続けた。「あなたの研究は王国にとって無くてはならないものだ。今日から、防衛省の公式支援プロジェクトとして認定しよう」
エリオットの目に涙が浮かんだ。長年の努力が、ようやく認められる瞬間だった。
「そして、この危機を乗り越えたのは、あなた一人ではない」大臣は誠、ミラ、トビアスにも目を向けた。「フェニックス・インベストメントの皆さんの貢献も、王国は高く評価します」
クラウディア次官も加わった。「魔法省としても全面的に協力します。これほどの才能と連携力は、国家の宝です」
高官たちは次々と彼らを称え、支援と協力を約束した。
実験後、装置を調査したところ、外部から魔力干渉装置が仕掛けられていたことが判明した。ヴァンダーウッド家の仕業だという証拠はなかったが、状況から考えて間違いないだろう。
「彼らは本当に命まで狙ってくるのね…」ミラは怒りを込めて言った。
「しかし、結果的には私たちの勝利だ」誠は冷静に答えた。「この実験で、エリオットの研究価値が公に認められた。もう彼らも露骨な妨害はできないだろう」
アルフレッドが彼らのもとに来て、祝福の言葉を述べた。
「素晴らしい成果だ。私の予想を遥かに超える展開だった」彼はにこやかに言った。「これで王国内での政治的支援も確保できる。ヴァンダーウッド家も簡単には手を出せまい」
「アルフレッドさん、ありがとうございます」誠は深く頭を下げた。「あなたの支援がなければ、ここまで来られませんでした」
「いや、すべては君たちの努力の結果だ」アルフレッドは真摯に答えた。「私は単に機会を提供しただけさ」
帰り道、誠、ミラ、トビアスはエリオットと共に学院の中庭で休息していた。彼らは疲れていたが、達成感に満ちていた。
「皆さん、本当にありがとうございました」エリオットは心からの感謝を込めて言った。「特に危機の時、私一人では絶対に乗り越えられなかった」
「私たちはパートナーだからね」誠は微笑んだ。「お互いを助け合うのは当然だ」
「そうよ」ミラも頷いた。「それに、あなたの研究は本当に価値があるわ。王国のためにも、絶対に成功させなきゃ」
「僕も最高の経験になりました!」トビアスは目を輝かせて言った。「魔法と投資が融合する瞬間を見られて、感激です!」
四人は笑い合い、夕暮れの空を見上げた。
「さあ、明日からは新しい段階だ」誠は決意に満ちた声で言った。「エリオットの研究は公式支援を得て加速するし、フェニックス・インベストメントも新たな評価を得ることになる」
彼らの心には、困難を乗り越えた充実感と、これからの未来への希望が満ちていた。
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