龍王転生〜転生したら魔導師ってのに出待ちされてた件について〜

波動砲

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龍王と狐の来訪者

30話目 死の床に横たわりて

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大広間から出て扉をゆっくり閉める。そこで漸く虫が背中を這いずり回るような好奇の視線が途絶える。雪姫は安堵するように大きく息を吐いた。


「気持ち悪い‥‥‥。」


「彼。大丈夫かな。心配」


辟易してしまう程に彼女はこういった場では似たような事が毎回起こる。だからだろうか。普段は崩さない表情にも僅かに曇りが見られた
少なくとも思わず何時ものような飾り立てた言葉遣いがごっそり抜けおちてしまう位には


ハッ!と誰かに聞かれてしまったのではと危惧して、辺りを見渡したが幸運にも誰もいないことを確認する。どうやら大丈夫だったらしく、雪姫は胸を撫で下ろし、表情を何時もの無表情へと切り替える。


それでも何処となく倦怠感が僅かに隠せていなかったが、雪姫は大広間へと続く扉から出た先を壁伝いに進んでいく。暫くして外に面するエントランスホールが見えた。


ホールには数人の護衛が常に常駐しているようだが、隅に設置された小さなテーブルを囲いながらトランプでもして時間を潰しているらしく、全員が食い入るように配られた手札に魅入っていた。


別段関心もなかった雪姫は視線を外してホールより手前の曲がり角を曲がる。その通路の向かいには女性の護衛の方が立っていて、雪姫の存在に気付くと和らげな笑みを浮かべて近付いてくる。


「どうかなさいましたか?」


そう問われて、雪姫は困ったように言葉を切り出した。


「お手洗いを探しているのですが‥‥‥」




護衛の方に手洗い場まで案内して貰った雪姫は洗面台の方に向かった。蛇口を捻り、溢れんばかりの水を溜め始める。


「さてと‥‥」


右手の手袋を脱ぎ捨てて、人差し指で水面に何かをなぞっている。それを魔法に造詣が深い人が一目見たなら水面に魔法術式を描いて魔法を成立させるという離れ技に驚いていたことだろう。
一面に張った水の一部がそのまま天体の様に天井に広がる。そのまま凍りついて、この屋敷の氷の図面へと変わったので確認する。


「私の観測魔法アミュレットに何も写せてない。これは……一旦彼に確認を」


偉大なる龍王様アーカーシャ聞こえますか?)


雪姫は自身の右手に刻まれたアーカーシャと結ばれている証としての契約紋を介して念話で呼びかける。
とは言っても、彼女はアーカーシャの言葉(龍族の言葉とは明らかに異なる)を理解することが出来ないので、魔力で感受性を高めることで何となく分かるがそれでも尚、意思疎通には支障を来たしている。


『Gaa!!?』


(ふふ。そんなに可愛らしく驚いてくれると嬉しいですね。所でどんな些細な異常でも確認出来ているなら、咳を3回して下さい)


『GoHo!GoHo!!GoHo!!!』


雪姫の言葉に応じてアーカーシャは間違いなく3回咳き込んだ。つまり、雪姫の観測を妨害しながら、既に何か仕掛けを始めているらしい。敵はあの魔王すら殺してしまった伝説の一族の末裔だ。一筋縄ではいかないのは初めから分かりきっていた事ではあるが、雪姫は思考を中断して重苦しく言葉を吐く。


(一旦降りてきて玄関の方で合流しま…!」


意図せずブチリと念話が途中で強制的に切られた。その原因を探るべく、すぐさま考えられる要因として幾つかが雪姫の脳内に浮かんだ。魔法によって特殊な妨害波を発生させて通信魔法系統若しくはそれに準ずる魔法の阻害、結界魔法による外界との強制隔絶による切断辺りだと当たりを付ける。


雪姫は小さく舌打ちをした。後者の場合は特にまずいからだ。空間毎隔離された場合にはそもそも術者が許可しない場合には屋敷外へと逃げられないのに加えて、アーカーシャという巨大な戦力が分断されてしまう形になるからだ。雪姫のした事は結果的に裏目に出てしまい、相手からしたらまたとない好機とも言えよう。


雪姫は問題究明の為に急いで手洗い場から通路に繋がる扉へと向かって手をドアノブにかける。扉を開けると其処には先ほどの生真面目な女性の護衛が立っていた。凛とした佇まいのまま柔和な笑みを浮かべており、どうにも雪姫の様子を気にかけてくれていたようだった。


「顔色が優れてない様でしたので、ご迷惑でなければ何かお力に‥‥」


女性の言葉が唐突に途切れた。気付くと女性の首から上に在るべき頭部が重い音を鳴らしてゴロリと床に転がっていたからだ。


頭部が無くなった胴体はガクガクと震え、その背後に誰かが立っている。雪姫とそいつの視線が交差すると、そいつは手に持っていた小型の戦斧を雪姫の存在に気がつくと同時に、淀みない動きで続け様に壁や胴体ごと構うことなく、雪姫に対して横薙ぎに二撃目を振るってきた。


刃先が壁を容易く削りながら雪姫の首先へと迫る。攻撃を認識した雪姫は咄嗟に斬撃の逆方向に飛ぶようにして身を翻し躱す。刄は危うく身体の上を空振るが、敵もさるもの。攻撃が避けられたと分かるや否や、眼を見張る速さで、左手の戦斧を宙に手放し、右手でそのまますかさず掴み取り、持ち手を変えたかと思うより早く即座に返す刄で襲いかかったのだ。


しかし、戦斧が雪姫の身体を切り裂くことはなかった。それよりも早く雪姫は天井に展開していた観測魔法の氷を氷壁に変化させ凶刃を止めたからだ。流石に面をくらったのか、そいつの表情に驚愕の色が滲み出て動きが一瞬だけ止まる。


隙を見逃さず、雪姫はすかさず宙に浮いた体が床に落ちるより先に左手を軸に身体を支えて、身体を思いっきり捻じる。捻った回転の勢いを活かして、強烈な回し蹴りを左足踵で相手のガラ空きの横顔に見舞った。


防御が間に合わずに床をゴロゴロと転がりながら相手は吹き飛ばされて倒れるも、直ぐに態勢を立て直して起き上がって見せる。並の人間なら、いや鍛えられた軍人だろうと意識を刈り取るには十分過ぎる一撃だったのだが、相手はさも大したこともなさそうに着ているジャケットの袖で鼻血を拭いながらニタニタと笑っている。


(手応えに少しだけ違和感がありましたね。咄嗟に跳んで勢いを殺されたか)


(それになんだ……。気配が薄い。あの身に付けている装束……気配遮断と目視以外の認識阻害が働いているな)


「ちょっとはマシなやつもいるじゃ~ん。30人くらいぶっ殺しちゃったけど、順調すぎて退屈していたところなのよね~」


雪姫はゆっくりと相手の姿を視認する。
薄暗い茶髪の髪の毛にそばかすと眼帯が特徴的で年は二十代前半あたりの女性だ。ジャケットは内側から不自然に膨らんでおり、体による起伏ではなく様々な道具が仕込まれていることが判断できた。


「 宿木花宴様だ。よぉ~く覚えておけよ?これからあんたをぶっ殺す名前なんだからさぁ ~」


空蝉ではなく、宿木。これが何を意味するのか。雪姫は心の内で静かに結論を導き出した
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