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第3章
わたしはイタチではないのに 6
しおりを挟む母にはなんとかそれっぽい言い訳をして見逃してもらった。
いや、言い訳できたとは思ってないけど、まあイタチになっているのがバレるよりはだいぶマシだろう。
パジャマを着直したわたしは、一息ついて頭を冷やした後、再度熟考に燃えることになる。
夜になり辺りは冷えているけど、わたしの心臓は人生最高の稼働を繰り返している。
人間に戻れたのはとりあえずよかったけど、さっきのは一体なんだったんだ?
流石にここまではっきりと覚えているのに、夢だったということで片付けることはできない。確かにあの瞬間、わたしはイタチになったのだ。
理論的にあり得るかとかいう話をする前に、事実として別種類の生き物に変わってしまったのだからそれを前提にするほかない。
「いや、でもそんなこと科学的にありえないよなぁ。」
元々データキャラなわけじゃないけど、ここまで奇々怪界なことが起こると現実世界の常識と事象が理解を拒もうとしてくる。
とりあえず絶対にあるはずないと思いつつ、携帯で前例がないか調べてみるが、当然の如くそんな例は存在せず、動物に変身できるアニメのキャラとかが出てくるだけだった。
本当に幻覚でも見てたのか?
いや、あの臨場感はどう考えても本物だ。
答えが見つかる気はしないが、順序を一つ一つ辿っていこう。
そもそもなんでイタチ?って話だけど、イタチといえば秋川さんだ。ここ最近でイタチという動物との関連は秋川さんしかありえない。
それで、その秋川さん繋がりで……。
「あのアプリか………。」
いかにも怪しかったし、思い当たる節はマジでそれくらいしかない。
つってもせいぜい危険視すべきだったのはコンピューターウイルスとかだろ。なんでイタチになったりするんだ。
とにかく携帯を持ち、即座にインストールして以降一度も使っていなかった[WEASEL LOVERS]を開いた。
ホーム画面には相変わらず[他人の投稿を見る][自分で投稿する]の二つしかない。
「………ん?」
だが、画面の右上に不自然な警告ランプが灯っているのが見えた。
それをタップすると、赤い背景画面とともに文字が浮かび上がる。
『アカウント名: ひなた 様 は現在ペナルティーを受けています。解除するためにはポイントを確保してください。』
「これ、なんか警告来てやつか……。」
一週間ほど前から、このアプリから謎の警告通知が来ていたが、わたしは見事に無視していた。結果としてアプリ内でそのペナルティーとやらを受けてしまったらしい。
「でもペナルティーってなんだ……?」
イタチになってしまったことと何か関係があるのだろうか。
とてもあり得ない話ではあるが、このアプリ以外にわたしがイタチに変わってしまった要因が見当たらないので、心臓をバクバクさせながら、インストール時は読まなかった利用規約を読み始める。
「えーっと、『ペナルティーについて』これか……。」
長い利用規約の真ん中あたりにその項目を見つけ、慎重に読み進める。
「なになに……?アカウントに不適切な登録や使用歴が見つかった場合はペナルティーを受ける。この場合の不適切な例としては、利用規約に違反する行為、またはアプリ内で入手可能なポイントが不足している場合………ペナルティーの内容とは、イタチを愛することを目的としたアプリの不正の罰として登録者本人にイタチとしての生活を強いる………ってなんだこれ!?」
は?
なんで使ってないってだけでこんな激重な罰受けなきゃいけないの??
つーか、イタチになるってなんだよ。なんでそんなことが可能なんだよ。たかがスマホアプリごときになんで生命種を変える機能があるんだよ!
絶対にありえないような文章だが、でもそれならさっきのことは辻褄が合う。わたしはアプリをインストールしながらまともにイタチに興味を示さなかったためペナルティーとしてイタチの姿に変えられてしまったのだ。童話にありそうな話を現実に持ち込むのはやめてくれ。
いかに常識外のことでも、もうここまでくると信じるしかない。
とにかく、このペナルティーとやらを解除しなければならないようだ。
あれ?
仮にこのアプリのせいでイタチになってしまったとして、なんでわたしは人間に戻れたんだ?警告画面を見るに、まだわたしのペナルティーは継続されているみたいだし、それなら人間戻れる道理もない。
「あ、まだ続きがあった。」
利用規約には、ペナルティーについてまだ記載があった。
「……ペナルティーの具体的な内容としては、規定のポイントが貯まるまで、毎日ランダムの時間にイタチに変えられる罰が与えられる。イタチに変わり始める5分前に通知が届くように設定されている。最低でも10分間イタチの姿でいなければならないが、それ以降は任意により人間の姿に戻れる。ただし、最大で1時間とする。」
えーっと、まとめると
◯ポイントが貯まるまで毎日イタチにならなければならない
◯イタチに変わる時間帯は完全ランダム
◯変わる5分前にはスマホに通知が届く
◯最低でも10分はイタチの姿でいなければならず、10分を過ぎると自分の意思で戻ることができる。なろうと思えば1時間はイタチの姿でいられる。
全部意味分からないが、特に最後は読解に苦しむ。自分の意思でってどういうことだ?
『戻りたい』って願えば人間に戻れるということか?確かにさっきはベッドの下で人間に戻ることを祈っていたが、アプリが自動でわたしの意識を読み取ってくれるってことかな。
だとしたらなんでもありだな。いや、イタチに勝手に姿を変えられる罰を与えられてる時点ですでになんでもありなんだけどさ。
ともかく、文面によるなら今日はもうイタチになったから、今日のうちはいきなり身体が変わるということはない。逆に言えば、明日以降はまたさっきみたいなことが起こるということだ。
変幻するときの激痛もさることながら、他人にこんな姿を見られるわけにはいかない。某少年探偵じゃないけど、こんなヤバいアプリの存在を身内に知られたらそっちに危害が及ぶかもしれない。
そうならないためにも、とっととアプリ内でポイントを貯めなければならない。
警告画面にはこう書いてあった。
『ひなた 様 がペナルティーを解除するのに必要なポイント 残り9984ポイント』
一度も使ってないから、約10000ポイントがどれほどのものなのかは分からないが、他人の投稿を見たりするだけでもポイントが手に入るみたいな話だったから、なんとかして速攻で貯めなければ。
今からアンインストールするという手もあるが、たぶん無駄だろう。
こんな人智を超越したことができるアプリが、今更消したくらいで水に流してくれるとは思えない。
元々秋川さんからもらったお礼だったはずなのに、なんでこんな酷い目に遭わなきゃいけないんだと嘆きながら、わたしはイタチアプリに目を通し始めた。
早く人間に完全に戻れる日が来ますように。
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