勇者の後物語

波動砲

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皆の目にはヴェーラの頭が突然割れたようにしか見えなかった
いくら考えてもどうしてそんな事になるのか彼らには理解出来ない。分かるはずがない
嫌でも理解できてしまうのは、目の前の少女が得体のしれない力を持っているということだ

「ヴ、ヴェーら」

呆気に取られている暇など無かった。ジーナが矢継ぎ早に手を振るうと、レナードの横もとを何かが通り抜けた

「チッ、外れたか」

少女が直ぐに舌打ちを付くのと同時だった。凄まじい爆風が巻き起こり、レナードたちの後方にある家が幾つも粉々に吹き飛んでいった

「は?」

振り返り、間の抜けた声を漏らした誰かの反応は正常だ
後方は酷い有様だった。地面が幾つも抉られ様々な物が破壊され、ちゃぶ台でもひっくり返したみたいに、辺り全てがひっくり返っていた
村は只の一撃で見るも無残になってしまった

「精度が悪いな」

惨状を描いたジーナは別段誇る様子なく。むしろ今の攻撃は納得がいかないような声を出すだけだ

「なら、外しようがない攻撃をする事にしよう」

消えたと錯角する程の速度を持って眼前に立つと軽くお腹の部分を殴りつける

「死に晒せ」

またしても、爆ぜた

「あ‥‥」

レナードは仲間が死んだのを唖然とした様子で見る事しか出来ず、思わずへたり込む

「残りはお前だけだ。何か言い残す事は?」

 いつの間にか、レナード以外が死んでいた

「ひ、一つ聞きたい事が」

レナードは震える声で質問する

「お前は‥‥一体何なんだ!?」

目の前の出来事が白昼夢なのではないかと、疑り深くなってしまい頬を思わず抓ってしまうが、何も変わらない。変わるはずがない

「何‥か。そうだな」

レナードは人間と関わる機会があまりなかった。皆無と言っていい。だが、そんな彼でも一つだけ知っていることがある
人は『弱い』ということだ
だから、この目の前に立ちはだかる人間の少女から放たれる言葉はとても深くレナードに刻まれる事となる

「"最強"だよ」

最強という言葉と共にレナードの身体は爆炎に包まれて粉々に消え去った

ーーーー

男が木っ端微塵に消え去り焼け焦げた場所をジーナは静かに髪を揺らして佇んで見ていた

「‥‥イタタッ。やっぱり、身体がモタないな」

ポタポタとジーナの右手に浮かぶ無数の裂傷から血が滴り落ちる

「ま、いいか」

少しばかり大っぴらにはしゃぎすぎた結果だが、怪我を気にせず更に力を使う
ゴォ!空気が膨張し、散り散りに小さく破裂する音がすると地面に散らばった敵と仲間の全ての肉片が付着してた地面ごと抉り取られる様に消える

「全く‥‥私様の魔法は、扱い辛い事この上ないな」

ジーナが使っていた力は爆砕魔法と呼ばれる、爆裂魔法と爆発魔法を掛け合わせた複合魔法だった
魔力を爆発物に変換し爆破するという魔法だ
例えば、生き物に触れたら。その生き物の中にある魔力を爆発物に変換し内側から容易に爆裂させる事ができる
例えば、触れていなくても視認さえしていれば空気中に存在する魔力を爆発物として圧縮し解放する事で爆発させる事が出来る魔法だ
一見、強力無比に見えるこの力も爆裂魔法は近くで起こる爆風で術者に危害が及ぶし爆発魔法は目測を誤ると当たらないという欠点がある。他にも幾つか欠点があるがそこは割愛させてもらおう


「まあいいか」

ジーナの頭の中に既に誘拐というワードはない。自分の失態で部下が無残にも殺されたならば、頭目であるジーナがするべき事は決まっていた
明白だ。考えるまでもない。

「待って下さい姫」

ジーナが進める足は後ろから手を取られる事で無理やり止められる

「右手、怪我してますよ」

そんな切り詰めた彼女の後ろには、熊のような見かけとは裏腹に子を労わる母の様に声をかけるダズがいた
ダズだけではない。その後ろには屈強な男たちが何人も武器を持ち立ち並んでいたが全員の目がジーナの右手の怪我に集まっていた

「気にするな こんなのは」

バツの悪そうな顔でジーナはダズから右手を無理やり引き離し背中へ隠す

「嫁入り前の娘が!痕になったらどうするつもりですか!!」

力強く言い張るダズに後ろの男たちもこくこくと勢いよく首肯する。怪我を負った本人よりも周囲の方が慌てふためくというのは何とも可笑しな光景である

「そんな事はどうでもいい。モタついてると騒ぎを聞きつけた奴らが来るぞ」

「お前等はさっきの場所に戻り待機していろ。朝までに私様が戻らないなら引き上げろ」

村の入り口は森と接していて木々が立ち狭くなっている。少なくともこんな場所で乱戦になったら、全員を守りきれる自信がジーナにはなかった
だから、全員に戻る様に促すが誰も従う様子をみせない

「‥‥姫はどうするおつもりで?」

ダズの問いかけに躊躇いがいにジーナは言葉を紡ぐ

「お前も、クダンから話を聞いただろ」

「ええ」

村から血相を抱えて逃げたクダンは逃げたのではなかった。ジーナに助けを求めに向かっていたのだ

ジーナの元に無我夢中で着いたクダンは終始泣き喚きながら事情を話して、そして悔いていた。仲間を見捨ててしまった事を 、無力な自分の代わりに救ってくれと涙ながらに頼んできたのだ‥‥

だからジーナは誰よりも速く村へ駆けつけた
ジーナの力は強大だ。少なくとも、誰かを守り抜く位の力は有している。それでも部下をみすみす死なせてしまった

「私様のせいで‥リードが死んだ。キタンが死んだ。ギドもジャマルも‥‥」

今にも消えいる声で、涙を降らせ呟くジーナをダズは優しく抱きしめた

「抱え込まないで下さい」

思わずダズが泣きじゃくる子をあやす親に見えてくる場景だった

「いいんだ。後は、私様が1人で始末をつける」


「お前らが戦ったら、もっと大勢死ぬ。私様には耐えられない‥‥」

ダズの抱きしめてる腕に力が篭る

「それは自分がいくら傷ついても良いという事ですか?」

「だとしたら、ふざけないで下さい!!」

ダズの思いがけず強い言葉にジーナは驚く
ジーナには分からなかった。何故、身を案じた自分が叱咤されているのか
何故、そんな不安に満ちた目で自分のことを見てくるのかと本当に疑問で堪らなかった

「心配してるの?だとしたら杞憂だよ」

ああ、きっと泣き顏だから余計な心配や不安を煽ってしまったのだろう。そんな風にでも考えたのか、ジーナはでき得る限りの笑顔を作る

「私様は何たって‥‥」

「確かに姫は強いです。」

「だったら、なんで‥‥?」

普段とは違い少しおずおずと聞いてしまう

「けどね。どんなに強くても怪我をすれば血は流れますし、酷ければ死んでしまいます。どんなに強くても1人でやれることには限界があるんです」

ダズは懐からスカーフを取り出しジーナの右腕に包帯の要領で巻いていく

「ダズは何が言いたいの」

奥歯に物が挟まった言い方はジーナのお気には召さなかったらしいので少しだけダズは恥ずかしそうに笑う

「もう少し我々を頼ってください」

それを聞いたジーナは恥ずかしそうに視線を何処かへ逸らす

「ば、バカじゃないの。」

「ええ、バカですよ。自分たちはそういうバカが集まって出来た集団ですから」

「ちげぇねえ、ちげぇねえ」そう言って後ろの男たちもゲラゲラと笑っている

「笑うな!!あーもう知らんないんだから、あんたらみたいなバカなんて‥‥」

ほとほと救い用のないバカばかりで、ついジーナの目頭が熱くなる

「死んだらちゃんとお墓作って泣いてあげる。感謝しなさいよね」

その言葉を待っていた様にジーナの頭より大きなダスの手が頭を撫でる

「なら心置きなく戦えますね」

「ボス、敵が来た様ですぜ」

「ひい、ふう、みい、大量だなぁ。へっへっへ」

数えるのが面倒になる程の何十人もの炎角族たちが赤い洪水を織り出しながら怒りを隠す様子もなくこちらへ向かって来ていた
どう見積もっても、50以上はいる。だが、ジーナを除く男たちの顔に焦りは見られない

「人間共ぉ!あの子の元へは近づけさせんぞぉ!!」

1人が爪をギラつかせて、1番近いジーナへと目を着けたのか向かってくる

「はいはい、雑魚の皆さんは俺らが相手をしてあげますんで」

だが、その鬼をダスの後方にいた男の1人が素早く立ち回り一刀で両断してみせる

「あいつ見せ場作りやがった!俺らも負けてらんねえぞ!」

仲間を1人斬られた彼らには充分すぎる程の油だった
髪の色以上に顔は真っ赤になり、髪は怒髪天を衝いている

「誰が雑魚だ!舐めんじゃねえぞ!」

合わせれば百名近い数の炎角族と人間が一斉にぶつかり合い殺し合いへ身を投じた

「さあ、姫。自分たちは村へ行きましょう」

「い、いや待て。こいつらだけで戦わせるのは」

そんな騒乱の中でジーナは戸惑っていた。自分も此処で戦うべきじゃないのかと

「大丈夫です。今のを見たでしょう。少しは彼らを信用してあげてください」

「でもだな!」

それでも動かないジーナの手を引くダズ

「リードたちを殺した奴は村に居るはずです」

「行きましょう」

「‥‥分かった」

ジーナは渋々ながら頷く。
囂しい人の海をすり抜ける為に村の側面から立ち入ると打って変わって火が消えた様な静けさが場を支配していた
靉靆とした表情のジーナの小さな肩に無言でダズの手が置かれる

「姫。大丈夫ですか」

「ああ、平気だよ」

ーーー

いつの間にか、村の中心部まで足を進めていたらしく、ジーナは気を取り直し視線鋭く噴水に腰掛けてる人物を睨みつける

「あの子は平気かな。心配だ」

睨みつけられている当の本人は呑気に男性と話をしていた

「心配性ですね 呉葉さんは。大丈夫です。僕らの娘ですから」

「何だかこそばゆいな。けど娘と同じ位の子を手に掛ける事になるとは。心が痛むよ」

自身の右手で呉葉は目元を抑えながら大きく溜息をつく。どうやら、その言葉に嘘は含まれていない様だがジーナには別段どうでも良い事だ。大切なのはそんな事ではない

「私様の仲間を殺したのはお前だな?」

拳を握り締める

「‥‥だとしたら?」

呉葉は静かに言葉を洩らすだけだ

「殺す」

動き出すジーナを前に呉葉の片手から真っ黒な炎が溢れ始める

「鬼火 弓 」

黒い炎が弓を形どり、数発の矢を放つ

「ふん」

ダズがすかさず、地面に手を付けるとぐにゃりと生き物が胎動する様に震え、隆起し無数の障害物を造る

「そんな薄い盾で防げるとでも?」

呉葉の言葉通り、矢は土塊の壁を幾つも破壊しながら突き進んでくる

「防ぐ事が目的じゃないんだよ!!」

突然、真横から声が聞こえた。呉葉が目をやるとジーナが大きく振りかぶり目と鼻の先まで迫っていた
呉葉はそれを認識しても避ける素振りすら見せない

ガントレットが振るわれた瞬間、周囲の魔力が爆発物に変換され辺りを引き裂く爆発を引き起こした
妙な手応えをジーナは感じたが、それでも今の攻撃が決まった事に笑みを作るがその笑みは直ぐに掻き消される

「あれは目くらましか。今のは中々に肝が冷えた」

籠手の先端が急激に熱を持ち始め、危険を感じ後ろに距離を取るジーナ。煙から現れた呉葉の額にはじんわりと血が浮かんでいる。無傷ではないが今の攻撃に対してダメージが釣り合っていなさすぎる
防御されたのは明白だ。ジーナは思わず小さな舌打ちを打つ

「驚いた。最近の子はその様な危険極まりない魔法を会得しているものなのか?」

対象的に何処と無く相手を賞賛する口調で話す呉葉は爆風で壊れた噴水に構わず腰掛けている

「私様が特別なだけだ」

「そ。」

「お前も強いな。私様の初撃を防いだ奴は初めてだ」

「これでもアタシはかつては"四鬼"の1人に数えられていたからな」

「四鬼!炎角族の英雄か!」


「だからどうしたぁ!人間様を舐めんじゃねえぞ!」


距離がある事で呉葉は油断している。ジーナにはわざわざ相手に触れずとも攻撃出来る手段がある事を知らないからだ

「弾けろ、クソッタレ!」

ジーナは視認するだけで魔力を爆発物に変換出来る
初見でこの技を回避するには予知か並外れた直感を持っている者でなければまず無理だろう

「おわッ!?」

だが発動した威力は余りにお粗末な物だった。呉葉の座ってる空間を丸ごと爆発させるつもりが、顔近くで小さくパチンと弾けた程度だ

「お~!ビックリビックリ。今のも君が?」

ダメージを負った様子は見受けられない。ちょっと面を食らったのが精々であろう

「君の魔法。魔力を爆発させてるんだね」

「‥‥敵に自分の魔法の事をペラペラと話す訳がないだろうが」

忌々しそうにジーナは睨みつける

「だとしたらアタシとの相性は最悪だな」


「まず君の魔法が魔力を爆発物に変える前提で話を進めよう」

「例えばこの場に10の魔力が有ったと仮定して君が魔力を爆弾に変換させた時にはいくらできる?そのまま10なわけがない。無意識に制限を課してるな。10使ってるのに2か3程度が限界じゃないか?」

「いや、限界じゃ正しくないな。限度という言い方が正しいか。なんにせよ互換する魔力の量が上がれば、それだけ威力が増し君を傷つける」

呉葉はジーナの手の方へ視線を移し指差す

「今は手の裂傷と火傷程度で済んでいるみたいだけど、それじゃ済まなくなる」

「加えて致命的なのは相性も悪い。アタシの炎は燃焼する為に宙に存在する魔力を取り込み続けることで永続する。そして恐らく君が魔力を互換するより早くな」

「この特性は君の天敵と言っても良い。現に視覚で攻撃する方法はもう使えないし、さっきみたいに接触して攻撃する場合も威力は減退する」

たった二撃でここまで自分の魔法を敵に看破された事はジーナには初めての経験だった

「いい忘れていたがオマケに時間制限つきだ。アタシの炎は5~6分もあればこの村の大気中の魔力を全部燃焼させられる。君が魔法を使えば更に早くなる」

「このような条件下で果たして、一体どの程度の勝ちの目があると思う?」

呉葉の言葉はどれもこれも正しい。勝ちの目などない

「なんだ。お優しいな。有難い解釈を聞かせてくれてどーも。お礼に私様からの忠告を一つくれてやる」

「何かな?」

ジーナは血に濡れた手でわしゃわしゃと髪を乱す。そしてたっぷりと時間をかけて

 「敵と対峙している時にべらべらと喋るな」

「そんなんだから、お前は私様たちに負けるのさ。マヌケ」

次の瞬間、村の中心一帯が大きく陥没した
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