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第17話「アグリスポーツ大会前夜!仲間たちの集結」
しおりを挟むアグリスポーツ大会を翌日に控えた王都は、かつてない活気に包まれていた。全国から集まった農民や商人たちで街は溢れ、宿は満室、酒場は満席。祝祭的な雰囲気が街全体を覆っていた。
しかし、この活気の裏で、もう一つの物語が静かに進行していた。
「これが最新の配置図です」
薄暗い倉庫の中、カイは床に広げられた会場の図面を指差していた。周りには十数人の信頼できる協力者たちが集まっていた。ミルヴァレー村から来たロレン村長、バトルホー実演部隊のメンバー、さらに東部の村々の代表者も数名。手配犯となったカイを支援するため、彼らは密かに集まっていた。
「明日、ヴァルドー卿は中央席にいる予定です。開会式での彼の演説中に、行動を開始します」
カイの説明は簡潔明瞭だった。もはや彼は単なる農民ではなく、一つの作戦を率いるリーダーとして成長していた。
「危険すぎないか?」グリーンヒル村の村長バートが懸念を示した。「会場は王国軍に囲まれているぞ」
「だからこそ計画が必要なんです」カイは冷静に答えた。「皆さんには命を危険にさらす義務はありません。しかし、真実を広め、皇女様を救うためには、協力が必要なのです」
一瞬の沈黙の後、ロレン村長が立ち上がった。
「カイ、ミルヴァレー村は全面的に協力する。あなたが村を救ってくれたように、今度は我々があなたを支える番だ」
「私たちも」東部から来た痩せた農夫が言った。「旱魃から救ってくれた恩は忘れません」
次々と支持の声が上がり、計画への参加を表明した。カイは胸が熱くなるのを感じた。
「皆さん、本当にありがとうございます」
「感傷に浸っている場合じゃないわ」
エリナが倉庫の入口から現れた。彼女の背後には数人の頑強な男女が立っていた。
「王都の鍛冶師ギルドのメンバーよ。父の紹介で協力してくれることになったわ」
リーダー格の太い男が一歩前に出た。「ヴァルドー卿の圧政には我々も辟易としている。特に彼の武器製造命令は理不尽極まりない」
「武器製造命令?」カイが尋ねた。
「ああ」鍛冶師は顔をしかめた。「過去数ヶ月で、通常の十倍の量だ。しかも通常の武器ではなく、魔法金属を含んだ特殊なものばかり」
「明らかに戦争準備ですね」カイは考え込んだ。
この時、ガウルが数人の獣人を伴って現れた。普段なら獣人の姿に農民たちは警戒するところだが、もはやそんな余裕はなかった。全員が共通の敵に立ち向かう同志だった。
「市内の巡回を完了した」ガウルが報告した。「城の警備は強化されているが、南側に弱点がある。また、大会会場にも偵察に行ってきた」
「何か見つかった?」カイが尋ねた。
ガウルは表情を引き締めた。「会場の地下から、不自然な魔力の流れを感じた。紫がかった魔力だ」
「紫の魔力?」カイは眉をひそめた。「ルナブロッサムと同じ系統か…」
「それだけじゃない」ガウルは続けた。「会場周辺に黒ローブの人物が複数潜伏している。何かを準備しているようだ」
部屋の空気が重くなった。カイは作戦の詳細を説明し始めた。
「計画は三段階です。まず、開会式中に私たちの支持者が真実を知らせる声明を会場全体に広める。次に、混乱に乗じて皇女様の救出チームが動きます。最後に、ヴァルドー卿の計画を阻止するため、会場の地下を調査します」
計画の細部が話し合われる中、カイはベルンハルト老学者から得た情報を共有した。
「城には複数の秘密通路があるそうです。その一つは大会会場に近い場所から、城の中庭に通じています。これを使って皇女様を救出します」
「誰が救出に行くんだ?」ミルヴァレー村の若者が尋ねた。
「私とガウルです」カイは答えた。「エリナは会場での指揮を担当します」
「そんな危険な…」エリナが抗議しかけたが、カイは優しく彼女の手を取った。
「エリナ、君は農具の専門家だ。会場での作戦を指揮できるのは君しかいない」
彼女は不満げながらも、理解を示した。
計画の説明を終えた後、カイは全員に休息を促した。「明日は早いです。今夜はしっかり休んでください」
しかし、人々が散り始めたその時、倉庫の扉が勢いよく開かれた。
「大変だ!」
ガウルの部下である若い獣人が飛び込んできた。その表情には恐怖が浮かんでいた。
「何があった?」ガウルが尋ねた。
「会場近くの湖…シルバームーン湖が…」獣人は息を切らしながら言った。「黒く染まっている!」
---
シルバームーン湖は王都の西側に位置する小さな湖で、アグリスポーツ大会の水上競技が行われる予定だった。カイたちが急いで現場に向かうと、不気味な光景が広がっていた。
湖面は漆黒に染まり、月の光も反射しない不自然な闇のようだった。周囲の植物は急速に枯れていき、木々の葉は茶色に変色して落ちていた。数匹の魚が湖面に浮かび上がり、すでに命を落としていた。
「これは…」カイは息を呑んだ。
エリナが湖の縁に近づき、水面を観察した。「自然現象じゃないわ」
ガウルは鋭い嗅覚で空気を感じ取っていた。「魔力の匂いがする。禁断の農作物の匂いだ」
カイは慎重に湖水のサンプルを採取した。水は通常よりも粘度が高く、不自然な光沢を持っていた。彼は土壌改良スキルを使って分析を試みたが、通常の水とは明らかに異なる反応を示した。
「これは…ルナブロッサムの力を悪用したものだ」カイは確信を持って言った。「しかも純粋な植物の力ではなく、何か魔法と混ざっている」
「ヴァルドー卿の仕業か?」ロレン村長が怒りを込めて尋ねた。
「間違いないでしょう」カイは湖面を見つめながら答えた。「彼は何かを準備している。明日の大会で…」
「湖を浄化できないのか?」バートが尋ねた。
カイは首を振った。「規模が大きすぎる。それに、これは単なる汚染ではなく、魔力による変質だ。簡単には元に戻せない」
「じゃあどうするんだ?」
「計画を変更します」カイは決意を固めた。「水上競技は中止を提案し、湖に近づかないよう警告を出す必要があります」
エリナが険しい表情で言った。「でも、もしこれがヴァルドー卿の計画の一部なら?わざと目立つようにして、何か別の…」
「可能性はある」カイは頷いた。「会場の地下の調査も並行して進めなければ」
彼らが対策を話し合っていると、突然、湖の中央から気泡が立ち上り始めた。そして、水面から紫がかった蒸気が立ち昇った。
「みんな、下がって!」カイが叫んだ。
全員が急いで後退する中、蒸気は徐々に濃くなり、不気味な形を形成し始めた。何かの植物のようにも見えるが、どこか歪で不自然な形だった。
「あれは…」エリナの声が震えた。
「禁断の農作物」カイが答えた。「でも何か違う。人為的に変えられている」
蒸気は次第に消え去ったが、湖の黒さはさらに増していた。
「明日の大会は危険だ」ガウルが断言した。「中止すべきだ」
「でも…」カイは苦悩した。「中止になれば、皇女様を救出する機会も失われる」
全員が沈黙する中、カイは決断を下した。
「大会は予定通り行います。しかし、湖周辺には近づかないよう参加者に警告を出しましょう。そして…」彼は視線を引き締めた。「追加の調査チームを編成します。会場の地下と、この湖の繋がりを探るために」
---
調査結果は予想以上に深刻だった。湖の黒い水は地下水脈を通じて会場の下へと流れていることが判明。さらに、地下水脈の周囲には奇妙な装置が設置されており、魔力を増幅しているようだった。
「これはまさに罠だ」カイは緊急会議で報告した。「ヴァルドー卿は大会中に何かを起こそうとしている」
エリナは、鍛冶師たちと協力して作った特殊農具の数々を並べた。通常のバトルホーに加え、水中でも使える「ウォーターシックル」、魔力を中和する効果を持つ「ピュリファイ・レーキ」など、様々な道具が用意されていた。
「最悪の事態に備えて、これらを使ってください」エリナは説明した。「特に紫の魔力に対しては、ピュリファイ・レーキが効果的なはずです」
「どう配布する?」ロレン村長が尋ねた。「大会参加者全員には無理だぞ」
「各村の代表者に渡しましょう」カイが提案した。「そして緊急時の合図を決めておく必要があります」
彼らは口笛の合図や、緊急時の集合場所を決め、さらに救出経路の最終確認を行った。
「ベルンハルトから聞いた秘密通路の入口はここです」カイは図面を指さした。「成功すれば、城の中庭まで直接アクセスできます」
「警備は?」ガウルが尋ねた。
「通常なら少ないはずだが、今は分からない」カイは率直に答えた。「最悪の場合に備えて、別の脱出経路も確保しています」
会議が終わりに近づいた頃、誰もが緊張と決意が入り混じった表情を浮かべていた。明日は単なるスポーツの祭典ではなく、王国の命運を左右する戦いになる。
「皆さん」カイは最後に言った。「明日は危険が伴いますが、我々の行動が王国の未来を決めます。皇女様を救い、ヴァルドー卿の陰謀を阻止できれば、よりよい王国への第一歩になるでしょう」
「農民の力を見せてやろうじゃないか」ロレン村長が力強く言った。「土を耕す者の底力をな!」
全員が賛同の声を上げた。かつては単なる村の農業顧問だったカイを中心に、今や王国全土の農民たちが団結しつつあった。
---
深夜、カイは一人で倉庫の屋根に座り、星空を見上げていた。明日の作戦のことを考えると、胸が締め付けられる思いがした。
「眠れないの?」
エリナが屋根に上がってきて、カイの隣に座った。
「ああ、少し考え事を」
「心配?」
「怖いよ」カイは正直に答えた。「こんな大きな責任を背負うなんて、来た当初は想像もしなかった」
エリナは黙ってカイの手を握った。
「一人じゃないわ」彼女は優しく言った。「みんながついてる。私も…ずっとそばにいるから」
カイは感謝の気持ちで彼女を見つめた。出会ってからの道のりは長いようで短かった。互いに成長し、絆を深め、今では言葉なしでも心が通じ合っている。
「ありがとう、エリナ」
二人は静かに夜空を見上げた。明日への不安は消えないが、仲間がいるという事実が、カイに勇気を与えていた。
---
同じ時刻、王城の地下室ではヴァルドー卿が最後の準備を進めていた。
「装置の調整は完了しました」黒ローブの部下が報告した。
「良し」卿は満足げに頷いた。「湖の反応はどうだ?」
「予想以上に良好です。禁断の農作物から抽出した魔力結晶が、水と完全に同調しています」
ヴァルドー卿は中央に置かれた大きな装置を見つめた。それは複雑な魔法陣と結晶で構成されており、紫の光を放っていた。
「千年前の農芸魔法を現代に蘇らせる…」卿はつぶやいた。「先人たちが恐れた力を、我々が制御する」
「しかし卿」側近の一人が恐る恐る言った。「これほど大規模な魔力操作は危険です。制御を失えば…」
「黙れ!」卿は怒鳴った。「私がすべてを計算している。明日、王国は新たな時代を迎える。そして農民どもは、彼らの英雄が引き起こす悲劇を目の当たりにするのだ」
卿は紫色の結晶を手に取り、その中に映る自分の歪んだ顔を見つめた。瞳は鮮やかな紫色に輝いていた。
「もはや後戻りはできん。計画は最終段階に入った」
---
夜明け前、カイは最後の準備を終えていた。作戦に関わる全員との最終確認も済み、あとは実行あるのみだった。
「カイ、これを」
エリナが小さな袋を差し出した。開けてみると、中には銀色に輝くルナブロッサムの種が入っていた。
「皇女様の庭から採取しておいたの。もしものときに」
「ありがとう」カイは感謝の意を込めて袋を受け取った。「これが役に立つ時が来るかもしれない」
「必ず戻ってきてね」エリナの目には涙が浮かんでいた。「約束して」
「約束するよ」カイは力強く頷いた。「皇女様を救出して、みんなで勝利を祝おう」
その頃、王都には夜明けの光が差し始めていた。アグリスポーツ大会の幕開けと共に、王国の命運を賭けた戦いが始まろうとしていた。
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