イタチを愛する変わり者美女はわたしだけを抱きしめる

佐古橋トーラ

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第3章

わたしはイタチではないのに 5

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 は?

 は?

 は?

 なにこれ?
 なにこの体?

 なんか違くね?

 なんか、つーか、何もかも違くね?

 なにこの手?
 なにこの足?

 意味がわかんない。

 奇怪な自分の姿を眺めて、わたしは驚天動地、世界がひっくり返るよりもさらに思考回路が吹っ飛んでフラッシュアウトした。

 いやさ。冷静に考えて………。
 いや、冷静に考えられないだろ。

 目線も異様なまでに低いし、そもそも体を動かす時の感覚に違和感がありまくる。どう形容したら良いか分からないけど、とにかく先ほどまでの自分の体とはまったく別物だ。

 立ちあがろうとしても、二足歩行ができない。足でバランスが取れない。
 なのに、手をつくとすごくスムーズに動ける。
 まるで、四足歩行の動物になったみたいだ。目線も低いし、全身毛だらけだし。

 頭は真っ白だったが、とにかく自分の姿を確認すべく、手と足、いや四つの足をトテトテ動かして部屋にある全身鏡の前に立った。

 そこに映ったのは、とても『普通の女子高生』からは逸脱した生き物の姿だった。

 長い胴体に短足をぶら下げ、小さい耳と胴よりは少し短いが立派すぎる尻尾、この前まで見ていても興味すらわかなかった秋川さんの好きな生き物。
 イタチだった。

『はあああああ!?』

 思わず馬鹿でかい声が出る。
 
 は?
 これわたしの姿だよね?
 部屋にイタチがあるとかじゃなくて、わたしがイタチってことだよね?だって鏡に写ってるのはこのイタチだけだし。いやフェレットかもしれない。今は死ぬほどどうでもいいけど。

 ……………なんで?
 いや、なんでっていうか、なにこれ?
 何が起こってんの?
 なんでわたしがイタチなの?
 
 夢だと信じて気を失いたいのに、あまりにも空気の流れや意識が現実性を物語ってくる。

 意味わかんなくね?
 誰か分かる?
 誰かって誰だよ。
 
 色々と錯乱してもうめちゃくちゃだけど、一言で表すと、自分の身体がイタチになった。

 肌のひとかけらも残さず、ヒトから野生動物に変わった。
 見ると、パジャマや下着がベッドの上に転がっていた。つまり全裸だ。まあイタチが服なんて着るわけないんだけど、裸だと分かると変な気分になってくる。今はそれどころじゃないくらいこの状況に戸惑っているけど。

『なにこれ!?なんでわたしがイタチになってんの?ていうかそんなことありえる!?ありえないだろうが!』

 大声で自分の姿を否定しようとしていると、もう一つ違和感に気がついた。
 なんと、声すらもイタチになっているのだ。
 ちゃんと心の中で思った通りに声に出しているのに、キーキーと甲高い声しか出てこない。いや、秋川さんみたいなイタチファンを怒らせたいわけじゃないけどわたしからすると、自分の声がこんなんになっても不快なだけだ。

「ちょっとー。何今の音?」

 混濁に溢れていると、一階から奇声を聞きつけた母が階段の下から声をかけた。

 やばい。
 こんな姿見られたら良くて追放、悪くて駆除される。

 わたしの返答がなかったせいか、母は心配して階段を登り始めた。

 なんでイタチになったかなんてわたしが一番知りたいが、少なくともこのままの状態だと言い分もクソもないので、わたしは急いでベッドの下に隠れて息を潜めた。
 普段はとても潜り込まない隙間なのに、今は楽々自分の体を滑り込ませられる。少しずつ冷静になってきた頭と意識が、新鮮な視点をもたらして不可思議な気分になってくる。

「ちょっと、ひなた、返事くらい……あら?」

 母はそのままノックもせずに部屋に突撃してきた。わたしの姿が見えないことに戸惑っているようだったが、部屋にいないことを確認するや否や出ていった。

 わたしはと言えば、その間、ベッドの下から見える母の足をビクビクしながら見つめることしかできなかった。
 なんとか姿がバレないように息を潜め、まるで巨人が蹂躙しているかのような床の振動に体を震わせた。ホラーゲームとかでベッドに隠れてる時って、現実だとこんなに怖いんだって実感した。母を怪異扱いしてしまったけど、実際今のわたしから見るとそれくらい怖い。

 母は心配してわたしの行方を探しまくっているようで、家の中をわたしの名前を呼びながら探しまくっている。
 そりゃ深夜に子供が忽然と消えたら心配するよな。

 さてさて、わたしはどうしようか。
 というか、まず何が起こったら身体がイタチになるなんてことになるんだ。

 いや、原因よりもまずこれからどうするかだ。

 このままここで隠れるか?
 いや、母はこのままわたしが見つからなかったら警察に連絡するかもしれないし、そうじゃなくてもこの姿では家に居場所はない。
 
 じゃあ出て行く?
 それじゃあ実質曽鷹ひなたという人間は死んだも同然だろ。

 普通に考えて、わたしという人間がイタチになったからには、わたしというイタチが人間になるということもあり得るはずだ。
 いや、ありえないんだけど、現に姿がこんなんになった以上、一方通行とは限らない。
 
 何かきっかけがあれば人間に戻れることだってあるはずだ。理論的なことを真面目に考える前に、まず現状をどうにかしなければ。

 とはいえ、今のわたしはベットの下で頭を抱えて震えるしかない弱々しいイタチだ。何をどうすれば良いかも分からない中で、どうやって人間に戻れというのか。

 時計を見ると、時刻は午前二時十分になるところだった。もうこの姿になってから10分も経つのか。

 このまま人間に戻れなかったらどうしよう。
 家の中で密かに人にバレないように生きるのか?そうなったら、わたしは家族からは死んだものにされてしまうのだろうか。友達とももう会えないの?
 
 積もっていた不安が押し寄せて、感情が困惑から不安へと変わっていく。

 戻りたい……戻りたい……!戻りたい!

 いよいよこのまま二度と人間に戻れないのではないかと再び心臓が跳ね出したころだった。

 !?

 今度はなんの前触れもなく、体が跳ねた。
 かと思った次の瞬間には、ベッドの下が急に窮屈になってわたしの体はとても入りきらなくなってベッドに押しつぶされる形になった。

「ぼげぇっ!?」

 ベッドの下敷きになってなんとか体を引き抜こうとするが、動かない。

 さっきから何がどうなってんだ。なんでベッドが急に小さく………あれ?

 ここでようやくわたしは気がついた。
 ベッドが小さくなったのではなく、わたしが大きくなったのだ。そして、下敷きになりながら目を逸らすと、わたしの手はいつの間にか人間のものに戻っている。

 戻れた!?
 なんで!?
 よく分かんないけど良かった!

「ひなた!部屋に居たの!?」

 物音を聞きつけた母が、再度部屋に戻ってきた。
 あ、戻れたのはよかったけど問題がまだ一つある。

「って……あんたなに裸でベッドの下に頭突っ込んでんの……。」
「あ、いや、あははは。ちょっと気分転換にね………。ちょっと身体引き抜くの手伝ってくれない?」

 自分の娘が全裸でベッドの下に潜り込もうとしているのを見た時の母親の感想を誰か800字以内で書いて欲しいものだ。
 
 

 
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