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龍王と魔物

78話目

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我のおうちにクモさんたちがきたよ!我びっくりしておはなしをきいたら、なかよくなりにきたんだって!それでいっしょにあそんでいたら、いじわるなワームくんにおうちをこわされちゃった!うぇーん。このままじゃ姫様におこられちゃうよー!どうしようどうしよう……


「《ってまじでどうすんだぁぁぁ!!?》」


うん。どんだけ話の入りを軽くしようとしても無理あるわ。ムリムリムリかたつむり。どんな話術持ってれば相手を納得させられるか逆に知りたいよね。
なに?姫は言うほど怖くないし、理知的で優しい人だから話せば分かってくれる?
お前ふざけんじゃねえぞ!良識ある優しい人はそもそも龍を奴隷になんかしたりしねぇんだよ!


「か、風通しを良くする為にリフォームしたっていうのは……」


「《言い繕うのにも限度ってもんがあんだろうがよぉぉぉ!!!みてこれ!風通す所か風穴あいてんの!しかも天元突破してるやつ!どんだけアヴァンギャルドなセンス持ち合わせてたら自分家の壁に電動ドリルの代わりにギガドリルブレイク打ち込もうって発想が湧くの!?
もういいよ。ワーム共に穏便に命で償わせよう。それで丸く収まるでしょ》」


「ああアーカーシャ様!?足が震えすぎて目にも止まらない速度になってるよ!!」


アヤメがキッと鋭い目付きでマトローナたちを睨みつける。当の本人たちはアースイーターが飛んで行った方を未だに呆然と立ち尽くして見ているが、何か気になる点でもあったのだろうか?


「マトローナ!アーカーシャ様は貴様らの下らない諍いに巻き込まれて大変お怒りです。この責任、どう取るおつもりですか!」


「す、すみません。まさか奴らの手が此処まで伸びてくるとは」


「言い訳はいい。この落とし前をどうつけると聞いているのだ!」


「は、ははっ!では速やかに我ら昆蟲族と宝人族全員が決死隊となり、必ずやこの地の真なる主アーカーシャ様を害したことに相応の報いを与えます」


その意気込みは買うが、勢力的に劣っている昆蟲族と宝人族では真っ向勝負しても正直持て余すだろう。もうこれ我が戦いに加わった方が良いのか?しかし、具体的にどうすればいいのだろうか。猪頭族と地竜族を力で屈服させてスレイブすればいいのか?


「《……気持ちが重い》」


「笑わせないでください。そもそもがお前たちだけで勝てるというのか。アーカーシャ様の意を借りて負けることなど絶対に赦されない。その為に先ずは具体的な手を示せ」


「そ、それは、ゴニョゴニョ」


口籠るマトローナ。というかアヤメちゃんって魔物たちに対してはおどおどしてないな。なんなら少し厳しいというか


「アーカーシャ様。此処は一つ、御身の持ちうる至宝の一つ"呼び鈴"を使って魔迷宮にいる僕を呼び出すのはどうでしょうか?」


「《……そうだな》」


無造作に置いてあった"死者の呼び鈴"と呼ばれるハンドベル型の魔法具をアヤメが我の手元まで見つけて運んでくる。
商店街の福引きが当たった時の要領で鈴を鳴らす。カランコランと甲高い音が辺りにつんざいた。"アンデット召喚"により地面から魔法陣が現れて、我と姫が攻略した魔迷宮である屍たちの墳墓の魔物が3体現れた。
中央にいる1番位が高そうなアンデットが片膝をつき、それに釣られて全員が淀みなくまるで主君に対して傅く臣下の礼を取った


「"屍たちの墳墓"の墓守りラーズが此処に。」


姫に強いとさえ言わしめたエレメントマスターのラーズ。以前はもう少し間が抜けていたはずだが、今はそんなもの微塵も感じさせないほど表情を引き締めている。骸骨に表情ないからよく解らんけど。あの時の豪華絢爛な法衣とはまた別の意匠が凝ったもので着飾っていた。案外オシャレ好きなのかもしれない


「ラーズ。貴様の主人が1人、龍王アーカーシャ様より、あそこの昆蟲族と協力してお前たちの有用性を示してみよとの仰せだ」


「……御意。話は聞いておりました故、吾輩の配下で最も腕の立つ骸骨将軍ジェネラルスケルトンを2名連れて来ました」


「し、失礼ながら申し上げます。たった3体のスケルトンで彼我の戦力差は覆らないかと」


「だ、そうだが?」


やれやれ、と前置いてから態とらしくラーズが溜息をついた


「安心するといい。この骸骨将軍ジェネラルスケルトン1人で猪頭族1000体に勝りますよ」


「口でならなんとでも言えます」


ラーズとマトローナとの間に見えない火花が散った


「行け。ガレス」


「バギラ!パンゲラ!ババン!のぼせ上がったアンデットに我ら昆蟲族の強さをみせてやれ」

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