龍王転生〜転生したら魔導師ってのに出待ちされてた件について〜

波動砲

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龍王と狐の来訪者

23話目 危険な生存戦略

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部屋の酸素が薄いし狭い。重戦車の如く鋼の筋肉を搭載した老人の屈強な巨体から発せられる圧で部屋が更に狭く感じさせている。彼の僅かな吐息一つ、身動ぎ一つで、一々肌がピリつく。

だからこそ俄かには信じられない。こんなに強くても遅れを取ってしまうとは。だとするとどれだけ空蝉は強いのだろう。そんな敵とこれから先、対峙する事になると考えるだけで恐怖で脳と足が震えてしまう。死に戻りは出来ないので生きるためにお家に帰りたい。これぞ生き帰り。なんちゃって。


「何を話すにしても、先ずは先ほどの此奴の非礼から詫びよう。本当にすまんな」


老人は姫と俺の姿をしっかりと瞳に収めて、それからゆっくり深々と頭を下げて謝罪した。
王と云われる存在は民主主義の国で生きてきた俺には余り馴染みがない。そんな俺の偏見と独断によるイメージでは、王とは国の支配者であり独裁者であり象徴だ。


仮にこの国が絶対王政を敷いている場合、全てにおいて王の権威と主張があらゆる物事より優先されてしまうことだろう。どんな無理難題も通るし、誰も異を唱えられない。人が絶対の権力を持ってみろ。多分自分を絶対の存在と増長し、傲岸不遜になる。そして他者を軽んじる価値観を持つんじゃないだろうか。


にも関わらず、素性も名前も知らない相手に頭を下げるという、この事から考えるに彼はきっと自身の立場や他者の立場に対してあまり頓着しない性質なのだろう
切れ目の獣人の青年も玉藻ちゃんも動揺せず、その行動を諫めもしないのは、こうすると云うのを予見していたからなのかもしれない。


玉藻ちゃんが死なせたくないと思う気持ちもほんの少しだけ分かった気がする。まあ、それで俺が命を掛けるのかは別問題なんですけどね。2回も死にたくないし。


「これで終いじゃ!先ず本題に入る前に自己紹介から済ませるぞ」


玉藻ちゃんがこの空気に耐えられなくなったのだろう。テーブルをバンバンと叩き会話の舵を取り始めた。


「ほれ、先ずは主らからじゃ!」


玉藻ちゃんがビシッ!と思わず効果音が付きそうな勢いで老人を指名する。


「ヌハハハ。知っておる者も多いと思うが、儂の名は項・ブリュンヒルデル・ジアハド・遠という」


……ブリブリデル痔炎……違う。ええっと……名前言い間違えたら絶対不敬罪に該当するはずだ。その場合軽めに見積もっても禁固刑千年くらいでもおかしくない……事実上の死刑宣告。絶対間違えられない。
もうこのお方に話しかける時は感動詞を用いるしかないみたいだな……王様に対してヤバいですねっ!


「玉巫女の朋友であるなら儂のことも項遠と気安く呼んでくれて構わぬぞ。」


項遠……王は少年のようにニカリと屈託ない笑みを浮かべ、そのまま振り返らずに、後ろに控えている切れ目の青年に指を向ける。


「此奴は王族特務親衛隊の清・メイデール・モルド・正じゃ」


「清正と呼ぶと良いぞ」


清正さんは面白くなさそうにしながらも、此方に軽く会釈をする。ふむふむ。この国ではファーストネームとラストネームをくっ付けて相手を呼ぶのね。出欠取る時にフルネームで呼ぶのは大変そう。


「で、此方は、わしの友人で白雪ひ‥‥ハッ!」


玉藻ちゃんは何かに気付いたのか、一旦自分の口を押さえて姫の方を覗き見た


「どうした、玉巫女」


俺と項遠王は意図が読めずに同時に首を傾げた。


「いや、そのじゃな……」


「別に構いません。名前を偽るつもりも必要も無いですから。私だけならともかく、此処には龍王様がいることですし」


俺がいるからなんだというのか。個でいくら強くても戦いになればいくらなんでも多勢に無勢。戦いは数なんだよ、兄貴!


「魔導教会トラオムで魔導師をやっておる白雪姫殿。こちらは使い魔であるアーカーシャ殿じゃ」


一瞬だけ2人の目の色が変わった。項遠王はともかく後ろの清正さんのは好ましくないな。これは明確な敵意だ。
この反応を見るに、もしかして、姫の所属する教会とやらとこの国でわだかまりでもあるのだろうか。


「なんじゃ。主は魔導教会の者か。教会を管轄する四賢人共とこの国が長年敵対していることを知らぬわけではあるまい。立場的に儂に協力して良いのか?」


組織同士の対立なら、この行動は確かに利敵行為にあたる。だが姫は素知らぬ顔で告げる。


「ヤハネス島とマヨナカ島の魔迷宮ダンジョン所有権を巡っての代理戦争のことを言っているのですか?下らない利権闘争なんて知った事ではないですね。」


ダンジョンか。ファンタジー世界には欠かせない要素の一つではあるな。是非一度は入ってみたいものである。金銀財宝を得て目指せ億万長者。ダンジョンにそんな夢を求めるのは間違っているだろうか?


「ふぅむ、儂としては主が問題なければ良いがの」


項遠王は納得したのか、それ以上何も言わなかったが、彼以上にその瞬間に大きく反応を示したのは清正さんの方であった。目を大きく見開いて、突然ズカズカと近づいて来ていきなり姫の胸ぐらを掴もうとしてきたので俺が阻んで組み伏せる。なになに、なんなの!


「おまえ……あの時のっ!」


「《姫に触りたいなら、握手券買ってきてもらってからでいいですか。前売り券は……》」


「このっ、使い魔風情が離せよ!
白雪姫……お前があの"ミリオンフロスト"だって言うのなら」  


「てめえに聞きたいことがあるっ!」


それは姫の二つ名だろうか。だがその言葉は明らかに姫にとっての地雷だったのだろう。姫の表情こそ変わらなかったが、瞳には憤激の色が浮かんでいたからだ。


「答えられるものでしたら」


グツグツとマグマのように煮えたぎった感情に無理やり蓋をしたその単的な一言の反応で、姫に取ってその言葉がどれだけ不愉快だったのか、事情を知らなくても察するには余りあったが、清正さんはあえてソレを無視したようだった。強い。主にメンタル的な意味で。


「数年前だ。コルマールという小さな町で住民たちの昏睡事件が多発したのを覚えているだろう。犯人はバクウと呼ばれる夢を食べる希少種の魔獣が引き起こしていたはずだ。」


「……ありましたね。そういう事も」


魔獣?魔物とは違うって認識でおk?
短く思索して、直ぐに姫は答えたが、次に何か嫌な事を思い出したかのように額に小さく皺を刻んでいた。


「その時に調査に来たのが3人の魔導師だ。お前。デカいプラチナベアーに乗っていた奴。そして薄気味の悪い仮面をつけてた魔導師だ」


「後にしろ。それは今の件と関係ないじゃろ」


玉藻ちゃんが諌めるが、清正さんは止まらなかった


「あの仮面の魔導師は今どこにいる!?」


「知らない。」


姫は間髪入れずに答えた。それは全く取りつく島もない程に答えに対する明確な拒否であったが、清正さんは目を血走らせ、冷静にそれを受け止めきれなかった様だった。
俺に組み伏せられてるというのに、無理やり動こうとしたのだ。打撃系など花拳繍腿、関節技こそ王者の技と謳われるサブミッションを綺麗に決められて力技で抜けるはずがない。


清正さんが力任せにもがくものだから、肩周りからギシギシ骨が軋む異音がし始め、それでも構わず動こうとする。骨を折りそうになり、怖気付いて咄嗟に手を離してしまった。


「雪姫えええ!!」


抜け出した清正が剣を即座に抜いて姫に向かっていき、その首めがけて躊躇なく振るってきた。直後に俺の目に何かの映像が入る。


鮮血が辺りに飛び散る。が、振るわれた黒剣は姫の喉元を食い破ることなくスレスレで止まっていた。正確には止められていた。項遠王の無骨で巨大な手が血を吹き出しながらも抜き身の剣先を潰さん限りに握りしめて阻んでいたからだ。


「こ、項遠様!?う‥‥ああ!すみません!王の身にお怪我をさせるつもりは‥‥‥!」


清正は先ほどまでの強気な表情が嘘の様に消えて無くなり、力無く震える手を剣から離して、親を探す子供のようにオロオロと狼狽えて、最後には力なくへたり込んだ。


「し、止血じゃ!止血じゃーー!」


叫び声を上げながら玉藻ちゃんがどこからか、包帯やら傷薬やらを抱えきれないほどに持ってきていたが、項遠王は笑い飛ばしながら手を振って断る。


「構うな。此れ位は擦り傷じゃろう。放っといても勝手に塞がる」


「じゃかぁしい!ばい菌入ったらどうすんじゃ!格好付けてる暇あったら手を出さんか。わしが勝手に治療したるわ!」


消毒液やら傷薬やらを傷口にこれでもかと塗りたくり、包帯でぐるぐると巻くが、いやはや、そこまでの怪我じゃなかったろう。


「清正ぁぁ……1度しか言わぬぞ。今すぐわしの前から消えろ。でないと今すぐに手打ちにしてしまいそうじゃ」


「ぐぅ‥‥‥は、い」


玉藻ちゃんが面の奥からでも分かるほどに、鋭くギロリと睨みつけて冷たく言い放つと、目に涙を浮かべながら、清正はとぼとぼと項垂れて部屋から力無く退出する。部屋の外から嗚咽が漏れてきて、いたたまれない気持ちになるのはどうしてだろう。


「キツく言い過ぎじゃろ」


「バカを申せ。どんな理由があれ、わしの客人に剣を振るい、あまつさえ王であるお主の御身に傷を負わせた。特に後者は華琳がこの場に居合わせてたら、問答無用で八つ裂きにされておる所じゃぞ。」


項遠王には悪いが、止めてくれて助かった。恐らく、あのまま止めなければ死んでいただろう。姫ではなく、清正さんの方が。憶測でものを言っているのではない。
俺は確かに見たのだ。黒剣が姫の首を刎ねて、その瞬間に姫の身体が脆い氷細工みたいに砕けて、砕けた氷が清正さんの全身を刺し貫く。そして、数秒後には姫が何事も無かったかのように腰掛けて話を続けようとする────。

そんなビジョンが、まるで現実と誤認してしまう程に俺の網膜には鮮明に再生されていたからだ。


「《‥‥‥》」


数秒先の予知?それにしては、安易に結果が変わりすぎている。一つの過程を視認し結果を映像として見ることから、事象の先読みの方が的を得てるかもしれない。


予測のまま進んだら、あの後はどうなるのだろう。人が1人死んでいる以上は皆で仲良く十万億土でも踏むことになっていたのだろうか。


「あー、そのじゃな」


項遠王は清正さんがどうして凶行に走ったのか理解出来る様子で、フォローするように口を挟んできた


「謝った矢先に誠済まんのう。あ奴には弟がおっての。先程の昏睡事件で未だに目が覚めておらぬ。だからという訳ではないが、どうか寛大な心で今のは無かったことにして欲しい」


治療を受けながら、頭を下げようとした項遠王より先に姫が手でそれを制した。


「彼にそうする理由があったのなら別に私は気にしません」


「そう言って貰えると有難い」


殺されかけてもそんな涼しい顔して終わらせるなんて、いいねぇ、痺れるねぇ


「して、ミリオンフロストか。千年戦争ワルプルギスで魔女たちを蹴散らしたあの魔法が真に完成したらとんでもないことになってたのう」


「‥‥‥どういう意味ですか?」


「なにせ個人で戦争が成り立つではないか。」


項遠王にとっては治療を受けている間の話題の一つに過ぎなかっただろう。だが、姫にとってはどうもそうではなかったらしい


「……本当にどいつもこいつも、魔法をなんだと思って」


「どしたのじゃ、雪姫殿」


俺にしか聞き取れないほどに小さな声量で姫は確かに毒付いた。姫はこの魔法に色々と思うことがあるらしい。激昂が遂に限界に達したのか、口から怒りが溢れ出た。


「私がフロストの魔法を創ったのは、戦争のためなんかじゃありません。労働力の確保の為に作ったものです」


「なのにあなたも!皇国も!
魔法を見て凄いとか素晴らしいという感想なら分かります。どうして口を開けば戦争戦争戦争。意味がわかりません。
そもそも完成してない未完成の魔法を広域殲滅型禁術魔法術式扱いにして禁書に封印指定してきて使えなくした挙げ句の果てにはそれを二つ名として広めるなんてなんですか。嫌がらせですか。そもそも、魔法に善悪なんてありません。使う人次第でしょうが!」


「────!!」


「────!!!」


姫もやはりお喋りが好きな女の子なのだろう。溜めてた不満が爆発すると、一気に歯止めが効かなくなったようだった。だからといって1時間以上、延々と喋り続けるのはやめてもらいたい。最早姫のワンマンライブ。私の話を聞け状態だ。



話は2時間程度で終わった。(そのうちの半分以上は姫の愚痴だったわけだが)途中寝てしまった俺なりに話を纏めると、とりあえず空蝉に備えた項遠王の護衛は今日から3日間で良いらしい。なぜ3日間でいいのか。


理由としては、今は不在だがバルドラ王国には王族特務親衛隊なる部隊が存在するらしい。部隊と言っても班員はたったの四人だそうだが、配属されて日が浅い清正さんは兎も角、残りの三人がとんでもなく強いそうだ。玉藻ちゃんが化物と表現している以上は、かなりアレな人たちなんだろう


そんな人外三人が俺たちと入れ替わりになる形で王都に帰還するからだとか。


相手方がどこまで此方の情報を握っているかは不明だが、その前提で話を進めるならば、仕掛けてくるのは今日か明日か明後日。そのうちのどれかということになるのだろう。
じゃあ生存戦略、しましょうか!




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