イタチを愛する変わり者美女はわたしだけを抱きしめる

佐古橋トーラ

文字の大きさ
3 / 32
第1章

平凡と非凡は何色に 2

しおりを挟む


 休み時間ももう時期終わる頃、わたしは意を決して立ち上がった。

「ひなた?どこ行くの?」
「いや。ちょっとトイレ。」
「時間あんまりないから早く行った方がいいよ。」

 蒼の忠告に「ありがとう」とだけ言って足を進めるが、わたしの真の目的はトイレじゃない。

 教室を出ていくふりをして後ろから秋川さんが何を見ているのか覗くことだ。
 あれだけ普段から熱心になっているということは、その正体がわかれば何かしら彼女について知れるはずだ。

 わたしとしたことが、犯罪者みたいな思考回路だ。
 
 そもそも、覗いて彼女の趣味を知ったところで何になるんだという話だが、どうしても何を見ているのかが知りたいと思ってしまったからどうしようもない。好奇心という素晴らしい欲望が絶えず想像力をうんぬんかんぬん、と誰かが言っていた。

 スタスタとさりげなく歩いて秋川さんの席の後ろまで到達する。後ろに目があるわけもないだろうが、周りの人から見てわたしが秋川さんの携帯をガン見していると思われたくはないので、目線だけを動かして彼女が熱心になっているものを覗き見ようとした。その時。
 
「──っ!?」

 予想外の行動にわたしは動揺させられて思わず声が出かかった。

 秋川さんがわたしに見られないようにするかのように携帯を体に寄せて画面が見えないように隠したのだ。

 うそ!?
 まさか気づかれていた?
 心が読めるわけないのに、今のはまるで全てを見透かされたような行為だ。
 どういうことだ?

 想定外の秋川さんの行動に頭がフリーズしてその場に立ち止まってしまう。
 心臓がバクバクして緊張感がヤバい。
 死に体のわたしにトドメを指すかのように秋川さんが振り向いて、冷徹な視線を浴びせる。

「なに?用があるなら言えば。」

 まさに女王に相応しい低く凍りつくような声だった。あきらかに怒っているのがわかる。そりゃあ勝手に後ろから携帯を覗き見されたら怒るよね。
 まさかバレるとは思っていなかったけど、こうやって指摘されると自分の行動がいかに軽率なものであったか思い知らされるようだ。

 でも、どうして分かったんだ?わたしが後ろから覗き見ようとしていたなんて。本当に後ろに目がついているのか?

「えっと。こんなことしてごめんなさい……。でも、これだけは教えて。なんでわたしが後ろから覗いているってわかったの?」

 謝罪はもちろんするべきだったが、どうしても疑問を払拭したくて場違いな質問してしまう。余計に怒られるかな。

 断罪の瞬間を待つように秋川さんの目を見れないわたしだったが、視界の端に僅かに映った彼女の顔に無意識的に意識を向けた結果、またしても想定外の反応がわたしを待っていた。

 秋川さんは、わからないことがあるかのように複雑な表情をし、わたしを見つめている。
 
 あれ?
 どうなってるんだ?
 よく分からないけど、もしかしてなんか許してもらえるのかな?
 
 そんな一縷の希望が見え始めていたが、直後わたしはどん底に突き落とされることになる。

「………え?わたしの携帯覗き見ようとしてたの?」

 ?
 なんで今更確認するかのようにそんなこと。
 それを分かっているから怒っているのではないのか?

「…………………あ」

 ここでわたしは最悪の可能性に気がついた。
 秋川さんは、一度も『わたしが携帯を覗き見た』ということを指摘していない。
 わたしが勝手にそう推察しただけだ。

 まさか、わたしが後ろに立っていることは気がついたけど、覗き見ようとしていたことには気がついていなかったのか?
 だとしたら、わたしは勝手に自白してしまったただのバカだ。

 そして残念なことに、その考察が為される頃には、秋川さんの顔はさっきと比べ物にならないくらい静かな怒りに染まっていた。

「後ろから覗き見ようとしてたんだ。自分から言ってくれてありがとう。これであなたとは一生話さなくていい口実ができたね。」

 思考が完全に停止した。
 仲良くしようと息巻いていた数分前のわたしはとうの昔に死んでいた。
 
「あっ…えっ…でも…さっき…携帯、隠してたから…バレたんじゃないか…って。」
「はぁ?後ろから人の足音が聞こえたから、目に入られないように隠しただけ。意図的にのぞこうとしている人がいたとは思わなかったけど。」
「………………………」

 終わった。
 もう言い訳のしようがない。
 秋川さんにとってわたしは最低の覗き魔だ。
 つーか、後ろから人が来るたび見られないように隠すとか、一体何見てたんだよ。

「あの、ホントにごめんなさい。でも、仲良くしたいと思っただけなんです。」
「…………それがなんで後ろから覗き見るなんて行動につながるわけ?」

 もう声も出したくないくらい言葉の一つ一つが凍らせるように冷たい。
 それでも、仲良くしたいと思った気持ちは本当だから、最後まで向き合わないと。

「……いつも携帯見てたから、何見てるのかなって。知れたら趣味とかがわかって、近づきやすくなるかもって思ったから。」

 我ながらこんなに声ってかすれるんだってくらいボロボロだった。小学校の時、先生の目の前で理科の実験のビーカーを割ってしまった時のことを思い出した。本当に最悪なことが起こったとき、本当に真っ白になるものなのだ。

 でも、さっきのがわたしの本音なのは事実だ。
 仲良くもなっていないのにこんな最低な行為をしたわたしは、もう秋川さんと話せることはないかもしれないけど、本当に興味はあったんだ。

 まあ、全部今更か。嫌われてしまった以上、どうしようもない。

「ごめんね。」

 最後に一言言って、ぺこりと頭を下げながら逃げるように退散する。
 久しぶりに自分の意思で行動したらこれだもんな。本気で自分が嫌いになる。後悔先立たずといってもこんな形でわたしの友人作りが終了を迎えるとは。いっそのことこのまま覗き魔として断罪してほしい。

「待ちなさい。」

 おそらく高校に入ってから一番小さくなっているであろう背中を秋川さんが止める。
 
 彼女の鋭い口調からしてもう一段階くらいお説教されるのだろうか。

 ここまできたらなんでも受け入れます。モラルのないわたしとどうかお叱りください。
 もはやわたしにできることはない。
 肩を落として、冷雷が下るのをじっと待つ。

「………そんなにわたしと仲良くしたいの?」
「…えっ…あっ、うん。」

 声は尖ったままだったが、想定外の質問が飛んできた。咄嗟に答えるが、面食らったせいか消極的な肯定になってしまった。

「そう。それなら、気が向いたら今日の放課後第二体育館裏に来て。一人でね。」

 そっけなくそう言うと、秋川さんは席を前向きに直して、二度とは振り返らなかった。

 え。
 放課後一人で?
 なんだろう。怖い先輩を呼ばれてボコボコにされるのかな。いや、でもワンチャン仲良くできる可能性も僅かにあるのか……?
 
 彼女の言った言葉の真意は理解できなかったが、このまま後ろ姿を眺めていても得られる情報はなさそうなので、カチカチに固まった体を必死に動かして自分の席に戻った。
 
 ようやく落ち着き始めた心臓に手を当てながら考える。
 
 秋川さんがわたしの行動のせいで怒っていたのは間違いない。でも、最後の言葉にはそれまでになかった柔らかさがあったような気がした。
 奇跡的にもしかしたらもしかするかもしれない。99%悪い方向でも、1%良い方向に向かえるなら、わたしはそちらを選びたがるギャンブラーなのだ。
 自分がどうしてこんなに秋川さんのことを気にしているのかもわからないまま、今日のの放課後を心のどこかで楽しみにしているわたしがいた。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合活少女とぼっちの姫

佐古橋トーラ
青春
あなたは私のもの。わたしは貴女のもの? 高校一年生の伊月樹には秘密がある。 誰にもバレたくない、バレてはいけないことだった。 それが、なんの変哲もないクラスの根暗少女、結奈に知られてしまった。弱みを握られてしまった。 ──土下座して。 ──四つん這いになって。 ──下着姿になって。 断れるはずもない要求。 最低だ。 最悪だ。 こんなことさせられて好きになるわけないのに。 人を手中に収めることを知ってしまった少女と、人の手中に収められることを知ってしまった少女たちの物語。 当作品はカクヨムで連載している作品の転載です。 ※この物語はフィクションです ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ご注意ください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

処理中です...