冴えないおっさんが没落貴族に異世界転生~売れ残りの悪役令嬢を妻にめとって世界征服目指します~

masa

文字の大きさ
47 / 54

世紀の革命

しおりを挟む
 ――その映画のタイトルは「醜悪と高貴のダンス」だった。ドキュメンタリー映画のような作りになっているが、ところどころ使いにくい映像素材には制作陣がもっともらしい筋書きを用意して、ときどき現れる下の字幕に状況説明を軽く補足してあった。

 内容には一貫性というものがない。宴会あるいは舞踏会のような貴族主催のイベントの華やかな映像・壮大な音楽と、裏で行われている人身売買や違法薬物関係の話、その他既得権益の政治的譲渡、脱税のための根回し、恐喝まがいな取引の数々、その汚らしさをリアルに対比して見せるだけである。

 唯一制作陣の意図が垣間見られるのが、時折挟み込まれるワンシーン。それは王都ルカティの中央に巨大にそびえ立つジークフリート城の映像である。城は静かに夜の街を見下ろし、そして何も言わない。どれほど世間で人々が苦しい生活を強いられていても、どれほど貴族が法を犯していても、城は、その中の多くの役人達は、何も言わない。

 この映画を見た人たちはそのキャストに驚くはずである。なぜなら、すべて実在の、王都に近い大貴族の連中がそのまま出演しているからである。当然このような告発映画に出演許諾が出ているはずもないので、観客はおのずと「これは無許可で撮影されたものだ」と気づくのである。

 領土問題で失脚し、行方不明になったと報道されていたはずの改革派ジャックス公爵は映画本編の中で、王都住まいの保守派リスト公爵にトイレに連れ込まれ、鋭い刃物で腹をえぐられる。壁に押しつけられ、最後に何かうめき声を上げるのだが、そこで映像は遠のき、トイレから出てきたリスト公爵がパーティ会場のスタッフにひとこと何かを言う。スタッフは何も言わずにうなずき、トイレに入る。

 音声は遠くから拾えなかったが、読唇術によって、下の字幕で明らかにされた。リスト公爵の口の動きは「後片付けをよろしく」と言ってある。実際、スタッフはそのあと死体を騒ぐことなく処理した。まるで日常茶飯事であるかのように。

 王都では、この映画とは別で、以前からさんざん宣伝活動がされてきた「幸せの花束」という素敵な恋愛映画があった。かなりの客入りが見込まれるこの映画を買収したのは匿名人物数名であり、彼らの狙いは「幸せの花束」と「醜悪と高貴のダンス」をすり替えることである。

 案の定、「幸せの花束」にはたくさんの来場者があった。しかし放映サイドは匿名人物達の指示に従って、映画が始まる直前にアナウンスをかけた。

《――残念なお知らせがある。ここにあなた方の望む幸せの花束などありはしない。あるのは、悲しいダンスだけだ》

 バスジャックならぬ映画館ジャックである。見たい映画ではないものが放映され始めると、当然出て行こうとする者がたくさんあったが、出入り口は完全封鎖され、外へ出て良いのは子供だけとされた。子供達には別の子供向けファンタジー映画を見せておく手はずになっていた。

 見てもらった大人の方々には口止めとして全額キャッシュバックを約束した。そのおかげで興行収入はゼロ。しかしただより恐ろしいものはなく、その映画のすさまじい内容に、客達は大満足、いや、大興奮で映画館を去って行ったという。

 政治家や特権階級の人々が汚職を決行する瞬間をありのまま捉えた映像が人々に与える衝撃はいかほどのものだろう? 

 宣伝効果を逆手に取ったこの戦略は見事にはまり、瞬く間に世間は大騒ぎになった。特に王都は、今までに溜まっていた鬱憤が破裂するようにして、各地で過去最大規模の暴動が起った。

 追い風はさらに吹いていた。新聞である。戦線が破られたことと併せて号外の記事に掲載された「士官学校卒業生が全員戦死した」という速報の話題で持ちきりだったところに、突如矛盾するニュースが舞い込んだのだ。それは真反対の、「全員無事帰還」というものだった。

 保守派に反対する報道関係の組織はこぞってこのニュースを取り上げ、詳細情報を拡散した。取材に応じたのは戦場から帰ってきた士官学校卒業生の一人で、仮名ボンズ・タックス。彼の証言は非常にショッキングな内容だった。彼は自分たちが宰相ガルメールの計略にはめられて死ぬところだったと訴えかけたのだ。

「我々は捨て駒に使われました。記事をねつ造し、国民の不安を煽り、内乱を誘発し、あたかも自然なシナリオであるかのようにこの国を滅亡に導こうとしているのです。ガルメールはその前に、これまで悪政をやって溜め込んだ大金を持って他国へ飛ぶつもりなんです!」

 以上のような状況によって、内乱はガルメールの思惑とは別の性質を持って現れた。悪政に対する怒りの矛先を貴族への不信感に誘導しようとしていたはずだったのが、いつのまにか城へ、城の中のガルメールという悪徳宰相へと向けられていったのだ。これは当然の帰結だった。

 宰相の悪巧みは王都のみならず、各地報道機関より王国全土に流布された。貴族や政府の対応は実に遅く、すでにまったく間に合わない状態であり、暴動は地方からの人々と、王都の人々で形成される一つの巨大デモにつながっていった。デモ勃発のための下地など、とうの昔に完成していたのだった。

 役人は高をくくっていた。いずれデモは治まる、と。なぜなら、この高くて厚い城壁は市民のデモ攻撃などではびくともしないし、それゆえに長年、「要塞」などと揶揄されてきたのだから。

 しかし、要塞は内通者のためにあっけなく陥落した。城壁には一部透明化する抜け穴のような非公式の通路があった。内乱やデモはスピードが肝心として、帰還したばかりの士官学校卒業生たちを主要メンバーとして結成された即席のレジスタンスが水面下で行動していたのだ。

 あらかじめ秘密の抜け道から入り、城の内部に潜伏していた者が門番を討ち取り、その隙にジークフリート城の四方にある北門・東門・西門・南門のすべてが一斉に開門された。城壁の間際まで詰め寄っていたデモの群衆は雪崩が起きたように開いた門の中へそれぞれの武器を持って駆け込んだ。

 この一連の行動の迅速さには根拠がある。ガルメールが士官学校卒業生を戦場に送り込んだときに使った言い訳「主戦力が国外に出ているから」が、迅速さによって裏目に出るのだ。城の中の警備は一時的に手薄になり、本格的な実戦経験を積んだ警備兵は少なかった。レジスタンスは徹底的に武力を行使し、主戦力が在中していない愚かな要塞を攻略した。

 あっという間にガルメールは捕縛された。城の一室で貴族連中と商談後の酒を飲んでいたところにレジスタンスのメンバーが押し入ったのだった。このことは一大ニュースとなって世間を駆け巡り、すぐに「レジスタンスによる世紀の革命」と銘打たれた。

 軍事パレードの視察に行っていた国王は留守中に起った出来事の一報を聞きつけ、帰国後、国民の前ですべての事情を告白し、ガルメールに手出しできなかった自分の非を認めた。ガルメールは司法を経由せず、国民の意思によって処刑されることになった。
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

処理中です...