『紅い部屋の子どもたち——封印された約束、蘇る儀式—』

ソコニ

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第20話「封印の儀式」

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「紅い部屋」の中央に立つ真一の体を、赤い光が包み込んでいた。健太たちの正体——「紅い御子様」そのものだという事実を知った今、彼は厳しい現実に直面していた。彼らは友人ではなく、村を食い物にする異質な存在だったのだ。

「僕は悪くない…」健太と名乗る存在が、子どもの姿で真一を見上げていた。しかし、その瞳には子どものものとは思えない古い知性が宿っていた。「ただ、生きたいだけなんだ」

「生きるために村を犠牲にしていたのか」真一は感情を抑えながら問いかけた。

「共存だよ」健太は首を横に振った。「僕たちは村を災害から守り、代わりに少しずつ生命力をいただいていた。公平な取引だ」

真一は部屋の壁に貼られた写真を見渡した。200年にわたる「紅の游び」に参加した子どもたちの写真。健太たちだけでなく、それ以前から「紅い御子様」は村の子どもたちを宿主としてきたのだ。

「こんなことを続けさせるわけにはいかない」真一は決意を固めた。

「選択肢はないよ」健太は淡々と言った。「僕たちは真一と『紅い約束』を交わした。その約束を果たさない限り、この村は呪われたまま」

「紅い約束?」

「15年前」健太の声が響き渡る。「秘密基地で、紅の游びをしていた夜。あの時、真一は誘拐された子どもの身代わりになることを承諾したんだ」

真一の記憶が蘇る。確かに、最初は旅行者の子ども・雄太を生贄にしようとしていた。それに真一は反対し、大人に告げようとした。その「裏切り」への罰として、真一は生贄に選ばれた。

「でも、僕は承諾なんかしていない…」

「したよ」健太の目が赤く光った。「最後の瞬間、『紅い御子様』が現れた時、あなたは恐怖のあまり、『僕の代わりに皆を連れて行って』と言った。それが約束だ」

真一は震えた。そんな記憶はない。しかし、極度の恐怖の中で、そのようなことを言ったかもしれない。村から逃げ出した後の記憶も曖昧だ。

「そして、あなたは逃げ出した」健太の声に非難の色はなかった。「恐怖で。それは仕方ない。でも約束は残った」

真一は手で顔を覆った。自分が村を出たことで、健太たちは「紅い部屋」に閉じ込められ、村人たちは毎月生贄を捧げるという過酷な運命を背負うことになった。全ては自分のせいなのか。

「今度は逃げない」真一は顔を上げ、決意を示した。「約束を果たす。でも、それは君たちの望むようにではない」

「どういうこと?」健太の表情が曇った。

真一は「紅い部屋」の中央に進み出た。「僕は祖母から教わったんだ。『紅い御子様』を封じる方法を」

健太の目に警戒の色が浮かんだ。「できるはずがない。あなたにはその力はない」

「試してみよう」

真一が祖母から教わった封印の言葉を唱え始めると、健太たちの体が震え始めた。他の子どもたちも動揺を隠せない様子だ。「紅い部屋」全体が揺れ、壁から赤い液体が滲み出してくる。

「止めろ!」健太が叫んだ。その声は子どものものではなく、何か古く邪悪なものの叫びだった。

しかし、真一の言葉は途中で途切れた。呪文が完全ではなかったのだ。祖母は全てを教えてくれたわけではなかった。

「やはりダメか…」

健太たちの表情が安堵に変わった。「無駄な抵抗だ」健太が言った。「さあ、約束を果たそう。"最後の儀式"を完了させるんだ」

「どうすればいい?」真一は諦めの色を浮かべた。

「あそこに横たわって」健太は部屋の中央にある祭壇を指さした。それは赤い石で作られた平らな台だった。

真一は深く息を吸い、ゆっくりと祭壇に近づいた。途中、最後の逃亡を考えたが、それは無意味だと悟った。「紅い部屋」の扉は既に閉ざされ、村を出ても呪いは自分を追いかけるだろう。それに、村人たちがこれ以上苦しむことを望まなかった。

「今度は逃げない」真一は自分に言い聞かせるように呟き、祭壇の上に横たわった。冷たい石の感触が背中に伝わる。

健太たちは円陣を組み、祭壇を取り囲んだ。そして、不気味な歌を歌い始めた。

「紅い紅い 紅いお部屋 誰が入るの 私が入るの みんな入ろう 紅いお部屋」

歌声が部屋中に響き渡り、壁からは赤い霧が立ち上り始めた。真一の体が徐々に赤く染まっていく。皮膚の下を赤い液体が流れるような感覚。痛みはなかったが、奇妙な重さが全身に広がっていった。

「これで、僕たちは自由になれる」健太の声が聞こえてきた。「あなたが『紅い御子様』の新しい器となり、僕たちは完全な形で復活できる」

真一は天井を見つめながら、心の中で祖母に語りかけた。「ごめん、祖母さん。僕は逃げられなかった」

儀式が進むにつれ、真一の意識が徐々に遠のいていく。体が溶けていくような感覚。自分の存在そのものが、「紅い部屋」に吸収されていくかのようだった。

そのとき——

「待ちなさい!」

儀式の輪の外から、澄んだ女性の声が響いた。子どもたちの歌声が途切れ、真一は辛うじて目を開けた。

そこには一人の老婆が立っていた。白い着物を着た老婆。真一の祖母・ミヨの幽霊だった。その姿は半透明で、淡く光を放っていた。

「祖母さん…」真一の声はかすれていた。

「私にはまだ孫が必要です」祖母は毅然とした態度で言った。「真一を解放しなさい」

健太たちは一瞬怯んだが、すぐに態勢を立て直した。「邪魔しないで」健太が言った。「これは約束だ。真一自身が選んだ道だ」

「欺いたのでしょう?」祖母の目が鋭く光った。「あなたたちはいつも人を欺く。200年前からずっと」

「そんなことはない」健太は反論した。「我々は共存を望んでいるだけだ」

「嘘つき」祖母は一歩前に進み出た。「あなたたちは村の生命力を吸い取り、子どもたちを利用してきた。私は知っている。私の母から聞いた。そして私はその母から聞いた」

健太の表情が歪んだ。「あなたの血筋は常に邪魔だった。だからこそ、真一が必要なんだ。その血筋を絶つために」

祭壇の上で、真一の意識が少しずつ戻ってきた。祖母と健太たちのやり取りが聞こえる。「紅い御子様」の真の目的は、自分の血筋を絶つことだったのか。

「真一、聞こえる?」祖母の声が真一の心に直接響いた。「あの子を呼びなさい!」

「あの子?」真一は混乱した。健太たちのことか?

「かくれんぼをしていた子よ」祖母の声が続く。「あなたが助けた子」

真一の記憶が一気に蘇る。15年前、秘密基地での出来事。あの日、健太たちが生贄にしようとしていたのは、雄太という名の少年だった。しかし、真一は彼を隠し、逃がした。そして自分が代わりに生贄になると申し出たのだ。

「サトシ!」真一は突然叫んだ。

その名を呼んだ瞬間、「紅い部屋」の隅から弱い光が漏れ出し、一人の少年の姿が浮かび上がった。10歳くらいの少年。15年前と同じ姿のまま。

「真一兄ちゃん…」少年の声は弱々しかった。

「サトシ…」真一は目を見開いた。「どうして君がここに?」

「雄太じゃなかったんだ」祖母が説明した。「彼らが誘拐したのは雄太ではなく、サトシだった。サトシは15年間、『紅い部屋』に閉じ込められていたのよ」

「嘘だ!」健太が叫んだ。その声は恐怖に満ちていた。

「本当だよ」サトシが一歩前に出た。「僕は15年前、この村に遊びに来た。そして健太たちに捕まって、秘密基地に連れてこられたんだ。でも真一兄ちゃんが僕を隠してくれた」

「そんなはずはない」健太の声が震えた。「俺たちは誰も捕まえていない。あれは演技だった。真一を脅すための…」

「嘘つき」サトシは強く言った。「あなたたちは僕を捕まえ、『紅い御子様』に捧げようとした。でも真一兄ちゃんのおかげで逃げられた。そして…」

サトシの体が光を放ち始めた。子どもの姿が変わり、一羽の赤い鳥の姿になった。

「私の本当の姿だよ」鳥が人間の声で話した。「私は『紅い守護者』。『紅い核』と同じ星から来たけど、彼らとは違う存在。私は地球を守るために来たんだ」

健太たちの表情が一変した。恐怖と憎悪に満ちた顔で、鳥を睨みつける。

「お前か…」健太の声が完全に変質した。もはや人間の声ではなく、金属的で冷たい音。「ずっと我々の邪魔をしていたのは」

「真一、力を貸して」鳥は真一の上に舞い降りた。「二人なら『紅い核』を封印できる」

健太たちが一斉に叫び、鳥に向かって飛びかかった。しかし、祖母の霊体が彼らの前に立ちはだかる。

「真一、私が彼らを引き付けている間に!」祖母が叫んだ。「さあ、封印の儀式を!」

真一は体を起こし、鳥と共に封印の言葉を唱え始めた。今度は完全な呪文。鳥が不足していた部分を補った。

言葉が「紅い部屋」全体に響き渡り、健太たちの体が震え始めた。彼らの姿が歪み、子どもの形を保てなくなる。赤い霧となって部屋中を舞い、壁や天井に激しくぶつかった。

「逃げられない!」彼らの声が混ざり合った叫びとなって響く。「我々は不滅だ!」

「でも、封印はできる」鳥が言った。「さあ、最後の言葉を!」

真一と鳥が同時に最後の封印の言葉を唱えた瞬間、「紅い部屋」全体が強烈な光に包まれた。健太たちの霧状の体が一点に集まり、小さな赤い球となって床に落ちた。

「これが『紅い核』の本体」鳥が説明した。「あなたの血の力と私の力で、完全に封印できた」

真一は力尽き、床に膝をついた。体の赤みが少しずつ引いていく。正気を取り戻したような感覚だった。

「祖母さん…」

祖母の幽霊は微笑み、「よくやったわ、真一」と言った。「これで村は救われる」

「でも、これから『紅い核』はどうなるんですか?」真一は床に転がる赤い球を見つめた。

「私が持って行くよ」鳥が言った。「遠くへ。二度と地球に戻れないところへ」

「サトシ…あなたは一体?」

「説明する時間はないんだ」鳥は急かした。「『紅い部屋』が崩壊し始めている。早く出なければ」

真一は立ち上がり、祖母と鳥と共に「紅い部屋」から出ようとした。扉が開き、外の光が差し込む。

最後に振り返ると、部屋の壁や天井にはひびが入り、赤い光が弱まっていた。200年続いた恐怖の時代が、ついに終わろうとしていた。
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