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龍王と狐の来訪者
40話目 覚めない夢の続きを生きている
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『おい 篝ぃ。俺の知り合いがよー。見たんだって』
『……をさ。』
『?……すまない。誰を見たって、東の』
『人の話はちゃんと聞けよ、だから桐壺によく似た奴を見たって。うぉっと』
『……そいつはどこにいる!』
『あー……ほら、魔導師の学校?みたいなのあんだろ。なんだっけ、良くわかんねーが、とりあえずそこにいるらしい。しっかし桐壺が魔導師なんかになるわけねーから、他人の空似なんだろうがよ』
『魔導師……?俺にあのガキを押しつけて、自分だけ……この家から逃げて』
ーー†††ーー
「何にせよ最悪だ」
心の底から嘆くような深い溜息を煙と共に吐き出しながら、空蝉篝火は足元にいる清正を踏み殺す為にグッと先程以上の魔力を自分の足に込める。
魔力はただ外側に纏うだけでも、その力を大きく引き上げる。子供ですら魔力を纏えばそうでない大人を上回ることができる。だがそれは魔法ではない。あくまでも魔力操作の延長である。
では"身体強化魔法"とは何か。それは簡単に言えば肉体強度そのものを増幅させ制御する魔法である。仮に人間の身体で岩を素手で砕けたしても骨は軋み拳は潰れるだろう。馬より速く走れたとしても皮膚は裂けて腱は断裂するだろう。骨格筋の割合や筋肉密度の問題を度外視しても強すぎる力の出力に肉体そのものが耐えられないのだ。
故に、力を制御し、補助し、繊細な操作も可能とするようにした魔法こそ身体強化魔法である。
「相変わらず非力ね」
「くっ」
雪姫はそう嘲るが、現在の篝火は屈強な大男だろうと簡単に踏み殺せるだけの人間離れした膂力を発揮していた。
だというのに雪姫は涼しい顔をするばかりで、そのか細い足は根を張った大樹の如く微動だにすらしない。
雪姫は周囲の惨状をぐるりと一瞥して、声色こそ普段通りだが少しだけ表情筋が不愉快そうに引き吊っている。そして一つ確認を行った。
「あの時以来ね。まだこんな事をしていたとは驚きだわ。」
「お生憎様。この生き方しか知らないもので」
「知るのが怖いだけでしょう。
経緯はどうあれ私は変わろうとした人を……」
「でもそいつは死んだ。」
「死んだんだ。」
言葉を被せて、その続きを拒絶する。その選択は間違っていたと、篝火は虚に笑ったのだ。
「バカが不相応な夢を見るから、あんな事になる。」
篝火の口元が小さく歪んで死んだ誰かを皮肉った。
その行為は、雪姫の琴線に触れて心の内の黒い感情を表出させるには十分だった。
「‥‥…そう。なら何も言うことはないわ。なにもね」
突然に篝火の足元から氷の円柱が生えた。そのまま高速で篝火の腹部に打ちかまされる。常人なら初手で死んでもおかしくない威力であった。
「ッ‥!」
不意を突かれたとはいえ、攻撃を避けられなかったことに篝火は驚愕する。魔法攻撃の僅かな予備動作すら無く、ほぼノーモーションで放たれたからだ。
天高く打ち上げられたボール球の如く簡単に篝火の体がエントランスの天井近くまで跳ね上がっていた。
篝火が体勢を立て直すより早く雪姫は既に壁を蹴り飛び上がっていた所だった。人間離れした跳躍が瞬く間に篝火と自身の視線を同じ高さまで合わせていた。
そのまま雪姫がパチンと指を弾く。
「フリーズ」
発動のキッカケとなる呪文と共に青白いサークルが雪姫を中心に広がる。瞬時に飲み込んだ篝火の動きを緩慢に静止させていく。そのまま雪姫は右拳にグッと力を入れて、僅かな躊躇いも見せずに、何もできない相手の顔面に向けて拳を連続で叩き込む。
「これは…」
殴った手応えはない。当たり前だ。拳が空を切っているのだから。篝火の身体は不自然に後ろへと引っ張られていき、雪姫から距離を取る形となっていった。
「白煙綱引き」
何かしたのであろう。雪姫の身体も突然何かに手繰り寄せられるかの様に床下へ勢いよく引っ張られ叩きつけられた。
雪姫は即座に何が起こったのかを分析して、そして理解する。
(自分の背中と私の背中にそれぞれ伸縮性のある煙を縄の要領で巻き付けていたのか。)
(伸ばすのも縮めるのも自由自在。だからフリーズを食らっても動けたし、私がこうなっている。気付くのが少しでも遅れるように糸よりも細く視認し辛くしているな。オマケに重さもない。昔より魔法の扱いが上手くなってますね)
「赤煙喝采」
「アイスメイク ボックス スピン」
篝火は咥えている煙管に魔力を込めて赤い光球を創りだす。凝縮されたそれはそのまま真下にいる雪姫へと吸い込まれるように放たれた。
対して雪姫は、綺麗な正方形の形をした巨大な氷の箱を出現させ、勢いよくぶつける。
ドゴン!乾いた爆音と氷が砕ける音が同時に鳴る。激しい爆熱と氷塊の破片がエントランスを半壊させる程の破壊を巻き起こしていた。
「強くなりましたね、ダストスモーキー
僅かだけどタイミングも威力もあなたが優っていました。」
「弱くなったと言う話は本当だったんだな。」
返答はせずに数本の氷柱が蒸気を掻き分けて篝火に飛ばすが難なく避けられる。
「このレベルになると少し辛いわね……。困ったわ。」
「なら道を開けろ。」
「それは駄目よ」
状況は雪姫が劣勢だといえる。互いに魔法を数手応酬することで、戦いの展望が見えたからだ。それに雪姫は既に無傷ではなく服からは焼けた臭いがし、所々に軽い火傷が見受けられた。
だというのに。彼女は笑っていた。
「見せてあげる。私の切り札」
手に刻まれた龍と契約の証の紋様が呼応するように輝きを増して室内を照らした。
あとがき
本編で出せないと確信した小ネタ
『意思疎通が出来たら 名前の呼び方編』
姫「私の名前を言ってみなさい」
龍「突然どうした。白雪姫だろ?」
姫「残念違います。私は白雪姫です。」
龍「うん???」
姫「上手く伝わりませんね。だからさっきから貴方、私のことをシラユキヒメって呼んでるわよ」
龍「!?」
姫「シロユキヒメと伝えているのにどうして間違えるかな」
龍(情報伝達媒体が言語ではなく活字だから……ってツッコミ入れたら負けな気がするからしない)
────Fin
『……をさ。』
『?……すまない。誰を見たって、東の』
『人の話はちゃんと聞けよ、だから桐壺によく似た奴を見たって。うぉっと』
『……そいつはどこにいる!』
『あー……ほら、魔導師の学校?みたいなのあんだろ。なんだっけ、良くわかんねーが、とりあえずそこにいるらしい。しっかし桐壺が魔導師なんかになるわけねーから、他人の空似なんだろうがよ』
『魔導師……?俺にあのガキを押しつけて、自分だけ……この家から逃げて』
ーー†††ーー
「何にせよ最悪だ」
心の底から嘆くような深い溜息を煙と共に吐き出しながら、空蝉篝火は足元にいる清正を踏み殺す為にグッと先程以上の魔力を自分の足に込める。
魔力はただ外側に纏うだけでも、その力を大きく引き上げる。子供ですら魔力を纏えばそうでない大人を上回ることができる。だがそれは魔法ではない。あくまでも魔力操作の延長である。
では"身体強化魔法"とは何か。それは簡単に言えば肉体強度そのものを増幅させ制御する魔法である。仮に人間の身体で岩を素手で砕けたしても骨は軋み拳は潰れるだろう。馬より速く走れたとしても皮膚は裂けて腱は断裂するだろう。骨格筋の割合や筋肉密度の問題を度外視しても強すぎる力の出力に肉体そのものが耐えられないのだ。
故に、力を制御し、補助し、繊細な操作も可能とするようにした魔法こそ身体強化魔法である。
「相変わらず非力ね」
「くっ」
雪姫はそう嘲るが、現在の篝火は屈強な大男だろうと簡単に踏み殺せるだけの人間離れした膂力を発揮していた。
だというのに雪姫は涼しい顔をするばかりで、そのか細い足は根を張った大樹の如く微動だにすらしない。
雪姫は周囲の惨状をぐるりと一瞥して、声色こそ普段通りだが少しだけ表情筋が不愉快そうに引き吊っている。そして一つ確認を行った。
「あの時以来ね。まだこんな事をしていたとは驚きだわ。」
「お生憎様。この生き方しか知らないもので」
「知るのが怖いだけでしょう。
経緯はどうあれ私は変わろうとした人を……」
「でもそいつは死んだ。」
「死んだんだ。」
言葉を被せて、その続きを拒絶する。その選択は間違っていたと、篝火は虚に笑ったのだ。
「バカが不相応な夢を見るから、あんな事になる。」
篝火の口元が小さく歪んで死んだ誰かを皮肉った。
その行為は、雪姫の琴線に触れて心の内の黒い感情を表出させるには十分だった。
「‥‥…そう。なら何も言うことはないわ。なにもね」
突然に篝火の足元から氷の円柱が生えた。そのまま高速で篝火の腹部に打ちかまされる。常人なら初手で死んでもおかしくない威力であった。
「ッ‥!」
不意を突かれたとはいえ、攻撃を避けられなかったことに篝火は驚愕する。魔法攻撃の僅かな予備動作すら無く、ほぼノーモーションで放たれたからだ。
天高く打ち上げられたボール球の如く簡単に篝火の体がエントランスの天井近くまで跳ね上がっていた。
篝火が体勢を立て直すより早く雪姫は既に壁を蹴り飛び上がっていた所だった。人間離れした跳躍が瞬く間に篝火と自身の視線を同じ高さまで合わせていた。
そのまま雪姫がパチンと指を弾く。
「フリーズ」
発動のキッカケとなる呪文と共に青白いサークルが雪姫を中心に広がる。瞬時に飲み込んだ篝火の動きを緩慢に静止させていく。そのまま雪姫は右拳にグッと力を入れて、僅かな躊躇いも見せずに、何もできない相手の顔面に向けて拳を連続で叩き込む。
「これは…」
殴った手応えはない。当たり前だ。拳が空を切っているのだから。篝火の身体は不自然に後ろへと引っ張られていき、雪姫から距離を取る形となっていった。
「白煙綱引き」
何かしたのであろう。雪姫の身体も突然何かに手繰り寄せられるかの様に床下へ勢いよく引っ張られ叩きつけられた。
雪姫は即座に何が起こったのかを分析して、そして理解する。
(自分の背中と私の背中にそれぞれ伸縮性のある煙を縄の要領で巻き付けていたのか。)
(伸ばすのも縮めるのも自由自在。だからフリーズを食らっても動けたし、私がこうなっている。気付くのが少しでも遅れるように糸よりも細く視認し辛くしているな。オマケに重さもない。昔より魔法の扱いが上手くなってますね)
「赤煙喝采」
「アイスメイク ボックス スピン」
篝火は咥えている煙管に魔力を込めて赤い光球を創りだす。凝縮されたそれはそのまま真下にいる雪姫へと吸い込まれるように放たれた。
対して雪姫は、綺麗な正方形の形をした巨大な氷の箱を出現させ、勢いよくぶつける。
ドゴン!乾いた爆音と氷が砕ける音が同時に鳴る。激しい爆熱と氷塊の破片がエントランスを半壊させる程の破壊を巻き起こしていた。
「強くなりましたね、ダストスモーキー
僅かだけどタイミングも威力もあなたが優っていました。」
「弱くなったと言う話は本当だったんだな。」
返答はせずに数本の氷柱が蒸気を掻き分けて篝火に飛ばすが難なく避けられる。
「このレベルになると少し辛いわね……。困ったわ。」
「なら道を開けろ。」
「それは駄目よ」
状況は雪姫が劣勢だといえる。互いに魔法を数手応酬することで、戦いの展望が見えたからだ。それに雪姫は既に無傷ではなく服からは焼けた臭いがし、所々に軽い火傷が見受けられた。
だというのに。彼女は笑っていた。
「見せてあげる。私の切り札」
手に刻まれた龍と契約の証の紋様が呼応するように輝きを増して室内を照らした。
あとがき
本編で出せないと確信した小ネタ
『意思疎通が出来たら 名前の呼び方編』
姫「私の名前を言ってみなさい」
龍「突然どうした。白雪姫だろ?」
姫「残念違います。私は白雪姫です。」
龍「うん???」
姫「上手く伝わりませんね。だからさっきから貴方、私のことをシラユキヒメって呼んでるわよ」
龍「!?」
姫「シロユキヒメと伝えているのにどうして間違えるかな」
龍(情報伝達媒体が言語ではなく活字だから……ってツッコミ入れたら負けな気がするからしない)
────Fin
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