龍王転生〜転生したら魔導師ってのに出待ちされてた件について〜

波動砲

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龍王と狐の来訪者

46話目 拝啓、蛍光灯に群がる僕ら

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魏良邸襲撃の話をまとめるに、昨夜の空蝉たちを含めた殺し屋集団による襲撃の死者は215人だったそうだ。ジョン・ウィックばりの暴れっぷりである。命を落としたのは言わずもがな。主にこの屋敷の従者と貴族の身辺警護を務めていた人たちだったわけだけれど、それにしても2時間足らずでよくもまあ、これだけの人を容赦なく殺せるものだと思う


殺人のギネス記録があるのなら、間違いなく更新されていることだろう。そもそもこんなに死人を多く出したのは俺が相手の出方を窺ったせいでもある。全部俺が悪い……と思い上がったことを言うつもりもないが、みすみす俺が殺させてしまった部分があるのもまた事実だ。



それと魏良伯爵の本物の死体が屋敷の地下室から発見されたらしい。姫は何か引っかかるのか「死体がある。ならあれは、希少種の魔物ミミックの持つ特性スキル"擬態"と同じ?いやあの魔人は魔力を変質させる"腐食"というスキルを使っていた……」と何やら一人でぶつぶつと呟いている。
姫様謎解きは朝食の後で、と言いたいところなのだが、今日も今日とて忙しない様子で皆が動き回っている中、ただ1人俺だけが安穏と過ごしていた


昨日の夜に王都第三層目から外に出た人間はいないらしい。そして襲撃により殺し屋たちの存在を知られてしまった時点で秘匿するのをやめて情報を公開していた。
その為、現在バルドラの王都フリューゲルの全ての門は固く閉ざされ外界から隔絶していた。王都に潜伏しているであろう賊を逃さないように王都兵を総動員してしらみつぶしに家探ししている最中とのことであった。見つかるのも時間の問題だろう


「ヌハハ。全く大物取りじゃのう。たかが賊の1人や2人にここまでやるか。まるであの時の儂と星の逃避行の時の様ではないか」


「……あれとは違う。主が貴族殺しの犯人と疑われて処刑されかけたあの時とはの。
まあ何よりも驚くべきはセイが国の復興よりも主を優先したことじゃ。あれを知った時には流石に度肝を抜かれた。
あの頃が懐かしいの」


「なんじゃあ、玉巫女。随分と年寄り臭いことを言いおってからに」


「少なくとも主よりは長く生きておるからな」


セイというのは項星太后。つまり目の前にいる武王 項遠の妻だった方らしいが、随分前に大病を患い若くして亡くなってしまった方らしい。
項遠王も破茶滅茶らしいが奥様も生前は随分破天荒だったらしく、なんでも一度は滅んだ王家の出身だったとか、なんとか。
最終的には大国を打倒し、国を再興させた功績から『救国の英雄』と呼ばれていたらしい。滅びた王朝を再興させるなんて、恐らく彼女は異世界の光武帝か何かだったのだろう。


「して、空蝉はどう来ると思うかの?」


第五層の最深部。だだっ広い演習場の一部に天幕を敷き、そこで姫と玉藻ちゃんは顔を付き合わせて作戦を練っている様子だった


「昨日の晩と同様に何かしらの陽動を使って、項遠王と我々を引き剥がしにかかるでしょう。昨日と違って場所が広い。私がダストスモーキーなら戦力分散を狙って兵をまずは各所に散らすよう騒ぎを起こします」


そう言うや否や、王都フリューゲル全体にけたたましく警鐘が鳴り響く。危険を知らせている。良くない何かが迫っているということを。伝令の方がその何かを伝える為に息を切らせながら此方まで走ってくる


「伝令!第一層の北区画方面に外から五千を超える魔物モンスターの群れが押し寄せているとのこと!王都兵四千及びギルド『メルジーネ』の人員で至急対処いたします!」


「魔物の大群じゃと!?」


魔物って何?魔族とどう違うとか姫に問い詰めるより早く次々と伝令がやってくる


「伝令!第二層の西と東の居住区で正体不明の敵勢力が現れております!西は第14と第20中隊、東は第3大隊が交戦するも両軍共に苦戦を強いられている模様」


「正体不明だと?」


項遠王の問いかけに直ぐに2人目の伝令が口を開く


「ハッ!何でも煙のような兵隊が中隊規模で王都中に出現しており、都を荒らしまわっているとの事です」


「十中八九、ダストスモーキーの紫煙兵でしょう。数は200~300程度。それなりの強さですが、そもそもこれも陽動。付き合う必要はありません」


それを聞いて、項遠王が姫の方に顔を向ける。だがその圧を無視して更に口を開く


「空蝉 篝火お得意のやり方です。事を複数起こして、対処で手一杯にしドサクサに紛れて本命を取るやり方ですね。少なくともここにいる我々と第五層にいる近衛兵二千はこの場から動かさず、残りの六千に対処させるのが賢明です」


「なんじゃとお!?それは我が身可愛さに民草を見捨てろと言っておるのか!」


姫はあくまでも冷淡に話をするが項遠王は気に入らないのか眉を潜めていた。それを姫は宥めるように言葉を続ける


「敵は空蝉だけとは限りません。昨日の夜をお忘れですか?
それにこれだけの戦力しかない以上、全てを無傷で救うことはできません。なら最大の損失を万が一でも未然に防ぐ。これがベストのはずです」


「この戦力がいたら手出しできない。陽動をかけてるのがいい証拠です」


「雪姫殿の言う……通りじゃ。主は大人しくしておれ」


昨日の晩、殺し屋たちは『空蝉』『花宴』『夕霧』『東屋』の複数の殺し屋を生業とする一族が来ていたらしかった。他にも来ていないという保証はどこにも無いのだ。だからこそ、姫は優先順位を決めているのだろう。それはきっと正しい判断だ


「伝令!第一層南区画方面にて、大規模な火災と建物の倒壊が発生。第4大隊と第10中隊が対応するも人手が足りず至急応援をと」


「伝令!第四層東軍事施設にて該当する賊を発見。第2大隊が交戦している模様!」


玉藻ちゃんは続々と飛び交う報告に顔を苦しくしている。当たり前だ。項遠王も大切だが、同じくらい王都も民も大切なのだ。そして今この場には事態に対処することが出来る二千もの精兵がいるのだ。そこに付け込み対処させてここを手薄にする。これが空蝉の狙いなのだろう。戦いを自分の有利な条件で行うために相手の嫌なことをするのは当然だが、大勢の人を巻き込む手段を取るなんて、それだけ向こうも必至ということなのだろう。


待機している百戦錬磨の兵達も自分たちはこの場でただ手をこまねき、王都の危機を見ているだけなのかと困惑する様子が感じ取れた


「ゆ、雪姫どのぉ…」


玉藻ちゃんの声が上擦っていたが、それでも姫は淡々とダメと言わんばかりに首を横に振る。冷酷かもしれないが姫は割り切っているのだ、
王の身柄を最優先にして、多少の人命や被害が大きくなろうと、それは切り捨てると


それが正しいのかどうか俺には分からない。今動けば救える命が増えるのではないのかと思わずにはいられない。だが万が一にも王がいなくなった時に国はどうなるのか、中華を統一した始皇帝が。征服王がいなくなったマケドニアがどうなったか。国や民草のその果てを歴史は無機質に記している。
それが分かっているから雪姫はそうするし、玉藻ちゃんも異を発せない


どこぞの正義の味方になりたかった魔術使のように、未来の100の命を救う為に、現在の99の命を見捨てる覚悟をしなくてはいけない

本当にそうなのだろうか?

確かに合理的に考えるならそうであるが、だが人には心があるのだ。目の前にいる99の命を救い、未来の100の命も救う。こう願うのは強欲なのだろうか…


突然項遠王が偃月刀の石突きで地面を大きく叩く。それは地鳴りが起こったと錯覚するほどに力強く強烈に威厳を周囲に示し、一同が項遠王の方に視線を集める


「武王 項遠の名において。この場にいる第一旅団ニ千の兵に命ずる!これより王都を全力で守れ!!これは厳命である!!!」


全員が戸惑う。だが遅れて、雄叫びが。正しく人の熱気がこの場で巻き起こった


「二千の内の千は火災が起きている地区の避難と救助を最優先に行い、残りの千は五百ずつで東西にいる正体不明の敵性勢力を排除だ」


「皆、我が国をよろしく頼むぞ」


的確な支持を飛ばした後に、ニカリと項遠は無垢な少年の様に笑った


「昨日の今日で、あなたという人は……空蝉を侮ると死にますよ。王を名乗るのなら最善を尽くす努力をしてください。」


「ふはは!分かっておらぬのぉ、白雪姫上級魔導師殿。
主の言う最善は、万が一の最悪を考慮して組み立てている」


「それのどこが分かっていないのですか?貴方は自分の命の重さを。失われた時にどれほどの事態を引き起こすのか分かっているのですか?」


「それは命を含めた全てを数字として捉える研究者が示す謙虚な最善だ。人を導く王の最善ではない。
王が示す最善とは必ずしも現実的である必要はない。人を常に希望に駆り立て、往々に認められるべきものであればな。仮に。今日を儂が生きたとして、苦境に陥った王都と危険に晒された民草に対策を講じずに見殺しにした。そんな儂を明日誰が王と認める?」


「なら貴方の言う最善とはなんですか」


「決まっておる!儂が死なず、全て失わず、勝つ。それこそが王としての最善だ!!」


「……っ」


雪姫は頭が痛そうに額に手を当てている。もう何も言うことはなかった。代わりに玉藻ちゃんが走ってきてポカポカと項遠王を殴り倒していた。仮にも一国の王って1番偉いと思うんだけど殴るのはあかんやろ。いいですかぁ?殴っていいのは、サンドバックと異教徒共だけです!


「……遠のばかぁぁ!」


「状況わかってんのかよぉぉ~……」


玉藻ちゃんは面から涙を滝の様に流していた。この面の排水能力高過ぎない?たまげたなぁ


「やかましいのぉ。主の言った通り国政は蔑ろにしてんぞ?王都の守護兵は王では無く王都を守る存在じゃろう。儂を守るのは王族親衛隊だろうて」


「いないじゃん!みんな!今はこの場に!華琳も!無銘も!廉凱も!清正だって今は……
お前が死んだらわしはどうすればいいんじゃあ!」


「死なんよ、儂は。絶対にな。お前を残して死ねば、なにせ向こうであやつに叱られてしまうからのぉ」


「……主は嘘つきなのじゃ。死んだくせに。あんなに!何回も!わしの目の前で……本当になんかいも……」


「ヌハハハ。起こってもいない目先の未来のことを引き合いにだすのは卑怯だと思うが、仕方ない。精々儂が嘘つきではないことを証明してやるとするかいの」


その光景を見てしまって、姫も思うことがあるが何も言えない様子だった。どっちが最良かは結果を見なきゃ分からない。けど少なくともこっちの方が気分が良いだろう。
少数だろうと見捨てるなんて選択が正しいなんてあっちゃいけない。正当化させてはいけない


「こうなれば仕方ありません。なら一つだけ私の言う通りに動いてもらいますよ。いいですね」


だから国も守る。民も守る。王も守る。どっちもやらなきゃいけないのが俺たちの辛いところだな。

覚悟はいいか?俺はできてる
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