日常、そして恋

知世

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出会い

ありがとう『麗』

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理事長室までの案内を頼まれていた一年生は、二人とも良い子だ。
優しくて大人しい、桜井 春人くん。
明るくて元気な、世良 勇気くん。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、僕の役目は終わった。
生徒会の仕事がある為、立ち去ろうとした時、世良くんに言われた。
「副会長、ずっと愛想笑いしてるけど、疲れねぇの?無理して笑う必要ないと思うぜ」
恐怖で頭が真っ白になった…。
それから先のことは、よく覚えていない。



「副会長さんっ!!」
沈んだ意識を引き戻したのは、僕を呼ぶ声だった。
大きな声量に驚きながら振り向くと、桜井くんが息を弾ませて、立っていた。
「えっと…その…」
言葉が出てこないのか、彼はおろおろしている。
少しでも落ち着いてくれるように、出来る限りの優しい声で話しかけた。
「うん?いいよ、ゆっくりで」
桜井くんは安心してくれたみたいで、ゆっくりと言葉を発した。
「あの、大丈夫、ですか?」
どうして、そんなことを聞くんだろう。
「…どうして、そんなことを聞くの?」
彼は躊躇って、迷いつつも答えてくれた。
「その、とても、辛そうだから…」
…桜井くんの方が、とても辛そうだ。
僕を心配してくれているのだろう。大きな瞳が不安げに揺れている。
「…そう」
自分があまりにも情けなくて、小さく苦笑してしまう。
「ありがとう、大丈夫だよ」
笑顔を浮かべてお礼を告げる。
わざわざ追いかけてくれて、心配してくれて、嬉しかったから。
なのに、彼は苦しそうに顔を歪めた。
「…あのっ!」
突然、甘いものは好きかと聞かれた。好きだから頷くと、クッキーの包みを差し出される。
「疲れた時と、落ち込んだ時は、甘いものが良いので」
桜井くんは言い切ってから、
「あっ、僕の場合はですが」
と慌てて付け加えた。
そんなに慌てなくてもいいのに。
その慌てる姿が、何だかおかしくて、可愛らしい。
「…ふふ、ありがとう」
僕はくすりと笑った。
「あれ?これって…」
包みを受け取って、手作りクッキーである事に気付いた。
手作りは僕が嫌かもしれないと、彼は不安そうにしている。
「いや、嬉しいよ」
クッキーもだけど、僕を気遣ってくれた、その気持ちが。
「よかった…」
安堵したように呟いた後、ふんわりと笑う桜井くんを見て、胸が高鳴った。
「……春人くん」
気付けば、言葉が零れてしまっていた。
「春人くん、って…呼んでも、いいかな?」
きょとんとする彼に、躊躇いがちに聞く。
「? はい」
不思議そうな表情をしていたけど、頷いてくれた。
不意に、見つめられる。
「生徒会のお仕事は忙しいと思いますが、ご無理はしないでくださいね」
心配そうに、優しく気遣ってくれる、春人くん。
「どうもありがとう」
自然と笑みが浮かぶ。
そして、思わず頭を撫でていた。
人に触れられるのも、触れるのも、苦手なはずだったのに。
「心配かけて、ごめんね。もう、大丈夫だよ」
気持ちが落ち着いたことで、僕は世良くんを思い出した。
「…悪いんだけど、世良くんに、気にしていないから、と伝えてくれるかな?」
きっと、何のフォローも出来ていないはずだ。
傷付けていなければいいのだけど…。覚えていないから分からない。
副会長としても、先輩としても、失格だ。
「分かりました。伝えます」
「ありがとう」
もう一度頭を撫でて、手を退けた。
「また会おうね、春人くん」
「はい」
約束を交わし、エレベーターに乗る。…扉が閉まるまで、彼を見つめていた。

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