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第12話:影の暗殺者、再び
しおりを挟む貧民街の隠れ家で、クロヴィス、レティシア、そして宮廷道化師バルドルは計画を練っていた。夜が明けるまであと数時間、彼らの次の行動を決める重要な会議だった。
「王太子アレクシス殿下は完全に操られています」
バルドルは真剣な表情で語った。
「私の『嘘見抜き』の能力で確信できます。彼の言葉には彼自身の意思がほとんどなく、聖女ディアナの意図が混ざっているのです」
「具体的にどのような状態なの?」
レティシアが尋ねた。その青い瞳には元婚約者を心配する色が浮かんでいた。
「まるで操り人形のようです」
バルドルは悲しげに答えた。
「時折、本来の彼が表面に出てくることもありますが、すぐにディアナの力に押し戻されてしまう。『始まりの紋章』の力は、人の意思の『起源』そのものを書き換えてしまうのです」
クロヴィスは未来視を使って、可能な限りの情報を探った。しかし、聖女の力の影響下では、彼の視界もまだ部分的に霞んでいた。
「バルドル、あなたの言葉を信じよう」
彼は静かに言った。
「しかし、まだ答えられていない疑問がある。なぜ聖女は王太子を操り、王国を乗っ取ろうとしているのか?彼女の真の目的は何なのか?」
「それを知るためには...」
バルドルは少し躊躇った後、続けた。
「王宮の機密書庫にある資料が必要です。『時の紋章』に関する古文書が、そこにあるはずです」
「機密書庫...」
クロヴィスは思案した。彼はすでに一度潜入したことがあるが、今回は警戒が厳重になっているだろう。
「私が行こう」
彼は決意を示した。
「レティシア様の脱出が発覚した今、貧民街全体が捜索されるだろう。あなたはここにとどまり、レティシア様を守ってください」
バルドルは一瞬迷ったようだったが、やがて頷いた。
「わかりました。私は『嘘見抜き』の能力で、貧民街に入ってくる兵士たちの本心を見抜き、危険を察知します」
「クロヴィス...」
レティシアが心配そうに声をかけた。
「あまりに危険よ。すでに宮廷警備隊は総動員されているはず」
「大丈夫です」
クロヴィスは自信を持って答えた。
「私には前世で培った暗殺者としての技術と、未来視の力があります。この二つを組み合わせれば...」
彼の金色の瞳に強い決意が宿った。
「どんな警備も突破できます」
◆◆◆
計画は単純だった。クロヴィスは脱出時に使った地下通路を逆に辿り、王宮に潜入する。機密書庫から必要な情報を得て、再び脱出する。時間にして3時間の作戦。しかし、実行するのは容易ではなかった。
「異変に気づいたのは、ほぼ同時だった」
バルドルはクロヴィスにこっそり伝えた情報を説明した。
「レティシア様の脱出と、忠誠証明の儀式での記憶水晶の証拠により、宮廷内は混乱しています。しかし、聖女と宰相は早くも反撃の態勢を整えつつある。宮廷警備隊長ヴァルガスは、あなた方を確実に捕らえるべく、王都中に兵を配置しました」
「ヴァルガス...」
クロヴィスはその名を繰り返した。彼は宮廷の中でも特に優秀な剣の使い手で、王太子の直属の部下だった。
「彼も操られているのか?」
「いいえ」
バルドルは首を振った。
「彼は自らの意思で聖女に味方しています。王太子への忠誠心から、主君を『救おう』としているのです。彼は聖女の言葉を信じ、レティシア様こそが王太子を危険に晒す反逆者だと考えています」
クロヴィスは深く考え込んだ。ヴァルガスは単なる操り人形ではなく、信念を持った相手だ。それはある意味、もっと危険かもしれない。
「とにかく、用心します」
彼は立ち上がり、旅装を整えた。平民の服装に身を包み、顔を隠すフードを被る。腰には短剣を忍ばせ、背中の鞄には特殊な道具類を収めた。
「行ってきます、レティシア様」
クロヴィスは主の前で一礼した。
「どうか気をつけて」
レティシアは心配そうな表情で言った。
「そして...必ず戻ってきて。これは命令よ」
彼は微笑み、深く頭を下げた。
「かしこまりました、お嬢様」
◆◆◆
夜明け前の霧が王都を包む中、クロヴィスは慎重に地下通路の入口へと向かった。貧民街の古い納屋の床下に隠された入口から潜り込み、暗い通路を進んでいく。
松明の光だけが彼の道を照らす中、彼は常に未来視を活用して先の状況を探っていた。3秒後、3分後の未来で危険は見えない。しかし、3時間後の未来は依然として霞んでいた。聖女の力の影響はまだ続いているようだ。
通路は長く複雑に分岐していたが、彼は記憶を頼りに正確に進んでいった。やがて、王宮の地下に通じる上り坂に差し掛かる。
「王宮地下まであと少し...」
彼が呟いた瞬間、彼の未来視が警告を発した。3秒後の未来、通路に人影が現れる。
クロヴィスは即座に松明を消し、暗闇に身を潜めた。彼の動きは完全に無音で、影に溶け込むかのようだった。
数秒後、通路に松明の光が現れる。そこには宮廷警備隊長ヴァルガスと数人の兵士の姿があった。
「この通路を使ったはずだ」
ヴァルガスの声が通路に響いた。
「反逆者レティシアとあの執事を追え。脱出経路はこの通路しかない」
兵士たちが前後に散らばり、慎重に通路を探索し始めた。クロヴィスは息を殺し、完全に静止した。彼の暗殺者時代の技術が活かされる瞬間だ。
一人の兵士がクロヴィスのすぐ傍を通り過ぎた。彼の足音は緊張を隠せず、やや乱れていた。これなら——
「待て」
ヴァルガスの鋭い声が響いた。
「ここに誰かいる」
彼の剣が鞘から引き抜かれる音が聞こえる。クロヴィスは自分の位置が露見したことを悟った。未来視で3秒後を確認すると、ヴァルガスの剣が彼のいる方向に向けられていた。
「現れろ、執事。お前の気配は隠せない」
クロヴィスは一瞬、選択肢を検討した。逃げるか、戦うか。しかし、狭い通路では逃げ切れないだろう。ならば——
「さすがは宮廷警備隊長」
彼は静かに姿を現した。暗闇から一歩踏み出し、松明の光に照らされる。
「その直感、見事です」
「クロヴィス・アーヴィン」
ヴァルガスの目が鋭く光った。
「反逆者レティシアはどこだ?」
「申し訳ありませんが、その質問にはお答えできません」
クロヴィスは静かに応じた。
「レティシア様は反逆者ではなく、むしろ王国を救おうとしているのです」
「黙れ!」
ヴァルガスが剣を構えた。
「聖女様が全てを明らかにされた。レティシアは王太子殿下を危険に晒す反逆者だ。お前もその共犯として処刑される」
「聖女...」
クロヴィスは冷静に言った。
「彼女こそが真の敵です。あなたは彼女に騙されています」
「戯言を」
ヴァルガスの表情が怒りで歪んだ。
「自分の目で見た。耳で聞いた。レティシアが王太子殿下に危害を加えようとしたのを!」
「それは『始まりの紋章』の力による幻影です」
クロヴィスの言葉は、ヴァルガスの心に一瞬の迷いを生じさせたようだった。しかし、すぐに彼の決意は固まった。
「もう十分だ。ここで捕らえる!」
彼の号令で、兵士たちが一斉にクロヴィスに向かって動き出した。
クロヴィスは瞬時に状況を判断した。通路は狭く、一度に攻撃できるのは二人が限度。未来視で彼らの動きを予測し、対応する戦略を瞬時に立てる。
最初の兵士が剣を振りかざして襲いかかってきた。クロヴィスは3秒後の未来を見て、その動きを完全に読み切った。彼は兵士の攻撃をわずかな動きでかわし、その隙に腕を掴んで関節を極めた。兵士は悲鳴を上げることもできず、気絶した。
「な...何だ!?」
二人目の兵士が驚きの声を上げる間もなく、クロヴィスは素早く彼に接近し、急所を的確に突いた。兵士は膝から崩れ落ちた。
洗練された動き、無駄のない攻撃——それは執事のものではなく、暗殺者のそれだった。クロヴィスの中に眠っていた「死神の影」が再び目覚めたのだ。
「お前は...単なる執事ではないな」
ヴァルガスの目に警戒の色が深まった。
「いったい何者だ?」
「申し上げた通り、私はレティシア様の執事です」
クロヴィスは淡々と答えた。
「ただ...以前は別の職業でしたので」
彼の金色の瞳が暗闇で鋭く光った。
「さて、警備隊長。どうされますか?私に道を譲るか、それとも...」
「笑わせる!」
ヴァルガスは剣を構えた。
「王宮最強の剣士である私が、一執事に負けるとでも?」
「それを確かめましょうか」
クロヴィスの声は静かながらも、挑戦的だった。
ヴァルガスが猛然と襲いかかってきた。彼の剣技は確かに一流で、その速さと力は尋常ではなかった。クロヴィスは短剣を抜き、その攻撃を受け流した。
金属がぶつかり合う音が通路に響き渡る。ヴァルガスの攻撃は次々と繰り出されるが、クロヴィスは未来視で彼の動きを先読みし、完璧にかわしていく。
「なぜだ...なぜ私の攻撃が当たらない!?」
ヴァルガスの焦りが声に現れ始めた。
「未来が見えるのです」
クロヴィスは静かに答えた。
「あなたが次に取る行動が、すべて見えています」
「馬鹿な!」
ヴァルガスの攻撃がさらに激しくなる。彼の剣が風を切る音が通路に響き渡った。
しかし、クロヴィスの動きはさらに洗練されていった。未来視と暗殺者時代の技術が完全に融合し、彼の動きは人間離れしていた。予測不可能な角度から、彼はヴァルガスの防御を突破していく。
「これは...」
ヴァルガスの顔に恐怖が浮かんだ。彼は初めて、自分が勝てない相手に出会ったことを悟ったのだ。
クロヴィスは最後の一撃を加えた。ヴァルガスの剣を弾き飛ばし、彼の喉元に短剣を突きつける。
「降参してください、警備隊長」
彼の声には殺意はなく、あくまで冷静だった。
「私はあなたを殺したくない。王太子殿下を救うためにも、あなたの力が必要になるかもしれません」
ヴァルガスは歯を食いしばった。しかし、彼の戦士としての直感は、この相手には勝てないと告げていた。
「...降参だ」
彼はついに剣を置いた。
「だが、お前を信じたわけではない。ただ...今は力の差を認めるだけだ」
「それで構いません」
クロヴィスは彼を気絶させるのではなく、特殊な紐で縛り上げることにした。
「目が覚めたら、自力で抜け出せるよう、緩めに結んでおきます。その頃には、私はすでに目的を果たしているでしょう」
彼は残りの兵士たちにも同様の処置を施し、再び通路を進み始めた。
◆◆◆
ヴァルガスとの戦いから約30分後、クロヴィスは王宮の地下に到達した。通路の出口は、使用人の通路に繋がっていた。彼は周囲の状況を確認し、未来視で3分後までの安全を確認してから、静かに出口から姿を現した。
「機密書庫まで...」
彼は記憶を頼りに進路を決めた。機密書庫は王宮の東翼、最も警備の厳重な区域にあった。そこに潜入するためには、宮殿内の複雑な警備体制を突破しなければならない。
クロヴィスは使用人の通路を利用し、影に隠れながら進んだ。彼の動きは完全に無音で、見張りの目をかいくぐっていく。時折、兵士の巡回に遭遇しても、彼は未来視で彼らの動きを予測し、完璧に回避した。
「こちらの方向に進路を変更...」
彼は未来視で危険を察知するたび、即座に計画を修正していった。それは暗殺者時代の彼が得意としていた適応能力だ。
東翼に近づくと、警備はさらに厳重になった。しかし、それでもクロヴィスは巧みに突破していった。天井の梁を伝い、時には壁の窪みに身を隠し、彼は着実に目的地へと近づいていった。
機密書庫の前まで来たとき、彼はふと足を止めた。未来視に微かな異変を感じたのだ。3分後の未来、書庫内に人影が見える。
「誰かいる...」
彼は慎重に近づき、扉の隙間から内部を覗いた。そこには二つの人影があった。聖女ディアナと宰相フォン・クラウスだ。
クロヴィスは息を殺し、彼らの会話に耳を傾けた。
「準備は整いました、聖女様」
宰相が恭しく頭を下げている。
「儀式は次の満月に行えます。『時の紋章:始まり』の力を完全に解放するための儀式です」
「素晴らしい」
ディアナの声には歓喜が含まれていた。
「『始まりの紋章』が完全に目覚めれば、世界の起源そのものを書き換えることができる。神々への捧げ物として、この国の時間を全て奉納するのよ」
「神々への...捧げ物?」
宰相が尋ねた。
「そう」
ディアナはペンダントを手に取り、紫の光を放つそれを見つめた。
「時の神ハロネウスは人間界の時間を糧として生きている。『始まりの紋章』は、その時間を収穫するための道具なの」
彼女の言葉に、クロヴィスは衝撃を受けた。時の神ハロネウス...神々の存在...そして時間を糧にするという謎の言葉。
「ですが、記憶水晶の件と、レティシアの脱出で計画に狂いが生じています」
宰相が懸念を示した。
「心配ないわ」
ディアナは冷たく笑った。
「『始まりの紋章』の力は、彼らの運命さえも書き換えることができる。それに...」
彼女は何かを思いついたように目を輝かせた。
「あの執事の『未来視』の力...それは『時の紋章:視界』の力に違いない。彼を捕らえ、紋章を抽出できれば、私の力はさらに増大するわ」
「『視界』の紋章...」
宰相が驚きの声を上げた。
「それは伝説の七つの紋章の一つですね。『視界』『逆行』『停止』『加速』『永遠』『始まり』『終わり』...」
「その通り」
ディアナは頷いた。
「すべての紋章が集まれば、時の神ハロネウスの器として完全な姿になれる。そして、この世界の全ての時間を支配できるのよ」
クロヴィスは息を飲んだ。彼の未来視の力は、「時の紋章:視界」の一部だったのか。そして、ディアナの目的は全ての紋章を集め、時の神になることだったのだ。
「とにかく、捜索を続けなさい」
ディアナは宰相に命じた。
「レティシアと執事を必ず捕らえること。特に執事は生きたまま...彼の『視界』の紋章が必要なの」
「承知しました」
宰相が深く頭を下げた。
二人が会話を終え、書庫を出ようとする気配を感じたクロヴィスは、素早く隠れ場所を探した。彼は天井の梁に身を隠し、二人が通り過ぎるのを息を殺して見守った。
彼らが去った後、クロヴィスは静かに機密書庫に忍び込んだ。そこには膨大な量の古文書と秘密の記録が保管されていた。彼は「時の紋章」に関する資料を素早く探し始めた。
「これだ...」
彼は古い羊皮紙の巻物を見つけた。「神々の遺産—時の紋章の真実」と書かれていた。
巻物を開くと、そこには七つの紋章の詳細な説明と、その力の源についての記述があった。
"時の紋章は神々が人間界に残した力の結晶である。七つの紋章はそれぞれ時間の異なる側面を支配する。『視界』は未来を見通し、『逆行』は過去に戻り、『停止』は時を止め、『加速』は時を早め、『永遠』は変化を無効化し、『始まり』は起源を操作し、『終わり』は全てを終わらせる力を持つ。"
"すべての紋章が一つに集まるとき、『時の神』の器が完成し、世界の再構築が始まる。しかし、これは必ずしも祝福ではなく、破滅の始まりともなりうる。時の神ハロネウスは人間界の時間を糧として生きる神であり、その力が完全に解放されれば、全ての時間が奪われる危険がある。"
クロヴィスは巻物を素早く読み進めた。そこには紋章の力を制御する方法や、互いの相互作用についても記されていた。
"各紋章には対となる紋章があり、互いに打ち消し合う効果がある。『視界』と『逆行』、『停止』と『加速』、『永遠』と『始まり』、そして『終わり』は全てを無に帰す。"
彼は必要な情報を全て記憶し、巻物を元の場所に戻した。証拠を持ち出せば、すぐに気づかれてしまう。彼の完璧な記憶力があれば十分だった。
「さて、退却の時間だ...」
クロヴィスは機密書庫を後にし、来た道を辿って脱出を開始した。しかし、彼の未来視が突然、危険を告げた。3分後、彼の進路に大量の兵士が現れる。
「別ルートを...」
彼は即座に計画を変更し、別の通路へと向かった。宮廷内を影のように移動しながら、彼は常に未来視を頼りに最適な逃走経路を選んでいった。
時間との勝負だった。宮殿中の警備が彼の侵入に気づき、捜索が強化されていく。クロヴィスは時折、自分の後を追う足音を感じたが、その度に巧みに姿をくらました。
最終的に、彼は王宮の西側にある小さな窓から外へと脱出した。夜の闇に紛れて、彼は王都の路地を素早く移動し、貧民街へと向かった。
◆◆◆
「クロヴィス!」
隠れ家に戻ると、レティシアが安堵の表情で彼を出迎えた。
「無事で良かった...心配していたのよ」
「申し訳ありません、レティシア様」
彼は丁寧に頭を下げた。
「しかし、重要な情報を得ることができました」
バルドルも近づいてきた。
「宮廷警備隊長ヴァルガスと戦ったと聞きました。彼は王宮最強の剣士ですが...」
「確かに強かった」
クロヴィスは淡々と答えた。
「しかし、未来視と暗殺技術を組み合わせれば、彼の剣も脅威ではありませんでした」
レティシアとバルドルは驚きの表情を交換した。ヴァルガスを打ち破るとは...クロヴィスの実力は彼らの想像を超えていた。
「それより、もっと重要な情報があります」
クロヴィスは機密書庫で見聞きした全てを、二人に伝え始めた。聖女ディアナの真の目的、時の紋章の秘密、そして時の神ハロネウスの存在について。
「まさか...」
レティシアの顔から血の気が引いた。
「神々への捧げ物として、王国の時間を奪うつもりだなんて...」
「そして、あなたの『未来視』が『時の紋章:視界』の力だったとは」
バルドルの表情に驚きと理解が混ざり合った。
「私の『嘘見抜き』と『神の耳』も、もしかすると『時の紋章』の一部かもしれません」
「可能性はあります」
クロヴィスは頷いた。
「『停止』の紋章の力が、あなたの中に眠っているのかもしれない」
「時の紋章...」
レティシアが思案げに呟いた。
「私たちはそれと戦うことができるの?神々の力と...」
「できます」
クロヴィスは確信を持って言った。
「紋章の力には相互作用があります。『視界』と『逆行』、『停止』と『加速』、『永遠』と『始まり』...互いに打ち消し合う効果があるのです」
彼は巻物に記されていた内容を詳細に説明した。
「我々が持つ紋章の力を結集すれば、ディアナの『始まりの紋章』に対抗できるかもしれません」
「でも、残りの紋章は?」
バルドルが尋ねた。
「まだ見つかっていない紋章もあります。特に『終わり』の紋章は最も強力で、全てを無に帰す力を持つとされています」
クロヴィスは窓の外を見つめた。夜明けの光が徐々に街を照らし始めていた。
「我々には時間がない。次の満月までに、残りの紋章を探し、ディアナの計画を阻止しなければなりません」
レティシアは決意に満ちた表情で立ち上がった。
「私たちなら、できるわ」
彼女の青い瞳に強い意志が宿っていた。
「クロヴィス、あなたの未来視と暗殺者としての力。バルドルの『嘘見抜き』の能力。そして私の決意。三人の力を合わせれば、きっと勝てるわ」
彼女の言葉には、揺るぎない確信があった。
バルドルも頷き、「我々はそれぞれが特別な力を持っています。時の紋章の謎を解き明かし、ディアナの計画を阻止しましょう」と同意した。
クロヴィスは二人を見つめた。彼の金色の瞳には、新たな決意が宿っていた。前世では命を奪う影であった彼が、今は守るべき人々のための影となる。その覚悟が、彼の中で固まりつつあった。
「それでは、次の行動計画を立てましょう」
彼は静かに言った。未来を見通す目と、闇を動く技術を持つ元暗殺者。彼の本能は完全に目覚め、今やレティシアのため、そして王国の運命のために力を振るう準備が整った。
日が昇る頃、彼らの新たな戦いの計画が始まろうとしていた。
(続く)
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