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龍王と魔物と冒険者
126話目
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"蝕心影儡"かつて古の魔女の一人として千年戦争を永く戦い続けたマヤの眼前に立ちはだかるのは仲間であったはずの天峰冥君と、白夜の忘れ形見である白の魔導師。どちらも油断ならぬ難敵。その2人だけに神経を集中させ完全な臨戦態勢に入る。
こうなった以上、他の戦闘にオルガノンの杖による横槍はないだろう。そんな余裕が介在する余地などどこにも無いのだから。
「ついてこれるかな。黄穂ちゃんはこう見えて魔導師最速なのだぞ~」
異形の怪物アンタレスと『黄』を冠する魔導師黄穂鈴の戦いは至極単純な勝負であった。アンタレスは強靭な肉体を持っており、6本の腕が繰り出すそのどれもが一撃で容易に眼前の魔導師を肉塊に変えてしまうのは明白であった。対して黄穂の力は"加速"である。凡ゆるものを加速するという力であり、その力をもってして自身を加速させ続ける。その一点強化のみで驚異的な初動は圧倒的な差を生み出して、アンタレスに反撃を許すことなく完封していた。
「加速した私に追いつけるかな?」
「カハッ!」
(目デ追ウコトスラ出来ン!?)
「はっしれー、はっしれー、ワガセカイ、サンゼンセカイを、ひったすらにー」
歌を口遊ながら続けて黄穂は加速させる。その瞬間、確かにアンタレスは感じた。自分の体感する世界の時間がゆっくりと遅くなっていくのを。今度はアンタレス自身が加速したのだ。だがなぜそんな事をする必要があると訝しみ違和感を感じ取る
「何ガ、起キテル……」
「私のとっておき。加速世界なんだぞ~?
この魔法は出した時点で勝ち。分かりやすく言えばお前の頭の中の感覚だけを加速させた。人は脳から指令を出して手足を動かすけど、今のお前は手足が指令を受ける僅か0.1秒の間隔すら遅く感じる。感じてしまう。そしてその間にも脳は常に全身に様々な指令を下し続ける。するとどうなるか、お前の頭は肉体の反応がパンクする程の指令を一度に出すことになる。結果、膨大な負荷を処理できずに何も出来なくなる、この技を創った大昔の渡航者は"処理落ち"って名付けてたみたいだけどね~」
動きの止まったアンタレスを見て勝利を確信した黄穂は漸く脚を止める。
この技を決めてからは負けたことはない。強力過ぎるが故の慢心であるとも言えた。眼前の敵を従来の相手と一緒くたにすべきではなかった。なにせアンタレスは見た目通りの異形の怪物である。イレギュラーがあって当然。アンタレスが動いた。単純に行動を阻害する思考を切り離したのだ。つまりは相手の動きに自動で反応を可能にしている。
予期せぬ反撃により、如何に最速とて黄穂の反応が遅れてしまい回避する暇もない。辛うじて距離を取ることには成功するも左脚だけが身体から切り離され力無く地面に落ちた。その瞬間に加速世界の維持が不可能となり解除される。
「ククク、油断大敵ダナ。脚ヲ奪ッタ。モウ戦ウコトハ出来マイ」
パワーで大きく劣る黄穂がアンタレスを相手に肝心要のスピードを失えば勝ち目はないだろう。しかし何の前触れもなく黄穂の姿が消えて、先程よりも更に速くなって懐に潜り込んでいる。筋肉の動きから蹴りが来ると察知する。右足が振るわれるであろう左側の部位に防御を集中する。しかし次の瞬間には、確かに失った筈の左脚で意識外から蹴られてアンタレスの横頬が大きく跳ねることになる。
(馬鹿ナ!)
「これが正真正銘の切り札さ」
左脚が生えてきている。否。途轍もないスピードで損傷部位が再生していっている。それだけではない。このパワーにスピード、明らかに全ての能力が飛躍的に上昇を遂げていた。
「くいつっくせー、くいつっくせー、じゅうまんおっくどの、そのハテにー」
「マサカ!自身ノ全テノ能力ヲ加速シタノカ」
「もうお前は追いつけない」
「面白……イ」
無限加速。使用可能時間は僅かに5分。加えて3日に1度しか使用できない燃費の悪さで、魔力を枯渇寸前まで消耗する。
代わりに加速させ続けて得た力を変換して自身の潜在能力すら超越するエネルギーとして使用する黄穂の超短期決戦型の奥の手である。
「ハイパーキック。なんちゃって」
その攻撃は不可避。黄穂の速攻がアンタレスの頭部を蹴り飛ばして意識を根こそぎ刈り取っていた。
「明日は筋肉痛コースかな~」
黄穂たちと並列しての戦い。そこではロレイの棍棒のように振るわれた黒骨を避けたミアラタの刃が煌めき、ロレイの肉体に何度目かの太刀を浴びせたところだった。だが当の本人の表情はひたすらに酷く苛立ち不愉快そうである。
「某の剣をそれだけ無防備に受けて、なぜ斬れない。どうなっている。お前の体」
「武器が鈍なんだろう」
「それはない。この刀はあの"眉月卜伝"だぞ!それをよりにもよってナマクラなどど、撤回しろ」
「めんどくさ。じゃあ撤回しよう。お前の腕が悪い」
ロレイの皮膚は裂け血が出ている。だがそれだけだ。
皮膚の内側から先は唯の1mmたりとも刃が進まず逆に弾かれる。
「その黒い骨。お前本当に人間なのか?」
ミアラタの問いかけに、僅かな空白がうまれる。触れてほしくない箇所に触れられているのだろう。ロレイの声が僅かに低くなる。
「は?人間だよ 私は。それ以外の何に見える」
「某が立ち寄ったとある国で何度かお前のような奴を見た。そいつらは確か魔獣の血肉を身体に……」
「おしゃべりだな お前。
口は禍いの元という言葉を知らないのか?」
一瞬度重なる戦場をくぐり抜けたミアラタが思わず身を竦ませるほどの重厚な殺気。瞬間、血飛沫が舞っていた。
何が起こったのか理解できないミアラタ。胸を見ると、黒い骨が内側より体を食い破っていた。
「何を見てるかわかんねーが、幻だぜ、それ」
「おごっ!」
動揺し隙を突かれて黒骨で顔面を強打されたミアラタはそのまま、意識を失った。
ロレイは自身の力について語らない。それは彼女の力が認知を操るためである。
人は思い込みで病を治したり、逆に死んでしまう事ができる。プラシーボ効果、反対にノーシーボ効果。この場にアーカーシャが居たのならそうきっと推察するだろう。
精神攻撃。ようするに強力な催眠の類だ。ミアラタは強烈な殺気に対して無意識に死を覚悟した。結果それを脳が再現したのだ。
「お嬢のノリに付き合って、なんで私がこんなことしなきゃなんねえんだよ」
ロレイはうんざりしたようにため息を吐いた。
こうなった以上、他の戦闘にオルガノンの杖による横槍はないだろう。そんな余裕が介在する余地などどこにも無いのだから。
「ついてこれるかな。黄穂ちゃんはこう見えて魔導師最速なのだぞ~」
異形の怪物アンタレスと『黄』を冠する魔導師黄穂鈴の戦いは至極単純な勝負であった。アンタレスは強靭な肉体を持っており、6本の腕が繰り出すそのどれもが一撃で容易に眼前の魔導師を肉塊に変えてしまうのは明白であった。対して黄穂の力は"加速"である。凡ゆるものを加速するという力であり、その力をもってして自身を加速させ続ける。その一点強化のみで驚異的な初動は圧倒的な差を生み出して、アンタレスに反撃を許すことなく完封していた。
「加速した私に追いつけるかな?」
「カハッ!」
(目デ追ウコトスラ出来ン!?)
「はっしれー、はっしれー、ワガセカイ、サンゼンセカイを、ひったすらにー」
歌を口遊ながら続けて黄穂は加速させる。その瞬間、確かにアンタレスは感じた。自分の体感する世界の時間がゆっくりと遅くなっていくのを。今度はアンタレス自身が加速したのだ。だがなぜそんな事をする必要があると訝しみ違和感を感じ取る
「何ガ、起キテル……」
「私のとっておき。加速世界なんだぞ~?
この魔法は出した時点で勝ち。分かりやすく言えばお前の頭の中の感覚だけを加速させた。人は脳から指令を出して手足を動かすけど、今のお前は手足が指令を受ける僅か0.1秒の間隔すら遅く感じる。感じてしまう。そしてその間にも脳は常に全身に様々な指令を下し続ける。するとどうなるか、お前の頭は肉体の反応がパンクする程の指令を一度に出すことになる。結果、膨大な負荷を処理できずに何も出来なくなる、この技を創った大昔の渡航者は"処理落ち"って名付けてたみたいだけどね~」
動きの止まったアンタレスを見て勝利を確信した黄穂は漸く脚を止める。
この技を決めてからは負けたことはない。強力過ぎるが故の慢心であるとも言えた。眼前の敵を従来の相手と一緒くたにすべきではなかった。なにせアンタレスは見た目通りの異形の怪物である。イレギュラーがあって当然。アンタレスが動いた。単純に行動を阻害する思考を切り離したのだ。つまりは相手の動きに自動で反応を可能にしている。
予期せぬ反撃により、如何に最速とて黄穂の反応が遅れてしまい回避する暇もない。辛うじて距離を取ることには成功するも左脚だけが身体から切り離され力無く地面に落ちた。その瞬間に加速世界の維持が不可能となり解除される。
「ククク、油断大敵ダナ。脚ヲ奪ッタ。モウ戦ウコトハ出来マイ」
パワーで大きく劣る黄穂がアンタレスを相手に肝心要のスピードを失えば勝ち目はないだろう。しかし何の前触れもなく黄穂の姿が消えて、先程よりも更に速くなって懐に潜り込んでいる。筋肉の動きから蹴りが来ると察知する。右足が振るわれるであろう左側の部位に防御を集中する。しかし次の瞬間には、確かに失った筈の左脚で意識外から蹴られてアンタレスの横頬が大きく跳ねることになる。
(馬鹿ナ!)
「これが正真正銘の切り札さ」
左脚が生えてきている。否。途轍もないスピードで損傷部位が再生していっている。それだけではない。このパワーにスピード、明らかに全ての能力が飛躍的に上昇を遂げていた。
「くいつっくせー、くいつっくせー、じゅうまんおっくどの、そのハテにー」
「マサカ!自身ノ全テノ能力ヲ加速シタノカ」
「もうお前は追いつけない」
「面白……イ」
無限加速。使用可能時間は僅かに5分。加えて3日に1度しか使用できない燃費の悪さで、魔力を枯渇寸前まで消耗する。
代わりに加速させ続けて得た力を変換して自身の潜在能力すら超越するエネルギーとして使用する黄穂の超短期決戦型の奥の手である。
「ハイパーキック。なんちゃって」
その攻撃は不可避。黄穂の速攻がアンタレスの頭部を蹴り飛ばして意識を根こそぎ刈り取っていた。
「明日は筋肉痛コースかな~」
黄穂たちと並列しての戦い。そこではロレイの棍棒のように振るわれた黒骨を避けたミアラタの刃が煌めき、ロレイの肉体に何度目かの太刀を浴びせたところだった。だが当の本人の表情はひたすらに酷く苛立ち不愉快そうである。
「某の剣をそれだけ無防備に受けて、なぜ斬れない。どうなっている。お前の体」
「武器が鈍なんだろう」
「それはない。この刀はあの"眉月卜伝"だぞ!それをよりにもよってナマクラなどど、撤回しろ」
「めんどくさ。じゃあ撤回しよう。お前の腕が悪い」
ロレイの皮膚は裂け血が出ている。だがそれだけだ。
皮膚の内側から先は唯の1mmたりとも刃が進まず逆に弾かれる。
「その黒い骨。お前本当に人間なのか?」
ミアラタの問いかけに、僅かな空白がうまれる。触れてほしくない箇所に触れられているのだろう。ロレイの声が僅かに低くなる。
「は?人間だよ 私は。それ以外の何に見える」
「某が立ち寄ったとある国で何度かお前のような奴を見た。そいつらは確か魔獣の血肉を身体に……」
「おしゃべりだな お前。
口は禍いの元という言葉を知らないのか?」
一瞬度重なる戦場をくぐり抜けたミアラタが思わず身を竦ませるほどの重厚な殺気。瞬間、血飛沫が舞っていた。
何が起こったのか理解できないミアラタ。胸を見ると、黒い骨が内側より体を食い破っていた。
「何を見てるかわかんねーが、幻だぜ、それ」
「おごっ!」
動揺し隙を突かれて黒骨で顔面を強打されたミアラタはそのまま、意識を失った。
ロレイは自身の力について語らない。それは彼女の力が認知を操るためである。
人は思い込みで病を治したり、逆に死んでしまう事ができる。プラシーボ効果、反対にノーシーボ効果。この場にアーカーシャが居たのならそうきっと推察するだろう。
精神攻撃。ようするに強力な催眠の類だ。ミアラタは強烈な殺気に対して無意識に死を覚悟した。結果それを脳が再現したのだ。
「お嬢のノリに付き合って、なんで私がこんなことしなきゃなんねえんだよ」
ロレイはうんざりしたようにため息を吐いた。
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