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第3章
わたしはイタチではないのに 4
しおりを挟む秋川さんを祖母の家に連れていってから、だいたい一週間が経った。
わたしの不安が的中したと言うべきなのか、あれ以降わたしと秋川さんの距離は縮まっていない。前も考えた通り、わたしには新たな一手がない。話題がないから距離が縮まらないのは当然と言えば当然だ。
「おはよー、秋川さん。」
「………おはよう。」
でも、同時に、距離が遠ざかってないだけかなりマシだとも思う。
今だって、朝挨拶しに行くと不機嫌そうになりながらもちゃんと返してくれる。
秋川さんがわたしに気を許してくれてるとは思わないけど、他の生徒には一瞬で牙を剥くのに対して、わたしには不満そうにしながらも対応してくれる、これは秋川さんの一番の友達といってもいいのでは?彼女の一番の友達なんて、他の人にとってはほとんど知り合いみたいな関係なんだろうけど。
なんにせよ学校内で一番身近な存在ということは一番脈があるということだ。
代償と言ってはなんだが、わたし自身も秋川さんに絡もうとする変わり者だと周囲から思われるようになった。
特にカースト上位の女子たちからは随分悪意のある目線で睨まれているし、そのせいもあってか蒼と冴乃とは若干距離ができた気がする。なんで秋川さんと仲良くしようとしただけでこんな扱いを受けることになるんだと文句を言いたいが、まあ世の中の理不尽を嘆いたところで事実は変わらない。
秋川さんは常に他からの視線をあしらっているんだからわたしも少しは真似しないとね。
秋川さんとの挨拶を済ませ、席に戻ったわたしは、すぐに携帯を取り出した。
斜め後ろの席では冴乃が朝っぱらからぐっすりと眠っていて、隣では蒼が時折こちらの様子を伺いながら授業の予習をしている。
賢い蒼はどうやらわたしが秋川さんと絡もうとすることに肯定的ではないらしい。立ち回り方が上手いから、わたしが秋川さんみたいな異端児と距離を詰めることで自分にも火の粉が飛んでくることを危険視しているのだろう。直接的な物言いはしないが、遠回しに秋川さんと関わることを非難している。
なんなら、本人の中ではわたしから距離を取ることも考えているかもしれない。これからも仲良くしていたいものだが、友人関係って世知辛いもんだね。
対して冴乃は感心するように秋川さんとわたしの交流を眺めているようで、どちらかというと肯定的に秋川さんのエピソードを求めてくる。
あ、もちろん秋川さんがイタチ好きでイタチを前にすると超ハイテンションモードにはいることは内緒にしている。まだ首は飛ばされたくないからね。
二人の友人について考えていると、わたしの携帯に一通の通知が届いた。
「……またかよ。うざいなぁ。」
《ペナルティ期限 残り0日18時間13分 期限内にアプリにログインしてポイントを受け取りましょう!使用形跡がないとペナルティを受けます!》
秋川さんに勧めてもらったイタチアプリからの催促だった。
通知はオフにしているはずなのに、この一週間、毎日頻繁に通知を鳴らしている。秋川さんとの関係向上に役立つかもしれないから消せないが、こうも頻繁に知らせを受け取らなければならないとなるとこちらとしても萎えてくる。
どんなペナルティがあるかは知らんが、どうせ使うことがないんだから関係ない話だ。
そんなことより、わたしが今考えるべきことは、秋川さんとより仲良くなるためにこれから何をするべきかということだ。
まだ一緒に昼ごはん食べるとか、一緒に登下校するとかには早いと思う。誘ってみる価値はあるが、まだ高校一年生の一学期なんだし慎重に行くべきだろう。ただでさえクラスで腫れ物扱いされ出しているのに、犠牲を払ってまで近づいた秋川さんにまで突き放されたら致命傷だ。
とはいえ、このままでもダメだ。ここ一週間近づく手段を考えてはいたんだけど、これといって良いものは思い浮かばなかった。このまま泥舟メンヘラ化するのは避けたい。
そもそも、わたしにとっての秋川さんってなんだ?
本当にただ友達になりたいだけ?
いや違う。
もっと近づきたい。
この感情は、中学生の頃上級生の男子の先輩に目を奪われていたのとちょっと似ていると感じる。
憧れというか、あわよくばというか……。
いやまあ秋川さんは女子なんだけどさ。
でも、こういう感情が湧き起こるのは、そういうふうに彼女に心奪われているってことなんじゃないかなって思わなくもない。
まあ、少なくとも秋川さんがこちらに最低限友達と言えるくらい心を開いてくれないと、たぶんこの感情もわたしの中で認められないと思う。
「さてと。今日も一日がんばりますか……!」
誰も聞いてないであろう小さな宣言をして、わたしは携帯の電源を切った。
自分から学校生活をハードモードにしていると思うけど、この気持ちは分かってても止まれない。なんだかんだ言って、女子高生らしい青春じゃないか。自分を鼓舞するには、秋川さんへの熱情は充分すぎる。
♦︎♦︎♦︎
色んな意味で転換点となったのは、その日の夜のことだった。
わたしは、いつもよりも少し早く就寝し、布団をかぶって完全に眠りについていた。というより、携帯をいじっていたらそのまま寝落ちしてしまった。
例のアプリ曰く、この日の夜がペナルティとやらの期限だったのだが、わざわざアプリを開いてポイントやらを稼ぐのがめんどくさがったわたしは、とっくの昔にそんなの忘れて寝入っていた。
しかし、わたしの常識を超越した奇怪な現象が起こることになる。
「……………っぐ!?」
意識を手放していたわたしは、不意に猛烈な胸の痛みを感じて飛び起きた。正確には、頭だけが飛び起きて身体は動かせなかった。動かせないくらい痛かった。
肺だか心臓だか知らないが、とにかく胸の辺りが猛烈に窮屈になって、まるで大蛇に締め付けられているかのような圧迫感を覚えた。
痛い……!痛い!
今までに経験したことがないような辛さで、声すら出せなくて助けを呼ぶこともできなかった。当然携帯を触れるような状況でもないので、わたしは胸をもがきながらベッドの上を転げ回った。
感覚的には無限とも思えるような痛みの末、何も分からないままいよいよ人生の終わりを覚悟した時、わたしの意識はプツンと切れた。
気絶というべきなのか、失神というべきなのか。とにかく普通の睡眠とは全く別の無意識状態に入った。なんでわたしがこれほどの痛みを伴うことに、と疑問に思う余裕は、気絶する前にも後にもなかった。
ふと目を覚ました時、ベッドの上から見える時計の針は午前2時を示していた。
どこか違和感があったものの、体の痛みは引いていたせいか、安心感の方が上回って息をひとつ吐く。
さっきの痛みは一体なんだったんだろう。
間違いなく人生で最も苦しい痛みだった。骨折した時とか牡蠣に当たったときとかとは比べ物にならない激痛で、本気で死ぬと思った。ていうかいっそのこと死んで苦痛から逃げたいとすら思った。
とにかく水でも飲んで落ち着こうと、台所に向かうべく身体を起こす。
そこで、違和感がグッと増すことになる。
………………………ん?
身体が持ち上がらない。
なんか、窮屈というか、関節の問題でとても体を起こせない。
なんだこれ。
先ほどまでの痛みから逃れた安心感が、とてつもない速度で違和感に書き換えられていく。
んんんんんんん????
何かがおかしい。
いや、何もかもがおかしい。
恐る恐る、目線を自分の身体の方に持っていった。
そこにあったのは、人間のそれとは思えない、短い手足と細長い胴、意味分かんないくらい毛が生えた身体だった。
今度こそ自分が死んだんじゃないかと思った。
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