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第1章
平凡と非凡は何色に 1
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「ぐぇえ。中間試験終わった。」
解答用紙が回収され、休み時間が入ったところでとうとう力尽きる。
べったりと机に顔面を密着させて唸っても今更時間が遡るわけでもない。遡れたとしてもテストの出来の悪さはたぶん変わらないから余計に虚しくなる。
わたしの名前は曽鷹ひなた。なんの変哲もないそこらへんの女子高生。特段頭がいいわけでも悪いわけでもない。運動能力もちょうど平均値くらい。クラスのカーストでも中の中、だと勝手に思ってるけど実はもっと下かもしれない。顔は……まあそこまで悪くないと自負しているけど、親以外に褒められたことがないのでちょっと自信喪失気味ではある。ナルシストではないと信じたい。
「終わったってどっちの意味?生存?死亡?」
「もちろん後者。」
突っ伏すわたしを見て正面からあははと笑っているのがわたしの友達である海音蒼。ウェーブがかっている髪の先端が彼女の名前の如く海を想像させるような、そこそこ頭が良くてめっちゃ美人なヒト。人当たりも良くて気も遣える。
「……───」
その隣で、わたし以上に出来が悪かったのか声すら出せなくなって魂が抜け落ちているのがもう一人の友達である花神冴乃。頭良さそうな雰囲気があるけど本人は全然頭良くない。わたしもそんなにだけどそれ以上に悪い。元気だけはある。今はないけど。
私たちはこの三人でよくグループになっている高校一年生だ。と言っても、冴乃と蒼は中学時代からの友達なのでわたしは少しだけ肩身が狭い。冴乃と蒼がわたしを仲間外れにする気はないのは分かっているけど、やっぱり共に過ごした期間の長さというのは友情関係の中で大切だ。
それでも、この時期までになんとか友達と言える存在ができたのは良かったと思う。下手したら3年間ぼっちになる可能性だってゼロではなかったのだから。
「ひなたは動物好きだよねえ。」
わたしがテストの結果に憂鬱しながら携帯を眺めていると、蒼が覗き込むように尋ねてくる。
見ると、わたしの携帯の画面にはSNSに投稿された子猫の画像が写っていた。おそらくそれを見ての発言だろう。
「あ、うん。そうだよ。かわいいの好き。」
なんかぎこちない返事をしてしまったが、別に動物は好きではない。どちらかというと、動物が好きなわたしをアピールしたいって気持ちの方が強い。
「そういえば、スマホの待ち受けもフェレットの写真にしてたもんね。」
カーストを維持できる気がしないわたしは、そういう惨めで涙ぐましい動物好きアピールをして、自分が寛容で優しい人であると主張しているのだ。改めて自分を振り返ると、わたしって本当に悲しい人間。
まあその効果があったかは知らないけど、こうやって友達ができているのだから良しとしよう。
それで、わたしたちは高校に入って最初の試験である中間テストを終わらせたのだが、結果はたぶん散々だ。ついに平均ばかりの人生が変わるかもしれない。悪い意味で。
「冴乃。生きてますかー。」
「シンデマス。」
「どんまい。」
ぐったりした冴乃に元気な蒼がちょっかいをかけているのを横目に、わたしは顔を上げて教室を見回す。
元々女子校だったのがここ最近共学になったのもあってまだクラスのほとんどが女子だ。おとなしめの男の子が二人いるだけで、あとは全部女子。
女子ばっかりだと気持ちが楽ではあるんだけど、それはそれとして独特な感じがまだ慣れない。
そんな何ともいえない高校生活のスタートを切ったわたしだったが、ここのところどうも気になって仕方のないことがある。
わたしは廊下側の一番前の席に座って携帯を眺めている女の子に目を向けた。
教室の端に位置していながら、その見た目と雰囲気が明らかに一線を画す美少女。
長いブロンズヘアに、凛とした目とモデルのようなプロポーションをもつ彼女は秋川さんだ。
女子でも見惚れるほどの美しさを持つ彼女だが、自主的に彼女に話しかける人はほとんどいない。
理由は彼女が他人と触れ合うことを拒むからだ。
入学当初、始めは知らない相手でも友達作りをするのが誰にとっても普通だ。わたしたちは各々自分の友達を見極めていくのだが、その際、一目見ただけで美人と分かりしかも主席合格で入学生代表挨拶をしていた秋川さんには多くの人がアプローチした。彼女を仲間にできれば、自分の立ち位置も安泰だと皆が思ったのだろう。
だが、有象無象の思惑とは事情が違った。
彼女はそれらを全て無視して、あまつさえ「話しかけないで。」と言って友好断絶したのだ。
あまりの毒舌っぷりから、それ以降、クラスの誰にも話しかけられなくなり、本人もそれに満足している様子だったため、彼女は現在に至るまでこの教室で独立を保っている。態度の悪さからカースト上位の連中にはかなり嫌われているようだし、いつからか『孤独の女王』なんて皮肉めいた通り名がついてしまった始末だ。いじめ、とまではいかないまでも、一歩間違えるとそうなりかねない怪しい立ち位置である。
そんな秋川さんに、わたしは最近気を寄せている。
気を寄せていると言っても、なんとなく気になるだけなんだけど。でも、ちょっと仲良くしたいなぁと思ってしまう。
まあ、わたしなんか羽虫程度にあしらわれてしまいそうだけどね。
「秋川さんって、いつも携帯でなんか見てるよね。何見てるのかちょっと気にならない?」
じゃれていた蒼と冴乃にさりげなく秋川さんの話を出してみる。
彼女はいつもああやって携帯を凝視している。あの冷徹美人が夢中になるもの……気になる。
あ、ちなみに。この高校は基本的に携帯の電源は切っておかないといけないけど、守んなくても反省文もないし、没収もないのでみんな自由に使っている。
真面目でしっかりものと言ったイメージを連想させる秋川さんだけど、実際のところはそうでもない。主席合格なだけあって頭の良さは超一流なのは間違いないが、授業の時は上の空だったりたまに遅刻してきたりで案外とぼけているところがあるのかもしれない。まあ「わたしは勉強できるので授業なんて聞く必要がありません」とか「遅刻しましたが、なにか?」みたいな雰囲気なので、悪びれる様子はないが。
「うーん。あんまり気にしたことなかったなぁ。あの人他人と関わろうとしないし、気にしても無駄だと思うけど。」
「そうだよ!そうだよ!あの人、わたしが前に話しかけた時なんであったと思う?『あなたが近くにいると動物園に来たような気分になる。悪いけどどこかに行ってくれない?』って言ったんだよ!ひどくない!?」
「それは言い得て妙だね。」
「蒼までそんなこと言うの!?」
またしても蒼と冴乃の言い争いが始まってしまった。ホントに仲良いなぁこの二人。
それはそれとして、やっぱり秋川さんはもうクラスにいないものとして捉えられているようだ。気になっているのはわたしだけか。
わたし自身、ここ最近なんで秋川さんのことが気になるのかはよく分からない。顔もスタイルもいいけど、そんなことで目を奪われ続けるほどウブなわたしでもない。性格は他人と関わる中では最悪の部類だろうし、多くの人がアプローチして退けられた中で、今更わたしなんか、と思わないこともない。
それでもなぜか行動したいと思っているから。彼女に嫌われない範囲で、ちょっとずつ歩み寄ってみるのも一種の挑戦かもしれない。ちょうど中間テストも終わって一段落したところだしね。
目的もゴール地点もわからないわたしの未知の探索が始まったような気がしたのだ。
気がしただけで明日には飽きているかもしれないことだけれど。
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