式神プログラマー ~ 量子呪術の叛逆者~

ソコニ

文字の大きさ
20 / 30

第20話:「新たなる旅立ち」

しおりを挟む

東京テクノタワーでの九尾との戦いから一夜明けた朝、蓮たちは次の行動計画を話し合っていた。志乃のアパートに集まった三人は、それぞれの役割分担を決めていく。

「如月零の症状は安定しているわ」と凛が報告する。「でも、意識は戻っていない。何か重要な情報を持っている可能性があるから、しっかり保護する必要があるわね」

「彼女を『式神解放同盟』の隠れ家に移すのが良さそうだな」と蓮が提案する。「そこなら、黒陰にも政府にも見つからないだろう」

凛は頷く。「そうね。私が連れていくわ。同時に同盟のメンバーにも状況を説明して、協力を仰ぐつもり」

志乃はタブレットに向かって黙々と作業を続けていた。「私は昨晩からハッキングを続けているの。政府のデータベースに少しずつ侵入して、『禁忌データセンター』と『神機』に関する情報を探しているわ」

「何か見つかった?」と蓮が尋ねる。

「まだ断片的な情報しかないけど...」と志乃は画面を指さす。「この『禁忌データセンター』、公式記録では20年前に閉鎖された軍事研究施設ってことになっているわ。でも、電力使用量のデータを見ると、今も大量の電力を消費している」

「活動中ってことか」と蓮が考え込む。

「それだけじゃないわ」と志乃は続ける。「政府の極秘予算の一部がそこに流れている形跡もある。そして、そのプロジェクト名が...『神機復元計画』」

「やはり」と白狐が静かに言った。彼は窓際に立ち、外の景色を眺めていた。「九尾の事件は、より大きな計画の一部だったのだ」

「俺と白狐で『禁忌データセンター』を直接調査してみよう」と蓮が決意を示す。「志乃は引き続き情報収集を頼む。凛は零の保護と『式神解放同盟』との連携を」

全員が頷き、それぞれの準備を始める。蓮はバックパックに必要最低限の装備を詰め、白狐はエネルギーを回復するための瞑想を済ませた。

「気をつけて」と凛が蓮に言う。彼女の目には心配の色が浮かんでいた。「何かあったらすぐに連絡して」

「ああ」と蓮は頷く。「君たちも気をつけろよ」

別れ際、志乃は蓮に小さなデバイスを手渡した。「これ、新しく作ったの。緊急用よ。何かあったら使って」

蓮はデバイスをポケットに入れ、微笑む。「ありがとう」

---

数時間後、蓮と白狐は東京郊外の山間部にいた。志乃から受け取った座標を頼りに、人里離れた場所へと向かう。周囲は鬱蒼とした森で覆われ、時折野生動物の気配を感じる程度の静けさだった。

「本当にこんな場所に研究施設があるのか?」と蓮は疑問を抱きながら、斜面を登っていく。

「ある」と白狐は確信を持って答えた。「式神エネルギーの反応を感じる。しかも、かなり強い」

二人が小高い丘を登りきると、谷間に広がる施設が見えてきた。一見すると古びた研究所のように見える。1970年代に建てられたような古めかしい建築様式で、壁には苔が生え、窓ガラスの一部は割れていた。

「これが『禁忌データセンター』...?」と蓮は首を傾げる。「廃墟のようだが...」

白狐は目を細める。「見かけに騙されるな。周囲には強力なデジタル結界が張られている」

確かに、蓮のデバイスは近づくにつれて異常な反応を示し始めた。画面にノイズが走り、GPS機能も不安定になる。

「どうやって中に入る?」と蓮が問いかける。

「通常の方法では難しいだろう」と白狐は答える。「この結界は最新鋭のセキュリティシステムと古代の陰陽術が融合したものだ」

二人が侵入方法を模索していると、突然、蓮のデバイスが鳴り始めた。画面には「セキュリティ解除」という文字が表示される。

「どういうことだ...?」と蓮は驚く。

白狐の表情も緊張する。「誰かが意図的に私たちを中に入れようとしている」

「罠かもしれないな」と蓮は警戒する。

「可能性は高いが...」と白狐が言いかける。「もし誰かが私たちに情報を伝えたいのなら、入る価値はある」

蓮はしばらく考え込んだ後、決断する。「行ってみよう。ただし、最大限の警戒を怠らないようにな」

「わかっている」と白狐は頷く。

二人は慎重に施設へと近づく。正面玄関のドアは既に開いていた。「招かれているようだな」と白狐が言う。その声には緊張が滲んでいた。

中に足を踏み入れると、外観からは想像もつかない光景が広がっていた。古びた外観とは対照的に、内部は最新鋭の研究設備で満たされていたのだ。白い壁と床、青白い照明、そして数多くのコンピュータ端末やホログラム装置が並ぶ。

「これは...予想外だな」と蓮は周囲を見回す。

「偽装だったようだ」と白狐も驚きを隠せない。「外側の古い建物は、中身を隠すための擬態だったのだろう」

広々とした中央ホールの先に、一際大きな部屋があった。その部屋の入口は自動で開き、二人を中へと誘う。

「行くぞ」と蓮は決意を固める。

部屋に足を踏み入れると、そこには巨大な量子コンピュータが鎮座していた。無数の光ファイバーが天井から吊り下げられ、床から立ち上がるサーバーラックと接続している。部屋全体が青白い光に包まれ、空気中に微かな電気の匂いが漂う。

そして量子コンピュータの前には、一人の男が立っていた。黒い装束に身を包み、鋭い目つきの青年――影狼だ。

「よく来たな、八雲」と彼は静かに語りかける。

蓮は即座に防御姿勢をとり、白狐も身構える。「影狼...なぜお前がここに?」

影狼は手を振り、敵意がないことを示す。「落ち着け。今日は敵として来たわけではない」

「信じろというのか?」と蓮は警戒を解かない。「お前は黒陰の幹部だろう」

「そうだ」と影狼は認める。「だが今日は...情報提供者として来た」

蓮は疑わしげな表情を浮かべる。「何の目的で?」

影狼は深く息を吐き、量子コンピュータの端末に向かって何かを操作する。すると空中に大きなホログラムが現れ、複雑な図表や文書が次々と表示されていく。

「黒陰の内部で分裂が起きている」と影狼は説明を始める。「カラス丸率いる主流派と、より急進的な『新生派』だ。私はカラス丸側に属している」

「それがどうした?」と蓮が問う。

「新生派は『神機覚醒計画』という、危険極まりないプロジェクトを進めている」と影狼は続ける。「そして、この『禁忌データセンター』はその研究拠点の一つだ」

ホログラム画面には「神機」と書かれた文書が表示される。神話的な挿絵と共に、複雑な式神術式が記されていた。

「神機?」と蓮が聞き返す。

白狐が答える。「古代の最強式神だ。すべての式神の源とも言われる存在」

影狼は頷く。「その通り。神機は単なる式神ではない。デジタルと霊的エネルギーの究極的な融合体であり、現実そのものを書き換える力を持つとされる」

「そんなものが実在するのか?」と蓮は疑問を呈する。

「伝説ではなく、実在する」と影狼は断言する。「かつて古代の陰陽師たちが、その力があまりに危険だと判断して封印したのだ。しかし新生派は、その封印を解き、神機を現代に復活させようとしている」

「なぜそんなことを?」

「力だ」と影狼は短く答える。「神機を支配できれば、世界秩序そのものを書き換えることができる」

蓮は徐々に状況を理解し始めていた。「では、九尾の暴走も...」

「その通り」と影狼は頷く。「九尾の暴走は序章に過ぎなかった。式神ネットワークを混乱させ、古代の封印を弱めるための第一歩だったのだ」

影狼はさらにホログラムを操作し、日本地図を表示させる。そこには複数の点が光っていた。

「これらが『式神の聖地』と呼ばれる場所だ。古代の力が集中するポイントであり、神機の封印と深く関わっている。新生派の計画は、これらのポイントを順に活性化させ、最終的に神機を覚醒させるというものだ」

「で、なぜお前がこれを俺に教えている?」と蓮は依然として疑いの目で影狼を見る。

影狼は一瞬、表情を曇らせた。「君の父、八雲剣太を知っていたからだ」

「父を?」と蓮は驚く。

「ああ」と影狼は頷く。「彼は私のメンターだった。私が黒陰に入ったのも、実は彼の指示があったからだ」

「どういうことだ?」

「君の父は、神機覚醒を阻止するために黒陰に潜入調査を行っていた」と影狼は説明する。「そして私を内部協力者として育てたのだ。彼の死後、私は彼の遺志を継いできた」

蓮は言葉を失う。父の知られざる一面を知り、混乱していた。

「君の父は正しかった」と影狼は続ける。「神機の覚醒は防がなければならない。だからこそ、私は今日ここに来た」

影狼はホログラムをさらに切り替え、日本地図上の一点を強調表示する。「次に狙われるのはここだ。伊勢」

「伊勢神宮...データセンター」と蓮が呟く。

「その通り」と影狼は深刻な表情で頷く。「そこは最も重要な封印がある場所だ。新生派は数日以内に作戦を実行するだろう」

影狼は懐から小さな結晶体を取り出す。黒曜石のように濃い漆黒の中に、青い光が渦巻いている。

「これは『神機の鍵』の断片だ。古代の陰陽師たちが封印を強化するために作ったもの」と彼は説明する。「これを持っていけば、いざというとき役に立つはずだ」

彼は結晶を蓮に手渡す。「私は黒陰に戻り、内部からカラス丸と共に新生派を抑える。君は外から神機覚醒を阻止してほしい」

蓮は結晶を受け取りながらも、影狼の真意を測りかねていた。「なぜ信じられると?」

白狐が蓮の肩に手を置く。「彼は本当のことを言っている」と静かに告げる。「私には分かる」

蓮は白狐の言葉を信じ、決断する。「わかった。情報に感謝する、影狼」

影狼は黙って頷く。「急いだ方がいい。時間がない」

彼は自らの式神「黒狗」を呼び出す。黒い狼の姿をした高純度式神が影から現れ、影狼の傍らに立つ。「黒狗が君たちを施設の外まで案内する。私はここに残り、痕跡を消す」

蓮と白狐は黒狗の先導で施設を後にする。出口に向かう途中、蓮は振り返り、影狼に問いかける。「父は...どんな人だった?」

影狼は少し考え、答える。「傲慢で、頑固で、しかし誰よりも先を見通す眼を持っていた。そして...心の底から式神たちを尊重していた」

蓮はその言葉を胸に刻み、頷く。彼と白狐は施設を後にし、新たな目的地へと向かう決意を固めた。伊勢——次なる戦いの地である。

(続く)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

巨乳巫女を信じて送りダスか、一緒にイクか~和の村の事件 総合〜【和風RPG】

シンセカイ
ファンタジー
~参考~ https://ci-en.net/creator/11836 敗戦後に放棄されていた日本の農地が、魔物の瘴気によって再び脅かされていた。 その魔物は土地を「魔族の地」へと変質させる危険な存在で、放置すれば農地だけでなく村や民までもが穢れ、飢餓が広がる可能性がある。 巫女は主への忠誠心と民を守る覚悟を胸に、命をかけて妖魔退治に赴く決意を示す。 だが、戦力は各地に分散しており、彼女一人に任せるのは危険と判断される。 それでも彼女は「自分は神に捧げた存在。消耗品として使ってほしい」と冷静に言い放ち、命令を待つ。 物語は、主が彼女をどう扱うかという重要な選択肢へと分岐していく――。 【信じて送り出すか】 【一緒にいくか】 ※複数ルートありますが、ここの掲載媒体の仕様上、複数ルート、複数形式を一つの作品にまとめています見づらいと思いますがご了承ください

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

処理中です...