悪役令嬢の執事、未来視で無双する

ソコニ

文字の大きさ
13 / 31

第12話:影の暗殺者、再び

しおりを挟む


貧民街の隠れ家で、クロヴィス、レティシア、そして宮廷道化師バルドルは計画を練っていた。夜が明けるまであと数時間、彼らの次の行動を決める重要な会議だった。

「王太子アレクシス殿下は完全に操られています」

バルドルは真剣な表情で語った。

「私の『嘘見抜き』の能力で確信できます。彼の言葉には彼自身の意思がほとんどなく、聖女ディアナの意図が混ざっているのです」

「具体的にどのような状態なの?」

レティシアが尋ねた。その青い瞳には元婚約者を心配する色が浮かんでいた。

「まるで操り人形のようです」

バルドルは悲しげに答えた。

「時折、本来の彼が表面に出てくることもありますが、すぐにディアナの力に押し戻されてしまう。『始まりの紋章』の力は、人の意思の『起源』そのものを書き換えてしまうのです」

クロヴィスは未来視を使って、可能な限りの情報を探った。しかし、聖女の力の影響下では、彼の視界もまだ部分的に霞んでいた。

「バルドル、あなたの言葉を信じよう」

彼は静かに言った。

「しかし、まだ答えられていない疑問がある。なぜ聖女は王太子を操り、王国を乗っ取ろうとしているのか?彼女の真の目的は何なのか?」

「それを知るためには...」

バルドルは少し躊躇った後、続けた。

「王宮の機密書庫にある資料が必要です。『時の紋章』に関する古文書が、そこにあるはずです」

「機密書庫...」

クロヴィスは思案した。彼はすでに一度潜入したことがあるが、今回は警戒が厳重になっているだろう。

「私が行こう」

彼は決意を示した。

「レティシア様の脱出が発覚した今、貧民街全体が捜索されるだろう。あなたはここにとどまり、レティシア様を守ってください」

バルドルは一瞬迷ったようだったが、やがて頷いた。

「わかりました。私は『嘘見抜き』の能力で、貧民街に入ってくる兵士たちの本心を見抜き、危険を察知します」

「クロヴィス...」

レティシアが心配そうに声をかけた。

「あまりに危険よ。すでに宮廷警備隊は総動員されているはず」

「大丈夫です」

クロヴィスは自信を持って答えた。

「私には前世で培った暗殺者としての技術と、未来視の力があります。この二つを組み合わせれば...」

彼の金色の瞳に強い決意が宿った。

「どんな警備も突破できます」

◆◆◆

計画は単純だった。クロヴィスは脱出時に使った地下通路を逆に辿り、王宮に潜入する。機密書庫から必要な情報を得て、再び脱出する。時間にして3時間の作戦。しかし、実行するのは容易ではなかった。

「異変に気づいたのは、ほぼ同時だった」

バルドルはクロヴィスにこっそり伝えた情報を説明した。

「レティシア様の脱出と、忠誠証明の儀式での記憶水晶の証拠により、宮廷内は混乱しています。しかし、聖女と宰相は早くも反撃の態勢を整えつつある。宮廷警備隊長ヴァルガスは、あなた方を確実に捕らえるべく、王都中に兵を配置しました」

「ヴァルガス...」

クロヴィスはその名を繰り返した。彼は宮廷の中でも特に優秀な剣の使い手で、王太子の直属の部下だった。

「彼も操られているのか?」

「いいえ」

バルドルは首を振った。

「彼は自らの意思で聖女に味方しています。王太子への忠誠心から、主君を『救おう』としているのです。彼は聖女の言葉を信じ、レティシア様こそが王太子を危険に晒す反逆者だと考えています」

クロヴィスは深く考え込んだ。ヴァルガスは単なる操り人形ではなく、信念を持った相手だ。それはある意味、もっと危険かもしれない。

「とにかく、用心します」

彼は立ち上がり、旅装を整えた。平民の服装に身を包み、顔を隠すフードを被る。腰には短剣を忍ばせ、背中の鞄には特殊な道具類を収めた。

「行ってきます、レティシア様」

クロヴィスは主の前で一礼した。

「どうか気をつけて」

レティシアは心配そうな表情で言った。

「そして...必ず戻ってきて。これは命令よ」

彼は微笑み、深く頭を下げた。

「かしこまりました、お嬢様」

◆◆◆

夜明け前の霧が王都を包む中、クロヴィスは慎重に地下通路の入口へと向かった。貧民街の古い納屋の床下に隠された入口から潜り込み、暗い通路を進んでいく。

松明の光だけが彼の道を照らす中、彼は常に未来視を活用して先の状況を探っていた。3秒後、3分後の未来で危険は見えない。しかし、3時間後の未来は依然として霞んでいた。聖女の力の影響はまだ続いているようだ。

通路は長く複雑に分岐していたが、彼は記憶を頼りに正確に進んでいった。やがて、王宮の地下に通じる上り坂に差し掛かる。

「王宮地下まであと少し...」

彼が呟いた瞬間、彼の未来視が警告を発した。3秒後の未来、通路に人影が現れる。

クロヴィスは即座に松明を消し、暗闇に身を潜めた。彼の動きは完全に無音で、影に溶け込むかのようだった。

数秒後、通路に松明の光が現れる。そこには宮廷警備隊長ヴァルガスと数人の兵士の姿があった。

「この通路を使ったはずだ」

ヴァルガスの声が通路に響いた。

「反逆者レティシアとあの執事を追え。脱出経路はこの通路しかない」

兵士たちが前後に散らばり、慎重に通路を探索し始めた。クロヴィスは息を殺し、完全に静止した。彼の暗殺者時代の技術が活かされる瞬間だ。

一人の兵士がクロヴィスのすぐ傍を通り過ぎた。彼の足音は緊張を隠せず、やや乱れていた。これなら——

「待て」

ヴァルガスの鋭い声が響いた。

「ここに誰かいる」

彼の剣が鞘から引き抜かれる音が聞こえる。クロヴィスは自分の位置が露見したことを悟った。未来視で3秒後を確認すると、ヴァルガスの剣が彼のいる方向に向けられていた。

「現れろ、執事。お前の気配は隠せない」

クロヴィスは一瞬、選択肢を検討した。逃げるか、戦うか。しかし、狭い通路では逃げ切れないだろう。ならば——

「さすがは宮廷警備隊長」

彼は静かに姿を現した。暗闇から一歩踏み出し、松明の光に照らされる。

「その直感、見事です」

「クロヴィス・アーヴィン」

ヴァルガスの目が鋭く光った。

「反逆者レティシアはどこだ?」

「申し訳ありませんが、その質問にはお答えできません」

クロヴィスは静かに応じた。

「レティシア様は反逆者ではなく、むしろ王国を救おうとしているのです」

「黙れ!」

ヴァルガスが剣を構えた。

「聖女様が全てを明らかにされた。レティシアは王太子殿下を危険に晒す反逆者だ。お前もその共犯として処刑される」

「聖女...」

クロヴィスは冷静に言った。

「彼女こそが真の敵です。あなたは彼女に騙されています」

「戯言を」

ヴァルガスの表情が怒りで歪んだ。

「自分の目で見た。耳で聞いた。レティシアが王太子殿下に危害を加えようとしたのを!」

「それは『始まりの紋章』の力による幻影です」

クロヴィスの言葉は、ヴァルガスの心に一瞬の迷いを生じさせたようだった。しかし、すぐに彼の決意は固まった。

「もう十分だ。ここで捕らえる!」

彼の号令で、兵士たちが一斉にクロヴィスに向かって動き出した。

クロヴィスは瞬時に状況を判断した。通路は狭く、一度に攻撃できるのは二人が限度。未来視で彼らの動きを予測し、対応する戦略を瞬時に立てる。

最初の兵士が剣を振りかざして襲いかかってきた。クロヴィスは3秒後の未来を見て、その動きを完全に読み切った。彼は兵士の攻撃をわずかな動きでかわし、その隙に腕を掴んで関節を極めた。兵士は悲鳴を上げることもできず、気絶した。

「な...何だ!?」

二人目の兵士が驚きの声を上げる間もなく、クロヴィスは素早く彼に接近し、急所を的確に突いた。兵士は膝から崩れ落ちた。

洗練された動き、無駄のない攻撃——それは執事のものではなく、暗殺者のそれだった。クロヴィスの中に眠っていた「死神の影」が再び目覚めたのだ。

「お前は...単なる執事ではないな」

ヴァルガスの目に警戒の色が深まった。

「いったい何者だ?」

「申し上げた通り、私はレティシア様の執事です」

クロヴィスは淡々と答えた。

「ただ...以前は別の職業でしたので」

彼の金色の瞳が暗闇で鋭く光った。

「さて、警備隊長。どうされますか?私に道を譲るか、それとも...」

「笑わせる!」

ヴァルガスは剣を構えた。

「王宮最強の剣士である私が、一執事に負けるとでも?」

「それを確かめましょうか」

クロヴィスの声は静かながらも、挑戦的だった。

ヴァルガスが猛然と襲いかかってきた。彼の剣技は確かに一流で、その速さと力は尋常ではなかった。クロヴィスは短剣を抜き、その攻撃を受け流した。

金属がぶつかり合う音が通路に響き渡る。ヴァルガスの攻撃は次々と繰り出されるが、クロヴィスは未来視で彼の動きを先読みし、完璧にかわしていく。

「なぜだ...なぜ私の攻撃が当たらない!?」

ヴァルガスの焦りが声に現れ始めた。

「未来が見えるのです」

クロヴィスは静かに答えた。

「あなたが次に取る行動が、すべて見えています」

「馬鹿な!」

ヴァルガスの攻撃がさらに激しくなる。彼の剣が風を切る音が通路に響き渡った。

しかし、クロヴィスの動きはさらに洗練されていった。未来視と暗殺者時代の技術が完全に融合し、彼の動きは人間離れしていた。予測不可能な角度から、彼はヴァルガスの防御を突破していく。

「これは...」

ヴァルガスの顔に恐怖が浮かんだ。彼は初めて、自分が勝てない相手に出会ったことを悟ったのだ。

クロヴィスは最後の一撃を加えた。ヴァルガスの剣を弾き飛ばし、彼の喉元に短剣を突きつける。

「降参してください、警備隊長」

彼の声には殺意はなく、あくまで冷静だった。

「私はあなたを殺したくない。王太子殿下を救うためにも、あなたの力が必要になるかもしれません」

ヴァルガスは歯を食いしばった。しかし、彼の戦士としての直感は、この相手には勝てないと告げていた。

「...降参だ」

彼はついに剣を置いた。

「だが、お前を信じたわけではない。ただ...今は力の差を認めるだけだ」

「それで構いません」

クロヴィスは彼を気絶させるのではなく、特殊な紐で縛り上げることにした。

「目が覚めたら、自力で抜け出せるよう、緩めに結んでおきます。その頃には、私はすでに目的を果たしているでしょう」

彼は残りの兵士たちにも同様の処置を施し、再び通路を進み始めた。

◆◆◆

ヴァルガスとの戦いから約30分後、クロヴィスは王宮の地下に到達した。通路の出口は、使用人の通路に繋がっていた。彼は周囲の状況を確認し、未来視で3分後までの安全を確認してから、静かに出口から姿を現した。

「機密書庫まで...」

彼は記憶を頼りに進路を決めた。機密書庫は王宮の東翼、最も警備の厳重な区域にあった。そこに潜入するためには、宮殿内の複雑な警備体制を突破しなければならない。

クロヴィスは使用人の通路を利用し、影に隠れながら進んだ。彼の動きは完全に無音で、見張りの目をかいくぐっていく。時折、兵士の巡回に遭遇しても、彼は未来視で彼らの動きを予測し、完璧に回避した。

「こちらの方向に進路を変更...」

彼は未来視で危険を察知するたび、即座に計画を修正していった。それは暗殺者時代の彼が得意としていた適応能力だ。

東翼に近づくと、警備はさらに厳重になった。しかし、それでもクロヴィスは巧みに突破していった。天井の梁を伝い、時には壁の窪みに身を隠し、彼は着実に目的地へと近づいていった。

機密書庫の前まで来たとき、彼はふと足を止めた。未来視に微かな異変を感じたのだ。3分後の未来、書庫内に人影が見える。

「誰かいる...」

彼は慎重に近づき、扉の隙間から内部を覗いた。そこには二つの人影があった。聖女ディアナと宰相フォン・クラウスだ。

クロヴィスは息を殺し、彼らの会話に耳を傾けた。

「準備は整いました、聖女様」

宰相が恭しく頭を下げている。

「儀式は次の満月に行えます。『時の紋章:始まり』の力を完全に解放するための儀式です」

「素晴らしい」

ディアナの声には歓喜が含まれていた。

「『始まりの紋章』が完全に目覚めれば、世界の起源そのものを書き換えることができる。神々への捧げ物として、この国の時間を全て奉納するのよ」

「神々への...捧げ物?」

宰相が尋ねた。

「そう」

ディアナはペンダントを手に取り、紫の光を放つそれを見つめた。

「時の神ハロネウスは人間界の時間を糧として生きている。『始まりの紋章』は、その時間を収穫するための道具なの」

彼女の言葉に、クロヴィスは衝撃を受けた。時の神ハロネウス...神々の存在...そして時間を糧にするという謎の言葉。

「ですが、記憶水晶の件と、レティシアの脱出で計画に狂いが生じています」

宰相が懸念を示した。

「心配ないわ」

ディアナは冷たく笑った。

「『始まりの紋章』の力は、彼らの運命さえも書き換えることができる。それに...」

彼女は何かを思いついたように目を輝かせた。

「あの執事の『未来視』の力...それは『時の紋章:視界』の力に違いない。彼を捕らえ、紋章を抽出できれば、私の力はさらに増大するわ」

「『視界』の紋章...」

宰相が驚きの声を上げた。

「それは伝説の七つの紋章の一つですね。『視界』『逆行』『停止』『加速』『永遠』『始まり』『終わり』...」

「その通り」

ディアナは頷いた。

「すべての紋章が集まれば、時の神ハロネウスの器として完全な姿になれる。そして、この世界の全ての時間を支配できるのよ」

クロヴィスは息を飲んだ。彼の未来視の力は、「時の紋章:視界」の一部だったのか。そして、ディアナの目的は全ての紋章を集め、時の神になることだったのだ。

「とにかく、捜索を続けなさい」

ディアナは宰相に命じた。

「レティシアと執事を必ず捕らえること。特に執事は生きたまま...彼の『視界』の紋章が必要なの」

「承知しました」

宰相が深く頭を下げた。

二人が会話を終え、書庫を出ようとする気配を感じたクロヴィスは、素早く隠れ場所を探した。彼は天井の梁に身を隠し、二人が通り過ぎるのを息を殺して見守った。

彼らが去った後、クロヴィスは静かに機密書庫に忍び込んだ。そこには膨大な量の古文書と秘密の記録が保管されていた。彼は「時の紋章」に関する資料を素早く探し始めた。

「これだ...」

彼は古い羊皮紙の巻物を見つけた。「神々の遺産—時の紋章の真実」と書かれていた。

巻物を開くと、そこには七つの紋章の詳細な説明と、その力の源についての記述があった。

"時の紋章は神々が人間界に残した力の結晶である。七つの紋章はそれぞれ時間の異なる側面を支配する。『視界』は未来を見通し、『逆行』は過去に戻り、『停止』は時を止め、『加速』は時を早め、『永遠』は変化を無効化し、『始まり』は起源を操作し、『終わり』は全てを終わらせる力を持つ。"

"すべての紋章が一つに集まるとき、『時の神』の器が完成し、世界の再構築が始まる。しかし、これは必ずしも祝福ではなく、破滅の始まりともなりうる。時の神ハロネウスは人間界の時間を糧として生きる神であり、その力が完全に解放されれば、全ての時間が奪われる危険がある。"

クロヴィスは巻物を素早く読み進めた。そこには紋章の力を制御する方法や、互いの相互作用についても記されていた。

"各紋章には対となる紋章があり、互いに打ち消し合う効果がある。『視界』と『逆行』、『停止』と『加速』、『永遠』と『始まり』、そして『終わり』は全てを無に帰す。"

彼は必要な情報を全て記憶し、巻物を元の場所に戻した。証拠を持ち出せば、すぐに気づかれてしまう。彼の完璧な記憶力があれば十分だった。

「さて、退却の時間だ...」

クロヴィスは機密書庫を後にし、来た道を辿って脱出を開始した。しかし、彼の未来視が突然、危険を告げた。3分後、彼の進路に大量の兵士が現れる。

「別ルートを...」

彼は即座に計画を変更し、別の通路へと向かった。宮廷内を影のように移動しながら、彼は常に未来視を頼りに最適な逃走経路を選んでいった。

時間との勝負だった。宮殿中の警備が彼の侵入に気づき、捜索が強化されていく。クロヴィスは時折、自分の後を追う足音を感じたが、その度に巧みに姿をくらました。

最終的に、彼は王宮の西側にある小さな窓から外へと脱出した。夜の闇に紛れて、彼は王都の路地を素早く移動し、貧民街へと向かった。

◆◆◆

「クロヴィス!」

隠れ家に戻ると、レティシアが安堵の表情で彼を出迎えた。

「無事で良かった...心配していたのよ」

「申し訳ありません、レティシア様」

彼は丁寧に頭を下げた。

「しかし、重要な情報を得ることができました」

バルドルも近づいてきた。

「宮廷警備隊長ヴァルガスと戦ったと聞きました。彼は王宮最強の剣士ですが...」

「確かに強かった」

クロヴィスは淡々と答えた。

「しかし、未来視と暗殺技術を組み合わせれば、彼の剣も脅威ではありませんでした」

レティシアとバルドルは驚きの表情を交換した。ヴァルガスを打ち破るとは...クロヴィスの実力は彼らの想像を超えていた。

「それより、もっと重要な情報があります」

クロヴィスは機密書庫で見聞きした全てを、二人に伝え始めた。聖女ディアナの真の目的、時の紋章の秘密、そして時の神ハロネウスの存在について。

「まさか...」

レティシアの顔から血の気が引いた。

「神々への捧げ物として、王国の時間を奪うつもりだなんて...」

「そして、あなたの『未来視』が『時の紋章:視界』の力だったとは」

バルドルの表情に驚きと理解が混ざり合った。

「私の『嘘見抜き』と『神の耳』も、もしかすると『時の紋章』の一部かもしれません」

「可能性はあります」

クロヴィスは頷いた。

「『停止』の紋章の力が、あなたの中に眠っているのかもしれない」

「時の紋章...」

レティシアが思案げに呟いた。

「私たちはそれと戦うことができるの?神々の力と...」

「できます」

クロヴィスは確信を持って言った。

「紋章の力には相互作用があります。『視界』と『逆行』、『停止』と『加速』、『永遠』と『始まり』...互いに打ち消し合う効果があるのです」

彼は巻物に記されていた内容を詳細に説明した。

「我々が持つ紋章の力を結集すれば、ディアナの『始まりの紋章』に対抗できるかもしれません」

「でも、残りの紋章は?」

バルドルが尋ねた。

「まだ見つかっていない紋章もあります。特に『終わり』の紋章は最も強力で、全てを無に帰す力を持つとされています」

クロヴィスは窓の外を見つめた。夜明けの光が徐々に街を照らし始めていた。

「我々には時間がない。次の満月までに、残りの紋章を探し、ディアナの計画を阻止しなければなりません」

レティシアは決意に満ちた表情で立ち上がった。

「私たちなら、できるわ」

彼女の青い瞳に強い意志が宿っていた。


「クロヴィス、あなたの未来視と暗殺者としての力。バルドルの『嘘見抜き』の能力。そして私の決意。三人の力を合わせれば、きっと勝てるわ」

彼女の言葉には、揺るぎない確信があった。

バルドルも頷き、「我々はそれぞれが特別な力を持っています。時の紋章の謎を解き明かし、ディアナの計画を阻止しましょう」と同意した。

クロヴィスは二人を見つめた。彼の金色の瞳には、新たな決意が宿っていた。前世では命を奪う影であった彼が、今は守るべき人々のための影となる。その覚悟が、彼の中で固まりつつあった。

「それでは、次の行動計画を立てましょう」

彼は静かに言った。未来を見通す目と、闇を動く技術を持つ元暗殺者。彼の本能は完全に目覚め、今やレティシアのため、そして王国の運命のために力を振るう準備が整った。

日が昇る頃、彼らの新たな戦いの計画が始まろうとしていた。

(続く)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...