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龍王と魔物と冒険者
116話目
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ヒッタイト草原。広大なバルディア大山脈の中でも一、ニを争うほどの肥沃な土地であり、千を超える河川が縦横に交錯している。100余の湖沼は上から見下ろすとまるで星座を形作る星々のように散りばめられており美しい。
しかし、今この草原は数メートル先も見通せない黒煙と屍山血河を築き上げるほどの激戦が巻き起こっていた。冒険者8万に対して、猪頭族とスケルトン軍の数は10万。最大規模の戦いが展開されていたから当然である。
「バルディアの同志たちよ!アーカーシャ様よ!我らが戦をどうか御照覧あれ!!!」
「突撃だ!!!」
猪頭族を率いるシンドゥラをリーダーとした重装戦士団五千はその全員が宝人族の名工たちが造り上げた高品質の武具を身につけていた。唯一の弱点はその重さ故の機動力の乏しさである。だが魔狗たちという新たな種族が参入したことで話が変わった。
元々、魔狗と一括りにされているが、このガルムたちは極寒の大陸で冒険者に捕らえられ連れてこられ逃げ出し当てもなく流れつき糾合された。そして恒温動物は寒冷地域ほど大型になる傾向にある。つまりこのガルム千体は従来のガルムたちを大きく上回るほどの巨躯を誇り、その身に巨大のオークですら楽々と背に担げ俊敏に動けるほどであった。
並大抵の武具。時に剣や槍や矢を通さず魔法ですら受けきる程であり、馬を上回る機動力。シンドゥラを先頭にした一団は正に戦局を左右するほどの強軍となっていった。敵陣を食い破り矛を振るい、敵を屠っていく。
「やばいぞ!このオークたちを誰でもいいから止めろ!」
「粉砕しろ!」
「俺が……グェッ」
「A級のチェルフまでやられたぞぉ!やばい!支えきれん。前線が崩れるぞ!」
「大将はどこだあ!このオレ、シンドゥラはバルディア第一の豪の者と自負したるなり。ウデに覚えのある者は前に出よ!」
シンドゥラの矛が止められる。海洋大陸エルガルム最大国家扶桑の兵装に身を包んだ猛者が鉄の鎖で受けたのだ。
「ヴァイキングのボードワンが推参仕る。この前線の団長を務めさせてもらっている。お相手願おうか。」
「ほう。鉄鎖術というやつか。奇妙な武術だ。では参るぞ 勇敢なるボードワン殿」
ゴゥンゴゥンとまるで熊同士が戦ってるかのような一際大きな激音が戦場で鳴り響いた。
『オーク兵の強さは冒険者側のBランクに相当する。対して敵の戦力の多くはCランク冒険者だ。数と質共に此方が上回っている。
なのにシンドゥラが押し込んでいる所以外は戦線停滞中か。やはり現場の指揮官の数が足りていないな。集団戦術で遅れをとっている。では次の手だ。
エウロバ!ワームたちを出して、指定ポイントの援護!アースイーターはまだ温存だ。』
「分カリマシタ」
エウロバが合図を出すと、地面が割れてそこから地竜たちが各所で地下深くから現れる。混乱した機を見計らい、全ての前線が一斉に押し上げ始めた。
「ぎゃあ!やばいぞ!ワームまでいる!」
「慌てるな。役割を分担する!A級を中心にワームを止めろ!B、C級らオークたちに専念しろ。」
8万の軍はAランクの団長たちが千人ずつ隊として機能させている。つまり今この場には80人のAランクがいることになる。だが実際のこの場には50人のAランク冒険者しかいない。つまり5万の冒険者で10万の魔物たちを相手どっていたのだ。そしてバルディアという地において敵の動きが手に取るように分かるアヤメだからこそ、この手には気付かなかった。
「誠に強いのう シンドゥラ殿。オークにしておくには惜しい漢だ」
「お前も人間にしておくには惜しい武人ぞ。ボードワン殿」
ボードワンの鎖がシンドゥラの腕に絡みつく。膂力に自信のあるボードワンが引っ張れば、これまで敵はもうなす術がなかった。だが。動かない。魔力強化し力に絶対の自信を誇る筈のボードワンが巨岩だと錯覚してしまうほどに、シンドゥラは動かない。
「ふんっ!」
「ぐわぁ!」
逆にシンドゥラが引っ張れば、釣られた魚のようにボードワンが浮いてそのまま叩きつけられ、ノックアウトされる。何人かの冒険者が気絶したボードワンを抱えて逃げようとする。
「追撃して殺さないのですか?」
同乗しているガルムにそう言われるが、シンドゥラは首を振った。
「殺すには惜しい。それよりもこの戦場を決めてかかるぞ」
既に戦いの流れは大きく此方に傾いている。だがオーク本陣で爆発が起きた。
「なにが!?」
『くそっ!転移ポータルを使って、3万の冒険者を一気にこちらの本陣後ろに飛ばして強襲された!本陣一万はなす術なく壊滅。戦局は一気に五分に戻されたか!』
「バカな!話では転移魔法の類は魔力場の影響で正確に座標を飛ぶことが出来ないと!」
『あれこれ言ってる時間が勿体ない。このままでは左右で挟撃されて壊滅する。シンドゥラ。その場で指揮を取り現場を抑えろ。本陣を強襲した3万はアースイーターたちと後軍2万で対処する』
『分かりました』
アヤメたちが転移の類を警戒しなかったのにはきちんと理由がある。自分達が用意した転送ポータルのように直接魔力糸でパスを繋いで指定しているならいざ知らず、闇雲に転移を使ったとして、魔力場により戦力が分散されてしまうのだ。それでは戦術として活かされるわけがないと排除していた。
逆に言えば、その魔力場の影響を読み切ることさえ出来れば転移はきちんと実用可能ということになってしまう。
冒険者の中で唯一それが出来る人物がいた。
「僕が活躍したらおじさん褒めてくれるかな」
Sランク冒険者のグラナド・フエクだ。11人いるSランクの中で唯一彼のみが一軍の総指揮を許されていた。それは彼の有する旧神魔法"魔の超直感"が過程を省いて計算結果を弾き出す事が可能だからだ。
力学的、物理的状態はおろか、極々短い未来における全運動まで読み解ける思考の極み。
凡才がどれだけ計算しても自然を読み切ることは出来ないが、グラナドはそれが一目で分かる。
つまるところ魔力場の影響などグラナドにとっては無いのと一緒だった。
「ヤッテクレタナ!冒険者共!アースイーター十三傑衆出撃ダ!小賢シイ手ナド圧倒的ナ力デ粉砕シテヤル!」
しかし、今この草原は数メートル先も見通せない黒煙と屍山血河を築き上げるほどの激戦が巻き起こっていた。冒険者8万に対して、猪頭族とスケルトン軍の数は10万。最大規模の戦いが展開されていたから当然である。
「バルディアの同志たちよ!アーカーシャ様よ!我らが戦をどうか御照覧あれ!!!」
「突撃だ!!!」
猪頭族を率いるシンドゥラをリーダーとした重装戦士団五千はその全員が宝人族の名工たちが造り上げた高品質の武具を身につけていた。唯一の弱点はその重さ故の機動力の乏しさである。だが魔狗たちという新たな種族が参入したことで話が変わった。
元々、魔狗と一括りにされているが、このガルムたちは極寒の大陸で冒険者に捕らえられ連れてこられ逃げ出し当てもなく流れつき糾合された。そして恒温動物は寒冷地域ほど大型になる傾向にある。つまりこのガルム千体は従来のガルムたちを大きく上回るほどの巨躯を誇り、その身に巨大のオークですら楽々と背に担げ俊敏に動けるほどであった。
並大抵の武具。時に剣や槍や矢を通さず魔法ですら受けきる程であり、馬を上回る機動力。シンドゥラを先頭にした一団は正に戦局を左右するほどの強軍となっていった。敵陣を食い破り矛を振るい、敵を屠っていく。
「やばいぞ!このオークたちを誰でもいいから止めろ!」
「粉砕しろ!」
「俺が……グェッ」
「A級のチェルフまでやられたぞぉ!やばい!支えきれん。前線が崩れるぞ!」
「大将はどこだあ!このオレ、シンドゥラはバルディア第一の豪の者と自負したるなり。ウデに覚えのある者は前に出よ!」
シンドゥラの矛が止められる。海洋大陸エルガルム最大国家扶桑の兵装に身を包んだ猛者が鉄の鎖で受けたのだ。
「ヴァイキングのボードワンが推参仕る。この前線の団長を務めさせてもらっている。お相手願おうか。」
「ほう。鉄鎖術というやつか。奇妙な武術だ。では参るぞ 勇敢なるボードワン殿」
ゴゥンゴゥンとまるで熊同士が戦ってるかのような一際大きな激音が戦場で鳴り響いた。
『オーク兵の強さは冒険者側のBランクに相当する。対して敵の戦力の多くはCランク冒険者だ。数と質共に此方が上回っている。
なのにシンドゥラが押し込んでいる所以外は戦線停滞中か。やはり現場の指揮官の数が足りていないな。集団戦術で遅れをとっている。では次の手だ。
エウロバ!ワームたちを出して、指定ポイントの援護!アースイーターはまだ温存だ。』
「分カリマシタ」
エウロバが合図を出すと、地面が割れてそこから地竜たちが各所で地下深くから現れる。混乱した機を見計らい、全ての前線が一斉に押し上げ始めた。
「ぎゃあ!やばいぞ!ワームまでいる!」
「慌てるな。役割を分担する!A級を中心にワームを止めろ!B、C級らオークたちに専念しろ。」
8万の軍はAランクの団長たちが千人ずつ隊として機能させている。つまり今この場には80人のAランクがいることになる。だが実際のこの場には50人のAランク冒険者しかいない。つまり5万の冒険者で10万の魔物たちを相手どっていたのだ。そしてバルディアという地において敵の動きが手に取るように分かるアヤメだからこそ、この手には気付かなかった。
「誠に強いのう シンドゥラ殿。オークにしておくには惜しい漢だ」
「お前も人間にしておくには惜しい武人ぞ。ボードワン殿」
ボードワンの鎖がシンドゥラの腕に絡みつく。膂力に自信のあるボードワンが引っ張れば、これまで敵はもうなす術がなかった。だが。動かない。魔力強化し力に絶対の自信を誇る筈のボードワンが巨岩だと錯覚してしまうほどに、シンドゥラは動かない。
「ふんっ!」
「ぐわぁ!」
逆にシンドゥラが引っ張れば、釣られた魚のようにボードワンが浮いてそのまま叩きつけられ、ノックアウトされる。何人かの冒険者が気絶したボードワンを抱えて逃げようとする。
「追撃して殺さないのですか?」
同乗しているガルムにそう言われるが、シンドゥラは首を振った。
「殺すには惜しい。それよりもこの戦場を決めてかかるぞ」
既に戦いの流れは大きく此方に傾いている。だがオーク本陣で爆発が起きた。
「なにが!?」
『くそっ!転移ポータルを使って、3万の冒険者を一気にこちらの本陣後ろに飛ばして強襲された!本陣一万はなす術なく壊滅。戦局は一気に五分に戻されたか!』
「バカな!話では転移魔法の類は魔力場の影響で正確に座標を飛ぶことが出来ないと!」
『あれこれ言ってる時間が勿体ない。このままでは左右で挟撃されて壊滅する。シンドゥラ。その場で指揮を取り現場を抑えろ。本陣を強襲した3万はアースイーターたちと後軍2万で対処する』
『分かりました』
アヤメたちが転移の類を警戒しなかったのにはきちんと理由がある。自分達が用意した転送ポータルのように直接魔力糸でパスを繋いで指定しているならいざ知らず、闇雲に転移を使ったとして、魔力場により戦力が分散されてしまうのだ。それでは戦術として活かされるわけがないと排除していた。
逆に言えば、その魔力場の影響を読み切ることさえ出来れば転移はきちんと実用可能ということになってしまう。
冒険者の中で唯一それが出来る人物がいた。
「僕が活躍したらおじさん褒めてくれるかな」
Sランク冒険者のグラナド・フエクだ。11人いるSランクの中で唯一彼のみが一軍の総指揮を許されていた。それは彼の有する旧神魔法"魔の超直感"が過程を省いて計算結果を弾き出す事が可能だからだ。
力学的、物理的状態はおろか、極々短い未来における全運動まで読み解ける思考の極み。
凡才がどれだけ計算しても自然を読み切ることは出来ないが、グラナドはそれが一目で分かる。
つまるところ魔力場の影響などグラナドにとっては無いのと一緒だった。
「ヤッテクレタナ!冒険者共!アースイーター十三傑衆出撃ダ!小賢シイ手ナド圧倒的ナ力デ粉砕シテヤル!」
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