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龍王と魔物と冒険者
120話目
しおりを挟む「お嬢。これはいくらなんでも」
「ハドラーみなまで言うな。我ながら天才的な作戦だろう」
「変装。古典的だが確かにこれなら案外上手く‥…」
「何者だ お前たち!怪しい奴らめ。そこを動くな」
【感知されてるなら全然ダメじゃねーか!】
「フーハッハッハ!ならば柔軟に作戦変更。何組かに別れてガカクリョウを目指し発見次第目標奪取を試みるぞ。最初に目標を手に入れた者には余からご褒美も与える!というわけで余は向こうにする」
「……分かりました。では俺はあちらに」
【え?えとえとじゃあ我らは】
「兄ちゃんたちは俺と一緒に。ほらこっち来い」
「不審者どもめ。三手に別れたか。何が狙いか知らんが、学院の護りを預かる学院魔導衆の名に賭け、学院の地を無断で踏んだ不作法者たちは絶対にタダで返さん!」
†††
魔導学院オーウェンは魔導図書館ビブリ・テーカーに存在する4つの魔導師養成機関の中で最も格式高く長い歴史を誇っている。学院の名を背負うに足る高名な魔導師を他よりも数多く輩出していることで知られ、"ミリオンフロスト"や"血染めの赤"はその代表例だろう。これまで色付き上級魔導師になった全体のおよそ5割はこの学院の出身である。
下級の1回生から始まり上級の12回生の最長12年のカリキュラムが組まれており、一つの学年につき定員200名と定められている。例年の入学の倍率は毎年およそ100~500倍。
その狭き門をくぐり抜けた者たちは当然一定以上の秀才であるが、そうなれば今度はその者たちの中で優秀な者と劣等な者が現れる。地元で天才と持て囃された者たちが遥か上の本物の鬼才天才と出会い実力差を往々に見せつけられるのだ。その心境は如何程なのか。その事に耐えられず最初の一ヶ月で退学者が続出するのも無理からぬ話である。そして当然埋め合わせで行われる中途の編入試験内に至っては現状に追いつくだけの卓越した才能と実力が求められるので殊更に倍率が高く、1000倍を超えるなんてのもザラである。
今期の編入試験の倍率に至っては3000倍である。2万名を超える出願者に対して合格定員はたったの3名。この狭き門をくぐり抜ける3名の合格者は紛うことなく真の天才たちである。
本人がどれだけ否定しようが歴代2位の魔力量を記録したイルイ・シュテンバードは言わずもがな天才である。
試験官たちが制限時間内での全問解答を想定していないにも関わらず受験者の中で唯一まるで問題が分かってるかの様に千問全て解答する事に成功したゲイル・カイチもまた天才である。
そして数多の受験者をねじ伏せ、実技と筆記と適正試験の総合力で編入試験堂々のトップで魔導学院オーウェンに入学した彼女アイリーン・イスカリオテ。彼女は────。
「私は天才。私は天才。私は天才」
何を隠そう魔女である。
それも御三家イスカリオテ家の次期当主と目されるほどの。
「来る日も来る日も試験が終わったのにお前は毎日勉強ばっかり。これがあるべき子供の姿かね。嘆かわしい。棍を詰めすぎると体に悪いし、いい加減少しくらい子供らしく外で遊んできたらどうなのさ。」
隣にいた人物の呆れを含んだその言葉にアイリーンはつい筆記用具のペン先が折れるほど力んでしまう。
「五月蝿いのよ!使い魔なら黙ってご主人である私を応援なさい」
「かかっ!荒れてるな。先日イルイに実技試験で負けたのが余程堪えたとみえる。たかが一回の敗北で」
「お前だって知ってるでしょう!私は絶対に白雪姫様みたいな色付き魔導師になるの!その為には学年主席の座は絶対に譲れない。特にあんな魔力だけの奴に!」
「かかっ!そんな魔力だけのイルイが白雪姫様の再来だと言われるのが我慢ならないし認めるわけにはいかない、だから負けるわけにもいかないといった所か」
使い魔アドラメイクの指摘に内心ギクリとしてしまう。
否定に意味はない。自分と深い繋がりのある使い魔に虚勢は通じないのだから。
数秒の間を置いてぽろりと思いをこぼす。
「そうよ。その通りよ。それにそれだけじゃない。私は……」
《いい加減止まれー!》
《余を捕まえたければ後100人は連れてくるのだな!フーハッハッハ!》
「なんだか外が騒がしいね。折角だし見てきたら?」
「……私はワガママを言ってここに来ている。こんな所で負けてたら、翻意を翻されていつ家に連れ戻されるかも分からない。だから。」
「憧れを口にしても良いように自身の優秀さを証明し続けるってか。ご立派だね。
だけどそんな風に無理して自分を大きく見せ続けた先に何があるんだろうな?」
「アドラ。お前偶に意味深にボカすな。何が言いたい」
「かかっ。これでも悪魔だからな。
人を惑わすのが好きな性分なもんで。
でもこれだけは断言できる。このままじゃお前はイルイにまた負けるよ。」
《そっちのお前も諦めろー!》
《くそっ!あいつの作戦はもう二度と信じねえぞ》
「……」
「口が過ぎた。もう何も言わない」
「……本当に。うるさいわね。
これじゃあ、勉強に集中できないじゃない……ちょっと。ほんのちょっとだけ気晴らしに外に出て散歩してみる。」
「そうこなくっちゃ」
アイリーンはこの学院に入学してから、初めて休みの日に部屋の外に出る決意を固める。
水を差すようにコンコンと誰かが扉をノックしてきた。これまでアイリーンの部屋を訪れた者はいない。誰とも良質な関係を築いてきてないのだから当たり前ではあるのだが。では誰だろうか。扉を開けると翡翠色をした綺麗な瞳の金髪の少女イルイが立っていた。
「アイリーンちゃん。いきなりごめん。あなた魔女だよね」
性急に述べられたその言葉はどこか確信を持っていた。突然の指摘にアイリーンは固まり二の句を告げない。それがもう何よりの答えであったのだが。一瞬のうちにアイリーンの脳内で様々な情報が錯綜する。サバトを取り仕切る魔女御三家の者は魔導師になれないという規定はない。しかし未だ成った事例も存在しないというのもまた事実。
しどろもどろに言葉を吐き出す。
「なにを言って……」
「魔女の人たちがアイリーンちゃんを過激派として捕まえに来たって。それで」
「それで?なんですかな」
声がした。部屋の奥からニュっと壁をすり抜けて、曜日の魔女 嫦娥が現れたのだ。
「下がって、アイリーンちゃん。ファイアボール!」
イルイはすかさず手を構えて、火属性の簡易魔法ファイアボールを放つ。魔力適正が高い人はそれだけ魔法に多くの魔法を注ぎ込むことが可能となる。そしてイルイの膨大な魔力で構築されたファイアボールのその威力は明らかに想定された簡易魔法のそれではなかった。
嫦娥の身体は一瞬の内に火に包まれる。
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