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第9話:決着!最初の勝利
しおりを挟む夜明け前の仙人の庭に、緊張感が漂っていた。
天音とカゲロウの最終決戦の続きが、今まさに始まろうとしていた。
前日、天音は「響け、言霊」の真の力に目覚め、カゲロウの「時間加速」を打ち破る「響け、真実の声」という新たな力を発現させた。しかし、決着はついていなかった。
「今日こそ、決着をつけよう」
カゲロウが静かに言った。彼の顔には昨日の戦いの疲れが見えるが、目は鋭く光っていた。
天音も無言で頷いた。彼もまた疲労の色が見えるが、その目には強い決意が宿っていた。
仙人は二人を見つめ、最後の助言を与えた。
「天音よ、昨日お前は言霊の新たな境地に到達した。だが、それを自在に扱えるかどうかは、また別の問題じゃ」
「はい、わかっています」
「カゲロウ、手加減は無用じゃ。天音は一人前のことだま戦士として認められる試験に挑むのだから」
「ああ、わかっている」
カゲロウは首筋を伸ばし、身体をほぐした。
二人は庭の中央に立ち、向かい合った。早朝の光が徐々に空を染め始め、二人の姿を浮かび上がらせる。
「始めるぞ…」
カゲロウの言葉と共に、彼の周りに風が渦巻き始めた。天音も深呼吸し、体の力を抜いて心を整える。
「加速」
カゲロウの言霊は、前日のような大声ではなく、小さく呟くように発せられた。だがその効果は絶大で、彼の姿が一瞬で消えた。
天音は目を閉じ、昨日覚醒した「響け、言霊」の感覚を呼び起こそうとした。
「響け、言霊」
天音の声が庭に広がる。だが、昨日のような波動の実体化は見られなかった。
「何…?」
天音が困惑する間に、カゲロウの一撃が彼の腹部を襲った。
「ぐっ…!」
天音は数メートル吹き飛ばされ、地面に転がった。
「どうした?昨日の力はどこへ行った?」
カゲロウの声が風のように通り過ぎる。彼はまだ高速で移動しており、その姿は見えない。
天音は歯を食いしばりながら立ち上がった。
「どうして…昨日の力が…」
仙人の声が縁側から聞こえた。
「天音よ!力を求めるな、心を開け!昨日の力は『願い』ではなく『受容』から生まれたのじゃ!」
「受容…?」
天音はその言葉の意味を探りながら、再び集中した。
「響け、言霊」
今度は力を込めず、ただ心を開いて言葉を発した。すると、かすかに空気が震え始めた。周囲の音、風の流れ、そして…カゲロウの気配。
「見えた…!」
天音は咄嗟に身をかわし、カゲロウの攻撃を回避した。
「ほう、感じ取ったか」
カゲロウの声に驚きが混じる。彼は再び「二段加速」へと速度を上げた。
天音は集中を深めた。「響け、言霊」の力を完全に呼び覚ますため、心を最大限に開く。自分の周りの音、風、光…すべてを受け入れる。
そのとき、彼の周りに淡い波紋が広がり始めた。昨日のような実体化した波動だ。
「来た…!」
その波動を通じて、カゲロウの動きが感知できるようになった。二段加速の速さでも、その軌跡が天音の意識に鮮明に映し出される。
カゲロウが右側から接近し、回り込んで背後から攻撃しようとしているのが「見えた」。
「弾け!」
天音が振り向き、後方に防御の言霊を放った。カゲロウの攻撃がぴたりと止まる。
「見事だ!」
カゲロウは一瞬驚いたが、すぐに態勢を立て直し、「三段加速」へと移行した。
今度はさらに速い動きで、様々な角度から天音に襲いかかる。だが、天音の「響け、言霊」も深まっており、その動きのほとんどを察知できた。
「押し返せ!」
天音の言霊がカゲロウの攻撃を弾き返す。二人の言霊がぶつかり合い、庭の空気が震えた。
「まだだ!四段加速!」
カゲロウの速度がさらに上がる。その動きは人知を超えており、「響け、言霊」でさえ完全には捉えきれなくなった。
天音は数発の攻撃を受け、膝をつく。だが、彼はまだ諦めていなかった。
「響け、言霊…もっと深く…」
天音は心を極限まで開いた。単に音や動きを感じるだけではなく、カゲロウの「意図」そのものを感じ取ろうとする。
すると、波動がさらに鮮明になり、カゲロウの思考の流れのようなものが見えてきた。彼が次にどこから攻撃するつもりなのか、その意図が天音に伝わってくる。
「そこだ!」
天音が突然立ち上がり、まだ攻撃していないカゲロウの軌道上に防御の壁を作った。
「なっ…!」
カゲロウが驚いた声を上げる。天音は彼の行動を「予測」したのだ。
「疾風!」
天音は風の言霊を発動し、カゲロウの周りに風の壁を作り出した。高速移動中のカゲロウにとって、突然現れた風の壁は大きな障害となる。
「くっ…!」
カゲロウの動きが一瞬止まった。天音はその隙を見逃さなかった。
「弾け!最大出力!」
全力の防御言霊をカゲロウに向けて放った。それは防御ではなく攻撃として機能し、カゲロウを大きく吹き飛ばした。
「ぐあっ…!」
カゲロウが地面に叩きつけられる。だが、彼はすぐに立ち上がり、表情を引き締めた。
「本気を出すぞ、天音。昨日はここからだった…時間加速!」
カゲロウの最終奥義が発動された。彼の周囲の空間が歪み、まるで時間が違う流れになったように見える。
天音は昨日の戦いを思い出した。時間加速は「響け、言霊」でさえ完全には捉えられなかった。だが、昨日は「響け、真実の声」という新たな言霊でそれを打ち破った。
「響け、真実の声!」
天音は新たな言霊を発動しようとしたが、効果はなかった。昨日のような輝きも波動も現れない。
「なぜ…?」
「昨日は偶然だ。真の力を引き出すには、もっと深い理解が必要だぞ」
時間加速の中から、カゲロウの声が聞こえた。彼の姿は見えず、声だけが空間に響く。
天音は焦りを感じた。昨日できたことが、今日はできない。どうすれば…
「焦るな、天音!」
仙人の声が聞こえた。
「昨日の力は、極限状態で偶発的に目覚めたもの。焦って求めても出てこん。真に受け入れ、理解せよ」
天音は深呼吸し、心を落ち着けた。
「受け入れる…理解する…」
彼は「響け、言霊」の本質について考えた。それは単に音を実体化させる力ではない。心と心をつなぐ力…相手の意図や思いを感じ取る力…
「そうか…」
天音は静かに目を閉じた。
「響き合う…」
彼はカゲロウの存在そのものを感じようとした。敵として捉えるのではなく、同じ言霊使いとして、その存在を認め、受け入れる。
すると、天音の周りに淡い光が広がり始めた。それは昨日のような強い輝きではなく、穏やかな月明かりのような光だった。
「これが…本当の『響け、言霊』…」
天音は目を開けた。彼の目には、時間加速の中にいるカゲロウの姿が、スローモーションのように見えていた。
「見えた…!」
カゲロウの動きだけでなく、彼の心の動きまでもが感じられる。彼が次に何をしようとしているのか、その意図が天音に伝わってくる。
カゲロウが右側から接近し、上段から攻撃を仕掛けようとしている——天音にはそれが手に取るように分かった。
「弾け、そして…返せ!」
天音は新たな言霊の組み合わせを試みた。防御の「弾け」を、相手の攻撃を跳ね返す「返せ」と連動させる。
カゲロウの攻撃が天音に迫った瞬間、透明な壁が現れ、その攻撃を弾き返すと同時に、同じ力でカゲロウに反撃した。
「なに…!?」
カゲロウが驚いた声を上げる。彼は時間加速の中で、天音の反撃を受けて体勢を崩した。
「まだだ!」
天音はさらに集中を深めた。「響け、言霊」の波動が彼の体から放射状に広がり、庭全体を覆う。
「疾風、渦巻け!」
彼は風の言霊を発動し、時間加速の空間に巻き込んだ。時間の流れが歪んでいる空間に、風の渦が入り込む。
「これは…!」
カゲロウの声に驚きが混じった。時間加速の空間が風によって乱され、彼の動きが不安定になっていく。
「時間加速の弱点は…空間の安定性にある」
天音はカゲロウの言霊の本質を見抜いていた。時間を操作するには、安定した空間が必要なのだ。
「最後の一撃だ…響け、真実の声!」
天音は心の底から言霊を放った。今回は昨日のような偶発的な力ではなく、理解に基づいた確かな力だった。
彼の声が実体化し、眩い光となって庭を照らした。その光は時間加速の歪みを貫き、カゲロウに直撃した。
「ぐわあああっ!!」
カゲロウの体が大きく吹き飛ばされ、庭の端にある岩に激しく叩きつけられた。時間加速の効果が切れ、彼の姿が現実世界に戻った。
天音は膝をつき、荒い息をついた。最後の言霊で精神力を使い果たした感覚だった。
「勝った…のか?」
彼は不安げに岩の方を見つめた。
カゲロウの体が動いた。彼はゆっくりと立ち上がり、血を流しながらも微笑んだ。
「見事だ…天音。お前に負けを認めよう」
天音の目が輝いた。勝った。自分は本当に勝ったのだ。
「カゲロウさん…」
「お前の『響け、言霊』は、単なる能力ではない。心の力だ。それを理解したからこそ、時間加速を打ち破ることができた」
カゲロウは天音に近づき、彼の肩を叩いた。
「おめでとう。お前は一人前のことだま戦士になった」
仙人も近づいてきて、満面の笑みを浮かべた。
「天音、本当によくやった。『響け、言霊』の真髄に触れ、それを自分の力として使いこなした」
天音は二人に深く頭を下げた。
「ありがとうございます。お二人のおかげです」
「いや」
カゲロウが首を振った。
「これはすべてお前自身の力だ。お前には…特別な才能がある」
「特別な…才能?」
「ああ。普通の言霊使いは、一つか二つの言霊しか扱えない。だがお前は、『消えろ』『燃えろ』『疾風』『響け』…多くの言霊を使いこなせる。それだけではない。言霊同士を組み合わせ、新たな効果を生み出すこともできる」
天音は驚いた。自分の能力が特殊だとは知らなかった。
「それに…」
カゲロウの表情が真剣になった。
「『響け、真実の声』は、古来より伝わる伝説の言霊『真言(しんごん)』に通じる力だ。それを自然に目覚めさせたお前の才能は、並外れている」
「伝説の…言霊?」
仙人が頷いた。
「そうじゃ。昔から伝わる最強の言霊のひとつじゃ。言葉の真理に触れ、言霊の極致とも言われる力…」
天音は自分の手を見つめた。自分にそんな力が眠っていたとは思ってもいなかった。
「だが」
カゲロウが表情を引き締めた。
「お前の力はまだ序章に過ぎない」
「え?」
「これからお前が向かう道は、険しく危険なものになる。ことだまハンターだけでなく、『言霊の王』を復活させようとする者たち…彼らはお前の力を求めて襲いかかってくるだろう」
天音は真剣な表情で頷いた。
「覚悟はできています」
「良い心がけだ」
カゲロウは血を拭いながら、不敵な笑みを浮かべた。
「そして…いつか、お前は本当の『響け、言霊』の力に目覚めるだろう。今日のはまだその一部に過ぎない」
「本当の…『響け、言霊』?」
「ああ。それがどんな力なのか、オレにもわからない。だが、それはきっと驚くべき力だ」
カゲロウの目に、奇妙な光が宿った。それは期待と…何か別のものが混じったような複雑な感情だった。
「さあ、道場に戻ろう」
仙人が二人を促した。
「天音は今日が最後の修行じゃ。明日からは学校に戻り、倉田を守る任務に就く」
「はい!」
天音は喜びと共に、どこか寂しさも感じていた。仙人やカゲロウとの日々は、彼にとってかけがえのない時間だった。
道場に戻り、仙人は天音に小さな巻物を手渡した。
「これは『言霊学園』への招待状じゃ。学校に戻ったら、これを開くがよい」
「言霊学園…」
「言霊の力を持つ者たちが集い、互いに高め合う場所じゃ。お前のような才能ある者が行くべき場所だ」
天音は恐縮しながらも、巻物を受け取った。
「カゲロウさんも…言霊学園に?」
カゲロウは首を振った。
「オレは学園には所属していない。だが、また会うことになるだろう」
彼は立ち上がり、天音に向き直った。
「天音、一つ忠告がある」
「何でしょう?」
「言霊の力は、使うほどに深まり、変化する。お前の『響け、言霊』も、これから様々な形に進化するだろう。だが、その力の根本を見失うな」
「根本…」
「そう、言霊の力の本質は『心』にある。どんなに強大な言霊でも、心が曇れば力を失う。逆に、どんなに小さな言霊でも、純粋な心があれば大きな力を発揮する」
天音は真剣に頷いた。
「肝に銘じます」
「それと…」
カゲロウは少し言いよどんだ後、続けた。
「言霊の起源について…もし何か手がかりを見つけたら、オレに知らせてくれないか」
「起源…ですか?」
「ああ。なぜ人の言葉に力が宿るのか、その謎をオレは追い続けている」
天音は約束した。
「わかりました。もし何か見つけたら、必ずお伝えします」
カゲロウは満足げに頷くと、立ち上がった。
「では、これで別れだ。また会おう、天音」
彼は一瞬で姿を消した。風のように去っていった。
残された天音と仙人は、明日の準備について話し合った。
「学校に戻ったら、まず倉田の安全を確認するのじゃ。彼女も微弱ながら言霊の力を持つ者。ハンターたちが狙う可能性もある」
「はい、必ず彼女を守ります」
「そして言霊学園の招待に応じるかどうかも考えるのじゃ」
天音は招待状を握りしめた。
「新しい世界が広がっているんですね…」
「そうじゃ。お前の冒険は、まだ始まったばかりじゃ」
天音は窓の外を見つめた。夕日が庭を赤く染めている。明日、彼は学校に戻り、倉田と再会する。そして、さらに広い言霊の世界へと足を踏み入れるのだ。
「カゲロウさんの言葉…『お前の力はまだ序章に過ぎない』…」
天音は深く考え込んだ。自分の中に眠る力の真の姿とは何なのか。それを知るためには、まだまだ長い旅が必要だろう。
だが、一つだけ確かなことがあった。彼はもう、あの無力だった中学生ではない。言葉が現実になる力を持ち、それを制御できるようになった。
天音は決意を新たにした。明日からの新たな冒険に向けて、彼の心は期待と決意で満ちていた。
(つづく)
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もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
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途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
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