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龍王と狐の来訪者
19話目 blood spot
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ーーー???sideーーー
海洋大陸エルガルム。数百の島から成るその大陸の一端。エテッレという今は地図から姿を消した小さな島が私の故郷だ。
その原因を作った恐るべき怪物がいた。名前はネメイア。そいつは数千数万の群れが一つの個となって動く群体型の怪物で、ネメイアが通った場所は文字通り草木の一本すら残らず食い尽くされる事から大喰らいなんて通り名と共にこの辺りでは広く知られていた。
そんな途轍もない怪物が数分だけ嵐の様に島を縦断した。私はその日、タイミング良く父が半ば無理矢理漁を見せるために外に連れ出されていた。そしてタイミング悪く目の前で自分の故郷が怪物にものの数分で丸ごと更地にされていく地獄を目の当たりした。
人間が歩くときに地べたの蟻の群れに気が付かず踏んづけてしまう。それと同じことが起きていた。偶々動いた先にエテッレという島があった。言ってしまえばそれだけだ。
たったそれだけでエテッレの実に6割が被害に遭い、それに巻き込まれる形で島民の8割が行方不明になった。その中には家で帰りを待っていた私の母と3歳になったばかりの弟も含まれていた。
巻き込まれた人は全員死んだって?それは分からない。だって誰の死体も残ってなかったんだから。
でも暫くしてから事件以降に気が触れてしまった父が自殺した。結果的に私は家族をみんな失った。怪物のせいで。
身寄りもない子供でも問題無く生きていけるほど優しい世界ではない。生きていく為には働く必要がある。そしてそれは誰もやりたがらない汚れ仕事しかなかった。
『なんだ このクソガキ。いきなりナイフなんか出してきやがったぞ。』
『おーこわいこわい。殺し屋でちゅかー?
俺をブレイファミリーの若頭と知って刃物向けてるんだろうな?冗談でしたは通用しねえぞ ガキ』
『フゥー…フゥー…』
こっちはナイフを持っていても力の弱い子供で、相手は人間よりも力の強い成体の化け物が7人。どう見ても勝ち目なんてなかった。
『7対1は流石に見苦しい光景だな』
『あん?なんだおまえは。いきなりシャシャってんじゃねーぞ』
私と同じ人間の女がいた。あいつらと比べても腕も脚も全然細くて身体も小柄だ。だというのにそんな彼女は誰よりも強く見えた
『私? あー……うん。正義の味方』
『セイギ……』
そこから先の事は鮮烈に覚えている。だから私もこんなふうになりたいと憧れた。
────現在
「ヒィ……ヒィ」
連日連夜歩かされ限界なのです。どうしてこんな生き地獄を味わわされているのですか
も、もしや、この間の保管庫にあった師匠の大好物。コルピールアクとかいうあのクソまずい飲み物の粉末を間違って全部捨ててしまった事を根に持って……
いやいや仮にそうだとしても愛弟子に対して余りにも酷え仕打ちなのです。虐待です。ネグレクトです。もう許さねえのです
「師匠。足痛いです!疲れたです!桐壺は休みたいです!」
そう言って、私は自身の師匠である 空蝉 篝火 の背中にグールの様にへばり付いて叫ぶが、当の師匠は特に気にする様子もないまま私を引きずったまま歩き続ける。
「師匠!師匠ってば!無視です?無視なんです!?」
それが気に食わず、一段と大きく叫んだことで、足こそ止めないが漸く師匠は鬱陶しそうに、思わず女性と見間違えてしまうほどに綺麗な顔を不快そうに歪めて此方を見下ろしながら冷たい視線を送ってきた
「うるさいぞ。桐」
開口一番に注意してきたが私は知っている。この師匠、弟子にかなり甘い。ごね続けたら次に通りかかった街で休んでくれるはずという打算に応えてくれるはず
「……師匠。足痛いです。桐壺はもう一歩も歩けねえですよ」
「そうか。じゃあ先に目的地に行くけど、後から追い付いてこいよな」
望んだ答えより斜め上の答えが返ってきたのです。しかし、口では冷たく言ったにも関わらず、師匠は自分より少しだけ小さい私の身体を持ち上げて、背中におぶってきた。やはりこの師匠は弟子に激甘!!その調子です。
「師匠師匠!!可愛い貴方の弟子はあの街で甘味処を御所望ですよ!」
通りがかった街を指差すが、師匠はため息ついでに首を横に振る
「そんなことを言ってる余裕はない。当初の予定なら今日の夜には仕事の準備に取り掛かるべきなのに大分遅れてる。これ以上の遅れは下手をしたら仕事そのものに支障を来す」
師匠は非難がましい口ぶりでこちらをギロリと睨みつける。どうして私が責められるのですか?訳わからんのだけど、それはお門違いなのです。
「師匠。それは師匠が悪いのです。プロを名乗るのなら仕事のスケジュールは遅れないよう考えて行動するべきなのです。師匠の不手際を弟子の私にまで押し付けないで欲しいのです。分かったら早くあの街に寄って甘いのを食べに行くのですよ!」
ぐうの音も出ない私の完璧な正論に師匠のこめかみに青筋が薄っすらと立つ。いやいや、怒るななのです。大人気ないのです!
「ほお~~?誰かが頼まれてもいないのに行く先々で魔物の群れや魔獣を殺しに行かなければ、とっくに目的地についていたはずなんですがね~」
「そ、それは仕方ねえのです。通りかかった以上、悪は見過ごせねえのです」
私に与えられたこの力は悪を断罪する正義の力なのです。この世に悪が蔓延るのは、例え天が許しても、この私、空蝉 桐壺が許さねえのです!……許さねえのです!!
「正義ねー。前々から言おうとは思っていたが、桐は殺しの才能あるのに、殺し屋としての自覚が皆無だな。弟子の育て方間違えたかなー。自信無くすぜ」
「ふっふっふ。ヒーローとして寧ろ誇らしい部分だと思うのです!もっと褒めても、あで!」
師匠が魔法を使って煙の拳骨を飛ばしてくる。
「誰に似たんだか。呪具の影響か?いやでもなぁ……あいつはそんな事なかったような」
師匠はか細く何かを呟き、悩む様にこめかみを抑えている。
そしてパッと意を決したように顔を上げた
「我らに主義主張は無く、金を積まれれば善人だろうと悪人だろうと等しく殺す。でも仕事以外では殺しは絶対にしない。それが俺の細やかな誇りだ。先はまだ長い。とりあえず殺し屋の心得をじっくりと教えてあげよう」
「それは今はやめてなのです」
私のうんざりした様相を無視して、師匠は子供の教育上絶対に良くないであろう話をペラペラとし始めた。この話はかなり長いので、私に出来る抵抗は、徐々に離れていく街の甘味処に思いを馳せて現実逃避する事だけであった
海洋大陸エルガルム。数百の島から成るその大陸の一端。エテッレという今は地図から姿を消した小さな島が私の故郷だ。
その原因を作った恐るべき怪物がいた。名前はネメイア。そいつは数千数万の群れが一つの個となって動く群体型の怪物で、ネメイアが通った場所は文字通り草木の一本すら残らず食い尽くされる事から大喰らいなんて通り名と共にこの辺りでは広く知られていた。
そんな途轍もない怪物が数分だけ嵐の様に島を縦断した。私はその日、タイミング良く父が半ば無理矢理漁を見せるために外に連れ出されていた。そしてタイミング悪く目の前で自分の故郷が怪物にものの数分で丸ごと更地にされていく地獄を目の当たりした。
人間が歩くときに地べたの蟻の群れに気が付かず踏んづけてしまう。それと同じことが起きていた。偶々動いた先にエテッレという島があった。言ってしまえばそれだけだ。
たったそれだけでエテッレの実に6割が被害に遭い、それに巻き込まれる形で島民の8割が行方不明になった。その中には家で帰りを待っていた私の母と3歳になったばかりの弟も含まれていた。
巻き込まれた人は全員死んだって?それは分からない。だって誰の死体も残ってなかったんだから。
でも暫くしてから事件以降に気が触れてしまった父が自殺した。結果的に私は家族をみんな失った。怪物のせいで。
身寄りもない子供でも問題無く生きていけるほど優しい世界ではない。生きていく為には働く必要がある。そしてそれは誰もやりたがらない汚れ仕事しかなかった。
『なんだ このクソガキ。いきなりナイフなんか出してきやがったぞ。』
『おーこわいこわい。殺し屋でちゅかー?
俺をブレイファミリーの若頭と知って刃物向けてるんだろうな?冗談でしたは通用しねえぞ ガキ』
『フゥー…フゥー…』
こっちはナイフを持っていても力の弱い子供で、相手は人間よりも力の強い成体の化け物が7人。どう見ても勝ち目なんてなかった。
『7対1は流石に見苦しい光景だな』
『あん?なんだおまえは。いきなりシャシャってんじゃねーぞ』
私と同じ人間の女がいた。あいつらと比べても腕も脚も全然細くて身体も小柄だ。だというのにそんな彼女は誰よりも強く見えた
『私? あー……うん。正義の味方』
『セイギ……』
そこから先の事は鮮烈に覚えている。だから私もこんなふうになりたいと憧れた。
────現在
「ヒィ……ヒィ」
連日連夜歩かされ限界なのです。どうしてこんな生き地獄を味わわされているのですか
も、もしや、この間の保管庫にあった師匠の大好物。コルピールアクとかいうあのクソまずい飲み物の粉末を間違って全部捨ててしまった事を根に持って……
いやいや仮にそうだとしても愛弟子に対して余りにも酷え仕打ちなのです。虐待です。ネグレクトです。もう許さねえのです
「師匠。足痛いです!疲れたです!桐壺は休みたいです!」
そう言って、私は自身の師匠である 空蝉 篝火 の背中にグールの様にへばり付いて叫ぶが、当の師匠は特に気にする様子もないまま私を引きずったまま歩き続ける。
「師匠!師匠ってば!無視です?無視なんです!?」
それが気に食わず、一段と大きく叫んだことで、足こそ止めないが漸く師匠は鬱陶しそうに、思わず女性と見間違えてしまうほどに綺麗な顔を不快そうに歪めて此方を見下ろしながら冷たい視線を送ってきた
「うるさいぞ。桐」
開口一番に注意してきたが私は知っている。この師匠、弟子にかなり甘い。ごね続けたら次に通りかかった街で休んでくれるはずという打算に応えてくれるはず
「……師匠。足痛いです。桐壺はもう一歩も歩けねえですよ」
「そうか。じゃあ先に目的地に行くけど、後から追い付いてこいよな」
望んだ答えより斜め上の答えが返ってきたのです。しかし、口では冷たく言ったにも関わらず、師匠は自分より少しだけ小さい私の身体を持ち上げて、背中におぶってきた。やはりこの師匠は弟子に激甘!!その調子です。
「師匠師匠!!可愛い貴方の弟子はあの街で甘味処を御所望ですよ!」
通りがかった街を指差すが、師匠はため息ついでに首を横に振る
「そんなことを言ってる余裕はない。当初の予定なら今日の夜には仕事の準備に取り掛かるべきなのに大分遅れてる。これ以上の遅れは下手をしたら仕事そのものに支障を来す」
師匠は非難がましい口ぶりでこちらをギロリと睨みつける。どうして私が責められるのですか?訳わからんのだけど、それはお門違いなのです。
「師匠。それは師匠が悪いのです。プロを名乗るのなら仕事のスケジュールは遅れないよう考えて行動するべきなのです。師匠の不手際を弟子の私にまで押し付けないで欲しいのです。分かったら早くあの街に寄って甘いのを食べに行くのですよ!」
ぐうの音も出ない私の完璧な正論に師匠のこめかみに青筋が薄っすらと立つ。いやいや、怒るななのです。大人気ないのです!
「ほお~~?誰かが頼まれてもいないのに行く先々で魔物の群れや魔獣を殺しに行かなければ、とっくに目的地についていたはずなんですがね~」
「そ、それは仕方ねえのです。通りかかった以上、悪は見過ごせねえのです」
私に与えられたこの力は悪を断罪する正義の力なのです。この世に悪が蔓延るのは、例え天が許しても、この私、空蝉 桐壺が許さねえのです!……許さねえのです!!
「正義ねー。前々から言おうとは思っていたが、桐は殺しの才能あるのに、殺し屋としての自覚が皆無だな。弟子の育て方間違えたかなー。自信無くすぜ」
「ふっふっふ。ヒーローとして寧ろ誇らしい部分だと思うのです!もっと褒めても、あで!」
師匠が魔法を使って煙の拳骨を飛ばしてくる。
「誰に似たんだか。呪具の影響か?いやでもなぁ……あいつはそんな事なかったような」
師匠はか細く何かを呟き、悩む様にこめかみを抑えている。
そしてパッと意を決したように顔を上げた
「我らに主義主張は無く、金を積まれれば善人だろうと悪人だろうと等しく殺す。でも仕事以外では殺しは絶対にしない。それが俺の細やかな誇りだ。先はまだ長い。とりあえず殺し屋の心得をじっくりと教えてあげよう」
「それは今はやめてなのです」
私のうんざりした様相を無視して、師匠は子供の教育上絶対に良くないであろう話をペラペラとし始めた。この話はかなり長いので、私に出来る抵抗は、徐々に離れていく街の甘味処に思いを馳せて現実逃避する事だけであった
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