冴えないおっさんが没落貴族に異世界転生~売れ残りの悪役令嬢を妻にめとって世界征服目指します~

masa

文字の大きさ
20 / 54

教室の雰囲気

しおりを挟む
 そして朝になり、指定された教室に入ると、そこにはざっと四十人ぐらいの生徒がいて、授業が始まるまでのあいだ雑談をしていた。

「うるさいですね」
「まあ、文官というより武官のノリだからさ。役人にもいろいろいたじゃないか」
「三年だともうちょっと落ち着いていてもいいんじゃないかなぁ」
「最年少のお子ちゃまが偉そうに言いますね」
「はぁっ! 関係ないでしょそんなのさぁ!」

 廊下側最後尾から縦にワン・ツー・スリー。制服に縫い付けられた腕章は編入生であることを意味し(一般生に腕章はない、編入生は二種)、光組への編入なら腕章の色は白、異光組への編入なら赤。

 席に着くとすぐに視線が刺さった。たった三人のみに用意された赤色の腕章。かなり目立っている。早く授業始まらないかなと思いながらしばらく周囲の視線をこらえていると、教官が革靴の硬い足音を響かせて(しかし奇妙なリズムの足取りで)教室に入ってきた。

「――はい、おはよう」
「はよー」
「うぃーす」
「J、三分遅刻じゃん」

 教官は生徒たちからJと呼ばれていて、俺とチャーチルは「あ」と、昨日の大浴場でのダンの話を思い出していた。J。ジェームズ教官のJ。比較的温和な性格で、元はバリバリの剣士として戦場を駆け回った人だったが、足に重篤な怪我をして現役を引退。以来、足を軽く引きずるような歩き方がトレードマークになったという話だ。

「今日はね、あぁ、今日も、といった方が良いか。戦術論だ。前回の続きからするけども、資料が古いんでね、字がかすれちゃってるよ、たはは……。しかし集団戦術なんてのは実践で培うべきだし、今話してもすぐ忘れちゃうでしょう。君らは戦場にとっとと出てだね、っごほんっ……、失礼、えー、何の話だったかな。……あぁ、そうだ、君らね、卒業試験に落ちても肩を落としちゃいかんよ。下士官からでもバリバリ昇進する凄いのだっているんだから。かの英雄ゴーイングとかそうだよねぇ、彼は出世コースじゃなかったけど頑張っていた。魔力が扱えるだけ恵まれているよ。けれども、そこ、なんといったかな君」

 生徒の一人が「ドリーでーす」と言うと、居眠りをしていたドリーという生徒の寝顔に向かってJは語り続けた。

「いいかいドリー、君みたいな寝坊助は絶対に落第するだろう、毎年平均して一割しか士官候補生にはなれないよ、君じゃあ駄目。まるで駄目。でも諦めるともっと駄目だ。軍人としての誇りを胸にだね、先に話したゴーイングの実践例から引用して、戦術論を今から語ろうと思うんだが、しかし寝ていては聞きもしない。……資料を配ります、前から送って」

 クラス全体が笑った。その笑いで目が覚めたドリーは周囲に何が起こったか聞いていた。チャーチルは目をこすりながらニヤニヤして、リゼは相変わらず無表情でしゃんと座っていた。

 チャイムが鳴って授業が終わり、かつてエリザに教わった内容だったなと、さして何も思わずぼーっと移動し始める生徒たちを見ていると、三人組の男子生徒がすれ違いざまに俺に向かって

「おい異光組、今日はボコってやっからな。覚悟しやがれ」
「ひ弱な貴族根性、たたき直してやるぜ」
「いぇーい、Yo・Yo、Foo!」

 最後の奴だけ何が言いたかったのか意味不明だったが、とにかく喧嘩は実戦訓練の時に売るつもりらしい。それだけを言い残して次の学科授業が行われる教室へ移動していった。

「……ふん、望むところだ」

 俺たち三人は次もこの教室だったので、座りながら休み時間を漫然と過ごした。チャーチルはさっきの授業がよく理解できなかったらしく、あれはどういう戦況なの、これはどうして良い陣形だといえるの、などなど、いろいろ聞いてきた。リゼはああ見えて結構好奇心旺盛で、アホに面白い嘘を吹き込みまくっていた。余計に混乱するチャーチルは滑稽だった。

「――おっす」

 ダンと、もう一人、金髪ロン毛のすかした男が入ってきた。

「ダン、Jの授業はあくびが出そうだよ」
「お、初っぱなからJだったのか、そうだよな、睡眠効果すらあるだろう」
「セラフィム、こちらの方は?」
「あぁ、紹介するよ、彼はダン。俺たちと同じ異光組の人間だ」
「どうも」
「では、そちらの方は」

 金髪ロン毛野郎は何も言わずリゼのとなりに座り、ひとこと、マッテオ、と言った。

「こいつ無口だけど、悪い奴じゃないんだ。よろしくしてやってくれよな」
「マッテオかぁ、よろしくぅ」
「……」

 チャーチルにそう言われて、マッテオは何も答えず軽くうなずいただけだった。必要最小限のコミュニケーションはなかなかシュールなものがある。チャーチルは苦笑いしている。

「お、グレナダとカイだ。お前らもこっち来いよ」

 グレナダは女生徒で、赤い癖毛が特徴的な、目つきの悪い奴だった。

「なによダン、……あー、例の編入生ね」
「おー、グレナダ好みのイケメンがいるじゃないか」

 カイは背の低い男子生徒で、制服を着ておらず、胸に波瀾万丈と書かれた文字Tシャツを着ていた。後で聞いた話だが、彼は実戦訓練の時しか制服を着ないのだという。胸に骸骨のシルバーネックレスをつけ、どこかチャラくて、なんともいえないファッションセンスで面白い。本当に聖騎士を目指しているのか怪しいくらいだ。

「あ、それもしかして僕のこと?」
「ちげーよデブ。俺が言ってるのはこっちの白馬に乗った王子様っぽい奴」
「デブって言うな! これから痩せるんだよ!」

 内心で、三十五歳のおっさんなんだけどな、と皮肉を言った。見た目がイケているというのは(大変なことも多いが)、改めて得だと知った。異世界転生万歳、Foo。

「たしかに、かっこいー。でも貴族だし、どうせ婚約者とかいたりするんでしょ。ってか、指輪はめてるし。既婚なのね」
「ああ、正妻が一人いる」
「いいねぇー、良いご身分だ。正妻が一人、だってよ、おいグレナダ、側室なら良いらしいぞ」
「そんなこと言ってないでしょ! 失礼よ、……ねぇ?」
「ははは……」

 リゼの視線がきつい気がする。こういう話は女貴族だとシビアに受け取るらしい。

「次は魔法工学だからな、また暇かも」
「そうか、で、あと何人来る」
「残念。この学科は三年専用だから、もう誰も来ねぇ」
「三年は異光組が七人か。たしかに教室がすかすかでさみしいね」
「だろ? 基本この七人がメインだから、仲良くしようぜ。お、そろそろ時間だ」

  ――そんなこんなで授業をこなしながら、ついに日が昇ってきて、昼食休憩になった。
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...