「転生織姫の神具仕立て~針一本で最弱スキルから最強へ~」

ソコニ

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第11話「幕府への警告」

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花都の大通りを急ぐ織姫たちの一行。北方での調査を終え、将軍からの急な召喚に応じて早馬で戻ってきたのだ。

「天皇神具」を狙う禍織師と薄明組。その警護のために織姫の力が必要とされている。

「千代様のお屋敷へ急ぎましょう」と織姫。「詳しい状況を聞かなければ」

絹屋の主人・佐助が用意してくれた駕籠で千代の屋敷へと向かう一行。道中、花都の様子が以前と違うことに気づいた。街中に武士が増え、通行人の顔にも緊張が走っている。

「警備が厳重になっているな」と睦月が周囲を警戒しながら言う。

千代の屋敷に到着すると、彼女は織姫たちを急かすように迎え入れた。

「織姫さん、無事で良かった!すぐに信明に会ってもらわなければ」

応接間に通された一行を待っていたのは、千代の婚約者である幕府重臣・信明だった。彼の表情は硬く、疲労の色が濃い。

「織姫殿、戻ってくれて感謝する」と信明は深々と頭を下げた。「幕府は今、大きな危機に瀕している」

信明の説明によれば、薄明組の動きが急に活発化し、将軍暗殺と「天皇神具」奪取の計画が発覚したという。「天皇神具」とは、織絵国の象徴であり、歴代将軍が継承してきた最高の神具。それが奪われれば、国の統治権が揺らぐことにもなりかねない。

「『天神祭』が三日後に迫っている。将軍は必ず参列する。そこが狙われると見ている」

「天神祭…」と織姫は思案する。「大勢の人が集まる場所で『天皇神具』を狙うのは危険すぎるのでは?」

「それが彼らの狙いだ」と信明。「混乱に乗じて行動する。さらに『天神祭』は『天衣無縫の術』を発動するのに最適な日でもある」

「『天衣無縫の術』…」

糸車が静かに言った。「『天神祭』は天と地の境が薄くなる日。『十二神衣』の力を一つに集める『天衣無縫の術』が最も効果を発揮する時じゃ」

「だから『天皇神具』を狙っているのか…」と紅葉が顔をしかめる。

「織姫殿」と信明が切実な表情で言う。「あなたの『糸見の目』と神具衣装の力で『天皇神具』を守ってほしい。将軍もそれを望んでいる」

織姫は決意を固めた。「承知しました。全力で『天皇神具』をお守りします」

信明は安堵の表情を見せ、詳細な計画の説明を始めた。将軍の護衛として、織姫たちは「天神祭」当日、神社への行列に同行する。特に織姫の「糸見の目」は死糸を見抜く力があるため、禍織師の罠を事前に探知できる可能性がある。

「ところで」と信明が言う。「北方の調査では何か分かったのか?」

織姫は北方での発見を報告した。「神具暴走事件」の背後には薄明組と禍織師の共謀があり、彼らは「天衣無縫の術」に必要な力を集めるための実験を行っていたのだ。さらに、織姫たちは新たに「水神の袴」を完成させたことも伝えた。

「『十二神衣』の三つ目が完成したというのか…」信明は驚きの表情を見せた。「それは心強い」

会議を終え、一行は織姫の店へと戻った。そこで「天神祭」に向けた準備を始める。

***

「糸見裁縫店」では、夜遅くまで灯りが灯っていた。織姫たちは「天神祭」に向けて特別な神具衣装「八重守りの陣羽織」の制作に取りかかっていたのだ。

「これは将軍様のためだけではなく、『天皇神具』自体を守る衣装になるわ」と織姫は説明する。

「陣羽織」は着用者の周囲に八重の霊力の盾を展開する最高級の防御衣装。これを将軍に着てもらえば、暗殺の危険から守れるはずだった。

織姫と雫は「糸見の目」を使って布地の最適な裁断を行い、蓮は前世の織姫の知識を元にした機能的なデザインを実現するための下準備をしていた。紅葉も特殊な鋼糸を提供し、「これを編み込めば、刀でも切れない強度になる」とアドバイスした。

睦月は常に店の周囲を警戒し、禍織師の襲撃に備えていた。彼女は織姫のために特別な情報も持ってきていた。

「薄明組の本拠地について、手がかりを得た」と睦月は言う。「花都の西、荒廃した『影向寺(ようごうじ)』が彼らの隠れ家らしい」

「そこで『冥府の羽衣』という禁忌の神具衣装を作っているという噂も…」

「冥府の羽衣…」織姫は図案集を開き、記述を探した。「これは『十二神衣』の歪んだ模倣品。着用者の生命力を吸収して圧倒的な力を得る恐ろしい衣装」

「それが完成すれば、将軍の命も危ういな」と糸車。

織姫は「八重守りの陣羽織」の制作を急いだ。最高級の「龍紋絹」を使い、雫の家から提供された「雷雲の絹糸」、そして新たに完成した「水神の袴」から得た水の霊力を持つ糸も使用した。

三つの神具衣装の力を組み合わせることで、「陣羽織」はさらに強力になるはずだった。

「『風』と『雷』と『水』の力が一つになれば…」

織姫は針を持つ手に、三つの神具衣装の霊力を集中させた。その針先から、七色の光が放たれる。一針一針縫い進めるごとに、「陣羽織」の姿がはっきりと現れてきた。

制作は二日間続いた。完成間近となった「陣羽織」は、白と金を基調とした荘厳な装いで、着るだけで着用者の周囲に目に見える霊力の盾が展開するほどの力を宿していた。

「あと少しで完成ね」と織姫が言ったその時、店の外から物音がした。

「誰かいるぞ!」と睦月が警戒する。

突如、窓ガラスが割れ、黒い煙が部屋に充満する。煙の中から現れたのは黒装束の集団。禍織師たちだった。

「みんな、気をつけて!」織姫が叫ぶ。

紅葉と睦月が刀を抜き、蓮と雫は織姫の制作物を守るように陣取る。織姫自身は急いで「雷神の帯」を締め、「風神の袖」も身につけた。

黒装束の中から一人の男が進み出た。片目に傷のある痩せた男。薄明組の「薄闇」だった。

「『陣羽織』も図案集も頂くぞ」と薄闇が言う。「抵抗しても無駄だ」

織姫は静かに針と糸を手に取った。「針一本で最弱から最強へ。それが私の道」

薄闇が合図すると、禍織師たちが一斉に攻撃を仕掛けてきた。黒い死糸が部屋中を飛び交い、織姫たちを捕らえようとする。

「させるか!」紅葉が刀で死糸を切り裂く。

「織姫、『陣羽織』を完成させろ!」と睦月が叫ぶ。「私たちが時間を稼ぐ!」

織姫は決意を固め、戦闘の真っ只中でも針を手放さなかった。彼女は「糸見の目」を最大限に集中させ、周囲の死糸を避けながら縫い進める。

「雫、水の力を!」

雫は「水神の袴」を身にまとい、水の霊力で死糸を押し流していく。

蓮も持ち前の機転を利かせ、店内の裁縫道具を使って即席の罠を仕掛ける。糸を張り巡らせて禍織師の動きを妨げるのだ。

「こいつら…!」薄闇は苛立ちを隠せない。

戦闘の混乱の中、織姫の針はさらに速く動き、「陣羽織」の完成に近づいていく。前世の技術と祖母の教えを融合させた独自の縫製法。それに「糸見の目」の力が加わり、針と糸が超人的な速さで動いていく。

「これでっ…!」

最後の一針を打ち終えた瞬間、「八重守りの陣羽織」が完成した。それは眩いばかりの光を放ち、部屋中を白く照らし出す。

「なっ…!」薄闇が目を覆う。

織姫は「陣羽織」を身にまとった。するとその体から八重の霊力の盾が広がり、死糸を弾き飛ばしていく。「雷神の帯」「風神の袖」「水神の袴」の力を宿した「陣羽織」は、想像以上の防御力を発揮していた。

「これが…『八重守りの陣羽織』!」

織姫は手を伸ばし、霊力の盾を薄闇に向けて押し出した。盾は波のように広がり、禍織師たちを次々と弾き飛ばしていく。

「くっ…引くぞ!」と薄闇が命じる。「だが忘れるな、明日は『天神祭』だ。その時こそ決着をつける!」

黒い煙と化して去っていく禍織師たち。彼らの襲撃は撃退されたが、店内は散乱し、「陣羽織」以外の材料や道具の多くが破壊されていた。

「みんな、無事?」織姫が心配そうに仲間を見回す。

幸い、誰も大きな怪我はなかった。しかし、禍織師の襲撃は彼らの決意の強さを示していた。明日の「天神祭」では、もっと大規模な攻撃が予想される。

「『陣羽織』が完成したのは不幸中の幸いだ」と糸車。「これで将軍を守れる」

織姫は「陣羽織」を大切に畳みながら言った。「でも、まだ安心はできないわ。彼らは何か別の策を用意しているはず」

そこへ、千代からの使いが駆けつけてきた。

「織姫様!将軍様が今すぐにお会いしたいとのことです」

一行は急いで将軍の御殿へと向かった。

***

将軍の御殿は厳重な警備の下、緊張感に包まれていた。織姫たちは特別な許可を得て、将軍の謁見の間へと通された。

謁見の間で待つ将軍は、若くして重責を担う凛々しい青年だった。しかし「糸見の目」で見ると、彼の周りにも薄い黒い糸が漂っている。すでに禍織師の影響が及んでいるのだ。

「織姫殿、お待ちしていた」と将軍は穏やかな声で言った。「北方での活躍の報告は受けている。感謝する」

織姫は深く頭を下げた。「お召しいただき光栄です」

「明日の『天神祭』について相談したい」と将軍。「薄明組と禍織師が動くと聞いている。どう対処すべきか」

信明も同席しており、織姫たちの意見を求めるように視線を送ってきた。

織姫は「糸見の目」で将軍の周囲を観察し、薄い死糸が彼を取り巻いているのをさらに詳しく見た。

「まず、将軍様ご自身が危険な状態です」と織姫は言う。「薄い死糸があなた様を取り巻いています。これは『天皇神具』に近づけなくするための術です」

将軍は驚いたが、織姫の言葉を信じる様子だった。「どうすれば良い?」

「私が作った『水神の袴』の力で、その死糸を清めましょう」

織姫の指示で、雫が「水神の袴」の力を使い、将軍の周りの死糸を浄化していく。清らかな水の霊力が死糸を洗い流し、将軍の表情が明るくなっていった。

「体が軽くなった…」と将軍。「確かに何か術をかけられていたようだ」

織姫は自信を持って提案を始めた。「明日の『天神祭』は、予定通り行うべきだと思います。ただし、『天皇神具』には特別な護衛が必要です」

彼女は「八重守りの陣羽織」を将軍に差し出した。白と金の荘厳な装いは、将軍の品格にぴったりだった。

「これは『八重守りの陣羽織』。着用者の周囲に八重の霊力の盾を展開し、あらゆる攻撃から守ります」

将軍は畏敬の念を込めて「陣羽織」を受け取った。「素晴らしい出来栄えだ。これが神職人の技か」

「さらに、私たち五人は将軍様の近くで警護を」と織姫。「特に『糸見の目』を持つ私と雫は、禍織師の罠を事前に見抜けるでしょう」

信明も頷き、「織姫殿の案に賛成だ」と言う。「さらに、薄明組の本拠地についても調査を進めよう」

将軍は織姫の提案を全て受け入れ、「天神祭」の警護計画が練られた。織姫たちは将軍の側近として、神社への行列に同行することになった。

謁見を終え、御殿を出た織姫たちは、最後の準備に取りかかる。

「禍織師の動きは読めない」と睦月が言う。「明日は何が起きても不思議ではない」

「だからこそ、私たちがいるのよ」と織姫。

店に戻った一行は、各々の武器や装備を整えた。紅葉は愛刀「霜月」を研ぎ、睦月は身のこなしを確認する。雫は「水神の袴」の扱いを練習し、蓮は様々な緊急用の小道具を準備した。

そして織姫自身は、「雷神の帯」と「風神の袖」の最終調整を行い、さらに戦闘用の特殊な針と糸も用意した。

「明日は一大決戦ね」と織姫は窓から見える花都の夜景を見つめながら言った。

糸車が静かに言う。「お前の祖母も、かつて同じ選択をした。『十二神衣』の力で国を守ると」

「ばあ様の思いを、私も受け継ぐわ」

織姫の決意は固かった。かつて「最弱」と蔑まれた裁縫師が、今や将軍の護衛を任される「最強」の神職人へと成長していた。

「十二神衣」の三つを身につけ、仲間たちと共に国の危機に立ち向かう。それが彼女の選んだ道だった。

窓の外では、「天神祭」の前夜を祝う提灯が花都の街を彩り始めていた。祭りの喧騒の中に、明日の戦いの足音が忍び寄っている。

織姫は胸に手を当て、「針一本で、この世界を守ってみせる」と心に誓ったのだった。
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