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第20話「新たな脅威、新たな旅立ち」
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移動要塞への準備が急ピッチで進む中、東の空は依然として異様な色に染まっていた。紫がかった赤い光が地平線を覆い、時折閃光が走るのが見えた。
御影要は要塞の中央塔の最上階から、この不気味な光景を見つめていた。村全体を感知する彼の感覚は、遠方から押し寄せる魔力の波を明確に捉えていた。それは規則性のない、まるで生き物のように脈動する波だった。
「予想以上に状況は深刻ね」
背後からヴァレリアの声がした。彼女は昨夜から要塞に留まり、魔力暴走に関する情報を提供していた。彼女の表情は疲労と後悔の色に染まっていた。
「王都からの最新情報は?」
要が振り向くと、ヴァレリアは小さく溜息をついた。
「断片的な通信魔法が届いたわ。状況は悪化の一途を辿っているみたい」
彼女は手の中の魔法結晶を見つめながら続けた。
「中央宮殿の塔が崩落し、魔法学院は完全に機能停止。死傷者は数百人に上るとの報告…」
要は黙って頷いた。想像していた以上の惨事が起きているようだった。
「兄は?」
ヴァレリアは肩を落とした。
「クロードは…王都防衛のため急遽呼び戻されたわ。彼もまた、私たちがしてしまったことの責任を取らざるを得ない」
その時、階段を駆け上がる足音がして、エリシアとミラが現れた。二人は昨夜から古文書と魔力暴走の研究に没頭していた。
「重要な発見がありました」
エリシアが息を切らせながら報告した。
「古文書の詳細な解読とミラさんのダンジョンマスターとしての知識を組み合わせたところ、今回の現象の正体が見えてきました」
ミラが補足した。
「これは単なる魔力事故ではありません。『大陸魔力網』と呼ばれる、この世界を覆う魔力の巨大ネットワークの崩壊が始まっているのです」
要は二人の報告に集中した。
「大陸魔力網?詳しく説明してくれ」
エリシアが取り出した古い羊皮紙には、大陸全体を覆う網目状の線が描かれていた。
「かつてこの大陸には、魔力を安定させるための『網』が張り巡らされていました。『精霊の里』と呼ばれる特殊な場所が節点となり、魔力を循環させる役割を担っていたのです」
ミラが続けた。
「しかし古代戦争の結果、その網は傷つき、多くの『精霊の里』は失われました。残された『場所の意志』は封印されるか、眠りについた…」
ヴァレリアが自責の念を込めて付け加えた。
「私が『紫の賢者』の遺跡で見つけたのは、封印された『場所の意志』の断片。それを解放したことで、バランスが崩れてしまったのね…」
要は考え込んだ。彼自身も「場所の意志」として転生した存在。彼と同じような存在が他にもいたという事実は、驚きであり、また何かの可能性を感じさせた。
「我々の要塞がどう関われるというのだ?」
エリシアが興奮した様子で答えた。
「要さんは『場所の意志』として機能している上に、ダンジョンの力も融合させています。つまり、『精霊の里』の代替として、魔力網の節点になれる可能性があるのです!」
ミラもうなずいた。
「要さんの力が王都に届けば、暴走する魔力を安定させられるかもしれません」
要は窓の外を見た。彼の意識は要塞全体を包み込み、その状態を確認していた。確かに「ダンジョン要塞化」と「地盤移動」のスキルを獲得したことで、新たな可能性が開けていた。
「分かった。準備を急ごう」
彼は決意を固め、塔を下りた。
中央広場では、フィンとガストンの指揮の下、住民たちが移動の準備に取り組んでいた。食料や水の確保、貴重品の梱包、家財道具の固定など、やるべきことは山積みだった。
「予定より早く出発することになりそうだ」
要が広場に現れると、フィンが進捗状況を報告した。
「基本的な準備は整いつつあります。しかし、移動中の揺れに対する対策が心配です」
ガストンが実用的な提案を加えた。
「建物の補強は進めています。ですが、移動の振動がどの程度になるのか予測できないのが問題です」
要はうなずき、二人を励ました。
「できる限りの準備をしてくれ。私も要塞全体の構造を強化する」
彼は集まりつつあった村人たちに向けて宣言した。
「皆さん、状況が変わった。王都の魔力暴走は予想以上に深刻で、一刻も早く対応する必要がある。明日の夜明けには出発したい」
住民たちからは驚きと不安の声が上がったが、それと同時に、決意の表情も見られた。彼らは既に多くの危機を乗り越えてきた。今回もまた、共に立ち向かう覚悟ができていた。
「御影さん」
リオが前に出てきた。彼の表情は不安と決意が入り混じっていた。
「みんなを助けるために行くんですよね?それなら僕たちも全力で支えます」
リオの言葉に、多くの住民が同意の声を上げた。彼らにとって、御影要は単なる「場所」ではなく、共に生きる仲間だった。
「ありがとう」
要は感謝の意を表し、次の行動に移った。
日が傾き始めた頃、議事堂に評議員たちが集められた。オーウェンも北方からの偵察を終え、合流していた。
「情勢報告する」
オーウェンは地図を広げながら説明を始めた。
「北方の村々も異変を感じ始めている。動物が凶暴化し、作物の成長が異常に速まるなど、魔力の影響と思われる現象が報告されている」
彼は東を指さした。
「さらに東方では、空から魔力の雨が降り、触れたものを変質させているという。王都はその中心にあり、状況は最悪だ」
ヴァレリアが補足した。
「王宮の魔力研究所も機能停止。魔導師たちは対策を講じようとしているが、効果は限定的です」
要は状況を整理した。
「移動要塞として出発した後、どのルートを通るのが最善だろうか」
オーウェンは地図上に線を引いた。
「南ルートは山岳地帯があり、要塞の移動には適さない。北ルートは平地が多いが、距離が遠い。最も現実的なのは、東の森を抜ける直線ルートだ」
フィンが懸念を示した。
「東の森には盗賊団の残党が潜んでいるという情報もあります。また、魔力暴走の影響が最も強い地域でもある」
ミラが意見を述べた。
「しかし、魔力暴走が強い地域こそ、要さんの力が最も必要とされる場所。通過しながら影響を安定化できるかもしれません」
評議の結果、東の森を通る直線ルートを選択することに決まった。危険は大きいが、時間的制約と要の能力を考慮すれば、最も合理的な判断だった。
「では、移動の詳細を確認しよう」
要は自らの新たなスキルについて説明した。
「『地盤移動』のスキルは、要塞の基礎となる地盤ごと移動する能力だ。ゆっくりとした速度だが、要塞全体を損なうことなく移動できる」
エリシアが質問した。
「一日にどれくらいの距離を移動できますか?」
「現在のスキルレベルでは、一日に約5キロメートルが限界だろう。王都までの距離を考えると、最低でも一週間はかかる」
オーウェンが頷いた。
「遅いが、軍隊の行軍より速い。問題は移動中の防衛だ」
要は防衛計画も共有した。
「移動中も『ダンジョン要塞化』の能力は維持される。壁と四つの塔による防御、そしてダンジョン内の魔物たちも敵対者には対応する」
フィンが実務的な懸念を示した。
「移動中の揺れは?住民の生活への影響は?」
「極力揺れを抑える努力はするが、ある程度の動揺は避けられない。特に脆い物品や年配の住民への配慮が必要だ」
ガストンが提案した。
「私が特殊な防振装置を作成します。主要な建物には設置できるでしょう」
準備と計画が進む中、夕刻になると東の空の異変がさらに顕著になった。赤紫の光は強まり、時折雷のような閃光が走るようになった。
「魔力暴走が加速している」
エリシアが不安げに空を見上げた。
「このままでは…」
その時、遠方から急いでくる一団が西門に到着した。先頭にはクロード・クリスタルの姿があった。彼は疲労困憊し、装備も損傷していたが、緊迫感に満ちた様子で要塞に入ってきた。
オーウェンとフィンが警戒して迎え、クロードはすぐに要の前に連れてこられた。
「何の用だ?」
要の声は冷たかった。
クロードは以前の高慢さを失い、真剣な表情で頭を下げた。
「力を貸してほしい。王都は崩壊の危機にある」
彼は簡潔に状況を説明した。魔力暴走は想像を絶する速さで広がり、王宮の半分は既に崩壊、都市の東部は「魔力の嵐」に飲み込まれ、多くの市民が避難できずにいるという。
「我々の部隊は民間人の救出に全力を注いでいるが、魔力そのものを制御する術がない」
彼はヴァレリアを見つけ、安堵の表情を浮かべた。
「姉上、無事だったか」
ヴァレリアはクロードに歩み寄った。
「私たちがしてしまったことよ、クロード。これは私たちが責任を取るべき事態」
クロードは苦々しい表情でうなずいた。
「その通りだ。だからこそ…」
彼は再び要に向き直った。
「あなたの力が必要なのだ。王都の民を救ってほしい」
要は沈黙した。クロードは以前、彼を抑制し、村を占領しようとした敵だ。しかし今、彼の前には民を憂う一人の騎士がいた。
「我々は既に王都へ向かう準備をしている」
要は静かに答えた。
「明日の夜明けに出発する予定だ」
クロードは驚きの表情を見せた。
「要塞ごと?どうやって?」
要は簡潔に「地盤移動」のスキルについて説明した。クロードは困惑しながらも、希望の光を見出したように見えた。
「しかし、一日5キロメートルでは…」
「そう、王都に到着するまでに時間がかかる。だからこそ、できる限りの準備が必要だ」
クロードは考え込み、決断したように頷いた。
「私の部隊を置いていきたい。彼らは王都防衛の経験があり、移動中の要塞防衛にも役立つだろう」
要はオーウェンに視線を送り、彼の意見を求めた。
オーウェンは少し躊躇したが、実利を優先した判断を下した。
「戦力として有用です。受け入れるべきでしょう」
要はクロードの申し出を受け入れた。過去の敵対関係を超えて、今は共通の危機に立ち向かう時だった。
夜が更けていく中、準備は最終段階に入った。住民たちは家々を補強し、貴重品を安全な場所に移し、移動中の生活に備えていた。要は要塞全体を巡回し、構造の強化と安定化に力を注いだ。
深夜、中央広場に評議員たちが再び集まった。空には不気味な光が広がり続け、遠方からは時折、鈍い轟音が聞こえていた。
「最終確認をしよう」
要が皆の顔を見回した。
「フィン、物資の状況は?」
「食料と水は二週間分を確保。移動中も最低限の生活は保証できます」
「ガストン、建物の補強は?」
「主要な建物には防振装置を設置完了。ダンジョン部分も安定化しました」
「オーウェン、防衛体制は?」
「四つの塔に見張りを配置。クロードの部隊も含め、交代制で監視を続けます」
「エリシア、ミラ、魔力の研究は?」
二人は魔力網の地図を広げた。
「王都に近づくにつれ、要さんの『場所の意志』としての力が魔力網を安定させる可能性が高まります。ただし、近づきすぎると逆に飲み込まれる危険もあります」
「リオ、住民たちの状況は?」
「不安はありますが、みんな協力的です。特に子どもたちと高齢者の安全確保を徹底しています」
要はすべての報告を受け、満足げに頷いた。
「よし、あとは…」
彼は東の空を見上げた。光はさらに強まり、雲が渦を巻くように動いていた。
「明日の夜明け、我々は動き出す」
評議員たちは厳粛な面持ちで頷いた。彼らは未知の旅に出ようとしていた。村として始まり、ダンジョンへと進化し、今や移動要塞となる彼らの共同体。その行く末には多くの危険が待ち受けているだろうが、彼らには強い絆があった。
夜明け前、東の空がわずかに白み始めた頃、要塞全体に要の声が響き渡った。
「皆さん、準備はいいですか?」
住民たちは家の中で、あるいは広場で、その声に耳を傾けた。
「これから我々は前例のない旅に出ます。不安もあるでしょう。しかし、皆さんと共に乗り越えられないことはないと信じています」
要の声には力強さと温かさが混ざっていた。
「王都の民を救うため、そして我々自身の未来のために、『移動要塞みかげ』として進みましょう」
広場の中央に要の姿が現れた。半透明ながらも、以前より実体に近い形で現れるようになっていた。彼は両手を地面に押し当て、新たなスキルを発動させた。
「地盤移動、開始」
地面に青い光の筋が走り、要塞全体を包み込んだ。最初は微かな震動だけだったが、やがてそれは徐々に大きくなり、要塞が動き始めたことを告げていた。
壁や塔、家々はその位置を保ったまま、地盤ごと東へと動き始めた。それは非常にゆっくりとした動きだったが、確かに進んでいた。
住民たちは窓から外を見て、景色が少しずつ変わっていくのを不思議そうに見つめていた。子どもたちは興奮し、大人たちは畏敬の念を抱きながら、この歴史的瞬間を目撃していた。
評議員たちは中央塔に集まり、移動の様子を見守っていた。
「本当に動いている…」
フィンは驚きを隠せない様子だった。
オーウェンは厳粛な表情で頷いた。
「伝説の移動要塞が現実になるとは」
エリシアは魔力の流れを観測しながら興奮した様子で報告した。
「素晴らしい!要さんの魔力が地盤全体を包み込み、摩擦を減らしながら移動させています。理論上は不可能なはずなのに!」
ミラも感嘆の声を上げた。
「ダンジョンマスターの記録にもこのような例はありません。要さんは新たな歴史を創っているのです」
リオは窓から外を見つめ、静かに呟いた。
「御影さん…本当にすごいです」
要は全身全霊を込めて要塞を動かし続けていた。「地盤移動」のスキルは想像以上に魔力を消費したが、住民たちの思いがそれを支えているようだった。
要塞は森の中へと進んでいった。巨大な壁が木々を押しのけ、新たな道を切り開いていく。塔からは見張りが周囲を警戒し、内部では住民たちが新しい日常を始めようとしていた。
それは前例のない挑戦だった。「村」として始まり、「ダンジョン」へと進化し、今や「移動要塞」となった彼らの旅。この先には多くの困難が待ち受けているだろうが、彼らには乗り越えられないことはなかった。
【御影要】
【村レベル:8】
【住民数:100+】
【スキル:地盤移動(初級)発動中】
【状況:移動要塞として東へ進行中】
【次の目標:王都に到達し、魔力暴走を鎮静化する】
東の空には依然として不気味な光が広がっていたが、それに向かって進む要塞の姿は、希望の象徴のように輝いていた。
---
御影要は要塞の中央塔の最上階から、この不気味な光景を見つめていた。村全体を感知する彼の感覚は、遠方から押し寄せる魔力の波を明確に捉えていた。それは規則性のない、まるで生き物のように脈動する波だった。
「予想以上に状況は深刻ね」
背後からヴァレリアの声がした。彼女は昨夜から要塞に留まり、魔力暴走に関する情報を提供していた。彼女の表情は疲労と後悔の色に染まっていた。
「王都からの最新情報は?」
要が振り向くと、ヴァレリアは小さく溜息をついた。
「断片的な通信魔法が届いたわ。状況は悪化の一途を辿っているみたい」
彼女は手の中の魔法結晶を見つめながら続けた。
「中央宮殿の塔が崩落し、魔法学院は完全に機能停止。死傷者は数百人に上るとの報告…」
要は黙って頷いた。想像していた以上の惨事が起きているようだった。
「兄は?」
ヴァレリアは肩を落とした。
「クロードは…王都防衛のため急遽呼び戻されたわ。彼もまた、私たちがしてしまったことの責任を取らざるを得ない」
その時、階段を駆け上がる足音がして、エリシアとミラが現れた。二人は昨夜から古文書と魔力暴走の研究に没頭していた。
「重要な発見がありました」
エリシアが息を切らせながら報告した。
「古文書の詳細な解読とミラさんのダンジョンマスターとしての知識を組み合わせたところ、今回の現象の正体が見えてきました」
ミラが補足した。
「これは単なる魔力事故ではありません。『大陸魔力網』と呼ばれる、この世界を覆う魔力の巨大ネットワークの崩壊が始まっているのです」
要は二人の報告に集中した。
「大陸魔力網?詳しく説明してくれ」
エリシアが取り出した古い羊皮紙には、大陸全体を覆う網目状の線が描かれていた。
「かつてこの大陸には、魔力を安定させるための『網』が張り巡らされていました。『精霊の里』と呼ばれる特殊な場所が節点となり、魔力を循環させる役割を担っていたのです」
ミラが続けた。
「しかし古代戦争の結果、その網は傷つき、多くの『精霊の里』は失われました。残された『場所の意志』は封印されるか、眠りについた…」
ヴァレリアが自責の念を込めて付け加えた。
「私が『紫の賢者』の遺跡で見つけたのは、封印された『場所の意志』の断片。それを解放したことで、バランスが崩れてしまったのね…」
要は考え込んだ。彼自身も「場所の意志」として転生した存在。彼と同じような存在が他にもいたという事実は、驚きであり、また何かの可能性を感じさせた。
「我々の要塞がどう関われるというのだ?」
エリシアが興奮した様子で答えた。
「要さんは『場所の意志』として機能している上に、ダンジョンの力も融合させています。つまり、『精霊の里』の代替として、魔力網の節点になれる可能性があるのです!」
ミラもうなずいた。
「要さんの力が王都に届けば、暴走する魔力を安定させられるかもしれません」
要は窓の外を見た。彼の意識は要塞全体を包み込み、その状態を確認していた。確かに「ダンジョン要塞化」と「地盤移動」のスキルを獲得したことで、新たな可能性が開けていた。
「分かった。準備を急ごう」
彼は決意を固め、塔を下りた。
中央広場では、フィンとガストンの指揮の下、住民たちが移動の準備に取り組んでいた。食料や水の確保、貴重品の梱包、家財道具の固定など、やるべきことは山積みだった。
「予定より早く出発することになりそうだ」
要が広場に現れると、フィンが進捗状況を報告した。
「基本的な準備は整いつつあります。しかし、移動中の揺れに対する対策が心配です」
ガストンが実用的な提案を加えた。
「建物の補強は進めています。ですが、移動の振動がどの程度になるのか予測できないのが問題です」
要はうなずき、二人を励ました。
「できる限りの準備をしてくれ。私も要塞全体の構造を強化する」
彼は集まりつつあった村人たちに向けて宣言した。
「皆さん、状況が変わった。王都の魔力暴走は予想以上に深刻で、一刻も早く対応する必要がある。明日の夜明けには出発したい」
住民たちからは驚きと不安の声が上がったが、それと同時に、決意の表情も見られた。彼らは既に多くの危機を乗り越えてきた。今回もまた、共に立ち向かう覚悟ができていた。
「御影さん」
リオが前に出てきた。彼の表情は不安と決意が入り混じっていた。
「みんなを助けるために行くんですよね?それなら僕たちも全力で支えます」
リオの言葉に、多くの住民が同意の声を上げた。彼らにとって、御影要は単なる「場所」ではなく、共に生きる仲間だった。
「ありがとう」
要は感謝の意を表し、次の行動に移った。
日が傾き始めた頃、議事堂に評議員たちが集められた。オーウェンも北方からの偵察を終え、合流していた。
「情勢報告する」
オーウェンは地図を広げながら説明を始めた。
「北方の村々も異変を感じ始めている。動物が凶暴化し、作物の成長が異常に速まるなど、魔力の影響と思われる現象が報告されている」
彼は東を指さした。
「さらに東方では、空から魔力の雨が降り、触れたものを変質させているという。王都はその中心にあり、状況は最悪だ」
ヴァレリアが補足した。
「王宮の魔力研究所も機能停止。魔導師たちは対策を講じようとしているが、効果は限定的です」
要は状況を整理した。
「移動要塞として出発した後、どのルートを通るのが最善だろうか」
オーウェンは地図上に線を引いた。
「南ルートは山岳地帯があり、要塞の移動には適さない。北ルートは平地が多いが、距離が遠い。最も現実的なのは、東の森を抜ける直線ルートだ」
フィンが懸念を示した。
「東の森には盗賊団の残党が潜んでいるという情報もあります。また、魔力暴走の影響が最も強い地域でもある」
ミラが意見を述べた。
「しかし、魔力暴走が強い地域こそ、要さんの力が最も必要とされる場所。通過しながら影響を安定化できるかもしれません」
評議の結果、東の森を通る直線ルートを選択することに決まった。危険は大きいが、時間的制約と要の能力を考慮すれば、最も合理的な判断だった。
「では、移動の詳細を確認しよう」
要は自らの新たなスキルについて説明した。
「『地盤移動』のスキルは、要塞の基礎となる地盤ごと移動する能力だ。ゆっくりとした速度だが、要塞全体を損なうことなく移動できる」
エリシアが質問した。
「一日にどれくらいの距離を移動できますか?」
「現在のスキルレベルでは、一日に約5キロメートルが限界だろう。王都までの距離を考えると、最低でも一週間はかかる」
オーウェンが頷いた。
「遅いが、軍隊の行軍より速い。問題は移動中の防衛だ」
要は防衛計画も共有した。
「移動中も『ダンジョン要塞化』の能力は維持される。壁と四つの塔による防御、そしてダンジョン内の魔物たちも敵対者には対応する」
フィンが実務的な懸念を示した。
「移動中の揺れは?住民の生活への影響は?」
「極力揺れを抑える努力はするが、ある程度の動揺は避けられない。特に脆い物品や年配の住民への配慮が必要だ」
ガストンが提案した。
「私が特殊な防振装置を作成します。主要な建物には設置できるでしょう」
準備と計画が進む中、夕刻になると東の空の異変がさらに顕著になった。赤紫の光は強まり、時折雷のような閃光が走るようになった。
「魔力暴走が加速している」
エリシアが不安げに空を見上げた。
「このままでは…」
その時、遠方から急いでくる一団が西門に到着した。先頭にはクロード・クリスタルの姿があった。彼は疲労困憊し、装備も損傷していたが、緊迫感に満ちた様子で要塞に入ってきた。
オーウェンとフィンが警戒して迎え、クロードはすぐに要の前に連れてこられた。
「何の用だ?」
要の声は冷たかった。
クロードは以前の高慢さを失い、真剣な表情で頭を下げた。
「力を貸してほしい。王都は崩壊の危機にある」
彼は簡潔に状況を説明した。魔力暴走は想像を絶する速さで広がり、王宮の半分は既に崩壊、都市の東部は「魔力の嵐」に飲み込まれ、多くの市民が避難できずにいるという。
「我々の部隊は民間人の救出に全力を注いでいるが、魔力そのものを制御する術がない」
彼はヴァレリアを見つけ、安堵の表情を浮かべた。
「姉上、無事だったか」
ヴァレリアはクロードに歩み寄った。
「私たちがしてしまったことよ、クロード。これは私たちが責任を取るべき事態」
クロードは苦々しい表情でうなずいた。
「その通りだ。だからこそ…」
彼は再び要に向き直った。
「あなたの力が必要なのだ。王都の民を救ってほしい」
要は沈黙した。クロードは以前、彼を抑制し、村を占領しようとした敵だ。しかし今、彼の前には民を憂う一人の騎士がいた。
「我々は既に王都へ向かう準備をしている」
要は静かに答えた。
「明日の夜明けに出発する予定だ」
クロードは驚きの表情を見せた。
「要塞ごと?どうやって?」
要は簡潔に「地盤移動」のスキルについて説明した。クロードは困惑しながらも、希望の光を見出したように見えた。
「しかし、一日5キロメートルでは…」
「そう、王都に到着するまでに時間がかかる。だからこそ、できる限りの準備が必要だ」
クロードは考え込み、決断したように頷いた。
「私の部隊を置いていきたい。彼らは王都防衛の経験があり、移動中の要塞防衛にも役立つだろう」
要はオーウェンに視線を送り、彼の意見を求めた。
オーウェンは少し躊躇したが、実利を優先した判断を下した。
「戦力として有用です。受け入れるべきでしょう」
要はクロードの申し出を受け入れた。過去の敵対関係を超えて、今は共通の危機に立ち向かう時だった。
夜が更けていく中、準備は最終段階に入った。住民たちは家々を補強し、貴重品を安全な場所に移し、移動中の生活に備えていた。要は要塞全体を巡回し、構造の強化と安定化に力を注いだ。
深夜、中央広場に評議員たちが再び集まった。空には不気味な光が広がり続け、遠方からは時折、鈍い轟音が聞こえていた。
「最終確認をしよう」
要が皆の顔を見回した。
「フィン、物資の状況は?」
「食料と水は二週間分を確保。移動中も最低限の生活は保証できます」
「ガストン、建物の補強は?」
「主要な建物には防振装置を設置完了。ダンジョン部分も安定化しました」
「オーウェン、防衛体制は?」
「四つの塔に見張りを配置。クロードの部隊も含め、交代制で監視を続けます」
「エリシア、ミラ、魔力の研究は?」
二人は魔力網の地図を広げた。
「王都に近づくにつれ、要さんの『場所の意志』としての力が魔力網を安定させる可能性が高まります。ただし、近づきすぎると逆に飲み込まれる危険もあります」
「リオ、住民たちの状況は?」
「不安はありますが、みんな協力的です。特に子どもたちと高齢者の安全確保を徹底しています」
要はすべての報告を受け、満足げに頷いた。
「よし、あとは…」
彼は東の空を見上げた。光はさらに強まり、雲が渦を巻くように動いていた。
「明日の夜明け、我々は動き出す」
評議員たちは厳粛な面持ちで頷いた。彼らは未知の旅に出ようとしていた。村として始まり、ダンジョンへと進化し、今や移動要塞となる彼らの共同体。その行く末には多くの危険が待ち受けているだろうが、彼らには強い絆があった。
夜明け前、東の空がわずかに白み始めた頃、要塞全体に要の声が響き渡った。
「皆さん、準備はいいですか?」
住民たちは家の中で、あるいは広場で、その声に耳を傾けた。
「これから我々は前例のない旅に出ます。不安もあるでしょう。しかし、皆さんと共に乗り越えられないことはないと信じています」
要の声には力強さと温かさが混ざっていた。
「王都の民を救うため、そして我々自身の未来のために、『移動要塞みかげ』として進みましょう」
広場の中央に要の姿が現れた。半透明ながらも、以前より実体に近い形で現れるようになっていた。彼は両手を地面に押し当て、新たなスキルを発動させた。
「地盤移動、開始」
地面に青い光の筋が走り、要塞全体を包み込んだ。最初は微かな震動だけだったが、やがてそれは徐々に大きくなり、要塞が動き始めたことを告げていた。
壁や塔、家々はその位置を保ったまま、地盤ごと東へと動き始めた。それは非常にゆっくりとした動きだったが、確かに進んでいた。
住民たちは窓から外を見て、景色が少しずつ変わっていくのを不思議そうに見つめていた。子どもたちは興奮し、大人たちは畏敬の念を抱きながら、この歴史的瞬間を目撃していた。
評議員たちは中央塔に集まり、移動の様子を見守っていた。
「本当に動いている…」
フィンは驚きを隠せない様子だった。
オーウェンは厳粛な表情で頷いた。
「伝説の移動要塞が現実になるとは」
エリシアは魔力の流れを観測しながら興奮した様子で報告した。
「素晴らしい!要さんの魔力が地盤全体を包み込み、摩擦を減らしながら移動させています。理論上は不可能なはずなのに!」
ミラも感嘆の声を上げた。
「ダンジョンマスターの記録にもこのような例はありません。要さんは新たな歴史を創っているのです」
リオは窓から外を見つめ、静かに呟いた。
「御影さん…本当にすごいです」
要は全身全霊を込めて要塞を動かし続けていた。「地盤移動」のスキルは想像以上に魔力を消費したが、住民たちの思いがそれを支えているようだった。
要塞は森の中へと進んでいった。巨大な壁が木々を押しのけ、新たな道を切り開いていく。塔からは見張りが周囲を警戒し、内部では住民たちが新しい日常を始めようとしていた。
それは前例のない挑戦だった。「村」として始まり、「ダンジョン」へと進化し、今や「移動要塞」となった彼らの旅。この先には多くの困難が待ち受けているだろうが、彼らには乗り越えられないことはなかった。
【御影要】
【村レベル:8】
【住民数:100+】
【スキル:地盤移動(初級)発動中】
【状況:移動要塞として東へ進行中】
【次の目標:王都に到達し、魔力暴走を鎮静化する】
東の空には依然として不気味な光が広がっていたが、それに向かって進む要塞の姿は、希望の象徴のように輝いていた。
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田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
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封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する
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異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
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俺は異世界転生者カドマツ。
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帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!
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田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
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あれ?オーウェンて5人グループで来たよね?他の4人は住人にならなかったのかな?