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空の戦場
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そこから数ヶ月、訓練の日々は続いた。投影魔法が描き出す様々なシチュエーションの中で仲間と研鑽し合い、光組の落ちこぼれ連中の嫉妬深い集団攻撃や、投影魔法で召喚された怪物どもの奇々怪々な魔法攻撃に耐えながら、いろいろと経験を積んだ。俺とリゼとチャーチルはすっかりニンフの巧みな使い手となって、それぞれの異光の特徴に沿って【ニンフサーキット】の技術を高めていった。
そんな訓練の日々でもとくに印象的だったものを紹介しよう。
それは「遠征」と呼ばれる半年に一度の実戦だった。普段のヘボ教官ではなく実戦経験の豊かな現役騎士が付き添いで、国から特別に使用許可をもらった超巨大転送魔法結晶による士官学校生全員の戦場転移が行われるのだった。
みながグラウンドに集められ、あらかじめ運び込まれていた巨大なクリスタルっぽい魔法結晶を見て驚いていた。
「――久しぶりだな、セラフィム。会いたかったぞ」
「……むっ、俺は会いたくなかったが」
その日、付き添いで招集されていた軍人の中には俺を士官学校送りにした直接の犯人、メビウス軍曹がいた。相変わらずコワモテの、恐ろしい顔をしている。オールバックで露わになった眉間のしわの深さが尋常じゃない。
「今期の三年生は頭のおかしい奴が多いらしいな」
「なぜ?」
「若造のくせに、要求が呑気でせせこましいのだよ。遠征を遠足と間違えて、暑いから避暑地にしてくれとの要望書が大勢の署名とともに事務室に投函されたほどだ」
「あー、それは光組の連中の仕業だなぁ、ヒッコスとかバンムとか、あのあたりのアホどもがみんなに書かせたんだ」
「まぁ、一定数の署名があれば会議で議題に挙げるのが士官学校の規則だからな、こちらも配慮してやったぞ、感謝しろ」
「というと、本当に避暑地に?」
「ああ、とびっきりの避暑地に、な」
俺たち士官学校の生徒たちは、複数の者が魔法結晶に触れ、触れている者に後続の者が接触して、という風にして、全員が蛇のようにつながった。接触さえあれば転移魔法が適用されるのだ。
「……用意は良いか!」
「はいっ!」
教官の声に大声で応えると、転移魔法が始動し、俺たちはリアルな戦場へと送り込まれた。
――景色がしばらく見えなかった。何か白いもやもやが下から上へと流れる風に押し流されていて、途中で自分が落下していることに気づいた。
「な、なんだこれ!」
風の音がうるさすぎて、周囲の声が聞き取れない。ビューッという風切り音が聴覚を支配していた。そして白いもやから外に出た途端、自分がどこにいるのかが分かった。
「……空か!」
大量の積乱雲がうごめき、その上に青空が広がっていた。ふいに教官の声が脳内で響いた。
《――おい、聞こえるか生徒諸君、ここはセントルイス島の上空だ。事前に飲んでもらったポーションは高高度地帯での様々な低酸素症状を抑えるものだが、効果は一時的で長くは持たない。各自早めに【ニンフサーキット】を発動し、新たな環境に対応すること、以上》
俺は言われたとおりにニンフを呼び出し、【ソーラー・クロス】の術式で例のほの赤い光の衣を身に纏った。この衣の使い方を俺は熟知し始めていて、対空戦でも何度か試したように、衣服の背中の肩甲骨あたりから霊気を翼のような形状にして放出し、あたかも鳥のようにして飛行体制を整えた。
「よーし、ちょっと風が荒いけど、なんとか飛べるな」
俺は座学で聞き及んでいた空の世界における戦場のことを思い出していた。セントルイス島と言えば、我が国リティアの領空圏内に位置する空島の一種で、内部に高級品とされる永久浮遊物質が豊富に埋蔵されている緑豊かな島だ。
「お、雲の間から見えてきたなぁ、みんなどこに着地したんだろう」
ぱっと見渡した限りは仲間の姿が見つからなかった。
「うーん、古代文明っぽいな、写真で見たとおりだ。土壁の城みたいなのもあるし、これ完全にラ○ュタだよな」
とりあえず平地に着地した。短い草が辺り一面を多い、視界の両端に雲が迫っているというふしぎな光景だった。しばらくすると空から俺と同じように士官学校の生徒が数名下りてきて、その中にカイがいた。
「――よっす、ごきげんよーうセラフィムくーん」
「ごきげんよう、……って、またお前変なの持ってるな」
「おう、霊力ガジェット第203号、ワンダフル・トンカチだ」
「わ、ワンダフル……」
カイの趣味の一つに、自作の聖武器作成がある。彼は中等部一年時から高等部三年に至るまでコツコツとオリジナルの武器を作っているが、今回はその最新モデル、形状はその名の通りトンカチである。かなりでかくて、釘を打つ部分が人の頭の大きさぐらいある。その割には軽量化に成功しているらしく、持たせてもらうと非常に軽かった。
「ぐっふっふ、今回は自信作だぜぇ。これでバリバリ活躍出来て、教官にアピールしまくってやるからな、見てろ」
「……はぁ、相変わらずふざけてるなぁ、カイは」
カイの将来的なビジョンとしては、自作の武器の威力と有用性が実際の戦場で実証されれば国防省や武器製造に関わるあまたの企業からお声がかかり、その前に特許を獲得しておいて大儲けしてやろう、というのがある。彼は騎士と言うより商人になった方が良い。
「今回は座標とか送られてこねぇな。ってことはゲリラ戦で頑張れよってことか」
「そういうことみたいだな」
「空島かぁ……。お前の言ってたム○カ大佐ってのはいるのかな」
「どうかな、ものすごくいそうな雰囲気があるけど」
「まぁ、大佐クラスの人間がこんなへんぴな場所にいるとは思えねーけどな」
「ごほんっ……で、どうする」
「もっかい飛んでみて、敵見つけたら人型爆撃しよう」
「人型爆撃ってなんだ」
「まぁ見とけ」
カイはニンフを再度呼び出し、その光のニンフたちがカイの服の上端を掴んで、懸命に持ち上げ、カイの足が地面からふわりと浮いた。
「……なんでそんなダサい格好で飛ぶんだ?」
「俺さ、飛ぶの下手くそなんだよね」
「そ、そうか……」
ニンフが力んで苦しそうな顔を初めて見た。妖精にあるまじき気合いの入った表情でご主人様をつまみ上げ、羽をフル起動で羽ばたかせて、なんとか飛行している。
それについて行くようにして俺も再び翼を広げ、飛んだ。そうやって空島の上を低空飛行しながら広大な島を効率的に索敵する。ニンフにやらせても悪くはないが、小さいニンフでは索敵範囲に限界があるのだった。
「あ、はっけーん」
「どれだ?」
「あれあれ」
カイが指さす方向に、セントルイス島に生息する魔獣の群れが見えた。
「よっしゃ、下ろしてくれい」
ニンフは重荷を手から外し、カイが重力に従って急降下していった。まさに人型爆撃というような感じで。
そんな訓練の日々でもとくに印象的だったものを紹介しよう。
それは「遠征」と呼ばれる半年に一度の実戦だった。普段のヘボ教官ではなく実戦経験の豊かな現役騎士が付き添いで、国から特別に使用許可をもらった超巨大転送魔法結晶による士官学校生全員の戦場転移が行われるのだった。
みながグラウンドに集められ、あらかじめ運び込まれていた巨大なクリスタルっぽい魔法結晶を見て驚いていた。
「――久しぶりだな、セラフィム。会いたかったぞ」
「……むっ、俺は会いたくなかったが」
その日、付き添いで招集されていた軍人の中には俺を士官学校送りにした直接の犯人、メビウス軍曹がいた。相変わらずコワモテの、恐ろしい顔をしている。オールバックで露わになった眉間のしわの深さが尋常じゃない。
「今期の三年生は頭のおかしい奴が多いらしいな」
「なぜ?」
「若造のくせに、要求が呑気でせせこましいのだよ。遠征を遠足と間違えて、暑いから避暑地にしてくれとの要望書が大勢の署名とともに事務室に投函されたほどだ」
「あー、それは光組の連中の仕業だなぁ、ヒッコスとかバンムとか、あのあたりのアホどもがみんなに書かせたんだ」
「まぁ、一定数の署名があれば会議で議題に挙げるのが士官学校の規則だからな、こちらも配慮してやったぞ、感謝しろ」
「というと、本当に避暑地に?」
「ああ、とびっきりの避暑地に、な」
俺たち士官学校の生徒たちは、複数の者が魔法結晶に触れ、触れている者に後続の者が接触して、という風にして、全員が蛇のようにつながった。接触さえあれば転移魔法が適用されるのだ。
「……用意は良いか!」
「はいっ!」
教官の声に大声で応えると、転移魔法が始動し、俺たちはリアルな戦場へと送り込まれた。
――景色がしばらく見えなかった。何か白いもやもやが下から上へと流れる風に押し流されていて、途中で自分が落下していることに気づいた。
「な、なんだこれ!」
風の音がうるさすぎて、周囲の声が聞き取れない。ビューッという風切り音が聴覚を支配していた。そして白いもやから外に出た途端、自分がどこにいるのかが分かった。
「……空か!」
大量の積乱雲がうごめき、その上に青空が広がっていた。ふいに教官の声が脳内で響いた。
《――おい、聞こえるか生徒諸君、ここはセントルイス島の上空だ。事前に飲んでもらったポーションは高高度地帯での様々な低酸素症状を抑えるものだが、効果は一時的で長くは持たない。各自早めに【ニンフサーキット】を発動し、新たな環境に対応すること、以上》
俺は言われたとおりにニンフを呼び出し、【ソーラー・クロス】の術式で例のほの赤い光の衣を身に纏った。この衣の使い方を俺は熟知し始めていて、対空戦でも何度か試したように、衣服の背中の肩甲骨あたりから霊気を翼のような形状にして放出し、あたかも鳥のようにして飛行体制を整えた。
「よーし、ちょっと風が荒いけど、なんとか飛べるな」
俺は座学で聞き及んでいた空の世界における戦場のことを思い出していた。セントルイス島と言えば、我が国リティアの領空圏内に位置する空島の一種で、内部に高級品とされる永久浮遊物質が豊富に埋蔵されている緑豊かな島だ。
「お、雲の間から見えてきたなぁ、みんなどこに着地したんだろう」
ぱっと見渡した限りは仲間の姿が見つからなかった。
「うーん、古代文明っぽいな、写真で見たとおりだ。土壁の城みたいなのもあるし、これ完全にラ○ュタだよな」
とりあえず平地に着地した。短い草が辺り一面を多い、視界の両端に雲が迫っているというふしぎな光景だった。しばらくすると空から俺と同じように士官学校の生徒が数名下りてきて、その中にカイがいた。
「――よっす、ごきげんよーうセラフィムくーん」
「ごきげんよう、……って、またお前変なの持ってるな」
「おう、霊力ガジェット第203号、ワンダフル・トンカチだ」
「わ、ワンダフル……」
カイの趣味の一つに、自作の聖武器作成がある。彼は中等部一年時から高等部三年に至るまでコツコツとオリジナルの武器を作っているが、今回はその最新モデル、形状はその名の通りトンカチである。かなりでかくて、釘を打つ部分が人の頭の大きさぐらいある。その割には軽量化に成功しているらしく、持たせてもらうと非常に軽かった。
「ぐっふっふ、今回は自信作だぜぇ。これでバリバリ活躍出来て、教官にアピールしまくってやるからな、見てろ」
「……はぁ、相変わらずふざけてるなぁ、カイは」
カイの将来的なビジョンとしては、自作の武器の威力と有用性が実際の戦場で実証されれば国防省や武器製造に関わるあまたの企業からお声がかかり、その前に特許を獲得しておいて大儲けしてやろう、というのがある。彼は騎士と言うより商人になった方が良い。
「今回は座標とか送られてこねぇな。ってことはゲリラ戦で頑張れよってことか」
「そういうことみたいだな」
「空島かぁ……。お前の言ってたム○カ大佐ってのはいるのかな」
「どうかな、ものすごくいそうな雰囲気があるけど」
「まぁ、大佐クラスの人間がこんなへんぴな場所にいるとは思えねーけどな」
「ごほんっ……で、どうする」
「もっかい飛んでみて、敵見つけたら人型爆撃しよう」
「人型爆撃ってなんだ」
「まぁ見とけ」
カイはニンフを再度呼び出し、その光のニンフたちがカイの服の上端を掴んで、懸命に持ち上げ、カイの足が地面からふわりと浮いた。
「……なんでそんなダサい格好で飛ぶんだ?」
「俺さ、飛ぶの下手くそなんだよね」
「そ、そうか……」
ニンフが力んで苦しそうな顔を初めて見た。妖精にあるまじき気合いの入った表情でご主人様をつまみ上げ、羽をフル起動で羽ばたかせて、なんとか飛行している。
それについて行くようにして俺も再び翼を広げ、飛んだ。そうやって空島の上を低空飛行しながら広大な島を効率的に索敵する。ニンフにやらせても悪くはないが、小さいニンフでは索敵範囲に限界があるのだった。
「あ、はっけーん」
「どれだ?」
「あれあれ」
カイが指さす方向に、セントルイス島に生息する魔獣の群れが見えた。
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ニンフは重荷を手から外し、カイが重力に従って急降下していった。まさに人型爆撃というような感じで。
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