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食堂にて
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「――チャーチルとリゼか。お互い災難だったな」
「違います。これからが災難なんです」
「そっ、そうだよセラフィムぅ! 我はどうすればいいんだ、うぐぐっっ……」
「泣かないで下さい。みっともない」
「なっ、何を言うか子爵の分際でぇ! 我は伯爵なのだぞ! 分かっているのか!」
「おい、ここでは貴族の位は関係ないぞ。同じ士官学校の生徒だ。我とか、余とか、貴族然とした固い話し方は周囲から浮くだけだ。やめよう」
「ワタクシ、もダメですか」
「ダメだな、私、とか、アタシ、とかが良いだろう。女性徒達は気性が荒いと聞いたし、お高くとまっていたらいじめられるに違いない」
「我はどうすればぁ?」
「チャーチルはぽっちゃりして髪がクルクルしているから、僕とかが良い。余は細身でイケメンだから俺にする」
「ぽっちゃりって何だよぉ!」
「あははは」
「棒読みで笑うなっ、リゼの馬鹿ぁ!」
新たな入居者は二人だった。どちらも異光聖剣で選抜された貴族で、チャーチル・アナフィだけが伯爵、俺とリゼ・ジャズフェールが子爵だ。ちなみにリゼは珍しい女貴族で、令嬢ではなく家の当主だ。銀髪の長髪をして、知的な感じのする女性である。チャーチルが16歳で、俺が17、リゼが18だった。
また扉が開く音がして、先客が俺たちを睨んだ。
「お前達、夕食の時間だ」
女の声だった。しかしヒョウ柄の尻尾が臀部から生えていて、手や頬に薄茶色の長い毛が伸びて、ダークブラウンの短い頭髪の上には耳が二つ付いていた。
「……獣人だ」
チャーチルが言うと、先客は軽く舌打ちした。
「早く制服に着替えろ。私は食堂の前で待っている」
怒ったようにして扉を勢いよく締め、彼女は先に行ってしまった。
「どちら様でしょう」
「あれだ、上の荷物の持ち主だ」
「獣人が士官学校にいるなんて」
チャーチルだけではなく、俺もリザも驚いていた。獣人はこの国だと汚れた生き物として奴隷になっていることが多い。戦争においては、騎士ではなく一般兵士に混ざって従軍させられ、犠牲になることもしばしばだ。
「とりあえず、行こうか」
俺達三人はおとなしく食堂へ向かった。すると一階は訓練終わりの疲れ果てた生徒達で溢れかえり、騒がしかった。
「あぁ、今日もあいつにやられたよ、きついわー」
「俺なんか一瞬意識飛んでたよ。壁にぶつかった衝撃で目が覚めた」
「末期だな。そろそろ医務室常連になる気がする」
「待ってくれよ、そんなんじゃ卒業できねぇ」
「ステージが悪すぎたな。狭いと俺の実力が発揮されん!」
「剣じゃダメか、ありゃ弓か、銃でもいいよな」
「盾持って行こうぜ。くらったらいちいち怪我するぞ」
みんな自分の思い思いの言葉を話していた。怪我をしているものも多い。俺たち三人は少し肩身の狭い思いで廊下を歩き、食堂の前まで行って、さきほどの獣人に声をかけた。
「……一応点呼する、決まりだからな。……セラフィム・ボナパルト」
「おう」
「チャーチル・アナフィ」
「はぁい」
「リゼ・ジャズフェール」
「はい」
「よし。では、これから食堂を案内する。何か質問があれば私が答える。私のことはオリビアと呼べ。これから一年間、お前達の面倒を見る」
「あれか、ルームリーダーってやつか」
「そうだ」
軍曹に渡された見取り図に、確か室長
ルームリーダー
がどうたらこうたらと書かれているのを思い出していた。こいつがそうか。
歩きながら、食堂のどこにどのような食材が売られているのかをオリビアが説明していった。魔力を肥料にして育てた食材には調合されたポーションが混ぜてあったりして、どれがどんな効果を疲れた体に与えてくれるかを一つ一つ教わった。
食事中、オリビアの腕の傷がゆっくりふさがっているのが分かった。
「おぉ、そのスープは回復の効果があるのかぁ」
「さっき教わったばかりですよチャーチル」
「肉は筋力を高める、野菜は体調を整える、みたいにざっくり覚えておいたら良いんじゃないか」
「本当にざっくりですね、セラフィム」
「おい、とっとと食え。部屋に戻ってからミーティングだ」
時々俺たちに視線をやる周りの生徒達が気になった。ある者は酒をあおりながら、ある者は骨付き肉に食らいつきながらこちらを見ていた。知らない顔だから当然だろう。そして彼らの視線にはどこか挑戦的な感じが見て取れた。
それもそのはず、俺たちはダイレクトで士官学校高等部の三年に編入したのだ。卒業試験に新たな得体の知れないライバルが現れたと見て、敵視してもおかしくない。
彼らは服の上からでも分かるくらいに良い体つきをしていて、男女比は九対一。やはり男が多い。そして多くの者は中等部から努力し、高等部への進学試験で魔力が扱えない者は剣士育成コース、扱える者は聖騎士育成コースへ振り分けられる。ここにいるのは聖騎士を目指すことが許されたエリート達だ。
「めちゃくちゃ見られているね……怖いよ」
「だな、相当俺たちの存在がお気に召さないんだ」
「彼らの実家に賄賂でも送って仲良くしてもらいますか」
「なんてこと言うんだリゼ。それこそ彼らを怒らせる」
「早く食え! 喋るな!」
異光聖剣がどれほど通用するのか知らないが、それにしても大胆不敵な入学になってしまった。五十年ぶりの徴兵令で招集された貴族がいきなり学校に現れて、それも一年間で卒業して騎士の資格を獲得します、などと言えば、目の敵にされるかもしれない。
正直に言おう。非常に怖い。ダメだこれ。だって見ろよ、みんな腕太いし、ムッキムキだぞ、モヤシとデブと華奢な女があれに対抗できるとは思えん。大変だ……
「違います。これからが災難なんです」
「そっ、そうだよセラフィムぅ! 我はどうすればいいんだ、うぐぐっっ……」
「泣かないで下さい。みっともない」
「なっ、何を言うか子爵の分際でぇ! 我は伯爵なのだぞ! 分かっているのか!」
「おい、ここでは貴族の位は関係ないぞ。同じ士官学校の生徒だ。我とか、余とか、貴族然とした固い話し方は周囲から浮くだけだ。やめよう」
「ワタクシ、もダメですか」
「ダメだな、私、とか、アタシ、とかが良いだろう。女性徒達は気性が荒いと聞いたし、お高くとまっていたらいじめられるに違いない」
「我はどうすればぁ?」
「チャーチルはぽっちゃりして髪がクルクルしているから、僕とかが良い。余は細身でイケメンだから俺にする」
「ぽっちゃりって何だよぉ!」
「あははは」
「棒読みで笑うなっ、リゼの馬鹿ぁ!」
新たな入居者は二人だった。どちらも異光聖剣で選抜された貴族で、チャーチル・アナフィだけが伯爵、俺とリゼ・ジャズフェールが子爵だ。ちなみにリゼは珍しい女貴族で、令嬢ではなく家の当主だ。銀髪の長髪をして、知的な感じのする女性である。チャーチルが16歳で、俺が17、リゼが18だった。
また扉が開く音がして、先客が俺たちを睨んだ。
「お前達、夕食の時間だ」
女の声だった。しかしヒョウ柄の尻尾が臀部から生えていて、手や頬に薄茶色の長い毛が伸びて、ダークブラウンの短い頭髪の上には耳が二つ付いていた。
「……獣人だ」
チャーチルが言うと、先客は軽く舌打ちした。
「早く制服に着替えろ。私は食堂の前で待っている」
怒ったようにして扉を勢いよく締め、彼女は先に行ってしまった。
「どちら様でしょう」
「あれだ、上の荷物の持ち主だ」
「獣人が士官学校にいるなんて」
チャーチルだけではなく、俺もリザも驚いていた。獣人はこの国だと汚れた生き物として奴隷になっていることが多い。戦争においては、騎士ではなく一般兵士に混ざって従軍させられ、犠牲になることもしばしばだ。
「とりあえず、行こうか」
俺達三人はおとなしく食堂へ向かった。すると一階は訓練終わりの疲れ果てた生徒達で溢れかえり、騒がしかった。
「あぁ、今日もあいつにやられたよ、きついわー」
「俺なんか一瞬意識飛んでたよ。壁にぶつかった衝撃で目が覚めた」
「末期だな。そろそろ医務室常連になる気がする」
「待ってくれよ、そんなんじゃ卒業できねぇ」
「ステージが悪すぎたな。狭いと俺の実力が発揮されん!」
「剣じゃダメか、ありゃ弓か、銃でもいいよな」
「盾持って行こうぜ。くらったらいちいち怪我するぞ」
みんな自分の思い思いの言葉を話していた。怪我をしているものも多い。俺たち三人は少し肩身の狭い思いで廊下を歩き、食堂の前まで行って、さきほどの獣人に声をかけた。
「……一応点呼する、決まりだからな。……セラフィム・ボナパルト」
「おう」
「チャーチル・アナフィ」
「はぁい」
「リゼ・ジャズフェール」
「はい」
「よし。では、これから食堂を案内する。何か質問があれば私が答える。私のことはオリビアと呼べ。これから一年間、お前達の面倒を見る」
「あれか、ルームリーダーってやつか」
「そうだ」
軍曹に渡された見取り図に、確か室長
ルームリーダー
がどうたらこうたらと書かれているのを思い出していた。こいつがそうか。
歩きながら、食堂のどこにどのような食材が売られているのかをオリビアが説明していった。魔力を肥料にして育てた食材には調合されたポーションが混ぜてあったりして、どれがどんな効果を疲れた体に与えてくれるかを一つ一つ教わった。
食事中、オリビアの腕の傷がゆっくりふさがっているのが分かった。
「おぉ、そのスープは回復の効果があるのかぁ」
「さっき教わったばかりですよチャーチル」
「肉は筋力を高める、野菜は体調を整える、みたいにざっくり覚えておいたら良いんじゃないか」
「本当にざっくりですね、セラフィム」
「おい、とっとと食え。部屋に戻ってからミーティングだ」
時々俺たちに視線をやる周りの生徒達が気になった。ある者は酒をあおりながら、ある者は骨付き肉に食らいつきながらこちらを見ていた。知らない顔だから当然だろう。そして彼らの視線にはどこか挑戦的な感じが見て取れた。
それもそのはず、俺たちはダイレクトで士官学校高等部の三年に編入したのだ。卒業試験に新たな得体の知れないライバルが現れたと見て、敵視してもおかしくない。
彼らは服の上からでも分かるくらいに良い体つきをしていて、男女比は九対一。やはり男が多い。そして多くの者は中等部から努力し、高等部への進学試験で魔力が扱えない者は剣士育成コース、扱える者は聖騎士育成コースへ振り分けられる。ここにいるのは聖騎士を目指すことが許されたエリート達だ。
「めちゃくちゃ見られているね……怖いよ」
「だな、相当俺たちの存在がお気に召さないんだ」
「彼らの実家に賄賂でも送って仲良くしてもらいますか」
「なんてこと言うんだリゼ。それこそ彼らを怒らせる」
「早く食え! 喋るな!」
異光聖剣がどれほど通用するのか知らないが、それにしても大胆不敵な入学になってしまった。五十年ぶりの徴兵令で招集された貴族がいきなり学校に現れて、それも一年間で卒業して騎士の資格を獲得します、などと言えば、目の敵にされるかもしれない。
正直に言おう。非常に怖い。ダメだこれ。だって見ろよ、みんな腕太いし、ムッキムキだぞ、モヤシとデブと華奢な女があれに対抗できるとは思えん。大変だ……
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