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龍王と狐の来訪者
16話目 覚・醒
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チカチカと瞼の隙間から射し込んでくる日の光に耐えられず意識が覚醒する。
目を開けると先ずどこか既視感のある壁が目に入った。此処は何処かと少し頭を働かせる。
どうやら俺は召喚された魔法陣の真ん中で猫の様に身体を丸めて寝ていたらしい。
「《生きてる》」
重い頭を徐にもたげて、何故か無意識にそんな言葉を吐き出してしまった。
理由を考えてみると、昨日の出来事がまるで走馬灯の様に一瞬でフラッシュバックして駆け巡っていく(この間0.01秒)
ふむ……後半になればなるほど虫食いのように記憶は断片的になっていくが、さしたる問題はないようだ。記憶が定かではないから断言は出来ないが、どうにも緑鬼との命を掛けた死闘が原因であるらしい。
でも戦ってる時が無我夢中で記憶が無いというなら納得も出来るが、イルイちゃんと別れた後の城に帰っている辺りからの記憶が混濁するとは、まったく、わけがわからないよ。
「《感謝します。主よ》」
生きていられた事にアガペーを感じたので、思わず指で十字を切って神に感謝する。どこぞのドイツの哲学者が神は死んだと言っていたような気がするが、いや言ってなかったか。どっちだ?
まあ、あれだ。神様が生きてようが死んでようが、俺の感謝する気持ちは変わらないのだ。
「《にしても寒いな》」
昨日は平気だったのだが、身体を冷やし過ぎてしまったのだろう。でもそれも当然だ。
だってよくよく考えなくても、俺って龍の姿とはいえ全裸だもの。おいおいとんだ丸出し公然わいせつ野郎だ。
「おはよう、 偉大なる龍王様。平気そうだね?」
挨拶された方に目を向けると、部屋の隅に昨日は見かけなかった円卓が用意されていて、彼女はその円卓に頬杖をつきながら俺に手を軽く振っている。
これが平気そうに見えるのか。一大事だぞ、助けてくれ
「《スラマッパギー。素っ裸だけにね。HAHAつまんねー……にしても姫は随分と早起きなんだな》」
体内時間的に今はまだ朝の5時かそこらだ。
まあ返事をした所で通じる訳では無いのだけれど
姫はどこか満足気に円卓に置かれた可愛らしいコップに手を伸ばし(匂いから察するに恐らく)珈琲に口を付けながら、空いてる手で俺の右手の方を指差し注意を促した
「 うっかり踏み潰さないでね」
指差す方に視線が自然と誘導され、俺の右手へと向けられる。正確には右手に寄りかかるものに対してだ。
その正体は、独特な紋様を入れた狐の面を被って、赤みを帯びた黄褐色と獣耳が特徴的な少女であった。彼女は俺の右手に寄りかかって、可愛らしくスヤスヤと寝息を立てているではありませんか……。
あああああ!まずい。俺には心に決めた決めた好きな人がいるってのに。これが。これが朝チュンってやつなのか!れれれ冷静になれ。よく見ると服装に乱れはない。つまり何もなかったのだ。焦らせやがって!添い寝なんてえっちすぎるだろ!そもそもそんないかがわしい行為は神も俺も赦さん!男女が寝食を共にするなんて人生のゴールといっても過言ではない!つまりその先なんて無いんだよ!これ以上この話はやめよう。誰も幸せにならない(この間、0.015秒)
「《俺の寝相が悪かったら死んでるとこだぞ》」
思わず怒鳴りたくなってしまったが寝ている子を無理やり起こして叱るのもどうかと思うので、ぐっと我慢して言葉を呑み込む
「《っていうか誰!この子は!》」
俺がしきりに狐面の少女を指差しながら口を動かすのを見て、言葉は通じなくても意図は伝わったよと言わんばかりにゆっくりと手で制した。さすがボディランゲージ
「いえ、それは供物ではありません」
やっぱり伝わってなかった。
「《……ということは悪口言っても分からないのか》」
「《この貧new「もういっかい同じ台詞を言ってみて?」
「《調子乗りました。すみません。命だけは勘弁してください。》」
姫の視線がすっと細まると、背筋に走る寒気が更に酷くなった気がした。見に覚えがない体験なのに、どこか既視感を覚えたのはどういう訳だ。これが蛇に睨まれた蛙の気持ちか。
「その方は私たちが今いるアナシスタイル大陸のすぐ上。ティムール大陸において最大の国バルドラで"巫女"を務めている方なのよ。始祖天狐の眷属でもあり神通力、と呼ばれる力を行使出来るらしいわ」
神通力とはなんぞ?魔法なのか?判断材料が無いからまるで分からん。ついでに魔導師とか始祖ってのも何なのか。是非とも教えて欲しいものですね
「《へえ。で、どうして他所の大陸の巫女様がこんな所にいるのかね。》」
聞いてなんだが、もしかしてこの子を誘拐したんじゃないのだろうか。奴隷に誘拐。一体どこまで突き進む気なのかこの女は。
「偉大なる龍王様の件で天狐には色々と力を貸して貰いました。その見返りに、昨日は彼処で会うように指定されていました。それがこの子です。」
「偉大なる龍王様が随分と遅く帰ってくるから、寝ちゃいましたけどね」
姫の責めるような口ぶりに思わず政治家っぽい言い訳になってしまうが、そんな事を言われても記憶にございませんの事よ。
「お留守番も出来ないなんて、本当に反省してます?次は無いですよ?」
「《ごめんなさい……》」
とりあえず此方の立場が悪い時は平謝りでとにかく謝り倒す。それが俺たち日本人に代々染み付いた変えられない流儀らしい。人は一回死んだくらいではどうにもこうにも変わらないのだと改めて思い知った
あとがき
ちょっとした補足
ティムール大陸とアナシスタイル大陸は、他大陸より距離感が比較的近いので双子大陸と呼称される場合がある
目を開けると先ずどこか既視感のある壁が目に入った。此処は何処かと少し頭を働かせる。
どうやら俺は召喚された魔法陣の真ん中で猫の様に身体を丸めて寝ていたらしい。
「《生きてる》」
重い頭を徐にもたげて、何故か無意識にそんな言葉を吐き出してしまった。
理由を考えてみると、昨日の出来事がまるで走馬灯の様に一瞬でフラッシュバックして駆け巡っていく(この間0.01秒)
ふむ……後半になればなるほど虫食いのように記憶は断片的になっていくが、さしたる問題はないようだ。記憶が定かではないから断言は出来ないが、どうにも緑鬼との命を掛けた死闘が原因であるらしい。
でも戦ってる時が無我夢中で記憶が無いというなら納得も出来るが、イルイちゃんと別れた後の城に帰っている辺りからの記憶が混濁するとは、まったく、わけがわからないよ。
「《感謝します。主よ》」
生きていられた事にアガペーを感じたので、思わず指で十字を切って神に感謝する。どこぞのドイツの哲学者が神は死んだと言っていたような気がするが、いや言ってなかったか。どっちだ?
まあ、あれだ。神様が生きてようが死んでようが、俺の感謝する気持ちは変わらないのだ。
「《にしても寒いな》」
昨日は平気だったのだが、身体を冷やし過ぎてしまったのだろう。でもそれも当然だ。
だってよくよく考えなくても、俺って龍の姿とはいえ全裸だもの。おいおいとんだ丸出し公然わいせつ野郎だ。
「おはよう、 偉大なる龍王様。平気そうだね?」
挨拶された方に目を向けると、部屋の隅に昨日は見かけなかった円卓が用意されていて、彼女はその円卓に頬杖をつきながら俺に手を軽く振っている。
これが平気そうに見えるのか。一大事だぞ、助けてくれ
「《スラマッパギー。素っ裸だけにね。HAHAつまんねー……にしても姫は随分と早起きなんだな》」
体内時間的に今はまだ朝の5時かそこらだ。
まあ返事をした所で通じる訳では無いのだけれど
姫はどこか満足気に円卓に置かれた可愛らしいコップに手を伸ばし(匂いから察するに恐らく)珈琲に口を付けながら、空いてる手で俺の右手の方を指差し注意を促した
「 うっかり踏み潰さないでね」
指差す方に視線が自然と誘導され、俺の右手へと向けられる。正確には右手に寄りかかるものに対してだ。
その正体は、独特な紋様を入れた狐の面を被って、赤みを帯びた黄褐色と獣耳が特徴的な少女であった。彼女は俺の右手に寄りかかって、可愛らしくスヤスヤと寝息を立てているではありませんか……。
あああああ!まずい。俺には心に決めた決めた好きな人がいるってのに。これが。これが朝チュンってやつなのか!れれれ冷静になれ。よく見ると服装に乱れはない。つまり何もなかったのだ。焦らせやがって!添い寝なんてえっちすぎるだろ!そもそもそんないかがわしい行為は神も俺も赦さん!男女が寝食を共にするなんて人生のゴールといっても過言ではない!つまりその先なんて無いんだよ!これ以上この話はやめよう。誰も幸せにならない(この間、0.015秒)
「《俺の寝相が悪かったら死んでるとこだぞ》」
思わず怒鳴りたくなってしまったが寝ている子を無理やり起こして叱るのもどうかと思うので、ぐっと我慢して言葉を呑み込む
「《っていうか誰!この子は!》」
俺がしきりに狐面の少女を指差しながら口を動かすのを見て、言葉は通じなくても意図は伝わったよと言わんばかりにゆっくりと手で制した。さすがボディランゲージ
「いえ、それは供物ではありません」
やっぱり伝わってなかった。
「《……ということは悪口言っても分からないのか》」
「《この貧new「もういっかい同じ台詞を言ってみて?」
「《調子乗りました。すみません。命だけは勘弁してください。》」
姫の視線がすっと細まると、背筋に走る寒気が更に酷くなった気がした。見に覚えがない体験なのに、どこか既視感を覚えたのはどういう訳だ。これが蛇に睨まれた蛙の気持ちか。
「その方は私たちが今いるアナシスタイル大陸のすぐ上。ティムール大陸において最大の国バルドラで"巫女"を務めている方なのよ。始祖天狐の眷属でもあり神通力、と呼ばれる力を行使出来るらしいわ」
神通力とはなんぞ?魔法なのか?判断材料が無いからまるで分からん。ついでに魔導師とか始祖ってのも何なのか。是非とも教えて欲しいものですね
「《へえ。で、どうして他所の大陸の巫女様がこんな所にいるのかね。》」
聞いてなんだが、もしかしてこの子を誘拐したんじゃないのだろうか。奴隷に誘拐。一体どこまで突き進む気なのかこの女は。
「偉大なる龍王様の件で天狐には色々と力を貸して貰いました。その見返りに、昨日は彼処で会うように指定されていました。それがこの子です。」
「偉大なる龍王様が随分と遅く帰ってくるから、寝ちゃいましたけどね」
姫の責めるような口ぶりに思わず政治家っぽい言い訳になってしまうが、そんな事を言われても記憶にございませんの事よ。
「お留守番も出来ないなんて、本当に反省してます?次は無いですよ?」
「《ごめんなさい……》」
とりあえず此方の立場が悪い時は平謝りでとにかく謝り倒す。それが俺たち日本人に代々染み付いた変えられない流儀らしい。人は一回死んだくらいではどうにもこうにも変わらないのだと改めて思い知った
あとがき
ちょっとした補足
ティムール大陸とアナシスタイル大陸は、他大陸より距離感が比較的近いので双子大陸と呼称される場合がある
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