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龍王と魔物と冒険者

106話目

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"略奪者たちの王"は世界最大規模を誇る冒険者ギルドである。当然有名であるが故に所属するには名を背負うだけの相応の実力が求められるが、ランクに応じて他では考えられないほどの高価な支給品を与えている。
Aランク高位冒険者はシュウのように他所から引き抜かれてきた外様が殆どを占めるが、扱いは変わらずに与えられる支給品に差はない。その内の一つには高性能転移魔法搭載ポータルが含まれていた。バイデたちは互いに懐からそれを出す。


「この辺りで使えば一気に抜けれるはずだ。使った事はあるか?」


「何度か。粗悪品だけど」


「ならいい。行くぞ」


ポータルをお互い砕くと光に包まれてその場を転移で後にする。だがこの見立ては大きく外れる事となる。此処は既に異界である。
強い魔力場により空間移動系の魔法は本来の座標を乱され狂わされ誤差を起こして遠くかけ離れた場所に転移する羽目になってしまうのだ。
そして2人の冒険者の行き着いた先。そこは3区の最深部であった。其処はバルディア大山脈で非戦闘員の魔物たちが多く住んでいる隠れ里だ。
そんな事はつゆ知らず想定外の事態に困惑した2人は互いに顔を見合わせる。当然の反応だ。そして自分達以外にも大量の話し声と気配が感じられるのを察した。
不慮のアクシデントは正常な判断能力を狭める。2人は緊迫した面持ちで武器を抜いた。武力で切り抜けるしかないと判断したからだ。


「‥‥‥ふぅ」


「油断するなよ シュウ 何が出てくるか‥‥‥」


「あれ 君たち見ない顔だね、そんなとこでなにしてんのー?」


すぐ近くで声がした。歳は自分たちとそう変わらない女性が見ていた。2人の目にはこれが人間のように見えた。だが本当に人間か?一分の疑問を挟まずそう言えただろうか。先程の少女と同じ人型の怪物ではないかと危惧したのだ。息の詰まるような圧迫感は感じられ無い。油断してるなら先手を取るしかない、バイデは思考をかなぐり捨てて武器を目の前の女性に振るっていた。
目に映る相手が人間に見えた時点で本来なら先ずは敵意の有無を確認すべきだろう。管理局により、人命は最優先されるべきと規定されているからだ。如何な逼迫した状況だろうと、故意の殺人は到底許されるものではない。


ガキンっ!金属がぶつかる音が耳をつんざいた。


「なっ‥‥‥おまえ!」


バイデの武器が横からシュウの剣により払い除けられていた音であった。


「間違えた……わけじゃなさそうだな。
なんのつもりだ? シュウ」


「バカヤロウが!そっちこそ今のはどういうつもりだ。どうしてこの人を殺そうとした!?」


シュウが女性を背後に庇うようにして、そのまま剣先をバイデに向けた。その様子にバイデは苛立たし気に吠えた


「人、だと!?いいか よく考えろ!
こんな所に人間なんか住んでいるわけがねえ!魔物に決まってる。」


「決まってる?俺にはこの人の反応が人間に見えた。それに仮に魔物だとしても少なくともあんたよりは危険じゃねえ」


「バカが、期待してたんだがなぁ。甘ちゃんが」


「最後通告だ、そいつを殺してさっさと離脱する。班長命令だ。従え」


「……ああ、やっぱ駄目だ、納得出来ない」


バイデの魔法はfish chip魔魚を生み出す魔法だ。
返事の直後に空気が弾けて1匹の歪な頭部をした魔魚が生まれて苛烈な攻撃をシュウと庇う形でその背後にいる女性に仕掛ける形で襲い掛かった。魔魚の攻撃。受けた剣が火花を散らしている。
互いに本気ではない。だが仮にも支部を任せられるだけの実力を持つバイデとシュウとではそもそもの地力が違う。


「……どうした怪物殺し 後ろが気になりすぎてるとそんなものか?」


「っせーよ!これが実力だっつうの!」


何度かの攻防を経て、その時点でシュウの身体の幾つかは皮膚を食い破られ牡丹色に服を染め上げていた。


「き、君。血がこんなに!もういいから!」


「いいから俺の後ろに隠れとけ!」


「……なにをカッコつけてやがる」


時間をかけすぎた。執拗に女性を狙う意味はもう無い。ただシュウの子供地味た行動が誰かとダブって気に入らなかった。ありありと自分の全てが間違いを突きつけられているかのように感じられるのだ。だから自分の行動は間違っていたと後悔させてやりたかった。


それなのにこいつはどれだけ嬲られても、決して守るのをやめない。最後に倒れる瞬間まで


「白けた。ここまで来るとバカすぎて付き合いきれねえよ。いいさ、そんなに死にたいなら……」


「ッッ……この人を傷付けるな!」


女性は倒れたシュウを守るように抱きしめて、全身を宝石化させていく。その特徴的な能力は一つの種族を想起させた。


「お前まさか宝人族か。しかも宝石化を任意で出来るってことは高位だ!待てよ。つまり、此処はあの宝人族の……
はっはっは!マスターに思わぬ手土産が出来た。」


「行け!」


魔魚を細かく分裂化させる。肉を啄む鳥のように、この煌びやかな宝石の悉くを魔魚は手に入れてくれるだろう。迫る幾千にして群れる数の暴威はまるで黒い海のようであった。
だがヒュンと音がした。それと同時に黒い海は真っ二つに割れていた。


「ボナード!きて、くれたんだ」


そう呼ばれた黒髪の彼は、少しだけ混乱した様子であった。


「アヤメ様が魔力を補足したから、駆けつけられたが……これはどんな状況だ?なんでお前が冒険者なんかを守ってる」


「説明は後だよ、私たちを守って」


向かい合うボナードにバイデは手を挙げる。一目で自分より強いと気付いたのだ。目を合わせると互いの意図を理解した。今この場で降伏しても絶対に殺す。
その瞳は醜い欲望に染まっていたことにボナードは気付いていたからだ。この目は自分たちを金になる道具としか見てない者の目だと内心唾を吐いた。


「今回は退かせてもらおう。そして今度はもっと大勢で来るさ。覚悟するんだな」


「今度なんてない」


地面より魔魚が何匹も現れる。ウツボみたいにウネウネと。
それを全て片付けた時にはバイデの姿は見えなくなっていた。


「逃したか」


そう言ったボナードは自身の妹と血塗れの人間を交互に見やってからため息をついた。
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