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第21話:戦乱の幕開け
しおりを挟む公開裁判から三日が経過した。
王都ヴェルサンティアは、かつてない混乱の渦中にあった。聖女ディアナの正体が暴かれ、彼女と宰相フォン・クラウスが引き起こした「時間収穫」の儀式は多くの犠牲者を出していた。儀式は中断されたものの、その影響は大きく、特に広場にいた人々の多くが数年から数十年分の時間を奪われていた。老化現象に苦しむ者、記憶を失った者、そして最悪の場合、その場で命を落とした者まで。
クロヴィスは城壁の上から王都の様子を見下ろしていた。街の至る所で修復作業が行われているが、物理的な損傷よりも人々の心に負った傷の方が深かった。
「このような事態になるとは...」
彼は呟いた。完全に覚醒した「視界」の紋章の力によって、彼の未来視能力は格段に上がっていた。いまや彼は3秒・3分・3時間・3日・3ヶ月・3年先の未来を、以前よりはるかに鮮明に、同時に見ることができた。そして彼の視界に映し出されるのは、不吉な光景ばかりだった。
「報告です」
背後から聞こえた声に振り返ると、一人の兵士が立っていた。王太子直属の騎士団長エドガーだ。
「国境からの最新情報です。ミラドニア帝国軍が大規模に動き始めました。数日内に国境を越える可能性が高いとのことです」
クロヴィスは無言で頷いた。それは彼の未来視が既に捉えていた光景だった。
「ご報告感謝します。王太子殿下とレティシア様にもお伝えください」
エドガーは敬礼すると急ぎ足で立ち去った。クロヴィスは再び遠くを見つめる。
王宮では、現在レティシアとアレクシスが非常事態への対応を協議していた。国王は「時間収穫」の影響で健康が急激に悪化し、政務を執れる状態ではなかった。宰相の裏切りが明らかになり、多くの貴族が混乱の中で方針を見失っている中、アレクシスが実質的な指揮を執っていた。しかし彼もまた、「心操りの紋」から解放されたばかりで、完全な回復には時間がかかっていた。
クロヴィスは広場での戦いを思い出した。あの日、ディアナと宰相は力尽きることなく逃走に成功した。彼らは「聖女」という立場を利用し、ミラドニア帝国に亡命したという情報も既に入っている。
「クロヴィス」
振り返ると、そこにはレティシアが立っていた。彼女は戦いに備えるかのように、軽装の戦闘服姿だった。かつての「悪役令嬢」の華やかなドレスとは打って変わった実用的な装いだ。
「なにか見えましたか?」
彼女の問いに、クロヴィスは静かに答えた。
「ええ。3日後、ミラドニア帝国が国境を越えます。最初の衝突は東部国境のディムリア砦で起こるでしょう」
レティシアの表情が引き締まる。
「そして、このままでは...3ヶ月後、王都が炎上する未来が見えています」
彼の言葉に、彼女の顔が青ざめた。
「そんな...」
「しかし、未来は変えられます」
クロヴィスは力強く続けた。
「私の未来視は可能性を示すだけ。私たちの行動次第で、未来は変わります」
レティシアは深呼吸し、決意の表情を見せた。
「アレクシスと話し合いました。彼は私に『特別権限』を与えることに同意しました」
クロヴィスは驚きを隠せなかった。「特別権限」とは、王族が非常時に軍事的・政治的権限を委任する制度だが、歴史上使われたことはほとんどなかった。
「つまり...」
「私が独自の軍を組織し、この危機に対処することを、アレクシスが公式に認めるということです」
彼女の声には、揺るぎない決意があった。
「『王女軍』を結成します。クロヴィス、あなたには参謀として力を貸してほしい」
クロヴィスは一瞬考え込んだ後、彼女に片膝をつき、忠誠を誓った。
「私はあなたの執事として、そして参謀として、最後まで仕えます」
◆◆◆
レティシアの宣言から24時間も経たないうちに、「王女軍」結成の噂は王都中に広がった。多くの人々が彼女に協力を申し出た。まず集まったのは、彼女がかつて救った貧民街の人々だった。
「俺たちに何ができるか、それは知らねえ。でも、天使様のためなら命も惜しくねえよ」
貧民街のリーダー、トムはそう言って多くの若者を連れてきた。彼らは正規の軍事訓練を受けていないが、街での生存術には長けており、何より彼らの忠誠心は揺るぎなかった。
次に予想外だったのは、かつてレティシアと対立していた貴族の娘たちだった。彼女たちもまた、自らの財力と人脈を提供すると申し出てきたのだ。
「あなたが悪役令嬢なんかじゃないことは、もう誰の目にも明らかよ」
貴族令嬢の一人、エレノアは言った。
「私たちも、あなたを支えたい。それぞれの家から兵を出しましょう」
そして最後に、王宮内の心ある兵士たち、特にアレクシスに忠実な者たちが加わった。エドガー率いる騎士団の多くが「王女軍」への参加を表明し、正規軍としての骨格を形成していった。
「まさか、こんなに多くの人が...」
レティシアは集まった人々を見渡して感動を隠せなかった。
「あなたの『人の想いを紡ぐ力』です」
クロヴィスは静かに言った。
「他の紋章の力とは違い、あなたの力は人々の心を結び付けます。『永遠』の紋章の真の姿かもしれません」
レティシアは自分の手を見つめた。公開裁判の日に目覚めた「永遠」の力は、いまや彼女の中に確かに息づいていた。人々の変化を止める力、そして人々の絆を永遠のものにする力——それが彼女の能力の本質だった。
「さて、準備を始めましょうか」
クロヴィスは執事としての効率性を発揮し、「王女軍」の組織作りに着手した。まず、彼は人員を能力と特性に応じて複数の部隊に分けた。貧民街出身者は主に斥候隊と情報部、貴族の私兵たちは騎兵隊、王宮の兵士たちは歩兵部隊と防衛隊として再編成された。
「クロヴィス、これは...」
レティシアは彼が描いた詳細な作戦図を見て驚いた。
「はい、未来視で見た敵軍の動きを基に、最適な対応策を考えました」
彼の計画は従来の軍事常識を覆すような内容だった。敵の弱点を精確に突き、少ない犠牲で最大の効果を上げる戦略。それはまさに、かつての暗殺者としての経験と、執事としての計画性、そして未来視の力が融合した産物だった。
「この作戦は、私の暗殺者としての知識と、あなたの執事としての私が立てた戦略です」
クロヴィスは静かに告白した。彼の二面性——暗殺者と執事——が初めて完全に融合した瞬間だった。
「あなたは私の執事であり、私たちの参謀よ」
レティシアは彼の肩に手を置いた。
「過去がどうであれ、今のあなたを信じています」
◆◆◆
翌朝、最初の作戦会議が開かれた。「王女軍」の幹部たちが集まり、クロヴィスの作戦を聞いた。
「敵軍は三日後、東部国境を突破します」
クロヴィスは冷静に説明した。
「彼らの戦力は我々の三倍。正面からの衝突は避けるべきです」
「では、どうすれば?」
エドガーが尋ねた。
「敵の補給路を絶ちます」
クロヴィスは地図を指さした。
「ミラドニア帝国は広大な軍を維持するため、長い補給路に依存しています。彼らが国境を越えた直後、この渓谷で補給隊を襲撃します」
彼の指差す場所は、メインルートから少し外れた狭い谷だった。
「しかし、なぜ彼らがそこを通ると?」
疑問の声が上がった。
「なぜなら...」
クロヴィスは微笑んだ。
「我々がメインルートに『誘導』するからです」
彼の計画は、まず斥候隊がメインルートに偽の障害物を設置し、敵の補給隊を迂回路へと誘導するというものだった。そして狭い渓谷で待ち伏せ、一気に補給を断つ。これにより、前線の敵軍は孤立し、戦力を十分に発揮できなくなる。
「大胆な作戦だ...」
エドガーは感嘆の声を上げた。
「しかし、なぜ補給隊がその罠に引っかかると?」
「それは...」
クロヴィスの表情が引き締まった。
「私が未来視で確認済みだからです」
それまで懐疑的な表情を浮かべていた幹部たちも、クロヴィスの未来視能力について知ると、態度を一変させた。未来を見通す参謀——それは戦場では計り知れない価値を持つ。
「作戦の詳細はこちらです」
彼は綿密な計画書を配布した。各部隊の動き、タイミング、予測される敵の反応、そして不測の事態への対応まで、すべてが細かく記されていた。
「この策が成功すれば、敵の最初の攻勢を挫くことができます」
会議の終わりに、レティシアが立ち上がった。彼女は「王女軍」の象徴として、青と金の軍装に身を包んでいた。
「皆さん、国境へ向かいましょう。私たちの戦いが、王国の運命を決めます」
◆◆◆
第一陣の「王女軍」が国境地帯に到着したのは、敵軍の侵攻予定日の前日だった。ディムリア砦は小さいながらも要塞として機能する基地で、山間の狭い峠を守る重要な拠点だった。
「配置を確認します」
クロヴィスは現地で最終確認を行った。彼の指示通り、各部隊は定められた位置に展開していた。特に重要なのは斥候隊で、彼らは既に敵の補給路に偽装工作を施していた。
「補給路への誘導装置も準備完了しました」
トムが報告した。彼の手には泥で汚れた手袋があり、夜通し作業したことが窺えた。
「よくやった」
クロヴィスは頷いた。
「では、残りの準備を整えよう」
ディムリア砦内部は、かつてないほどの活気に満ちていた。兵士たちは武器を研ぎ、装備を整え、最後の指示を受けていた。その中心にいたのはレティシアだった。彼女は各部隊を回り、兵士たちを励まし、時に彼らの不安を受け止めていた。
「天使様!」
若い兵士が彼女に敬礼した。
「明日、私は最前線で戦います。あなたのために」
レティシアは微笑み、彼の肩に手を置いた。
「ありがとう。でも覚えておいて。私たちが戦うのは、王国のすべての人のため。互いを守り合うために」
彼女の言葉に、若い兵士の目が輝いた。
「レティシア様」
クロヴィスが近づいてきた。
「最新の情報です。敵軍は予定通り、明朝動き始めるでしょう。そして...」
彼は一瞬言葉を詰まらせた。
「敵軍の指揮官として、聖女ディアナの姿が確認されました」
レティシアの表情が硬くなった。
「やはり...彼女が」
「ええ。そして宰相フォン・クラウスも同行しているようです」
二人は沈黙した。ディアナと宰相——「始まり」と「加速」の紋章の力を持つ二人の存在は、戦況を大きく左右する可能性があった。
「わかりました。それも考慮に入れて準備します」
レティシアは決意を新たにした。
「休みなさい、クロヴィス。明日は長い一日になるわ」
クロヴィスは従順に頷いたが、自分の任務は終わっていなかった。彼は砦の最も高い塔に上り、遠くを見つめた。完全に覚醒した未来視で、彼はさらに遠い未来を探ろうとしていた。
3日後、彼らの最初の戦いは成功する——その光景は既に見えていた。しかし、その先に待つのは、より激しい戦いの数々。そして3ヶ月後、彼は王都が炎上する未来を見ていた。その運命を変えるには、何が必要なのか。
「あら、まだ起きていたの?」
レティシアの声に、クロヴィスは我に返った。
「少し考え事を」
「未来を見ていたのね」
彼女は彼の隣に立ち、同じ方向を見つめた。
「どんな未来が見える?」
「明日の戦いは勝利します」
クロヴィスは静かに答えた。
「しかし、戦争はそれだけでは終わりません。ミラドニア帝国は簡単に引き下がらないでしょう」
「そして3ヶ月後の王都は?」
「まだ...炎上する未来が見えます」
レティシアは深呼吸した。
「でも、あなたが言ったでしょう。未来は変えられると」
「ええ」
クロヴィスは彼女を見つめた。
「私たちの行動次第で、未来は変わります。そして私は...あなたの執事として、その未来を変える手助けをします」
「私が信じているのは、あなたの未来視ではないわ」
レティシアの言葉に、クロヴィスは驚きの表情を浮かべた。
「あなた自身を信じているの。クロヴィス」
彼女の言葉に、クロヴィスの心は温かさで満たされた。
「さあ、明日の戦いに備えましょう」
彼女は彼の袖を引いた。「参謀殿には十分な休息が必要よ」
笑いながら、二人は塔を後にした。
◆◆◆
戦いの朝が訪れた。
夜明け前、「王女軍」は既に完全な戦闘態勢に入っていた。クロヴィスの予見通り、ミラドニア帝国軍は国境を越え、大軍がディムリア砦に向かって進軍を開始した。
「来ましたね」
砦の監視塔から、レティシアとクロヴィスは敵軍の接近を見つめていた。レティシアは戦闘用の青い鎧に身を包み、腰には家伝の宝剣を下げていた。その姿は、もはや「悪役令嬢」ではなく、一人の戦士、指揮官のものだった。
「第一段階を開始します」
クロヴィスは合図を送った。トムたちの斥候隊が、静かに動き始める。彼らの任務は、敵の偵察隊を欺き、メインルートが危険だという誤った情報を流すことだった。
「うまくいくでしょうか...」
レティシアが不安そうに呟いた。
「ご安心を」
クロヴィスは微笑んだ。
「私の未来視では既に成功しています」
それから数時間後、彼の言葉通りの展開となった。敵の補給隊は偽の障害物を発見し、迂回路へと進路を変更。そこには「王女軍」の伏兵が待ち構えていた。
「今だ!」
エドガーの号令と共に、一気に攻撃が始まった。補給隊は混乱の中で次々に制圧され、武器や食料、そして何より重要な通信設備が「王女軍」の手に落ちた。
「第一段階、成功です」
クロヴィスは冷静に報告した。
「次は敵本隊の反応を見ます」
予想通り、補給路を断たれた敵軍は混乱し始めた。彼らは補給隊との連絡が途絶えたことに気づき、進軍を一時停止。偵察隊を送ったものの、彼らもまた「王女軍」の策略にはまり、誤った情報を本隊に伝えていた。
「第二段階に移ります」
クロヴィスの指示で、エドガー率いる騎兵隊が動き出した。彼らは敵の側面を突き、さらなる混乱を引き起こす。同時に、トムの斥候隊は偽の「王女軍」旗を掲げ、敵に自分たちの数を実際より多く見せる策略を実行した。
「見事な戦略ね」
レティシアは感嘆の声を上げた。クロヴィスの未来視と戦略の組み合わせが、圧倒的な戦力差を覆していた。
「ただ、一つ懸念があります」
クロヴィスの表情が曇った。
「ディアナと宰相の姿が見えません。彼らは...」
彼の言葉が途切れた瞬間、遠くの丘から紫色の光が立ち上がった。
「あれは...!」
クロヴィスの顔から血の気が引いた。
「『始まり』の紋章の力...!」
紫色の光は瞬く間に広がり、空に不気味な渦を形成し始めた。それは「時間収穫」の前兆だった。
「レティシア様!『永遠』の力を!」
クロヴィスの叫びに応え、レティシアの体から金色の光が放射され始めた。彼女の「永遠」の力が、ディアナの「始まり」の力と対抗するように広がっていく。
二つの力がぶつかり合うさまは、まるで天と地の間で繰り広げられる神々の闘争のようだった。
「戦場に出ましょう」
レティシアは決意を固めた。
「私自身が前線に立ちます」
クロヴィスは一瞬躊躇したが、すぐに頷いた。彼女の「永遠」の力は、直接戦場にいてこそ最大限に発揮される。
「私もご一緒します」
彼は執事としての装いを脱ぎ捨て、軽装の戦闘服に着替えた。かつての暗殺者の姿に戻ったようだった。
◆◆◆
戦場は既に混沌としていた。しかし「王女軍」は、クロヴィスの精緻な計画のおかげで、なんとか秩序を保っていた。レティシアとクロヴィスが前線に現れると、兵士たちから歓声が上がった。
「天使様が来られた!」
「戦場の天使だ!」
彼女の姿を見た兵士たちの士気が一気に高まる。レティシアの「永遠」の力は、単に時間を止めるだけでなく、人々の心をつなぎ、彼らに勇気を与える力でもあった。
「陣形を整えなさい!」
彼女の命令に、兵士たちが素早く応じる。「王女軍」は再び統制を取り戻し、敵軍に対して有利な陣形を形成した。
一方、敵軍の方ではディアナの「始まり」の力が本格的に発動し始めていた。一部の兵士が急に老化したり、武器が錆びついて崩れたりする現象が見られた。紫の渦は戦場全体を覆い始め、時間の流れそのものが歪み始めていた。
「クロヴィス!」
レティシアが叫んだ。
「あの渦を止める方法は?」
クロヴィスは未来視を駆使して可能性を探った。
「あります。あなたの『永遠』の力と、私の『視界』を組み合わせれば...」
彼は彼女の手を取った。二人の力が混ざり合うと、金色の光がさらに強く輝き始めた。レティシアの「永遠」の力は、クロヴィスの「視界」によって増幅され、より広範囲に広がっていく。
「前進!」
レティシアの号令と共に、「王女軍」は敵陣に突撃を開始した。彼女の力に守られた兵士たちは、ディアナの「時間収穫」の影響を受けることなく進軍していく。敵兵はこの光景に恐怖し、次々と後退を始めた。
「我々の作戦は成功です」
クロヴィスが告げた。彼の未来視では、この日の戦いは「王女軍」の勝利に終わると示されていた。
しかし、喜びもつかの間、突如として戦場の向こう側から強烈な光が放たれた。それは宰相フォン・クラウスの「加速」の力だった。
「くっ...!」
クロヴィスの顔が歪んだ。宰相の力によって、戦場の一部で時間が急加速し、兵士たちが混乱に陥っていた。
「レティシア様、危険です!後退を!」
彼の警告の直後、彼らの前方で大爆発が起きた。宰相の「加速」の力によって、発射された矢が異常な速度で飛来し、衝突したのだ。
「皆、下がって!」
レティシアの命令に、兵士たちは素早く態勢を立て直した。クロヴィスは彼女を守るように立ち、周囲の状況を分析していた。
「宰相とディアナは、この戦いは捨て駒にしているようです」
彼の未来視が捉えたのは、既に撤退準備を始めている二人の姿だった。
「彼らにとっては、この戦いは単なる力の誇示であり、テストだったのでしょう」
「それなら、今日の勝利は確実ということね」
レティシアの顔に安堵の表情が浮かんだ。
「ええ。しかし...」
クロヴィスの表情は依然として厳しかった。
「これは始まりに過ぎません。本当の戦いはこれからです」
その言葉通り、夕暮れまでに戦場は「王女軍」の勝利で終わったが、それは長い戦争の最初の一歩に過ぎなかった。
敵軍は撤退し、「王女軍」は多くの捕虜と物資を確保した。しかし、ディアナと宰相はすでに姿を消していた。彼らは次なる策略を練っているに違いない。
「クロヴィス、勝ったわ!」
喜びに満ちたレティシアの声に、兵士たちから歓声が上がった。彼女の姿は戦場で輝き、兵士たちからは「戦乙女」と呼ばれるようになっていた。
「ええ、今日は勝利です」
クロヴィスも笑顔を見せた。しかし、彼の心は既に次の戦いに向かっていた。彼の未来視は、これから待ち受ける困難な戦いの数々を映し出していた。そして3ヶ月後の王都炎上の未来は、まだ変わっていなかった。
「これからどうするの?」
レティシアが尋ねた。
「次の戦略を立てます」
クロヴィスは静かに答えた。
「そして...王都炎上の未来を変えるために、すべての可能性を探ります」
夕日に照らされた戦場で、二人は次なる戦いに向けて決意を新たにした。
「王女軍」の初戦を飾る勝利は、王国全体に希望の光をもたらすことになるだろう。しかし、クロヴィスにはわかっていた。これは長い戦いの、ほんの始まりに過ぎないということを。
(続く)
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