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おっさん、飛び立つ
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雷電龍ボルバルザークの皮を加工してヘルムにすれば空から電撃を撃ってくる電気系のモンスターとの戦闘がかなり楽だな。たしかに、いいもの買った、たまには島を出てみるもんだ……
――スポーツ製品加工会社をリストラされて三年になる。現実社会や人間関係にうんざりして、無人島に移住し、そこで生活して二年になる頃、この島にもダンジョンが発生した。
世界各地にとつぜん現れたダンジョンにはモンスターと呼ばれる猛獣がうようよ生息していて、各国が総力を挙げてダンジョン周囲を管理下に置き、内部調査するためにハンターを育成したりしている……らしい。
先月、内地に帰ったときに、街で買ってきた最新のダンジョン攻略本にはそう書いてある。地元の田舎にはダンジョンは発生していなかったが、都会はたいへんらしい。
――無人島生活では、海の魚や森の動物なんかを主食としていたが、だんだん味に飽きていた。
「せっかくダンジョンが現れたんだから、ちょっくら狩りに行ってみるか。なんかおいしそうな獣がいたらいいなぁ」
そんな軽いノリでダンジョンに入ってみると、最初はまったく歯が立たなかった。それでも少しずつ弱い敵から倒して、素材から武器や防具を加工し、だんだん倒せるようになってきた。
「――あぁー、うめぇ、この赤い飛龍、肉がジューシーで歯ごたえあるわぁ!」
当時はモンスターたちの名前すらよく知らなかったが、攻略本には紅炎翼竜ジャッカルワイバーンと書かれている。あ、そんな名前だったんだ、あいつ、と思い、一つ賢くなった気がした。
ダンジョンにはランクがあって、色で分けられているそうだ。下位ランクから白、緑、青、……そして最高ランクは黒とされている。
「おっかしいなぁ、俺の島にあるのはクリスタルっぽいキラキラした感じのやつなんだが、そんなのどこにも書いてないぞ」
すると攻略本のとあるページの隅に、【特殊ダンジョン】の特集が組まれていた。世界には通常とは異なるダンジョンがごく少数確認されているが、内部のモンスター情報はまだほとんど分かっていない、などと記載されている。
「あ、なるほど、じゃあ、俺のは特殊ダンジョンってことね」
どうりで、と思ったのは、攻略本に載っていないモンスターを俺がたくさん知っているからで、ああいうのは特殊な新種のモンスターだと合点がいった。
攻略本の巻末には、現在の世界ハンターランキング上位100人の名前が書かれていて、ほとんど白人や黒人といった外国人のハンターばかりだった。
「日本人って、骨格が小さいし、気は弱いから、ハンターには向いてないんだろうなぁ」
稲妻牛スパークカウの牛乳を飲みながら攻略本を眺めていた俺は、ハンターランキングトップテンの紹介文を見て思わず牛乳を吹き出してしまった。
「――ぶはっ! 年収4000億円だって!? マジかよ!」
十位のジョナサン・グレースで4000億円である。気になる一位の野郎は1兆3000億円。美女を周囲にはべらせて、にこやかに笑っているバカンス写真が添付されている。……ぐぬぬ、世界一ともなると、ハーレムなんておちゃのこさいさいってか!
俺は攻略本を投げ出した。今年でもう35歳になる。再就職は難しく、預金残高は50万ぽっちだ、結婚もかなわないだろう。ダンジョンで鍛えられたから、体力はそこそこあるような気がするが、若い人にはきっと劣るのだろう。
「あー、人恋しいぜ、一回帰ったのが間違いだった、ものすごくリア充がうらやましく見えちまう……くっそ、どこで人生間違ったのかね……」
どうにかして、もう一度社会復帰のチャンスがほしい、そう思っていた。
海辺に落ちた攻略本が風で開いて、あるページを開いた。俺が拾いに行くと、そのページはハンター求人の広告だった。
《来たれ、強きハンターたちよ! ――経歴不問、体力に自信があり、ハンティング経験がある方優遇。応募対象年齢 18歳から35歳まで》
国の新しい公共事業のようになったダンジョン攻略。稼いでるやつは稼いでいるが、命知らずの社会不適合者たちの日雇労働だったりする。そこから名をあげてプロ契約にこぎ着ける輩はほんの一握り。おっさんの俺にはムリだろう……
しかし俺は立ち上がった。最後のチャンスだと思うと、ダメ元でやってみようという気になったのだ。実績次第では地方ダンジョンの公式ライセンスくらいはいただけるかもしれない。そうなれば地方公務員と同じような社会的ステータスが得られる。ちゃんと社会復帰できる。
「世界一なんて目指さなくってもいいんだ。地方でそこそこぐらいの、年収300万ハンターでも、十分ありがてぇんだ。そこでもう一度人生やり直すんだ……っ!」
俺は口笛を吹いた。半年ほど前にダンジョンの中で生け捕りにして飼い慣らした緑神鳥ウッドフォールが、ダンジョンの入り口から飛び出して、「キューン」と優しく鳴いた。
月の周りで円を描き、それから海辺に降り立った。いつも思うが、エナメルグリーンの体毛と琥珀色の目が綺麗だ。
どこまで通用するか分からないが、やるだけやってみよう。自分のオリジナルの武器と、防具、独自に開発したポーションや道具を持参して、一縷の望みにかけ、ウッドフォールの背に乗って、おっさんは内地へと飛び立った。
――スポーツ製品加工会社をリストラされて三年になる。現実社会や人間関係にうんざりして、無人島に移住し、そこで生活して二年になる頃、この島にもダンジョンが発生した。
世界各地にとつぜん現れたダンジョンにはモンスターと呼ばれる猛獣がうようよ生息していて、各国が総力を挙げてダンジョン周囲を管理下に置き、内部調査するためにハンターを育成したりしている……らしい。
先月、内地に帰ったときに、街で買ってきた最新のダンジョン攻略本にはそう書いてある。地元の田舎にはダンジョンは発生していなかったが、都会はたいへんらしい。
――無人島生活では、海の魚や森の動物なんかを主食としていたが、だんだん味に飽きていた。
「せっかくダンジョンが現れたんだから、ちょっくら狩りに行ってみるか。なんかおいしそうな獣がいたらいいなぁ」
そんな軽いノリでダンジョンに入ってみると、最初はまったく歯が立たなかった。それでも少しずつ弱い敵から倒して、素材から武器や防具を加工し、だんだん倒せるようになってきた。
「――あぁー、うめぇ、この赤い飛龍、肉がジューシーで歯ごたえあるわぁ!」
当時はモンスターたちの名前すらよく知らなかったが、攻略本には紅炎翼竜ジャッカルワイバーンと書かれている。あ、そんな名前だったんだ、あいつ、と思い、一つ賢くなった気がした。
ダンジョンにはランクがあって、色で分けられているそうだ。下位ランクから白、緑、青、……そして最高ランクは黒とされている。
「おっかしいなぁ、俺の島にあるのはクリスタルっぽいキラキラした感じのやつなんだが、そんなのどこにも書いてないぞ」
すると攻略本のとあるページの隅に、【特殊ダンジョン】の特集が組まれていた。世界には通常とは異なるダンジョンがごく少数確認されているが、内部のモンスター情報はまだほとんど分かっていない、などと記載されている。
「あ、なるほど、じゃあ、俺のは特殊ダンジョンってことね」
どうりで、と思ったのは、攻略本に載っていないモンスターを俺がたくさん知っているからで、ああいうのは特殊な新種のモンスターだと合点がいった。
攻略本の巻末には、現在の世界ハンターランキング上位100人の名前が書かれていて、ほとんど白人や黒人といった外国人のハンターばかりだった。
「日本人って、骨格が小さいし、気は弱いから、ハンターには向いてないんだろうなぁ」
稲妻牛スパークカウの牛乳を飲みながら攻略本を眺めていた俺は、ハンターランキングトップテンの紹介文を見て思わず牛乳を吹き出してしまった。
「――ぶはっ! 年収4000億円だって!? マジかよ!」
十位のジョナサン・グレースで4000億円である。気になる一位の野郎は1兆3000億円。美女を周囲にはべらせて、にこやかに笑っているバカンス写真が添付されている。……ぐぬぬ、世界一ともなると、ハーレムなんておちゃのこさいさいってか!
俺は攻略本を投げ出した。今年でもう35歳になる。再就職は難しく、預金残高は50万ぽっちだ、結婚もかなわないだろう。ダンジョンで鍛えられたから、体力はそこそこあるような気がするが、若い人にはきっと劣るのだろう。
「あー、人恋しいぜ、一回帰ったのが間違いだった、ものすごくリア充がうらやましく見えちまう……くっそ、どこで人生間違ったのかね……」
どうにかして、もう一度社会復帰のチャンスがほしい、そう思っていた。
海辺に落ちた攻略本が風で開いて、あるページを開いた。俺が拾いに行くと、そのページはハンター求人の広告だった。
《来たれ、強きハンターたちよ! ――経歴不問、体力に自信があり、ハンティング経験がある方優遇。応募対象年齢 18歳から35歳まで》
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俺は口笛を吹いた。半年ほど前にダンジョンの中で生け捕りにして飼い慣らした緑神鳥ウッドフォールが、ダンジョンの入り口から飛び出して、「キューン」と優しく鳴いた。
月の周りで円を描き、それから海辺に降り立った。いつも思うが、エナメルグリーンの体毛と琥珀色の目が綺麗だ。
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