勇者の後物語

波動砲

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†††

「なぁフレメアちゃんよぉ。おめえさっきから何を探してんだ?」

男はフレメアが時折、地面を確認しながら歩いてる事に対し、戸惑いがちな表情を向ける

「‥‥‥足跡があるの」

フレメアは神妙な面持ちで男の顔を見上げるが、男には何を言ってるかイマイチ分からなかった

「なんの?」

「あの化物の足跡」

「追ってどうすんの?」

「殺す」

今度は顔を一切向けられず、端的に切り捨てられた男はふむぅ。と納得したのか、しなかったのか微妙そうな声を漏らす

「なぁ。提案があるんだけどさ」

「断る」

フレメアは男が何を言おうとしたのか感じ取ったのか厳しい声色で、一切の余地を挟ませず跳ね除けた

「い、いやおい!話位聞けっ‥‥て」

彼女の前を遮り男も負けじと言葉を絞り出そうとするが、彼女の鋭い眼光に睨まれて声が萎む

「‥‥‥」

フレメアが無言で槍を取り出すので男は手を上げ首を降る

「ちょっ!たんまたんま。分かった!もう何も言わねーから!」

フレメアの槍が男の声を裂き後方へ飛んでいく。だが彼女の手には未だに槍が握られていた

男が槍を飛んできたのではなく伸びてきたのだと理解するには暫くの時間を要した
彼女の頭より少しだけ飛び抜けていた槍の寸法は今や男とフレメアの身長2人足したより長く伸びきっていた。魔法である

「危ねえな。いきなりなにしやがる」

そう云う文句を漏らすのも仕方のない話だろう

「あれ?」

しかし男の心中を吐露した言葉は、男からではなく男の後方より投げつけられた言葉だった

ガバ、と男は振り返る

後方には左手から血を流しながらも切っ先を強引に受け止めていた1人の少女が立っていた。
少女の小さな体躯は一瞬、燃え上がっているのではないかと錯覚してしまうほどに苛烈な赤い色で染まっていた。だがそれは火ではなく、焔の様に燃え盛る紅い髪を靡かせているせいだろう

それと対比して二つの紅い眼球は赤黒く薄汚くドロドロとし、2人を見据えていた

「随分と化物らしくなってるね。

フレメアは薄く笑い、気付いたら元の長さに戻っていた槍の切っ先を自分の殺すべき相手に向ける

「ビビってんのかぁ?」

延びた犬歯基、牙をギラつかせるがフレメアは別段大した事もなさそうに鼻で笑う

「そっちの方が殺しても心が痛まないから助かるよ」

「そんなに殺しないなら、いいぜやってみろよ」

ニヒルに笑う少女は殺せと言わんばかりに仰々しく手を広げる

「じゃあ遠慮なく」

言葉より速くフレメアの槍が顔めがけて飛んでくるが、少女は避ける素振りすら見せようとはしない

ガギリという音がした

だがそれは少女を貫いた音ではない。目を疑う光景だが槍の矛に歯で食いつき止めて見せた事による音の派生だ

「シシシ」

面白い手品でも見せびらかす子どもみたいに笑うが、くぐもった声しか聞こえてこない

「はへはな、へんへんはへた《駄目だな、全然駄目だ》」

加えたまま口を動かすので、上手く発音できていなかった事に気づいた少女は氷でも砕く感覚で槍の矛先を噛み砕いて地面へマズそうに吐き出す

「この程度じゃ化物は殺せない」

勝ち誇った顔をする少女の鼻先目掛けて、刃先が砕けて杖となってしまった得物を素早く伸ばし叩きつける

「格好がつきませんね」

「おいおい、痛ぇじゃねぇか!!」

少女は鼻から垂れる血を拭うが不敵な笑みを崩さない
少女が棍をガッチリと両手で抑えるとフレメアがいくら押しても引いてもピクリとも動かなくなった

「今度はこっちの、番!」

少女が勢いよく右へ身体全体を捻じり棍を投げ飛ばすと釣られた魚みたいにフレメアも立ちはだかる木々の群れへと身体を半ば無理やり左へ飛ばされる

木が文字通り何本もなぎ倒され、土埃が巻き上がる

高速で何本もの木に叩きつけられ、無事な人間など早々いるものではないだろう

「う‥‥」

フレメアも例外ではなかった。煙が晴れると苦しげに呼吸を漏らし、呻きながらなんとか立ち上がる姿があった

「‥‥‥こんなもんか」

少女は冷ややかな視線を送りながら、フレメアの所へ歩みを進め蹴り倒す

「ガッ‥‥!」

フレメアの肺から呼吸が全て吐き出される
フレメアは少女を睨みながら起き上がろうとするが、少女の足が頭に置かれ踏みつけられる

「さっきの威勢の良さはどうした人間?
化物はここにいるぞ。早く殺してみろよ」

少女が段階的に足に体重をかけていくとミシミシと頭蓋が軋む嫌な音がする

「がぁぁ!!」

余りの痛みにのたうち回る所だが、足が頭に固定されフレメアは動く事が出来ない。数十秒間かけて彼女の頭は真っ赤なザクロみたいに割れる事になるだろう


「や、やめろ‥‥‥勝負はもうついてる。殺す必要がどこにあるんだ!」

今の今まで呆然としていた男が突然声を張る。少女が目をやると手には震えながらも剣が握られていた

「‥‥‥化物に挑んだ人間の末路は決まってる。勝って得るか、負けて全部失うか。」

少女が冷たく言い放つ言葉に男は言葉を失う。少女はつまらなそうに鼻を鳴らし、直ぐに自分の足元に這いつくばるフレメアへと視線を降り注ぐ

「殺したいくらい憎いなら俺らを殺せばいい!」

少女は面倒そうに小さく舌打ちをする

「お前多分村を襲った連中の1人だろ」

「そんなクソみたいな悪党が、化物相手に何をいけしゃあしゃあと 『殺しは悪い事』だとのたまうつもりか?」

侮蔑と嘲笑をかき混ぜた台詞と共に紅い少女は不愉快そうに瞳を細める

「あんたには悪い事をしたと思ってる。でも俺らだってあんな事をするつもりはなかった‥‥」


こっそり少女を誘拐して大金にありつく。そんな軽い考えだったからだ

「するつもりは『なかった』?」

少女は呆れた様に鼻で笑う

「してるじゃねぇか。」

少女はフレメアから足を退けて、男の方へ向かってくると男はフレメアの迫力に押され、何歩か後ろへたじろぐ

「こっちだって仲間が大勢死んだ!」

男の的外れな主張に少女はせせら笑いながら小首を傾げる

「だから?」

少女は男の首根っこを掴み、その華奢な細腕一本で大の男を軽々と持ち上げてみせる

「そもそもてめぇらが来なければこんな事にはならなかったんだろうが」

「ぐっ‥‥仕方ないだろ。金が必要だったんだ」

苦しそうに言葉を漏らす男。地面に足は付いておらずぶらぶらと宙吊りになっている。彼女がその気になれば、首の骨など簡単にへし折れてしまうだろう

だからこそ、本気で力みかけた右手を自制した少女の精神力は流石だった

「仕方ない?そんな言葉一つであれだけの事を済ますつもりかお前は!」

しかし沸々と溢れる感情の波が堰き止めらせず噴き出してくる。止められない。止め切れない

少女の世界は理不尽に壊された
世界は言い過ぎだと嗤う人もいるかもしれない
だが世界なんて莫大で曖昧に括られてるモノを果たして、矮小な一個人が正しく認知出来るものだろうか

結局の所、自分の目に映るものが。自分と繋がっているのを総じて世界と呼ぶのではないのか?
少女は年端もいかない童の様に表情を歪ませた

「 私 た ち を バ カ に し て い る の か !」

他の誰かにとっては大した事がないように映ったかもしれない。あの小さな村が。彼処に住んでいた人たちが少女にとっての総てで全てだった

それを目の前にいるこいつは、よりにもよって『仕方ない』 そんな軽い言葉一つで踏み躙ったのだ
仕方ない?仕方なければ誰かの幸せを踏みつけにしてもいいのか?
そんな傲慢が許される筈がない。許していい筈がない。赦せる筈もない

少女は獣みたいな咆哮をあげ、右手で固定した頭に向けて力み過ぎて鬱血した左手を突き出す


だが、少女が男を殺すよりも先に。
真横から何かがヒュンと風を切り少女の元へ向かってくる音がした。

何かは分からない。だが近づいて来る音に対してこのまま立ち尽くしているとお前は死ぬぞと少女の第六感が教えてくれた。
頭に血が登っていたが、それとは無関係に身体が反射的に動く


それが来るより先に少女は、咄嗟に掴んでた男から離れ後ろへ飛んだ。瞬間、先ほどまで立っていた少女の場所を何かが通り抜ける

飛んできた何かは弧を描く様にして木々を切り飛ばし、飛ばした者の元へ戻っていく

「いやぁ。俺が森に迷ってる間に楽しい事になってるな」

人を食ったような言い方をするそいつはニタリと笑みを零した

「まあいいや。お前が対象だな?首を貰うぞ」

ゆったりと現れた男の手には先ほど投げられた武器が収まっている。それは丸いお皿の様に円盤の形をしていて鋭利な刃物で全身を形作られている為か男の手にはグローブが嵌められ保護されていた

唯一の皿との相違点は、この円盤には真ん中に丸く穴が空けられていた
投擲された武器の名前はチャクラムという投擲武器にしては稀な斬る事を目的とした武器であった

「アニキ」

フレメアが傷ついた身体を動かし、ハイドリヒの方へ声をかける

「なんだよ お前、負けちゃったの?ぷーだっせぇ
仕方ないからアニキに後は全部任せろよ」

フレメアの兄。ハイドリヒはくつくつと揶揄するみたいな声を漏らす

「兄さん油断しないで その子強い‥‥」

フレメアの忠告を聞いても顔色を変えず、ハイドリヒは気負った様子なく武器を構える

「確かに強そうだ。まあ‥‥」

「さっきからごちゃごちゃ煩い」

痺れを切らした少女はハイドリヒの言葉を遮り駆ける


「せっかちだな、おい。せめて名乗らせろよ。ギルド 黒猫の影所属 ランクA ハイドリヒ・シュメールだ」

「よろしく」

†††

数多くある魔法の一つに空間魔法というものがある。空間を圧縮し拡大し、物理的な距離をも無視して空間を繋げ移動する事が出来る。デタラメな魔法だ

新たに別の世界をも創りえる可能性があるという、一歩間違えれば神の領域に足を踏み込みかねないこの魔法を使えたのは、たった1人
今は亡き魔王だけだ。
にも関わらず、アリスはこの魔法が使う事が出来た。それが何を意味しているのか。答えは青年の口から語られるまで分からない

ーーー
ーー


少女とハイドリヒが戦う少し前に時間を巻き戻す

「容態はどうですか」

アリスは空間魔法で森の入り口まで戻ると、そこからは凡そ人が出せるはずのない速力で町に戻りロギンというリーダー格の男が重症を負ったことを町医者に連れて行き容態を確認してもらっていた

「脚の火傷はそこまで酷くはない。右手も義手があるから良いにしても右目は諦めてもらうしかないかなぁ」

医者が苦々しく紡ぎ同意を求めるがアリスは肩を竦めるだけだ

「そうですか」

「確かに重傷だが。まあ重い部類では軽い方だ。気を落とさないでね。では」

医者が部屋を出て行き、僅かに重たい沈黙が流れる

「くそ‥‥なんて様だ」

ロギンは忌々しそうに毒づく

「良かったですね。命に大事はなさそうで、命乞いした甲斐があったじゃないですか」

なんとも嫌みたらしく、皮肉めいた言葉を投げかけてるんだとアリスは内心、苦笑いを零してしまう

「礼は言わんぞ」

「 そこまで悪態が付けるなら安心ですね 」

ロギンが睨むとアリスはどこ吹く風といった表情を見せる。それが気に入らないらしくロギンは露骨に舌打ちする

「なぜ、俺を助けた。見捨てる選択肢もあったはずだ」

「僕は事情を全く把握しきれていないんだ。無論あの少女からある程度聞いてはいますが、あの子も状況を理解してたとは言い難いですしね。だからお前が必要だった」

言葉をわざとらしく、一度区切る

「僕の魔法に相手の過去を覗くものがある。」

「見させてもらうよ。あの夜に何があったのかを」
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