転生投資家、異世界で億万長者になる ~魔導株と経済知識で成り上がる俺の戦略~

ソコニ

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第26話:「感情増幅の魔石」

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MPU会議から一週間、フェニックス・インベストメントの事務所は戦略本部のように変わっていた。壁には水源浄化プロジェクトの大きな計画表が貼られ、机の上には研究資料や市場分析の書類が山積みになっていた。

誠とミラは水源浄化株の購入戦略について議論し、トビアスはドライフィールド村との連絡役として忙しく走り回っていた。ソフィアは王立魔法学院の図書館から集めた古代浄化魔法の資料を研究していた。

「これだけの資金があれば、最初の実験施設を建設できるはずよ」

ミラは計算表を見ながら言った。MPUの資金から45万ゴールドを水源浄化プロジェクトに投じる計画だった。

「問題は時間だな」誠は市場の最新データに目を通しながら返した。「ヴァンダーウッド家も動き始めているはずだ」

そんな彼らの元に、アルフレッドが緊急の訪問をしてきた。彼の表情は普段の陽気さがなく、緊張感に満ちていた。

「重要な情報だ」

アルフレッドは周囲を確認してから、小さな木箱を取り出した。箱を開けると、中には青紫色に輝く小さな魔石が入っていた。魔石の中心からは奇妙な光の波紋が広がっていた。

「これは何ですか?」トビアスが不思議そうに尋ねた。

「『感情増幅の魔石』だ」アルフレッドは低い声で説明した。「非常に希少で、その存在自体が半ば伝説とされていた魔法アイテムだ」

「感情増幅…?」ミラが眉をひそめた。

「こいつは周囲の人間の感情を増幅し、さらに拡散させる力を持っている」アルフレッドは続けた。「特に恐怖、期待、貪欲といった強い感情に反応するんだ」

「まるで市場心理を操るための道具じゃないか」誠が言った。

「正解だ」アルフレッドは頷いた。「そして信頼できる情報筋によると、ヴァンダーウッド家は長年この魔石を使って市場操作をしていたというんだ」

部屋は一瞬静まり返った。誠は思わず立ち上がった。

「それで納得した」彼は言った。「あの家が常に市場の動きを予測できた理由だ。彼らは予測していたのではなく、操作していたんだ」

「そういうことになる」アルフレッドは重々しく頷いた。「たとえば、特定の株を下げたいとき、彼らはこの魔石を持った工作員を市場に送り込み、その株に対する恐怖や不安を広めるんだ」

「それって…違法では?」ソフィアが尋ねた。

「グレーゾーンだ」アルフレッドは苦々しく言った。「魔法による感情操作は、明確に禁止されてはいないが、倫理的に問題があるとされている。しかし、証明が難しいんだ」

「でも、なぜその情報が今明らかになったのでしょう?」ミラが疑問を呈した。

アルフレッドは少し躊躇った後、「ヴァンダーウッド家の内部告発だ」と答えた。「長年の不正に良心の呵責を感じた側近の一人が、私に接触してきたんだ」

誠はしばらく黙って考え込み、やがて決意を固めたように言った。

「アルフレッド、この魔石、使わせてもらえるだろうか」

「何を考えている?」アルフレッドが訝しげに尋ねた。

「彼らの戦術を逆手に取るんだ」誠の目に閃きが宿った。「水源浄化プロジェクトに対する肯定的な感情を市場に広める」

「まさか…」ミラが驚いた表情で誠を見た。「私たちも市場操作をするつもりなの?」

「違う」誠は首を横に振った。「我々は真実を伝えるだけだ。ドライフィールド村での実験が成功したこと、新しい浄化方法が効率的で低コストであること—これらは全て事実だ。そのインパクトを最大化するために魔石を使うだけだ」

ソフィアが少し不安そうに口を挟んだ。「でも、魔法倫理学の観点からすると、そういった感情操作は—」

「私も理想としては反対だ」誠は彼女の言葉を引き取った。「だが今は非常時だ。ヴァンダーウッド家が何十年も使ってきた武器と戦うには、同じ土俵に立つ必要がある」

アルフレッドは長い沈黙の後、決断を下した。「わかった、預けよう。だが使い方には十分注意してくれ」

彼は箱を誠に手渡した。「これは私が手に入れられた唯一の石だ。使い方は極めて単純だ—持ち主の感情と意図を増幅し、周囲に広げる。特に群衆の中で効果を発揮する」

「ありがとう」誠は慎重に箱を受け取った。

---

翌日、フェニックス・インベストメントでは新たな作戦会議が開かれていた。テーブルの中央には「感情増幅の魔石」が置かれ、青紫色の光が部屋を照らしていた。

「作戦の概要はこうだ」誠はボード前に立って説明した。「まず、ドライフィールド村での実際の浄化実験を成功させる。次に、その成功を市場に伝える。そして感情増幅の魔石を使って、その情報のインパクトを最大化する」

ミラが付け加えた。「同時に、MPUのメンバーたちにも協力してもらい、王国中に情報を広める」

「浄化実験自体は、私が中心になって進めます」ソフィアが言った。「王立魔法学院の実験設備も利用できるよう、認可を取りました」

「これは三段階作戦だ」誠は続けた。「最初は実験の事実を広める。次に、投資家たちの間で水源浄化株への期待を高める。最後に、MPUが大規模な株式買収に乗り出す」

「問題は、どうやって魔石を有効に使うかだわ」ミラが指摘した。「ヴァンダーウッド家は何十年もこれを使ってきたんだから、何らかの対策があるはずよ」

「そこでカギとなるのが『真実』だ」誠は力強く言った。「彼らが広めるのは不安や恐怖だが、我々が広めるのは希望と実用的な解決策だ。それらは本質的に強い影響力を持つ」

「そして、我々には彼らにない武器がある」ソフィアが付け加えた。「民間と魔法学院の知識を融合させた実用技術だ」

計画の詳細が固まっていく中、トビアスがニュースを持って飛び込んできた。

「誠さん、大変です!」彼は息を切らして言った。「ヴァンダーウッド家が動きました。水源浄化関連の小さな研究施設をいくつか買収し始めたんです」

「思ったより早いな」誠は眉をひそめた。「彼らも我々の動きを察知しているということだ」

「それだけじゃありません」トビアスは続けた。「市場では『民間浄化術は危険』という噂が広まり始めています。古代の失敗例を挙げて、現代魔法との組み合わせは大惨事を招くと…」

「すでに感情魔石を使って妨害を始めたか」アルフレッドが呟いた。

誠は落ち着いて対応を考えた。「対抗策を講じなければ。ソフィア、実験の安全性についての学術的見解を準備してくれないか」

「わかりました」ソフィアは頷いた。「王立魔法学院の権威ある教授たちにも協力を仰ぎます」

「ミラ、村との連絡を急いでくれ。実験の準備を早める必要がある」

「了解したわ」ミラは即座に動き出した。「マルコたちにすぐに連絡を取るわ」

「トビアス、MPUのメンバーに事態を報告し、各自の人脈を活かした情報拡散の準備を頼む」

「はい!」トビアスは元気よく応じた。

「アルフレッド、政治的な支援をお願いできるだろうか」

「任せろ」アルフレッドは力強く頷いた。「商務庁にも働きかけ、公正な市場運営を求めていく」

誠は最後に感情増幅の魔石を見つめた。「この石は最後の切り札だ。時機を見て使おう」

全員が散っていく中、誠はミラを呼び止めた。

「ミラ、一つ提案がある」彼は真剣な表情で言った。「私たちも浄化実験に直接参加しよう。現地で実験を成功させ、その成果を自分の目で確かめたい」

「私も同感よ」ミラは頷いた。「現場から離れていては、真の感情は伝わらないもの」

「それでは、明日にも出発の準備を」

二人は固く手を握り合った。窓の外では、市場区域が夕日に染まり始めていた。

---

一方、ヴァンダーウッド家の邸宅では、レオンハルトが側近たちを集めた緊急会議が開かれていた。

「奴らの動きはどうなっている?」レオンハルトが冷たく尋ねた。

「民衆投資連合は水源浄化プロジェクトに大規模投資を計画しています」側近の一人が報告した。「また、ドライフィールド村での実験準備も進んでいるようです」

「感情増幅の魔石を使った対策は?」

「既に実行中です」別の側近が答えた。「市場では民間浄化術の危険性についての噂が広まり始めています。ただ…」

「ただ何だ?」レオンハルトの声が厳しくなった。

「感情増幅の魔石について、情報漏洩があった可能性があります」側近は言いづらそうに報告した。「ノーブルガード家が同様の魔石を入手したという情報があります」

レオンハルトの顔に怒りの色が浮かんだ。彼は重要な秘密の漏洩に激怒していたが、表情を抑えて言った。

「それなら、我々も次の段階に進むしかない」彼は唸るように言った。「『感情波動増幅装置』の準備を急げ」

側近たちは驚きの表情を見せた。その装置は、これまで一度も使用されたことのない秘密兵器だった。

「しかし、ご主人様」執事長のセバスチャンが懸念を示した。「あの装置は非常に強力です。市場全体に大きな影響を—」

「黙れ」レオンハルトは手を振り上げた。「300年続くヴァンダーウッド家の名誉を、異世界から来た小僧と半獣人の女に汚されるわけにはいかない」

彼は立ち上がり、窓から市場区域の方向を睨みつけた。

「勝負はまだ始まったばかりだ」彼は低く呟いた。「『感情』で戦うなら、奴らに何が本当の恐怖か教えてやる」

部屋の隅には、大きな布で覆われた謎の装置があった。そこからは微かに青紫色の光が漏れ、不気味な波動を放っていた。
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