転生最強の値切り王 〜異世界金策で帝国を築く!〜

ソコニ

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第9話:「最初の値切りバトル、市場価格半額の挑戦」

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南方の大市場は朝日に照らされ、前日以上の活気で溢れていた。直樹はガルド・バロンとヘンリーと共に、早朝から市場を視察していた。

「この市場は五つのエリアに分かれている」ガルドは説明した。「東は香辛料と宝石、西は武具と工芸品、北は毛皮と木材、南は穀物と家畜、そして最も重要な中央が絹と染料のエリアだ」

中央エリアに到着すると、白と青の旗を掲げた数十の店が立ち並んでいた。「白と青は絹商人組合の色だ」とガルドが説明した。「かつては各店が独自の旗を掲げていたが、組合結成後はすべて統一された」

店主たちはガルドの姿を見ると、小さなざわめきを立て始めた。

「バロン殿!」一人の商人が声をかけた。「また来られましたね。今年も良い絹を求めて?」

「ああ、ルカ」ガルドは挨拶した。「商売は順調か?」

「まあ、組合のおかげで安定していますよ」ルカは微笑んだが、その笑顔には緊張感があった。「ただ、自由に価格を決められないのは少し窮屈ですがね...」

直樹は【最強の値切り】スキルを発動させた。ルカの周りが輝き、情報が浮かび上がる。彼は確かに組合に不満を持っているが、何らかの制裁を恐れているようだ。

「ルカさん」直樹は穏やかに尋ねた。「もし組合がなければ、絹はいくらで売りたいですか?」

ルカは周囲を見回し、小声で答えた。「正直なところ...組合の定価より2割安くしても十分利益は出ます。特に大量に買ってくれる顧客なら」

「しかし、組合の規則が...」

「そうです」ルカは急いで頷いた。「組合の規則で最低価格が決められていますので、それ以下での販売はできません」

直樹はスキルをさらに深く使い、組合の構造や力関係を見抜いていった。絹商人たちは組合によって価格や取引量が厳しく管理され、違反者には厳しい制裁がある。

三人は他の絹商人たちの店も回り、情報を収集した。組合の統制に不満を持つ者、組合長ジャンの独断的な運営に疑問を抱く者、しかし同時に組合がもたらす安定と保護に感謝する者もいた。

市場調査を終え、三人はカフェで休息をとった。

「収穫のある調査だったな」ガルドは言った。「橘、気づいたことは?」

「組合は表面上は統一されていますが、内部に不満や亀裂があります」直樹は答えた。「特に中小の商人たちは、価格の硬直性に不満を持っています。ただ、彼らは組合の保護も必要としています」

「鋭い観察だ」ガルドは感心した。「では、どう戦略を立てる?」

「組合を壊すのではなく、内部から変化を促す方が効果的です」直樹は言った。「まずは不満を持つ中小商人たちと個別に交渉し、その後、組合長のジャン・リヴィエールと対峙します」

ガルドは納得した。「よし、橘の戦略で行こう。今日は中小商人との関係構築、明日は具体的な商談、そして最終日にジャンとの直接交渉だ」

三人は再び市場に戻り、中小の絹商人たちと個別に会話を始めた。

---

「マルコさん、組合の価格設定以外に問題はありますか?」直樹はある小さな店の主人に尋ねた。

マルコは周囲を見回し、小声で話した。「実は...組合の倉庫使用料が高すぎるんだ。大商人たちは自前の倉庫を持っているから問題ないが、私たち小規模商人は組合の倉庫を借りるしかない」

この情報は貴重だった。直樹は他の中小商人たちからも同様の話を聞いた。高い倉庫使用料、不公平な販売割り当て、大商人優遇の価格設定など、表面上は団結している組合も、内部には多くの問題を抱えていた。

---

翌日、三人は実際の商談を始めた。最初にマルコの店を訪れると、彼は緊張した様子で迎えた。

「実は提案があります」直樹が切り出した。「カレイド市に商人ギルドの専用倉庫を建設する計画があります。もし南方の絹商人たちと提携関係を結べれば、その倉庫を共同で使用できるようにできるかもしれません」

「それは素晴らしい」マルコの目が輝いた。

「そして」直樹は続けた。「私たちはマルコさんの絹を直接購入したいと考えています。もちろん、組合の規則に反することなく」

「しかし、価格は...」

「公式には組合の設定価格で」直樹は微笑んだ。「ただし、カレイド市での共同事業という形で、別途リベートを設定できます」

マルコはこの提案を理解し、驚いた。これは組合の価格設定を表面上は守りながら、実質的には値下げする方法だった。

「それは可能かもしれません」マルコは慎重に言った。「しかし、量はどれくらいですか?」

「今回は100反」ガルドが答えた。「成功すれば、将来的には増やしたい」

マルコは決断した。「承知しました。組合の設定価格、1反あたり銀貨50枚で100反、総額銀貨5000枚の取引とします。そして...」彼は声を落とした。「カレイド市での共同事業の一環として、銀貨1000枚のリベートを後日お支払いします」

これで実質的には2割引きの取引が成立した。ガルドは満足げに頷き、契約書を作成した。公式の契約書には組合の設定価格が記載され、リベートに関する別紙は内密に保管された。

「素晴らしい交渉だ」ガルドは店を出た後、直樹を褒めた。「組合の規則を破らずに値下げを実現するとは」

「今回は2割引きですが」直樹は言った。「まだ目標の半額には程遠いです」

「その通り」ガルドは厳しい表情になった。「最終目標は変わらない。だが、これは良い第一歩だ」

その日、彼らは同様の交渉を数人の中小商人たちと行った。中には3割引きに応じる商人もいたが、半額での取引に応じる者はいなかった。

---

「明日はいよいよジャンとの対決だ」夕食時、ガルドは言った。「しかし、その前に今夜、ジャンの屋敷で晩餐会がある。招待状だ」

直樹は驚いた。「私たちも招待されているのですか?」

「ああ」ガルドは頷いた。「敵とはいえ、ジャンと私は古くからの知り合いだ。取引前に社交の場で顔を合わせるのは慣例だ」

これは絶好の機会だった。ジャンの屋敷を訪れ、彼を直接観察できれば、明日の交渉に大いに役立つだろう。

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ジャン・リヴィエールの屋敷は南方の大市場から少し離れた丘の上に建ち、まるで小さな宮殿のように壮麗だった。

ホール内は既に大勢の客で賑わっていた。「あそこだ」ガルドが視線で示した先には、高級な椅子に座る60代の男性がいた。銀髪を後ろで結び、鋭い目と引き締まった口元を持つその男性は、明らかに権威と富を備えていた。「ジャン・リヴィエールだ」

直樹は【最強の値切り】スキルを発動させ、ジャンを観察した。彼の周囲が金色に輝き、情報が浮かび上がる。ジャンは強い意志と野心を持つ人物だが、同時に何かに悩んでいるようだった。彼の側には美しい若い女性が立っていた。おそらく彼の娘イザベルだろう。

三人はジャンに近づいた。ジャンはガルドの姿を見ると、表情を硬くしたが、すぐに社交的な笑みを浮かべた。

「ガルド・バロン」ジャンは椅子から立ち上がり、挨拶した。「よく来てくれた。明日の商談の前に、一杯どうだ?」

「ジャン・リヴィエール」ガルドも同様に挨拶した。「こちらは私の甥ヘンリーと、カレイド商人ギルドの橘直樹だ」

晩餐会の間、直樹はできるだけ多くの人と会話し、ジャンについての情報を集めた。夜も更けた頃、直樹は屋敷の庭で一息ついていた。

「こんな所にいたのね」

振り返ると、イザベルが立っていた。

「イザベルさん」直樹は軽く頭を下げた。「素晴らしい晩餐会をありがとうございます」

「橘さんは面白い人ね」イザベルは言った。「皆と話しながら、何かを探っているような...」

「そんなことはありません」直樹は笑って否定した。

「父のことを知りたいのでしょう?」イザベルは鋭く指摘した。「明日の商談のために」

直樹は正直に認めた。「はい。バロン様とのお取引は重要ですから」

イザベルはしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。「父は強情で、時に冷酷に見えるかもしれないけれど...彼なりの正義があるの。絹商人組合を作ったのは、弱小商人を守るためだったのよ」

「でも、その結果、価格が硬直し、革新が阻害されているという声もありますよね」直樹は慎重に言った。

イザベルは少し悲しげに微笑んだ。「そう。父の理想は時とともに変質してしまったのかもしれない。特に母が亡くなってから、父は変わった...」

「バロン様とあなたのお父様は、かつて友人だったそうですね」

「ええ」イザベルは頷いた。「二人は若い頃、共に商売を始めた親友だったわ。でも、ある取引を巡って対立し...」彼女は言葉を切った。「実は父は時々、バロン様のことを懐かしそうに話すことがあるの。表向きはライバルを装っているけれど、本当は...」

この瞬間、ジャンの声が庭に響いた。「イザベル、どこにいる?」

「ここよ、父上」イザベルは答え、直樹に小さく頭を下げて去っていった。

---

翌朝、最終日。いよいよジャン・リヴィエールとの直接交渉の日が来た。三人は朝食を取りながら、最終的な戦略を練っていた。

「昨夜の晩餐会で、何か新しい情報は得られたか?」ガルドが尋ねた。

直樹はイザベルから聞いた話を共有した。「ジャンさんは組合を設立した当初、弱小商人を守るという理想を持っていたようです。しかし、現在は本来の理想から離れつつあるのかもしれません」

「それは興味深い」ガルドは考え込んだ。「確かに組合設立当初、彼は弱小商人の保護を訴えていた。しかし、今や組合自体が巨大な権力となり、本来守るべき商人たちを縛っている」

「この点を交渉の突破口にできるかもしれません」直樹は提案した。「価格だけでなく、組合の理想に立ち返るという観点から交渉を始めるのです」

ガルドは何か思い出したように言った。「そういえば...ジャンと私が決別した原因も、似たような理念の違いだった。30年前、私たちは共同で大きな取引に臨んでいた。私は市場原理に従い、最も効率的な取引を主張した。しかし、ジャンは小規模商人にも利益を分配すべきだと主張した」

直樹はこの情報を聞き、新たな視点が開けたような気がした。ガルドとジャンの対立は単なる商売敵としての競争ではなく、経済哲学の違いだったのだ。

「ジャンとの約束の時間だ」ヘンリーが時計を見て言った。「行きましょう」

三人は市場の中央にある絹商人組合の本部へと向かった。
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