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第6話:温泉を巡る陰謀!宮廷魔導師の罠
しおりを挟むぽんずたちが王城から帰って1週間が経った。王女を救った偉業は瞬く間に広まり、ぽんずタウンは以前にも増して大賑わいとなっていた。「温泉神ぽんず」の名は、今やテラマリア王国中に知れ渡っていた。
「ぽんず様、こちらにもお願いします!」
「私の腰痛も治してください!」
「もふもふさせてください!」
毎日、長蛇の列ができるようになり、ぽんずは朝から晩まで大忙しだった。それでも彼は笑顔を絶やさず、訪れる人々を熱心に癒し続けていた。
「はいはい、順番に~」ぽんずは尻尾を振りながら、「お手」の力で次々と人々を癒していく。
温泉街は着々と発展し、テラマリア商業ギルドの協力もあって、様々な施設が建設されていた。「神湯」を中心に、効能の異なる温泉が整備され、訪れる人々は目的に合わせて選べるようになっていた。
「ぽんず様」レイラが近づいてきた。「新しい訪問者です。王城からの使者だそうです」
そう言われて見ると、王家の紋章をつけた若い騎士が入口で待っていた。ぽんずが近づくと、彼は丁重に頭を下げた。
「ぽんず様、お久しぶりです。私はアレンと申します。王城の護衛騎士です」
「こんにちは、アレンさん!リリア王女は元気?」
アレンは少し表情を曇らせた。「はい…王女様は元気です。しかし、城内に少し不穏な動きがありまして…」
彼は周囲を見回し、声を潜めた。「実は、カラム宮廷魔導師が最近、奇妙な噂を広めているのです」
「噂?」ぽんずは耳をピンと立てた。
「はい。彼は『ぽんずの温泉には邪悪な力が潜んでいる』と言い、王宮内で講演会まで開いているのです」
ぽんずはショックを受けた様子で首を傾げた。「えっ…僕の温泉が邪悪?でも、みんな喜んでくれているよ?」
「そうです。多くの人はその噂を信じていません。しかし…」アレンはさらに声を落とした。「カラム様は王室付きの魔導師。彼の言葉には一定の影響力があります。すでに一部の貴族は温泉への訪問を控えるようになりました」
エリックが眉をひそめた。「これは単なる噂ではなく、組織的な中傷だな」
「私もそう思います」アレンは頷いた。「おそらく、カラム様には何か隠された目的があるのでしょう」
「何か対策はできないのかな…」ぽんずは心配そうに見上げた。
「難しいでしょう」アレンは肩をすくめた。「カラム様は直接的な嘘をついているわけではなく、『科学的な疑念』という形で噂を広めています。王様も公式に制止するわけにはいかないのです」
このニュースはレイラやミナ、そしてテラマリア商業ギルドのゴールドマン氏にも伝えられた。皆、深刻な表情でこの問題について話し合った。
「このままでは温泉街の評判が下がってしまう」ゴールドマン氏が心配そうに言った。「すでに王都からの訪問者が減少しつつあります」
「何か対策を考えないと…」レイラも同意した。
その時、ぽんずは何かを思いついたように顔を上げた。
「なら、僕が王城に行こう!直接、みんなに温泉の良さを伝えるんだ!」
「それは危険だぞ」エリックが制止した。「カラムはあなたを捕まえようとしているかもしれない」
「でも、黙っていては噂は広がるばかり」ぽんずは真剣な表情で言った。「僕の温泉で多くの人が笑顔になってる。その真実を伝えなくちゃ!」
議論の末、ぽんずが王城を訪問することになった。ただし、エリック、ミナ、そして護衛としてゴールドマン氏の部下たちが同行することとなった。
「気をつけてくださいね」レイラは見送りながら言った。「カラムの罠にはまらないように」
ぽんずは勇敢に頷いた。「大丈夫!温泉の神様が守ってくれるよ!」
---
王城に到着すると、ぽんずたちは予想外の冷たい reception を受けた。前回のような熱烈な歓迎はなく、城内の人々は彼らを警戒するような目で見ていた。
「様子がおかしいですね…」ミナが小声で言った。
「噂の影響は予想以上だ」エリックも眉をひそめた。
アレンの案内で、彼らは王に謁見することができた。アーサー国王は相変わらず温かくぽんずを迎えたが、その表情には微妙な迷いがあった。
「ぽんず様、再びお会いできて嬉しい」国王は言った。「何か問題があるのですか?」
ぽんずは率直に答えた。「カラムさんが僕の温泉について変な噂を広めてるって聞いたんです。本当ですか?」
国王は少し困った表情を見せた。「ああ…カラムの『研究発表』のことですね。彼は宮廷魔導師として、あらゆる魔法現象を科学的に研究する権利があります。彼の言うことにも一理あるかもしれません…」
「どういう内容なのですか?」エリックが尋ねた。
「彼によれば、ぽんず様の温泉は確かに癒しの効果があるが、同時に『精神支配』の可能性も秘めているとのこと。心を弱らせ、『もふもふ教』のような盲目的信仰を生み出す原因になっているのではないかと…」
「そんな…!」ぽんずは驚いて声を上げた。「僕は誰も支配したくないよ!ただみんなを笑顔にしたいだけなのに…」
「わかっています」国王は優しく微笑んだ。「私はあなたを信じています。リリアもあなたの恩を忘れていません。しかし、カラムの言葉も完全に無視するわけにはいかないのです」
その時、黒い長衣をまとった男性が部屋に入ってきた。カラム宮廷魔導師だ。
「陛下、お呼びでしょうか…おや」彼はぽんずを見て、わざとらしく驚いた表情を見せた。「『お風呂の神様』がいらしたとは…」
ぽんずは尻尾を振りながら挨拶した。「こんにちは、カラムさん!僕の温泉について変な噂を広めてるって本当?」
カラムは冷静に微笑んだ。「噂ではありません。純粋な学術的考察です。あなたの温泉に入ると確かに体調は良くなりますが、同時に判断力が鈍り、あなたへの従属心が芽生える現象が観察されています」
「そんなことない!」ミナが反論した。「温泉に入った人はみんな自分の意志で動いています!」
「そうでしょうか?」カラムは片眉を上げた。「『もふもふ教』の儀式を見れば、まるで集団催眠のようではありませんか?」
議論は平行線をたどり、国王も困惑した様子だった。そこでカラムが提案した。
「実験をしてはどうでしょう?ぽんず様の力が本当に安全なものか、客観的に証明する機会です」
「どんな実験?」エリックが警戒して尋ねた。
「明日、大広間で講演会を開きます。そこでぽんず様に力を披露していただき、私が科学的に分析します。その結果を公開すれば、真実が明らかになるでしょう」
国王はこの提案を受け入れた。「それがいいだろう。明日の講演会で決着をつけよう」
ぽんずは少し不安だったが、真実を示すチャンスだと考えて同意した。「わかった。僕の温泉の力が悪いものじゃないって証明するよ!」
---
その夜、ぽんずたちは城内のゲスト用の部屋に案内された。リリア王女が訪ねてきて、事情を説明してくれた。
「カラム様は私が回復した直後から、ぽんず様の力について調査を始めました。最初は純粋な好奇心だと思っていましたが…」
「彼には別の目的があるのか?」エリックが尋ねる。
「私にはわかりません」王女は首を振った。「ただ、彼の研究室からは奇妙な光が漏れ、夜中には不思議な呪文の詠唱が聞こえることがあります」
「気をつけないといけないね」ぽんずは真剣な表情になった。
その夜、ぽんずは眠れずにいた。窓から見える月明かりの中、彼は温泉の神様に語りかけた。
「神様…僕の力は本当に良いものだよね?誰かを傷つけたりしないよね?」
しばらく待ったが、いつものような水面からの反応はなかった。ぽんずは少し寂しげにため息をついた。
「明日、頑張るよ。みんなに真実を伝えるんだ…」
---
翌日、大広間には多くの貴族や学者、騎士たちが集まった。国王と王女も特別席に座り、ぽんずの実演を見守ることになった。
カラムは壇上に立ち、「魔法現象の科学的考察」と題した講演を始めた。彼は様々な図表を示しながら、ぽんずの温泉が人の精神に与える影響について説明した。
「この波形をご覧ください」彼はある装置から出た図を指さした。「これは温泉に入る前と後の精神状態の変化を表しています。一見、穏やかになっているように見えますが、同時に批判的思考能力も低下しているのです」
会場からは驚きの声が上がった。カラムは続けた。
「つまり、温泉の効能は単なる癒しではなく、一種の『精神操作』である可能性が高いのです。『もふもふ教』の異常な熱狂も、こうした影響の結果でしょう」
ぽんずは不安な表情で登壇を見つめていた。カラムの言葉は学術的で説得力があり、会場の雰囲気も次第に変わってきた。
「今日は実演として」カラムは続けた。「ぽんず様に力を披露していただきます。そして、その効果を科学的に測定しましょう」
ぽんずは緊張しながらも壇上に上がった。
「えーと…何をすればいいの?」
「お好きな『魔法』を見せてください」カラムは冷ややかに言った。「我々は客観的に観察するだけです」
ぽんずは考え、「お手」の力を使うことにした。彼が前足を上げると、その周囲に淡い光が広がった。しかし、すぐにカラムが装置を取り出し、その光を分析し始めた。
「これをご覧ください!」彼は興奮した様子で言った。「この光には特殊な波長が含まれています。これは人の精神に作用する催眠効果があるのです!」
会場からさらに驚きの声が上がった。ぽんずは混乱した。彼の力が悪いものだとは思えなかった。
「違うよ!僕の力は癒すためのものだよ!」
「それは証明できますか?」カラムは挑むように言った。
ぽんずは考え込んだ。そして、ふと思いついた。
「なでなで…」
「何ですか?」カラムは首を傾げた。
「なでなで!」ぽんずは大きな声で言った。「みんな、僕をなでなでして!」
これまで使ったことのない言葉だったが、ぽんずは直感的にこれが正しいと感じた。会場は静まり返り、誰も動かなかった。
「ほら、みんな怖がってる」カラムは勝ち誇ったように言った。「これが真実です。彼の力は人々を恐れさせるのです」
その時、リリア王女が立ち上がった。
「私はぽんず様を信じます」彼女は堂々と言い、壇上に上がった。そして、ぽんずの柔らかい毛をなでた。
「なでなで…」
その瞬間、不思議なことが起きた。ぽんずの体から輝くような光が放たれ、それが王女の体を包み込んだ。彼女の表情が和らぎ、目に涙が浮かんだ。
「あ…」彼女は驚いた声を上げた。「私の心の中に…温かいものが…」
王女の様子を見て、国王も壇上に上がり、ぽんずをなでた。すると彼も同じように光に包まれ、驚きの表情を浮かべた。
「これは…心の中の不安や恐れが消えていく感覚だ…」
次々と貴族たちもぽんずに近づき、「なでなで」をした。全員が同じような体験をし、会場は徐々に笑顔で満たされていった。
「な、何が起きているんだ…」カラムは混乱した様子で後ずさった。
「これが僕の本当の力だよ」ぽんずは静かに言った。「心の中の闇を消し、笑顔を作る力なんだ」
カラムは自分の実験装置を見つめたが、それは意味不明な数値を示していた。彼の「科学的」分析は、この現象を説明できなかったのだ。
「ほら、カラムさんもなでなでしてみて?」ぽんずは無邪気に誘った。
「ふ、愚かな…」カラムは拒否しようとしたが、会場からの圧力もあり、渋々ぽんずに手を伸ばした。
「なでなで…」
彼がぽんずの毛をなでた瞬間、光は彼も包み込んだ。カラムの表情が一変した。硬かった顔つきが和らぎ、目には驚きの色が浮かんだ。
「これは…!」
カラムの体から黒い霧のようなものが抜けていくのが見えた。それは彼の心の闇、恐れ、野心の象徴のようだった。
「私の中の…怒りが…消えていく…」
彼はぽんずをなで続け、やがて涙を流し始めた。会場は静まり返った。
「私は…間違っていた…」カラムは震える声で言った。「これは精神操作などではない。純粋な…癒しだ…」
国王は満足そうに頷いた。「これで真実が明らかになったな。ぽんず様の力は我々を脅かすものではなく、助けるものだ」
カラムは頭を下げた。「申し訳ありません。私は…科学的な好奇心から真実を見失っていました」
---
その後、カラムはぽんずたちに真実を打ち明けた。彼は確かにぽんずの力を研究していたが、それは単なる好奇心からではなかった。彼にも家族がおり、重い病に苦しむ妹がいたのだ。
「私は妹を救いたかった…」カラムは静かに言った。「そのために、あなたの力の秘密を解明しようとしていたのです」
「妹さんが病気なの?」ぽんずは心配そうに尋ねた。
「ええ。彼女は10年前から『永眠の病』と呼ばれる不思議な病に苦しんでいます。普通の治療法では効果がなく…」
「なら、僕の温泉で治せるかもしれないよ!」ぽんずは元気よく言った。
カラムは驚いた表情を見せた。「本当に…?でも、私はあなたを中傷したのに…」
「いいんだよ」ぽんずは尻尾を振った。「困ってる人がいるなら、助けたいな」
カラムの妹・エレナは王城から離れた療養所にいた。彼女は10年前から眠り続け、時々目を覚ますものの、すぐにまた眠りに落ちてしまうという症状だった。
ぽんずたちはカラムと共に療養所を訪れ、エレナを「ぽんずの聖湯」に連れて行った。ぽんずは温泉の力を使い、「お手」「待て」「伏せ」そして「なでなで」の力を組み合わせて彼女を治療した。
「うぅ…」エレナはゆっくりと目を開けた。彼女はまだ弱々しかったが、確かに意識を取り戻していた。
「エレナ!」カラムは涙ながらに妹の名を呼んだ。
「お兄ちゃん…?私は…どれくらい眠っていたの…?」
「10年だ…でも、もう大丈夫だ。ぽんず様のおかげで、君は目覚めたんだ」
エレナはぽんずを見て、弱々しく微笑んだ。「ありがとう…ぽんず様…」
カラムはぽんずの前に跪いた。「申し訳ありません…私は疑い、あなたの邪魔をしました。しかし今、その素晴らしい力を目の当たりにして…心から感謝します」
ぽんずは照れたように頭を掻いた。「いいんだよ。みんなが笑顔になれば、それでいいんだ」
---
翌日、宮廷で公式の発表が行われた。カラムは自らの誤りを認め、ぽんずの力が「純粋な癒しの力」であることを科学的に証明したと宣言した。
「私は『なでなで』の力を分析しました」彼は真剣な表情で言った。「それは人の心の中にある『闇』を浄化し、本来の自分を取り戻させる神秘的な力です。副作用や危険性は一切なく、むしろ精神を健全にする効果があります」
この発表により、一時低下していたぽんずの信頼は一気に回復した。むしろ、「なでなで」の新たな力の噂が広まり、より多くの人々がぽんずタウンを訪れるようになった。
カラムは国王の許可を得て、一時的に宮廷魔導師の職を離れ、ぽんずの研究に専念することになった。
「ぽんず様の力は、まだ多くの可能性を秘めています」彼は熱心に語った。「特に『なでなで』の力は、これまでの魔法理論では説明できない現象です。これを解明すれば、医療や精神治療の分野で革命が起きるかもしれません」
ぽんずはカラムの熱意に少し圧倒されながらも、新たな仲間ができたことを喜んでいた。
ぽんずタウンに戻る途中、彼は再び神湯の水面に温泉の神様の姿を見た。
「よくやった、我が使いよ。敵をも味方に変える力を見せたな」
「神様!『なでなで』の力はどこから来たの?」
「それはあなたの心から生まれたもの。人々を本当に思いやる気持ちが、新たな力となったのだ」
「でも、僕はまだ力の使い方をよく分かってない…」
「心配するな。あなたはまだ成長している。新たな力も、必要な時に目覚めるだろう」
神様の姿は消え、ぽんずは空を見上げた。彼の冒険はまだ始まったばかり。これからも温泉の力で多くの人々を救い、テラマリアに平和をもたらしていく——それが彼の使命なのだから。
しかし、遠い北の地では、冷王が彼の噂を聞き、不気味な笑みを浮かべていた。
「『なでなで』の力…それも私のものにしてみせよう…」
ぽんずの平和な日々は、まだしばらく続くことになる。しかし、大きな試練がじわじわと近づいていた。
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