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第1章
平凡と非凡は何色に 2
しおりを挟む休み時間ももう時期終わる頃、わたしは意を決して立ち上がった。
「ひなた?どこ行くの?」
「いや。ちょっとトイレ。」
「時間あんまりないから早く行った方がいいよ。」
蒼の忠告に「ありがとう」とだけ言って足を進めるが、わたしの真の目的はトイレじゃない。
教室を出ていくふりをして後ろから秋川さんが何を見ているのか覗くことだ。
あれだけ普段から熱心になっているということは、その正体がわかれば何かしら彼女について知れるはずだ。
わたしとしたことが、犯罪者みたいな思考回路だ。
そもそも、覗いて彼女の趣味を知ったところで何になるんだという話だが、どうしても何を見ているのかが知りたいと思ってしまったからどうしようもない。好奇心という素晴らしい欲望が絶えず想像力をうんぬんかんぬん、と誰かが言っていた。
スタスタとさりげなく歩いて秋川さんの席の後ろまで到達する。後ろに目があるわけもないだろうが、周りの人から見てわたしが秋川さんの携帯をガン見していると思われたくはないので、目線だけを動かして彼女が熱心になっているものを覗き見ようとした。その時。
「──っ!?」
予想外の行動にわたしは動揺させられて思わず声が出かかった。
秋川さんがわたしに見られないようにするかのように携帯を体に寄せて画面が見えないように隠したのだ。
うそ!?
まさか気づかれていた?
心が読めるわけないのに、今のはまるで全てを見透かされたような行為だ。
どういうことだ?
想定外の秋川さんの行動に頭がフリーズしてその場に立ち止まってしまう。
心臓がバクバクして緊張感がヤバい。
死に体のわたしにトドメを指すかのように秋川さんが振り向いて、冷徹な視線を浴びせる。
「なに?用があるなら言えば。」
まさに女王に相応しい低く凍りつくような声だった。あきらかに怒っているのがわかる。そりゃあ勝手に後ろから携帯を覗き見されたら怒るよね。
まさかバレるとは思っていなかったけど、こうやって指摘されると自分の行動がいかに軽率なものであったか思い知らされるようだ。
でも、どうして分かったんだ?わたしが後ろから覗き見ようとしていたなんて。本当に後ろに目がついているのか?
「えっと。こんなことしてごめんなさい……。でも、これだけは教えて。なんでわたしが後ろから覗いているってわかったの?」
謝罪はもちろんするべきだったが、どうしても疑問を払拭したくて場違いな質問してしまう。余計に怒られるかな。
断罪の瞬間を待つように秋川さんの目を見れないわたしだったが、視界の端に僅かに映った彼女の顔に無意識的に意識を向けた結果、またしても想定外の反応がわたしを待っていた。
秋川さんは、わからないことがあるかのように複雑な表情をし、わたしを見つめている。
あれ?
どうなってるんだ?
よく分からないけど、もしかしてなんか許してもらえるのかな?
そんな一縷の希望が見え始めていたが、直後わたしはどん底に突き落とされることになる。
「………え?わたしの携帯覗き見ようとしてたの?」
?
なんで今更確認するかのようにそんなこと。
それを分かっているから怒っているのではないのか?
「…………………あ」
ここでわたしは最悪の可能性に気がついた。
秋川さんは、一度も『わたしが携帯を覗き見た』ということを指摘していない。
わたしが勝手にそう推察しただけだ。
まさか、わたしが後ろに立っていることは気がついたけど、覗き見ようとしていたことには気がついていなかったのか?
だとしたら、わたしは勝手に自白してしまったただのバカだ。
そして残念なことに、その考察が為される頃には、秋川さんの顔はさっきと比べ物にならないくらい静かな怒りに染まっていた。
「後ろから覗き見ようとしてたんだ。自分から言ってくれてありがとう。これであなたとは一生話さなくていい口実ができたね。」
思考が完全に停止した。
仲良くしようと息巻いていた数分前のわたしはとうの昔に死んでいた。
「あっ…えっ…でも…さっき…携帯、隠してたから…バレたんじゃないか…って。」
「はぁ?後ろから人の足音が聞こえたから、目に入られないように隠しただけ。意図的にのぞこうとしている人がいたとは思わなかったけど。」
「………………………」
終わった。
もう言い訳のしようがない。
秋川さんにとってわたしは最低の覗き魔だ。
つーか、後ろから人が来るたび見られないように隠すとか、一体何見てたんだよ。
「あの、ホントにごめんなさい。でも、仲良くしたいと思っただけなんです。」
「…………それがなんで後ろから覗き見るなんて行動につながるわけ?」
もう声も出したくないくらい言葉の一つ一つが凍らせるように冷たい。
それでも、仲良くしたいと思った気持ちは本当だから、最後まで向き合わないと。
「……いつも携帯見てたから、何見てるのかなって。知れたら趣味とかがわかって、近づきやすくなるかもって思ったから。」
我ながらこんなに声ってかすれるんだってくらいボロボロだった。小学校の時、先生の目の前で理科の実験のビーカーを割ってしまった時のことを思い出した。本当に最悪なことが起こったとき、本当に真っ白になるものなのだ。
でも、さっきのがわたしの本音なのは事実だ。
仲良くもなっていないのにこんな最低な行為をしたわたしは、もう秋川さんと話せることはないかもしれないけど、本当に興味はあったんだ。
まあ、全部今更か。嫌われてしまった以上、どうしようもない。
「ごめんね。」
最後に一言言って、ぺこりと頭を下げながら逃げるように退散する。
久しぶりに自分の意思で行動したらこれだもんな。本気で自分が嫌いになる。後悔先立たずといってもこんな形でわたしの友人作りが終了を迎えるとは。いっそのことこのまま覗き魔として断罪してほしい。
「待ちなさい。」
おそらく高校に入ってから一番小さくなっているであろう背中を秋川さんが止める。
彼女の鋭い口調からしてもう一段階くらいお説教されるのだろうか。
ここまできたらなんでも受け入れます。モラルのないわたしとどうかお叱りください。
もはやわたしにできることはない。
肩を落として、冷雷が下るのをじっと待つ。
「………そんなにわたしと仲良くしたいの?」
「…えっ…あっ、うん。」
声は尖ったままだったが、想定外の質問が飛んできた。咄嗟に答えるが、面食らったせいか消極的な肯定になってしまった。
「そう。それなら、気が向いたら今日の放課後第二体育館裏に来て。一人でね。」
そっけなくそう言うと、秋川さんは席を前向きに直して、二度とは振り返らなかった。
え。
放課後一人で?
なんだろう。怖い先輩を呼ばれてボコボコにされるのかな。いや、でもワンチャン仲良くできる可能性も僅かにあるのか……?
彼女の言った言葉の真意は理解できなかったが、このまま後ろ姿を眺めていても得られる情報はなさそうなので、カチカチに固まった体を必死に動かして自分の席に戻った。
ようやく落ち着き始めた心臓に手を当てながら考える。
秋川さんがわたしの行動のせいで怒っていたのは間違いない。でも、最後の言葉にはそれまでになかった柔らかさがあったような気がした。
奇跡的にもしかしたらもしかするかもしれない。99%悪い方向でも、1%良い方向に向かえるなら、わたしはそちらを選びたがるギャンブラーなのだ。
自分がどうしてこんなに秋川さんのことを気にしているのかもわからないまま、今日のの放課後を心のどこかで楽しみにしているわたしがいた。
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