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龍王と魔物と冒険者
115話目
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最初目が覚めた時にこれが夢だと直ぐに理解出来た。なぜなら3次元世界では実現不可能とされる歪みのパラドックスの代表例ペンローズの階段に突っ立っていたからだ。
その階段に俺はかつての人間の姿でいて、目の前にはいつも通りあの子の姿をしたコトアがいる。
「ふんっ!」
「ぐえっ」
出会い頭にコトアのビンタが炸裂した。夢なのに痛い。俺の身体はおむすびみたいにゴロゴロと階段を転がり落ちて、落ちきった先はコトアの背後であった。
『××。私様が言いたいことは分かってるな?』
そう言う彼女は憤怒というよりはまるで時雨心地という表現が適切なほど今にも涙をこぼしてしまいそうな表情で見下ろしていた。怒っているのは心配の表れで、俺の行動は恐ろしく軽率だった。それが痛いほど分かってるからこそ、いとど面映ゆくて視線を逸らしてしまう。
「なんかいけるかなって。現に上手くいったし」
『左の頬も差し出せ、もう1発だ。
そして金輪際二度とああいうことはやらないと私様に誓え。』
「ごめん。それは約束できない」
「この」
パッと手を大きく振り上げたコトア。2発目の平手打ちに備えて思わず目を瞑るが、いつまで経っても衝撃はこない。恐る恐る目を開ける。
『そうだな。別にお前が力をどう使って誰を助けるも自由だ。
だが何かあったら直ぐに私様に頼れ。呼んだら助けてやる。回数付きだがな』
「お前ほんとに悪い神様か?」
『神ってのは公平でなくちゃいけない。皆救うか誰も救わないか。なのにこれ以上なくお前をエコ贔屓してる。最悪の神様だ。』
コトアはそう言って自嘲気味に力なく笑った。
「目を覚ましたか。アーカーシャ……様」
ゆっくりと瞼を開くと、牛の人形の刺繍された目がジーッと我を見つめていた。西日に照らされる埋め込まれた人形の瞳がどこか秋の雨の涼しげな波を思わせる。
【放っておいて先に帰ってくれてよかったのに】
「恩人にそんな事をできるわけありません。
ですのでどうか借りを返させて貰えないでしょうか」
【じゃあ近いうちにノシ付けて返してくれ】
畏まった言い方をするサキが手を差し出すので、その手を取り身体を起き上がらせる。高そうなソファーに寝かされていたようだ。辺りを見渡すと随分と高価な調度品が目に付く部屋だった。え?ここ、いったい誰の部屋だ。
まさか捨て龍と捨て人形だと思われて誰かに拾われたのだろうか。若しくは、サキがチェックインしたのか。いやそのナリでは無理か。
【ん?どした】
状況の咀嚼がまだ出来てない。
そんな我をサキは見つめながら、それからゆっくりと我の手を取ったままサキは片膝をついた。まるで主君に剣を捧げる騎士のように。
「元聖騎士第三席サキ・ハザマ。これより貴方に忠誠を誓います。命果てるまでお仕えすることをお許し下さい」
【……突然どうした。熱でもあるのか?】
「……」
ふざけて言っているわけでは無いようだ。
彼女はそれ以上何も語らなかった。だが目は口より雄弁に語っている。恩を受けたら返す。何とも義理堅い性格だ。正に騎士だ。水を差すような説得は余りに無粋だろう。
【好きにするといい。で、此処はどこなの?随分とお高そうな部屋だけど】
「はい。アーカーシャ様が気を失って途方に暮れてた所ある者に助けて頂きました。セイ様!アーカーシャ様がお目覚めになりました!」
「なんだ!もう目が覚めたのか!」
呼びかけると部屋の奥から声が聞こえ、ドタドタと忙しなく誰かが思いっきり扉を開けて登場してきた。
「お前がアーカーシャだな!フーハッハッハ!話は聞いてるぞ!先日お祖父様の命を救ってもらって感謝する!」
「失礼。名乗るのが遅れたな。こほん。余は項・ブリュンヒルデル・ジアハド・星。セイと気軽に呼んでくれ!」
「いかんいかん、女性らしく振る舞わんと母に怒られてしまう。これで、いいか」
ヨーロッパの伝統的挨拶。片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたままの挨拶をしてきた。女性の気品高さを魅せるカテーシーと呼ばれる挨拶だ。異世界なので別の呼称があるかもしれない。
それにしても、項・ブリュンなんたらはあれだ。もしかして
【……セイさんはもしかして、軍国バルドラの項遠王の】
「いかにも!項遠お祖父様の孫娘である。堅苦しいからセイと呼べ!余と主の仲ぞ」
【……それで偉いセイはどうして国じゃなくて此処にいるの?観光?】
「なんとこの姿を見て分からぬか!」
姿?とかく彼女は姫と同じドレスを着ていた。異なるのは姫のドレスがティアードドレスに対して目の前の彼女は鎧なのにドレス。ドレスなのに鎧というTHEファンタジー世界の服装いわゆる鎧ドレスに身を包んでいるということだ。更にオペラグローブに籠手を混ぜ合わせたお洒落手袋。
この事から我が察したのは、オーストリアにある有名な舞踏会ヴィーナー・オープンバルである。ほらあれって純白のイブニングドレスとオペラグローブの着用が義務だったりするから。え?逆に他にどんな理由があったらドレスなんて着るの?普通の人間の普段着はジャージだよ?
「誰と戦うつもりですか?」
どうやら戦闘用の服みたいだった。誰かと戦うためにわざわざ来たとしたら、随分と血気盛んなお姫様だ。周りは止めなかったのだろうか。
「前回の暗殺騒動で魔女の一派が我らが巫女に攻撃した。お祖父様たちは放っておけと言っていたが、余としてはバルドラの威信にかけたその借りを返さねば気が済まぬ。
だから一つ意趣返しをしてやろうと思ってな。聞けばこの魔導図書館には魔女が潜伏しているらしいではないか。そしてそいつは魔女たちの至宝の一つ。オルガノンの杖を持ち去ったらしいのだ。だからそれを先に奪ってやろうと思ってな」
【……その口ぶり助けたのは偶然か?】
「そんなわけない。妲己より、あの場にいけばアーカーシャが余の力になってくれると言われてな。待っていた。ずっとな」
「時間があった分、既に魔女の潜伏場所の目処はついている。のうアーカーシャ。礼はするから余の座興に一つ付き合ってはくれないか?」
【いやいや危ないことやめろよ。仮にも王族なら周りは止めなかったの?】
「フーハッハッハ!バルドラだぞ?むしろ危険は大歓迎だ。それにアーカーシャと白雪姫ががいるから大丈夫だと快く送り出してくれたぞ」
【ああ そう。】
その階段に俺はかつての人間の姿でいて、目の前にはいつも通りあの子の姿をしたコトアがいる。
「ふんっ!」
「ぐえっ」
出会い頭にコトアのビンタが炸裂した。夢なのに痛い。俺の身体はおむすびみたいにゴロゴロと階段を転がり落ちて、落ちきった先はコトアの背後であった。
『××。私様が言いたいことは分かってるな?』
そう言う彼女は憤怒というよりはまるで時雨心地という表現が適切なほど今にも涙をこぼしてしまいそうな表情で見下ろしていた。怒っているのは心配の表れで、俺の行動は恐ろしく軽率だった。それが痛いほど分かってるからこそ、いとど面映ゆくて視線を逸らしてしまう。
「なんかいけるかなって。現に上手くいったし」
『左の頬も差し出せ、もう1発だ。
そして金輪際二度とああいうことはやらないと私様に誓え。』
「ごめん。それは約束できない」
「この」
パッと手を大きく振り上げたコトア。2発目の平手打ちに備えて思わず目を瞑るが、いつまで経っても衝撃はこない。恐る恐る目を開ける。
『そうだな。別にお前が力をどう使って誰を助けるも自由だ。
だが何かあったら直ぐに私様に頼れ。呼んだら助けてやる。回数付きだがな』
「お前ほんとに悪い神様か?」
『神ってのは公平でなくちゃいけない。皆救うか誰も救わないか。なのにこれ以上なくお前をエコ贔屓してる。最悪の神様だ。』
コトアはそう言って自嘲気味に力なく笑った。
「目を覚ましたか。アーカーシャ……様」
ゆっくりと瞼を開くと、牛の人形の刺繍された目がジーッと我を見つめていた。西日に照らされる埋め込まれた人形の瞳がどこか秋の雨の涼しげな波を思わせる。
【放っておいて先に帰ってくれてよかったのに】
「恩人にそんな事をできるわけありません。
ですのでどうか借りを返させて貰えないでしょうか」
【じゃあ近いうちにノシ付けて返してくれ】
畏まった言い方をするサキが手を差し出すので、その手を取り身体を起き上がらせる。高そうなソファーに寝かされていたようだ。辺りを見渡すと随分と高価な調度品が目に付く部屋だった。え?ここ、いったい誰の部屋だ。
まさか捨て龍と捨て人形だと思われて誰かに拾われたのだろうか。若しくは、サキがチェックインしたのか。いやそのナリでは無理か。
【ん?どした】
状況の咀嚼がまだ出来てない。
そんな我をサキは見つめながら、それからゆっくりと我の手を取ったままサキは片膝をついた。まるで主君に剣を捧げる騎士のように。
「元聖騎士第三席サキ・ハザマ。これより貴方に忠誠を誓います。命果てるまでお仕えすることをお許し下さい」
【……突然どうした。熱でもあるのか?】
「……」
ふざけて言っているわけでは無いようだ。
彼女はそれ以上何も語らなかった。だが目は口より雄弁に語っている。恩を受けたら返す。何とも義理堅い性格だ。正に騎士だ。水を差すような説得は余りに無粋だろう。
【好きにするといい。で、此処はどこなの?随分とお高そうな部屋だけど】
「はい。アーカーシャ様が気を失って途方に暮れてた所ある者に助けて頂きました。セイ様!アーカーシャ様がお目覚めになりました!」
「なんだ!もう目が覚めたのか!」
呼びかけると部屋の奥から声が聞こえ、ドタドタと忙しなく誰かが思いっきり扉を開けて登場してきた。
「お前がアーカーシャだな!フーハッハッハ!話は聞いてるぞ!先日お祖父様の命を救ってもらって感謝する!」
「失礼。名乗るのが遅れたな。こほん。余は項・ブリュンヒルデル・ジアハド・星。セイと気軽に呼んでくれ!」
「いかんいかん、女性らしく振る舞わんと母に怒られてしまう。これで、いいか」
ヨーロッパの伝統的挨拶。片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたままの挨拶をしてきた。女性の気品高さを魅せるカテーシーと呼ばれる挨拶だ。異世界なので別の呼称があるかもしれない。
それにしても、項・ブリュンなんたらはあれだ。もしかして
【……セイさんはもしかして、軍国バルドラの項遠王の】
「いかにも!項遠お祖父様の孫娘である。堅苦しいからセイと呼べ!余と主の仲ぞ」
【……それで偉いセイはどうして国じゃなくて此処にいるの?観光?】
「なんとこの姿を見て分からぬか!」
姿?とかく彼女は姫と同じドレスを着ていた。異なるのは姫のドレスがティアードドレスに対して目の前の彼女は鎧なのにドレス。ドレスなのに鎧というTHEファンタジー世界の服装いわゆる鎧ドレスに身を包んでいるということだ。更にオペラグローブに籠手を混ぜ合わせたお洒落手袋。
この事から我が察したのは、オーストリアにある有名な舞踏会ヴィーナー・オープンバルである。ほらあれって純白のイブニングドレスとオペラグローブの着用が義務だったりするから。え?逆に他にどんな理由があったらドレスなんて着るの?普通の人間の普段着はジャージだよ?
「誰と戦うつもりですか?」
どうやら戦闘用の服みたいだった。誰かと戦うためにわざわざ来たとしたら、随分と血気盛んなお姫様だ。周りは止めなかったのだろうか。
「前回の暗殺騒動で魔女の一派が我らが巫女に攻撃した。お祖父様たちは放っておけと言っていたが、余としてはバルドラの威信にかけたその借りを返さねば気が済まぬ。
だから一つ意趣返しをしてやろうと思ってな。聞けばこの魔導図書館には魔女が潜伏しているらしいではないか。そしてそいつは魔女たちの至宝の一つ。オルガノンの杖を持ち去ったらしいのだ。だからそれを先に奪ってやろうと思ってな」
【……その口ぶり助けたのは偶然か?】
「そんなわけない。妲己より、あの場にいけばアーカーシャが余の力になってくれると言われてな。待っていた。ずっとな」
「時間があった分、既に魔女の潜伏場所の目処はついている。のうアーカーシャ。礼はするから余の座興に一つ付き合ってはくれないか?」
【いやいや危ないことやめろよ。仮にも王族なら周りは止めなかったの?】
「フーハッハッハ!バルドラだぞ?むしろ危険は大歓迎だ。それにアーカーシャと白雪姫ががいるから大丈夫だと快く送り出してくれたぞ」
【ああ そう。】
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